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~第一章~

15.エルside

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 今から十年近く前に宿屋の主人になったジャコモさんは、本来の宿屋の主ロイさんを自殺に見せかけて殺し宿の権利を法的に乗っ取り、そのまま住み着いたという話でした。

 経済を豊かにした恩恵故か、街の人達は「おかしい」と思いながらも口を噤んでいたそうです。

「まぁ、確固たる証拠はなにもない。怪しいと思っていても自分達の生活が良くなれば目を反らすものだ」

 田舎にしては経済が発展していると感じたのは確かです。
 その謎が今解けた気がしました。

「それが奴らの上等手段なんだろう。甘い蜜を吸わせ、いつの間にかその土地を乗っ取る。土地の人間は知らない間にその片棒を担がされている。気付いた時には全てが終わっているといった具合だ」

 違うと言いたかった。
 彼はそんな人ではないと。

 ですが、証拠と証言がこれでもかと出てくるのです。
 伯爵様は意地悪です。
 見たくないのに見せてくるのですから。
 それでも、神殿の司祭たちに比べるとマシでした。彼らは何の説明もしてくれませんでしたから。いいえ、する気もなさそうでした。そういう意味では伯爵様は良い人なのかもしれません。

 だた、これだけはハッキリしました。 
 私はこれ以上、彼を信じる事はできないという事です。

 

 伯爵様は、スパイが一番手っ取り早く現地に溶け込むのはその国の人間と恋愛関係になるのが一番手っ取り早い方法だとも教えてくださいました。


「今回のようにだった」

 そうですか。
 数年単位は早期発見なのですね。
 伯爵様は近衛騎士団長です。きっと政治的なものが関係しているのでしょう。恐ろしい世界です。あら?ですが、早期発見できたのは私達のお陰なのでは?
 
「あの……」

「逃した魚は大きすぎたな。まさか餌の方から稚魚に食われに行くとは思わなかったよ。できれば大魚が食べてくれればよかったのだが……娘やエル殿達の様子から少しの味見もしなかったようだ。残念だよ」

 え? それはどういう意味でしょうか。
 伯爵様の仰っている意味が理解できません。一体何が言いたいのでしょうか?


 




 その後、私はアーミさんと共に屋敷を出ました。
 
 これは選別だと言わんばかりに渡された小金と馬二頭。

 え?これをどうしろというのでしょうか?
 私は伯爵家でお世話になるのではなかったのですか?
 訳が分かりません。

 真っ青な顔のアーミさんは先ほどから返事がありませんし……。それとも王都を離れた伯爵家の別邸に馬で行くという話になっているのでしょうか?

 私、馬には乗れませんのに……。

 

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