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~第一章~
14.エルside
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「――――なるほど。どうやらエル殿の話からして、私の娘と同様の被害にあわれたようだ」
「ひ、被害?」
「おや?そうではありませんか。ハニートラップに引っ掛かったのでしょう?」
「は、はに……」
「私どもはそう認識しているのですよ。もっとも、エル殿はまだ夢から覚めていないようだ」
それから伯爵様は彼の事を分かっている範囲で全てを語ってくださいました。時折、私達に対する見通しの甘さを語ると共に。
「そもそも男一人を数人の女達で共有するというが、君達はどういう形で成そうとしたんだ?我が国は国王でない限り複数の妻など持てない」
「それは……」
考えてませんでした。
だって皆と一緒にこれからも暮らすのだとしか思ってませんでしたし。
「一人を正妻にして他は愛人か?言っておくが、伯爵令嬢である娘が愛人になるなどあり得ん。勿論それは聖女候補であったエル殿も同じ事だろう。神殿が許すと思うのかい?」
……どうでしょう?
聞いた事がないので分かりません。
「その様子では分かっていないようだ。許されない事だ」
呆れた顔で、伯爵様はその後もクドクドと話されました。
意外と粘着質っぽいです。
「十数年ほど前から南の国が急激な経済発展を遂げている」
え?急になんですか?!
「それと同時に治安が悪化の一途をたどっている」
そうですか……。
でもそれが何か?
「普通は、経済が良くなればそれに合わせて治安が良くなるものだ。だが何故か悪化している」
私は何を聞かされているのでしょう?
他国の事など今は関係ない話ですのに……。
「我が国にも南の国からの移住者は多い。だが、今は密入国者の数が圧倒的に多いのだ。中には命からがら逃げ延びてきた者達もいる」
「はぁ……」
「彼らは仕事を奪われ、安い賃金で働かされている。国は富んでいるのに支配階級以外は最低賃金での労働だ。それなのに年々物価は上がり続けるという悪循環に陥っている始末。ある夫婦は家賃を払えなくなって家主に娘を取られた。ある少女は父親が深夜に雇い主の所にいって帰ってこなかった。そんあ不可解なケースが多発している」
「そうですか……」
「不思議に思わないかい?」
「え……と。可哀想だとは思います」
私の返答にますます目を細められてしまいました。
何か間違ってますか?
可哀想な話ですよね?
え?
違うんですか?
……どうしましょう。
伯爵様が何を言いたいのかサッパリと分かりません。
「そういう可哀想な目に遭った者達には、とある共通点があるのだよ」
「共通点ですか?」
「ああ。全員、雇い主や家主が異国の人間だという事だ。つまりだ、商店ならその店が、賃貸ならその住処が、彼らの密偵宿として機能していたという事だ。勿論、その中で一番多いのが宿屋だった」
「…………え?」
どういう事でしょうか?
密偵宿?
話の内容が今一つ分かりません。というよりも何故このような話を聞かされているのでしょう。
ポカンとしている私に気付いた伯爵様は深い溜息を吐き、かみ砕いた言い方で分かり易く話してくださいました。
まだ何処の組織なのかは分かっていないものの、ジャコモさんの所属している組織は国規模の巨大なところであること。
その組織が密偵を南の国に送り込み、一般人と混じって暮らしながら数多い密偵宿が形成されているであろうこと。
組織は数年前に我が国にも旅芸人として入り込んでいたようで、そこでも多くの密偵を生み出していた可能性があるということ。
そして、ジャコモさんが経営していた宿屋が組織の支部である可能性が高いという事を。
「役人が宿屋に駆け込んだところ、そこにはもう誰もいなかったそうだ」
「そんな筈はありません!私達以外にもお客さんは沢山いて!」
「恐らく、君達以外の客は男同様に密偵だったのだろう。そうでなければ、宿がこんな短期間で無人になるはずがない。証拠品は一切残されていなかったが、その証拠だ」
「……そ、んな……」
私はただ絶句するしかありませんでした。
「ひ、被害?」
「おや?そうではありませんか。ハニートラップに引っ掛かったのでしょう?」
「は、はに……」
「私どもはそう認識しているのですよ。もっとも、エル殿はまだ夢から覚めていないようだ」
それから伯爵様は彼の事を分かっている範囲で全てを語ってくださいました。時折、私達に対する見通しの甘さを語ると共に。
「そもそも男一人を数人の女達で共有するというが、君達はどういう形で成そうとしたんだ?我が国は国王でない限り複数の妻など持てない」
「それは……」
考えてませんでした。
だって皆と一緒にこれからも暮らすのだとしか思ってませんでしたし。
「一人を正妻にして他は愛人か?言っておくが、伯爵令嬢である娘が愛人になるなどあり得ん。勿論それは聖女候補であったエル殿も同じ事だろう。神殿が許すと思うのかい?」
……どうでしょう?
聞いた事がないので分かりません。
「その様子では分かっていないようだ。許されない事だ」
呆れた顔で、伯爵様はその後もクドクドと話されました。
意外と粘着質っぽいです。
「十数年ほど前から南の国が急激な経済発展を遂げている」
え?急になんですか?!
「それと同時に治安が悪化の一途をたどっている」
そうですか……。
でもそれが何か?
「普通は、経済が良くなればそれに合わせて治安が良くなるものだ。だが何故か悪化している」
私は何を聞かされているのでしょう?
他国の事など今は関係ない話ですのに……。
「我が国にも南の国からの移住者は多い。だが、今は密入国者の数が圧倒的に多いのだ。中には命からがら逃げ延びてきた者達もいる」
「はぁ……」
「彼らは仕事を奪われ、安い賃金で働かされている。国は富んでいるのに支配階級以外は最低賃金での労働だ。それなのに年々物価は上がり続けるという悪循環に陥っている始末。ある夫婦は家賃を払えなくなって家主に娘を取られた。ある少女は父親が深夜に雇い主の所にいって帰ってこなかった。そんあ不可解なケースが多発している」
「そうですか……」
「不思議に思わないかい?」
「え……と。可哀想だとは思います」
私の返答にますます目を細められてしまいました。
何か間違ってますか?
可哀想な話ですよね?
え?
違うんですか?
……どうしましょう。
伯爵様が何を言いたいのかサッパリと分かりません。
「そういう可哀想な目に遭った者達には、とある共通点があるのだよ」
「共通点ですか?」
「ああ。全員、雇い主や家主が異国の人間だという事だ。つまりだ、商店ならその店が、賃貸ならその住処が、彼らの密偵宿として機能していたという事だ。勿論、その中で一番多いのが宿屋だった」
「…………え?」
どういう事でしょうか?
密偵宿?
話の内容が今一つ分かりません。というよりも何故このような話を聞かされているのでしょう。
ポカンとしている私に気付いた伯爵様は深い溜息を吐き、かみ砕いた言い方で分かり易く話してくださいました。
まだ何処の組織なのかは分かっていないものの、ジャコモさんの所属している組織は国規模の巨大なところであること。
その組織が密偵を南の国に送り込み、一般人と混じって暮らしながら数多い密偵宿が形成されているであろうこと。
組織は数年前に我が国にも旅芸人として入り込んでいたようで、そこでも多くの密偵を生み出していた可能性があるということ。
そして、ジャコモさんが経営していた宿屋が組織の支部である可能性が高いという事を。
「役人が宿屋に駆け込んだところ、そこにはもう誰もいなかったそうだ」
「そんな筈はありません!私達以外にもお客さんは沢山いて!」
「恐らく、君達以外の客は男同様に密偵だったのだろう。そうでなければ、宿がこんな短期間で無人になるはずがない。証拠品は一切残されていなかったが、その証拠だ」
「……そ、んな……」
私はただ絶句するしかありませんでした。
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