29 / 94
~第二章~
28.北国の王子side
しおりを挟む
あの父上が明らかに異国の人間だと分かる少年を王宮に連れてきた。
それだけでも驚くべきことだ。
偏屈で人の好き嫌いの激しい父上は、家族でさえ傍に寄せ付けない程だ。
息子である俺や兄上たちでさえそうだ。歴史的に親兄弟で王位争いが激しかったせいも関係している筈だ。
それなのに、この異国の少年は、何の抵抗もなく父の領域に入り込んだのだ。
その事実だけでも信じられない出来事だったのだが……。
少年……黒曜は面白い。
ギルド所属だというから、『黒曜』という名前は本名ではないだろう。だが、彼の作る魔法薬は素晴らしい。
本人は「魔力がありませんから。その分、魔力が必要のない魔法薬が得意なんです」と言うが、あれだけの品質のものを作るのには相当の知識と技術が必要だ。
王宮の専属薬師ですら、あのレベルのものは作れないだろう。
それに「平民」という触れ込みにも首を傾げたくなる。
確かに服装は平民の恰好をしている。だが、立ち居振る舞いは洗練されていて下手な貴族よりも気品がある。この国の言葉も流暢だ。他の言語に通じているのかもしれない。確認はしていないが間違いないだろう。彼は高度な教育を受けた者だ。
『黒曜に過去の事は聞くな』
父上からの命令だ。
誰もが彼を知りたかった。それでも国王陛下の命令を無視する愚か者はいない。
今でこそ落ち着いているが、彼が来る前は酷かった。
気分屋の父上に城中がピリピリしていた。
気に入らなければ、すぐに「追い出せ」と言ったり「クビだ」と騒ぎ立てたからだ。
敵の多い人で暗殺者を差し向けられてた事なんて両手じゃ足りないくらいだ。その都度、敵を自ら斬首して返り討ちにした事も記憶に新しい。
そんな父上が一人の少年に対してここまで心を許すとは思わなかった。
父上の命令通り、俺は彼に過去を聞くことはしなかった。
恐怖の代名詞のような国王相手に一歩も引かず、堂々と意見する度胸にも驚いた。
父上を相手に臆することが全くない。
物怖じしない態度は父上を不快にさせるかと思ったが、何故かそうはならなかった。
寧ろ、黒曜に興味をもったようだ。
父上も変わったものだ。
こんな表情をする人ではなかった。
兄上たちも驚いていた。俺自身も驚きだ。
いつも不機嫌そうな顔をしている父上が笑っている! 思わず二度見してしまったほど衝撃的だった。
父上が笑うこと自体珍しいのに、あんな風に優しく微笑む姿を見たことがない。
黒曜は「旅の途中だから、そろそろ国を出て旅を再開したい」と言っていた。
残念だが、父上が許さないだろう。
何も言わないが父上は黒曜を一生手放すつもりはないはずだ。
黒曜もそれを薄々察していたのか、ある日、置手紙をおいて城から去ってしまった。
慌てて追いかけたが、既に遅かった。
彼は国境を抜けた後だった。
暫くの間、父がうざかった。
それだけでも驚くべきことだ。
偏屈で人の好き嫌いの激しい父上は、家族でさえ傍に寄せ付けない程だ。
息子である俺や兄上たちでさえそうだ。歴史的に親兄弟で王位争いが激しかったせいも関係している筈だ。
それなのに、この異国の少年は、何の抵抗もなく父の領域に入り込んだのだ。
その事実だけでも信じられない出来事だったのだが……。
少年……黒曜は面白い。
ギルド所属だというから、『黒曜』という名前は本名ではないだろう。だが、彼の作る魔法薬は素晴らしい。
本人は「魔力がありませんから。その分、魔力が必要のない魔法薬が得意なんです」と言うが、あれだけの品質のものを作るのには相当の知識と技術が必要だ。
王宮の専属薬師ですら、あのレベルのものは作れないだろう。
それに「平民」という触れ込みにも首を傾げたくなる。
確かに服装は平民の恰好をしている。だが、立ち居振る舞いは洗練されていて下手な貴族よりも気品がある。この国の言葉も流暢だ。他の言語に通じているのかもしれない。確認はしていないが間違いないだろう。彼は高度な教育を受けた者だ。
『黒曜に過去の事は聞くな』
父上からの命令だ。
誰もが彼を知りたかった。それでも国王陛下の命令を無視する愚か者はいない。
今でこそ落ち着いているが、彼が来る前は酷かった。
気分屋の父上に城中がピリピリしていた。
