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1章 転生後の日常―崩壊まで

3話 もう一人の転生者

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 ―5年後

 あれからもう5年、俺は15歳になり、今年の春からはアルベルトと同じ王立パルシア学院に入学することになっている。
 通常王立の学院に入学するには、一定の寄付金と身分がなければ通うことができない。
 俺が学院に入学できるのは、長年アルベルトとカルラの家庭教師を務めたとして、フューラー家当主の後ろ盾と援助を受けることになったからである。

 「家庭教師やっておいてよかったよ」

 「おいおい待てよ、お前への援助を頼んだのは俺だからな、感謝しろよ」

 「お前に勉強を教えてやった俺にも感謝しろよな、アルベルト」

 俺とアルベルトは馬車で王都よりさらに北東部に位置するゼイヴァという田舎村を目指して向かっていた。
 そこには昔から交流のある賢者……レナ・ゴール=デリング先生がいる。
 実は彼も俺と同様転生者であり、俺の唯一の理解者でもある、一緒に向かっているアルベルトも1年前に俺と先生が前世の記憶を持つ転生者であることを打ち明けたので、アルベルトも承知だ。
 2年前にフューラー家当主、アルベルトの父にあたるクラウス・フューラーに伝言と領内統治に関するご意見を聞きに、アルベルトと初めてデリング先生に会った瞬間、俺とデリング先生との間に突如シンパシーのようなものを感じた。
 俺はアルベルトがいない時を見計らって恐る恐るデリング先生に「あなたも転生者ですか?」と尋ねたら、デリング先生は驚いた様子で「君もか?」と返したのだ。
 普通は疑うのだが、俺のことをすぐに信じてくれたのには心底驚いた。
 デリング先生いわく、多くはないが稀に転生者や異世界召喚者をたまに見るんだそうだ。
 デリング先生はというと、近代ヨーロッパの時代を生きた人で、前世の時の名前までは教えてもらえなかったものの、そのときの歴史的出来事と俺の知ってる歴史とが一致したので、同じ世界を生きた転生者であることには間違いなかった。
 それ以降、俺はこうして定期的にデリング先生の話を聞きに訪れるようになった。

 「わざわざ恩師に学院入学の報告しに行くなんて律儀だなカイザーは、まあ俺もデリング先生から色々教わったし、俺もお前に付き合うことにしたけどよ」

 「今までデリング先生から学んだ知識は今後フューラー家を安泰させるのに役立つと思うぞ、お前ももうじきフューラー家の当主になるかもしれないからな」

 「じゃあ、俺が当主になったら、カイザーは俺の側近な」

 「側近かー…考えとくよ」

 「いやいやそこは『光栄です次期当主アルベルト様』だろ?」

 「上から目線だと、誰も付いてこなくなるぞ」

 「じょ!冗談だって冗談冗談!まあでも…お前が側近になってくれたら頼もしいよ、本当…マジで、親父も母さんも妹もお前のこと気に入ってるし」

 アルベルトは笑顔でそう言い、馬車の窓から外を眺め始めた。
 俺もアルベルトにつられて窓の外の方に視線を向けた。


 デリング先生のいるゼイヴァ村に着いた時には、もう太陽が沈みかけようとしていた。
 俺とアルベルトは馬車から降り、デリング先生の住居へと向かう、歩いていくうちにデリング先生の家が見え、中から明かりが灯っているのがわかる。

 「まだ起きてそうだな」

 デリング先生の住居の扉前に着いた俺たちは、ドアを3回ノックし「こんばんは、カイザーです」と声を掛けると、ドアが開き、中から白い髭を生やした老人……デリング先生が顔を出した。

 「おお、2ヵ月ぶりだのうカイザー、アルベルト」

 そう言って先生は俺たちを中に招き入れ、そのまま住居へと入った。

 「最初に私のところに来たときはまだ子供だったのに、今はもうすっかり大人の第一歩を踏み込み始めたなあ」

 そう言ってデリング先生は紅茶を注いで俺とアルベルトに紅茶の入ったカップを渡す。

 「それってつまり俺たちは大人てことか?それともまだ子供?どっちだよ先生」

 「大人になりたての子供ってところじゃないかアルベルト」

 俺はそう言うと先生は「半分正解」と答え、それを聞いたアルベルトは「えぇ~…」と困ったような表情で言う。

 「先生にとっていつからが大人なんだ?」

 アルベルトの問いにデリング先生は「君たちにとっていつからが大人だと思う」と質問で返した。
 先生からの質問に俺とアルベルトは考え込む。

 「俺は15になった時点で大人だと思うんだけど、カイザーはどうなんだ?」

 「俺は……自分が今までの人生を後悔せずに生き抜いてからがやっと大人になったって言えると思います」

 俺の答えにアルベルトはポカンとした表情をし、俺に詰め寄って聞いて来る。

 「それって自身が死んでやっと大人になったってことか?それじゃあ人生ほぼ子供じゃないか」

 アルベルトはあまり納得してない感じに疑問を言う。
 すると、それまで静かに聞いていたデリング先生が俺とアルベルトに話しかける。

 「カイザーにとっての大人、実におもしろい解答だったよ、でも実際私もいつからが大人なのかわからないんだ」

 「答えがわからないのに俺たちに聞いたのか先生」

 デリング先生は「そうだよ」と言ってそのまま続けて話す。

 「”大人”というはのう、人によって様々でね、特にこれだという定義は定まってないのだよ、かくいう私も完全な大人とは限らないからのう」

 「いや、さすがに先生は大人でしょ、大人どころかもうご老人の部類に入っちゃってるけど」

 「そうだね、私ももう年だしのう、アルベルトにとっての大人は15歳からだろう、ならそれでいいんだ、アルベルトは15歳から、カイザーは死んでから大人って感じでいいじゃないか、はっはっは!」

 デリング先生は高らかに笑いながら台所へ向かい、沸騰した鍋いっぱいにあるスープをお椀によそってそれを俺とアルベルトに渡した。

 「ありがとうございます、先生」

 「おおうまそー!先生ありがとな」

 「温かいうちに飲みなさい、おかわりもあるから遠慮なく食ってくれ、クラウスからの伝言は食事の後から聞こう」

 そう言って、俺とアルベルト、デリング先生とで鍋いっぱいのスープを食した。


 ―翌日

 迎えの馬車が到着したので、俺とアルベルトは荷物をまとめたりと帰省の準備をする。

 「気を付けて帰りなさい、カイザー、アルベルト」

 デリング先生はそう言い、パンと水筒を俺たちに渡す。
 
 「食料も!?デリング先生ありがとうございます」
 
 「先生!?こんなにいいんすか!?マジ感謝っす!」

 そして、馬車の御者さんが出発する準備を終えた所で俺たちは馬車に乗り込む。
 御者に鞭を討たれた馬は「ヒヒーンッ!!」という声をあげると同時に馬車が動き始める。

 「またな!先生!」

 「また数か月後伺います!先生!」
 
 俺とアルベルトはデリング先生の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

 「達者でな!カイザー!アルベルト!」

 デリング先生はそう言って俺たちに向けて手を振り返した。

 ―8分後

 俺は持参していた本を読みながら、馬車内でアルベルトと共にデリング先生から貰ったパンと水を食す。
 しばらくすると、アルベルトがパンを加えながら俺に話しかけてきた。

 「そういやさ、カルラへの返事はいつすんだカイザー?カルラにやっかまれてる兄の俺が出しゃばっていいかわからんが、あまり女の子を待たせるのはよくないからな」

 アルベルトは俺にそう言いながらパンを食い終え、次に水筒の水をがぶがぶと一気に飲み干す。

 「そうだな、カルラに告白されてから3日経ったからな」

 「そうそう、さっさとけりつけてくれないと俺が色々困るからな、カルラとカイザーの間にいる俺の気にもなれよな」

 「それはわるかったよアルベルト、帰ってもしカルラが家にいたら返事するよ」

 すると、アルベルトがいきなりニヤニヤし始め、俺に詰め寄って来る。

 「んで、うちの妹にはなんて返事すんだ?」

 「実の兄の前で言いたくねえよ」

 「もったいぶんなよカイザー、親友のよしみで教えてくれよ」

 「断る」

 アルベルトの馬車内でのしつこい尋問はその後も長く続いた、後に待ち受ける”無惨な光景”をこの目で見るまでは……。
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