上 下
14 / 94
~第一章~

14.エルside

しおりを挟む
「――――なるほど。どうやらエル殿の話からして、私の娘と同様のにあわれたようだ」

「ひ、被害?」

「おや?そうではありませんか。ハニートラップに引っ掛かったのでしょう?」

「は、はに……」

「私どもはそう認識しているのですよ。もっとも、エル殿はようだ」

 それから伯爵様は彼の事を分かっている範囲で全てを語ってくださいました。時折、私達に対する見通しの甘さを語ると共に。





「そもそも男一人を数人の女達で共有するというが、君達はどういう形で成そうとしたんだ?我が国は国王でない限り複数の妻など持てない」

「それは……」

 考えてませんでした。
 だって皆と一緒にこれからも暮らすのだとしか思ってませんでしたし。

「一人を正妻にして他は愛人か?言っておくが、伯爵令嬢である娘が愛人になるなどあり得ん。勿論それは聖女候補であったエル殿も同じ事だろう。神殿が許すと思うのかい?」

 ……どうでしょう?
 聞いた事がないので分かりません。

「その様子では分かっていないようだ。許されない事だ」

 呆れた顔で、伯爵様はその後もクドクドと話されました。
 意外と粘着質っぽいです。






 
「十数年ほど前から南の国が急激な経済発展を遂げている」

 え?急になんですか?!

「それと同時に治安が悪化の一途をたどっている」

 そうですか……。
 でもそれが何か?

 
「普通は、経済が良くなればそれに合わせて治安が良くなるものだ。だが何故か悪化している」

 私は何を聞かされているのでしょう?
 他国の事など今は関係ない話ですのに……。

「我が国にも南の国からの移住者は多い。だが、今は密入国者の数が圧倒的に多いのだ。中には命からがら逃げ延びてきた者達もいる」

「はぁ……」

「彼らは仕事を奪われ、安い賃金で働かされている。国は富んでいるのに支配階級以外は最低賃金での労働だ。それなのに年々物価は上がり続けるという悪循環に陥っている始末。ある夫婦は家賃を払えなくなって家主に娘を取られた。ある少女は父親が深夜に雇い主の所にいって帰ってこなかった。そんあ不可解なケースが多発している」

「そうですか……」

「不思議に思わないかい?」

「え……と。可哀想だとは思います」

 私の返答にますます目を細められてしまいました。
 何か間違ってますか?
 可哀想な話ですよね?
 え?
 違うんですか?

 ……どうしましょう。
 伯爵様が何を言いたいのかサッパリと分かりません。

「そういう可哀想な目に遭った者達には、とある共通点があるのだよ」

「共通点ですか?」

「ああ。全員、雇い主や家主がだという事だ。つまりだ、商店ならその店が、賃貸ならその住処が、彼らの宿として機能していたという事だ。勿論、その中で宿だった」
 
「…………え?」

 どういう事でしょうか?
 密偵宿?
 話の内容が今一つ分かりません。というよりも何故このような話を聞かされているのでしょう。

 ポカンとしている私に気付いた伯爵様は深い溜息を吐き、かみ砕いた言い方で分かり易く話してくださいました。

 まだ何処の組織なのかは分かっていないものの、ジャコモさんの所属している組織は国規模の巨大なところであること。
 その組織が密偵を南の国に送り込み、一般人と混じって暮らしながら数多い密偵宿が形成されているであろうこと。
 組織は数年前に我が国にも旅芸人として入り込んでいたようで、そこでも多くの密偵を生み出していた可能性があるということ。
 そして、ジャコモさんが経営していた宿屋が組織の支部である可能性が高いという事を。

「役人が宿屋に駆け込んだところ、そこにはもう誰もいなかったそうだ」

「そんな筈はありません!私達以外にもお客さんは沢山いて!」

「恐らく、君達以外の客は男同様に密偵だったのだろう。そうでなければ、宿がこんな短期間で無人になるはずがない。証拠品は一切残されていなかったが、その証拠だ」
 
「……そ、んな……」

 私はただ絶句するしかありませんでした。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係

つくも茄子
ファンタジー
留学から戻られた王太子からの突然の婚約破棄宣言をされた公爵令嬢。王太子は婚約者の悪事を告発する始末。賄賂?不正?一体何のことなのか周囲も理解できずに途方にくれる。冤罪だと静かに諭す公爵令嬢と激昂する王太子。相反する二人の仲は実は出会った当初からのものだった。王弟を父に帝国皇女を母に持つ血統書付きの公爵令嬢と成り上がりの側妃を母に持つ王太子。貴族然とした計算高く浪費家の婚約者と嫌悪する王太子は公爵令嬢の価値を理解できなかった。それは八年前も今も同じ。二人は互いに理解できない。何故そうなってしまったのか。婚約が白紙となった時、どのような結末がまっているのかは誰にも分からない。

家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした

桜月雪兎
ファンタジー
アバント伯爵家の次女エリアンティーヌは伯爵の亡き第一夫人マリリンの一人娘。 彼女は第二夫人や義姉から嫌われており、父親からも疎まれており、実母についていた侍女や従者に義弟のフォルクス以外には冷たくされ、冷遇されている。 そんな中で婚約者である第一王子のバラモースに婚約破棄をされ、後釜に義姉が入ることになり、冤罪をかけられそうになる。 そこでエリアンティーヌの素性や両国の盟約の事が表に出たがエリアンティーヌは自身を蔑ろにしてきたフォルクス以外のアバント伯爵家に何の感情もなく、実母の実家に向かうことを決意する。 すると、予想外な事態に発展していった。 *作者都合のご都合主義な所がありますが、暖かく見ていただければと思います。

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!

つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。 他サイトにも公開中。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

空間魔法って実は凄いんです

真理亜
ファンタジー
伯爵令嬢のカリナは10歳の誕生日に実の父親から勘当される。後継者には浮気相手の継母の娘ダリヤが指名された。そして家に置いて欲しければ使用人として働けと言われ、屋根裏部屋に押し込まれた。普通のご令嬢ならここで絶望に打ちひしがれるところだが、カリナは違った。「その言葉を待ってました!」実の母マリナから託された伯爵家の財産。その金庫の鍵はカリナの身に不幸が訪れた時。まさに今がその瞬間。虐待される前にスタコラサッサと逃げ出します。あとは野となれ山となれ。空間魔法を駆使して冒険者として生きていくので何も問題ありません。婚約者のイアンのことだけが気掛かりだけど、私の事は死んだ者と思って忘れて下さい。しばらくは恋愛してる暇なんかないと思ってたら、成り行きで隣国の王子様を助けちゃったら、なぜか懐かれました。しかも元婚約者のイアンがまだ私の事を探してるって? いやこれどーなっちゃうの!?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

処理中です...