気に入らなければ、すぐに「追い出せ」と言ったり「クビだ」と騒ぎ立てたからだ。
敵の多い人で暗殺者を差し向けられてた事なんて両手じゃ足りないくらいだ。その都度、敵を自ら斬首して返り討ちにした事も記憶に新しい。
そんな父上が一人の少年に対してここまで心を許すとは思わなかった。
父上の命令通り、俺は彼に過去を聞くことはしなかった。
恐怖の代名詞のような国王相手に一歩も引かず、堂々と意見する度胸にも驚いた。
父上を相手に臆することが全くない。
物怖じしない態度は父上を不快にさせるかと思ったが、何故かそうはならなかった。
寧ろ、黒曜に興味をもったようだ。
父上も変わったものだ。
こんな表情をする人ではなかった。
兄上たちも驚いていた。俺自身も驚きだ。
いつも不機嫌そうな顔をしている父上が笑っている! 思わず二度見してしまったほど衝撃的だった。
父上が笑うこと自体珍しいのに、あんな風に優しく微笑む姿を見たことがない。
黒曜は「旅の途中だから、そろそろ国を出て旅を再開したい」と言っていた。
残念だが、父上が許さないだろう。
何も言わないが父上は黒曜を一生手放すつもりはないはずだ。
黒曜もそれを薄々察していたのか、ある日、置手紙をおいて城から去ってしまった。
慌てて追いかけたが、既に遅かった。
彼は国境を抜けた後だった。
暫くの間、父がうざかった。
128
お気に入りに追加
1,859
あなたにおすすめの小説
家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした
桜月雪兎
ファンタジー
アバント伯爵家の次女エリアンティーヌは伯爵の亡き第一夫人マリリンの一人娘。
彼女は第二夫人や義姉から嫌われており、父親からも疎まれており、実母についていた侍女や従者に義弟のフォルクス以外には冷たくされ、冷遇されている。
そんな中で婚約者である第一王子のバラモースに婚約破棄をされ、後釜に義姉が入ることになり、冤罪をかけられそうになる。
そこでエリアンティーヌの素性や両国の盟約の事が表に出たがエリアンティーヌは自身を蔑ろにしてきたフォルクス以外のアバント伯爵家に何の感情もなく、実母の実家に向かうことを決意する。
すると、予想外な事態に発展していった。
*作者都合のご都合主義な所がありますが、暖かく見ていただければと思います。
【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!
つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。
他サイトにも公開中。
【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係
つくも茄子
ファンタジー
留学から戻られた王太子からの突然の婚約破棄宣言をされた公爵令嬢。王太子は婚約者の悪事を告発する始末。賄賂?不正?一体何のことなのか周囲も理解できずに途方にくれる。冤罪だと静かに諭す公爵令嬢と激昂する王太子。相反する二人の仲は実は出会った当初からのものだった。王弟を父に帝国皇女を母に持つ血統書付きの公爵令嬢と成り上がりの側妃を母に持つ王太子。貴族然とした計算高く浪費家の婚約者と嫌悪する王太子は公爵令嬢の価値を理解できなかった。それは八年前も今も同じ。二人は互いに理解できない。何故そうなってしまったのか。婚約が白紙となった時、どのような結末がまっているのかは誰にも分からない。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
虐め? そんな面倒なことしませんよ?
真理亜
恋愛
卒業パーティーで謂われなき罪の元、婚約破棄を告げられた公爵令嬢は「虐め? そんな面倒なことしませんよ?」と冤罪を主張する。なぜなら「私がその女を目障りだと感じたら、我が公爵家の力を以てして髪の毛一本残さずさっさと始末してますよ? その女が五体満足でこの場に居ることこそ、私が虐めなどしていない証拠です」と、そう言い切ったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる