スライムを出すだけのゴミスキルだと思ったけど妖精や精霊はこのドロドロが好きみたいです

兎屋亀吉

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8.スライムの味

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 22にもなってギャン泣きしてしまうとは恥ずかしい。

「タキガワは泣いてる顔が一番可愛いね」

「それ褒めてる?」

「これ以上ないくらいに」

「そっか、一応ありがとう」

 まあエリーには泣き顔どころか裸で卑猥なことを叫んでいるところまで全部見られてしまっている。
 恥ずかしがるのも今更だろう。
 
「そういえばエリーは他の人たちがいる時は姿を見せなかったのに、なんで俺一人になったら出てきたんだ?」

「うーん、単純に面白かったのと、あとタキガワはたぶん良い人間だから。妖精は匂いで人間の良し悪しがわかるんだよ」

「匂い?」

「そう。良い人間は甘い匂いがして、悪い人間はなんか臭い。ここにいた人間はタキガワ以外は全員臭かったから、そういう人間は妖精を見つけると捕まえて売ろうとしたりするから妖精は姿を現さないんだよ」

 なるほど確かにあいつらならやりそうだ。
 チャラ男2人はまず間違いなく捕まえようとするだろう。
 片方はJCとやっちゃうロリコンだから妖精も守備範囲内かもしれない。
 
「あ、そうだ。そういえばタキガワにお願いがあったんだった」

「ん?」

「あのドロッとしたの出してよ。あれすっごいいい匂いがしてたんだ」

「ドロッとしたの?」

 下ネタじゃないよな?
 そもそもあれはそんなに良い匂いのものじゃあないし。
 他にドロッとしたのといえば、スライムか。
 俺は指先から透明のスライムをドロッと出して見せる。

「これか?」

「それそれー!うわぁっ、やっぱりいい匂い。美味しそうな匂い」

「そんな匂いするか?」

 俺もスライムを嗅いでみるが、別段いい匂いがしたりはせず無臭だ。
 良い人間を嗅ぎ分けることのできる妖精にだけ香る匂いなのだろうか。

「ねえ、食べてみてもいい?」

「え?これ食べるのか?お腹壊すと思うけどな」

「ねえねえお願い。絶対お腹壊さないから。妖精のお腹は丈夫なんだよ」

「わかったよ。ほら」

 指から直というのはちょっとアレなので、そのへんに生えていた葉っぱを千切ってその上にスライムを乗せてやる。
 こうして盛り付けてみると水あめみたいで美味そうに見えなくもないな。
 
「もう食べてもいい?いいよね?」

「ああ、どうぞ」

「いっただきまーす!」

 エリーは葉っぱに盛られたスライムに顔からダイブすると、そのままズルズルと啜るようにスライムを貪り食った。
 凄い勢いだ。
 妖精をハイにさせる妙な薬でも入っているんじゃないだろうな。

「あっまーい!!すっごい甘くて美味しいよ!!」

「え、甘いのか?」

「うん。甘い!もっと頂戴!」

 あっという間に空になってしまった葉っぱを差し出すので、そこに追加のスライムを乗せてやる。
 エリーはまた顔からダイブしてスライムを啜り始めた。
 その顔はとろけるようなメシの顔で、もしかしたら本当に甘いのかもしれないと思ってしまう。
 俺は恐る恐るスライムを口に入れてみた。
 デュルンとしていて粘りの強い食感は水あめと水饅頭の中間くらいで悪くはないが、残念ながら無味無臭だった。
 やはりこれはスライムだ。
 俺は口に入っていたスライムを吐き出した。

「ああ、もったいない」

「さすがに俺が吐き出したものはやめてくれ。それより本当にこれ甘いのか?」

「うん、甘いよ?でも人間には感じられない甘さかもしれない。たぶん味覚で甘いって感じてるわけじゃないと思うから。良い人間から感じる甘い匂いと一緒だよ」

「そうか。俺には感じられないのか……」

 自分のスキルなのにな。
 甘い物なんてどれくらい食べていないだろう。
 全財産と引き換えに渡された菓子パンが最後かな。
 どうせ俺のいないところではみんな甘い物とか食べてたんだろうな。

「まあまあタキガワ元気出してよ。このスライムっていうのたぶん妖精だったら誰でも大好きだよ。妖精とお友達になり放題。いいスキルだと思うよ?」

「そうだな。まあ何も役に立たないよりはよかったよ、エリーの役に立てて」

「うーん、役に立たないスキルなんかじゃないと思うけどなぁ」

「何か使い道を思いついたのか?妖精とお友達になる以外で」

「たとえば精霊もこれは大好きみたいだよ。さっきから私の食べてるのを奪おうとしてくるもん」

「精霊?」

 エリーは何もない場所にブンブン手を振ってあっち行けーと叫び始めた。
 俺が見えていないだけで精霊というのがいるらしい。
 異世界っぽいことがどんどん起こるな。

「こんなに精霊が大好きなのは霊木の花の蜜くらいだから、きっと精霊ともお友達になれるよ」

「でも精霊は俺には見えないじゃん。妖精みたいに姿を見せたりはしてくれないんだよな?」

「うん、精霊は基本的に人間には見えないね。でも契約すればその子だけは見えるようになるよ」

「契約って人間でもできるのか?なんか俺のイメージだとエルフとかしかできなさそうだけど」

「うーん、詳しくは知らない。エルフに聞きに行く?」

 エリーは気軽にそう言うが、いくら森だからってそのへんにエルフが歩いているわけもないだろう。
 それに俺の偏見かもしれないけれどエルフって排他的で人間を見ると嫌な顔をしそうだし、嫌な想いをしてまで聞きに行きたくはないかな。

「大丈夫だって、エルフは精霊に愛される人間には優しいから。妖精は精霊と近しい存在だから私がいればタキガワもそんなに悪い扱いは受けないはずだよ」

「でもやっぱり最初は弓とか構えられるんだろ?」

「それは仕方ないよ。エルフも人間に捕まえられちゃう危険があるから警戒してるんだよ。でも大丈夫。私がすぐに出て行ってタキガワを虐めるなーって言ってあげるから。ね?エルフのとこ行こうよ。精霊と契約してすっごい強くなったらタキガワを仲間外れにした人間たちを見返せるかもしれないよ?」

 俺の脳裏にこの1か月の生活が走馬灯のように浮かび上がってくる。
 さんざん馬鹿にされて、見下されて、搾取されて、最後には一人きり置いていかれた。
 ただスキルが役に立たないというただそれだけの理由で、なぜそこまでされなければならないのか。
 今になって悔しい気持ちが溢れてきた。

「エリー、頼むよ。俺をエルフのところに連れていってくれ」

「いいよ。その代わりスライムもっと頂戴?」

「いくらでも」

 俺はエリーが望むだけスライムを出してやった。

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