28 / 94
~第二章~
27.病を治す
しおりを挟む
南から東へ。
東から北へと旅を続ける。
季節は冬。
マイナス何度になるのか分からない極寒の地は想像以上だ。
過疎化が進む村には宿はなく、親切な村人が家に泊めてくれた。
泊めてもらったお礼に、医療もどきを施した。というのも、この村には医師がおらず、近隣の村々にも碌な医者はいなかった。医療をちょこっとかじった程度の人間が「医者です」と宣っている。医師免許を持っていない連中だが、それでも村には必要な人材なのだろう。これが大きな町なら問題になるが、過疎の村ではそれも起こらない。つまり、僕にとっても都合が良かった。
「ありがとうございます!」
「助かります!」
感謝の言葉が飛び交う。
中には涙を流している者までいた。
それだけ薬の効果は絶大だったってことだ。村の人たちからすれば、ちょっとした怪我や病気でも命取りになりかねない。だから、僕みたいな若造に感謝してくれるんだろうね。
「どう致しまして」
僕は笑顔で応える。
そして、次の村へと向かう。そこでも泊めて貰ったお礼に薬を提供していった。村人たちの中には「奇跡だ」「神のご加護だ」などと口走る者もいたけど、まあ気にしない。そう思ってくれても構わないし、思われて悪い気もしないし。
そんなことをしながら村々を転々としていった。
当然というべきか、噂になった。
評判が評判を呼び、この国の国王の耳にまで届いてしまっていた。
「ほぉ、そのような旅人がいるのか」
謁見の間で大臣の報告を受けた王様の第一声がこれである。
「はい。そのように聞いております」
「どこの国の使者でもないのだな?」
「はい。ただの旅の薬師だと申しておりました」
「旅人か。例の国ではないのか?」
「南の国から来てと調べは付いていますが、元は別の国の住人です。スパイの可能性は少ないでしょう。彼等ならば数人で行動しますので」
「ふむ……面白いな。南からわざわざこの地に来るとは。しかも純粋な旅行者だとはな」
「はい。時期が時期です。余程の変わり者と見受けられます。村人たちも今の季節に南から北に旅している事に驚いておりました」
「だろうな。逆はあっても、真逆の方角に向かうなど普通はない。冬になれば南に行きたくなるものだ。特に我が国の者なら余計にな」
「はい」
「実に興味深い。会ってみたいものだな。その奇跡を起こす薬師とやらに」
国王の願いは叶えられることになる。
保養地から王都へと続く街道の途中で、件の旅人である僕と出会ったからだ。
これは本当に偶然。
きっと神様も予想しなかった事だ。
何故か、国王は僕が『噂の薬師』と直ぐに分かったようだ。
そうして、僕は攫われるように馬車に乗せられていた。
さすが王族専用の馬車。
馬車の中の快適さが半端ない。まるで一流ホテルのような内装だ。
広々とした車内、無駄に豪華なシャンデリア、整えられた空調、お尻が沈み込むくらいにフカフカのソファー、最高級品のクッション。
それら全てが懐かしかった。
僕は久方ぶりに心からリラックスできた気がする。
高価な茶葉を堪能していた僕は気付かなかった。
国王が面白そうに眺めていた事を―――
北の大国。
その国の王宮に来て早、半年が経過しようとしていた。
季節はいつの間にか夏を迎え、沈むことない白い太陽――白夜と呼ばれる現象らしい――が世界を照らし続けていた。
僕としてはそろそろ旅の続きをしたいと思っていたのだけれど、それは叶わなかった。
「ずっとここに居ればいいじゃないか!」
「そうだよ! ずっと一緒に暮らせばいいんだよ!」
僕の両サイドにはこの国の王子がいた。
どちらも二十歳前後だろうか? 双子らしく顔が似ている。二人は僕を手放そうとしない。それは国王も同じだった。
「申し訳ありませんが、まだ旅を続けないといけないんです」
「なんでだよ!?」
「どうしてさ!?」
「世界を見て回りたいのです」
「それなら俺らと一緒に見て回ろうぜ!」
「そうしようよ!」
「…………」
無言の時間が過ぎる。
二人の気持ちはよく分かる。
ここでの生活はとても快適だし、衣食住にも困らない。
欲しいものがあれば言えば用意される。
だけど、それが当たり前になってしまうとダメなんだ。
僕は飽く迄も客人だ。
彼等の家族でもなければ臣下でもない。
ただのお世話になっている人間にすぎないんだからね。
それに未だ旅は終わっていない。
「また来ますよ」
苦笑しながら告げると――
「本当か!?」
「約束してくれるかい?」
「えぇ。勿論ですとも」
二人が嬉しそうな表情を浮かべる。
「でも、黒曜」
「なんですか?」
「父上はきっと黒曜を手放さないと思う」
「そう思うな」
「……」
僕は無言で返すしかなかった。
実は国王に旅に出る旨を以前伝えたところ、予想通りの反応を示したからだ。「何故なのだ!?」から始まり、「ずっとここで暮らしてもいいではないか!」と最後まで譲らない。
早い話が平行線状態で今に至る。
説得……は無理だろうな。
どうしたものかなぁ……。
東から北へと旅を続ける。
季節は冬。
マイナス何度になるのか分からない極寒の地は想像以上だ。
過疎化が進む村には宿はなく、親切な村人が家に泊めてくれた。
泊めてもらったお礼に、医療もどきを施した。というのも、この村には医師がおらず、近隣の村々にも碌な医者はいなかった。医療をちょこっとかじった程度の人間が「医者です」と宣っている。医師免許を持っていない連中だが、それでも村には必要な人材なのだろう。これが大きな町なら問題になるが、過疎の村ではそれも起こらない。つまり、僕にとっても都合が良かった。
「ありがとうございます!」
「助かります!」
感謝の言葉が飛び交う。
中には涙を流している者までいた。
それだけ薬の効果は絶大だったってことだ。村の人たちからすれば、ちょっとした怪我や病気でも命取りになりかねない。だから、僕みたいな若造に感謝してくれるんだろうね。
「どう致しまして」
僕は笑顔で応える。
そして、次の村へと向かう。そこでも泊めて貰ったお礼に薬を提供していった。村人たちの中には「奇跡だ」「神のご加護だ」などと口走る者もいたけど、まあ気にしない。そう思ってくれても構わないし、思われて悪い気もしないし。
そんなことをしながら村々を転々としていった。
当然というべきか、噂になった。
評判が評判を呼び、この国の国王の耳にまで届いてしまっていた。
「ほぉ、そのような旅人がいるのか」
謁見の間で大臣の報告を受けた王様の第一声がこれである。
「はい。そのように聞いております」
「どこの国の使者でもないのだな?」
「はい。ただの旅の薬師だと申しておりました」
「旅人か。例の国ではないのか?」
「南の国から来てと調べは付いていますが、元は別の国の住人です。スパイの可能性は少ないでしょう。彼等ならば数人で行動しますので」
「ふむ……面白いな。南からわざわざこの地に来るとは。しかも純粋な旅行者だとはな」
「はい。時期が時期です。余程の変わり者と見受けられます。村人たちも今の季節に南から北に旅している事に驚いておりました」
「だろうな。逆はあっても、真逆の方角に向かうなど普通はない。冬になれば南に行きたくなるものだ。特に我が国の者なら余計にな」
「はい」
「実に興味深い。会ってみたいものだな。その奇跡を起こす薬師とやらに」
国王の願いは叶えられることになる。
保養地から王都へと続く街道の途中で、件の旅人である僕と出会ったからだ。
これは本当に偶然。
きっと神様も予想しなかった事だ。
何故か、国王は僕が『噂の薬師』と直ぐに分かったようだ。
そうして、僕は攫われるように馬車に乗せられていた。
さすが王族専用の馬車。
馬車の中の快適さが半端ない。まるで一流ホテルのような内装だ。
広々とした車内、無駄に豪華なシャンデリア、整えられた空調、お尻が沈み込むくらいにフカフカのソファー、最高級品のクッション。
それら全てが懐かしかった。
僕は久方ぶりに心からリラックスできた気がする。
高価な茶葉を堪能していた僕は気付かなかった。
国王が面白そうに眺めていた事を―――
北の大国。
その国の王宮に来て早、半年が経過しようとしていた。
季節はいつの間にか夏を迎え、沈むことない白い太陽――白夜と呼ばれる現象らしい――が世界を照らし続けていた。
僕としてはそろそろ旅の続きをしたいと思っていたのだけれど、それは叶わなかった。
「ずっとここに居ればいいじゃないか!」
「そうだよ! ずっと一緒に暮らせばいいんだよ!」
僕の両サイドにはこの国の王子がいた。
どちらも二十歳前後だろうか? 双子らしく顔が似ている。二人は僕を手放そうとしない。それは国王も同じだった。
「申し訳ありませんが、まだ旅を続けないといけないんです」
「なんでだよ!?」
「どうしてさ!?」
「世界を見て回りたいのです」
「それなら俺らと一緒に見て回ろうぜ!」
「そうしようよ!」
「…………」
無言の時間が過ぎる。
二人の気持ちはよく分かる。
ここでの生活はとても快適だし、衣食住にも困らない。
欲しいものがあれば言えば用意される。
だけど、それが当たり前になってしまうとダメなんだ。
僕は飽く迄も客人だ。
彼等の家族でもなければ臣下でもない。
ただのお世話になっている人間にすぎないんだからね。
それに未だ旅は終わっていない。
「また来ますよ」
苦笑しながら告げると――
「本当か!?」
「約束してくれるかい?」
「えぇ。勿論ですとも」
二人が嬉しそうな表情を浮かべる。
「でも、黒曜」
「なんですか?」
「父上はきっと黒曜を手放さないと思う」
「そう思うな」
「……」
僕は無言で返すしかなかった。
実は国王に旅に出る旨を以前伝えたところ、予想通りの反応を示したからだ。「何故なのだ!?」から始まり、「ずっとここで暮らしてもいいではないか!」と最後まで譲らない。
早い話が平行線状態で今に至る。
説得……は無理だろうな。
どうしたものかなぁ……。
96
お気に入りに追加
1,864
あなたにおすすめの小説
異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜
望月かれん
ファンタジー
中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。
戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。
暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。
疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。
なんと、ぬいぐるみが喋っていた。
しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。
天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。
※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~
楠富 つかさ
ファンタジー
地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。
そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。
できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!!
第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!
家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから
ハーーナ殿下
ファンタジー
冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。
だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。
これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。気長に待っててください。月2くらいで更新したいとは思ってます。
めでたく婚約破棄で教会を追放されたので、神聖魔法に続いて魔法学校で錬金魔法も極めます。……やっぱりバカ王子は要らない? 返品はお断りします!
向原 行人
ファンタジー
教会の代表ともいえる聖女ソフィア――つまり私は、第五王子から婚約破棄を言い渡され、教会から追放されてしまった。
話を聞くと、侍祭のシャルロットの事が好きになったからだとか。
シャルロット……よくやってくれたわ!
貴女は知らないかもしれないけれど、その王子は、一言で表すと……バカよ。
これで、王子や教会から解放されて、私は自由! 慰謝料として沢山お金を貰ったし、魔法学校で錬金魔法でも勉強しようかな。
聖女として神聖魔法を極めたし、錬金魔法もいけるでしょ!
……え? 王族になれると思ったから王子にアプローチしたけど、思っていた以上にバカだから無理? ふふっ、今更返品は出来ませーん!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる