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1章 転生後の日常―崩壊まで

2話 二度目の人生

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 暗い…何も見えない…ここはどこだ?

 体の感覚も聴覚も視覚も何も感じない、まるで漆黒の闇に包まれているような…ただ真っ暗い光景、光もなにも見えない。

 二度目の人生…とか言ってたな、最初の人生でも、私が生まれてくる前はこんな真っ暗な背景が広がってたのか?……。

 ……が…ばれ……がんばれ……マリア……あと……しだ。

 どこからか声が聞こえる?マリア?だめだ、声が断片的でよく聞き取れない。

 ……もうちょっとだ……頑張れ……あと少しだ!

 聞くうちにだんだんと声がはっきり聞こえるようになっていく、これは本能なのか……視界が開けた瞬間、私は思いっ切り声を上げた。

 「オギャアッ、オギャア!」

 私の第一声は生まれたての赤ん坊のような産声だった。

 「可愛い……ほんとに可愛い……生まれて来てくれて……ありがとう」

 私の目の前にいる女性は涙を浮かべてそう言った。

 この人が、私の母親なのか?

 私の母親と思われるその女性を凝視していると、今度は父親らしき男性が私の視界に入ってきた。

 「マリア、名前どうする?」

 男性は女性にそう言うと、女性は私を見つめながら男性の問いに答えた。

 「この子の名前…カイザーって名前はどう?」

 「カイザー……いい名前だな」

 そうか…私は今日からカイザーという名で生きるのだな……まあ…悪くない。

 母親の体温を直接感じられたのがかなり久しぶりに思えた、私が最初の人生で感じた母の体温の感覚がまだ奥底に残っていたのかもしれない。
 
 「これからもこの子と一緒に幸せになろうね、あなた」

 「ああ、俺も頑張んないとな」

 私の父となる人と母となる人はお互い笑顔を浮かべて見つめ合い、今度は私の方に熱い視線が向けられる。

 「パパとママがカイザーを一生守るからね」

 母のその言葉と温かさに私は安心と居心地の良さで眠くなり、そのまま母の腕の中で眠った。
 
 
 ―10年後

 この世界に来てもう10年が経った、かつて俺は前世では21世紀最後の独裁者だとか、史上最悪の独裁者とか呼ばれていたが、二度目の人生では普通の一般家庭で生まれ、今も両親からの愛情を受けながら俺は新たな人生を送っている。
 家族というものをこんなにも感じられたのは前世の幼少の時以来だ。

 「カイザー、もうそろそろ行く時間だろ、早くいかないとまた伯爵様に怒られるぞ」

 「わかってるって父さん、行って来まーす!」

 俺は勢いよくドアを開け、伯爵家の住む城へと向かう。

 「いってらっしゃい!カイザー!」

 後ろから聞こえる母の言葉に反応して後ろを向き、俺は父と母に手を振った。


 どうやらこの世界は中世のヨーロッパみたいな生活様式と街並みだ。
 そしてもう一つ、様々な種族もいるようで、魔法という非科学的な現象も究めさえすれば使える世界だ。
 俺の場合だと、脳内で原料や構造などを思い浮かべれば手元で簡単に物体を生成できる創造魔法と大小の物を体内で収納、保管できる収納魔法が使える。

 収納魔法……まるでどっかの青狸が持ってた四次元ポケットみたいだな。

 ついでに今住んでる地域はパルシア王国と呼ばれる国で専制国家だ。
 俺が向かってる伯爵…フューラー家は王族の家臣の家臣にあたるまあまあ由緒正しき家。
 
 そんなフューラー家になぜ俺のような一般人が行ってるかって?
 
 俺がフューラー家にお邪魔できてるのは、俺が齢8才の頃から元侍女だった母のツテで伯爵家の長男と長女の家庭教師を務めることになり、毎日こうしてフューラー家を訪ね、当主様の子供に学問を教えてるってわけだ。
 
 俺が家庭教師になれたのは、前世の知識(記憶)を持ってるのもあるが、元々俺は飲み込みが早い方だったので、幼少からこの世界の全分野の学問を独学で勉強していた。

 この世界の学問を勉強しても損するわけでもないし、もしかすれば何かで役立つかもしれないと思い、学と知識を積んでおいたのだ。
 
 「おー!カイザー・バシュ!今日もアルベルト様とカルラ様の家庭教師か!」

 門番の旦那に声をかけられ、俺はいつものように挨拶を交わす。

 「おはようおじさん、今日もアルベルトとカルラに勉強教えに来たよ」

 「相変わらずお前すげえな、お前が家庭教師することになったの確か8才の時だよなあ、昔からそんな頭良かったのか?」

 「たまたまだよ、ただ新しいことを知るのが好きなだけだよ」

 そう言って俺は城内に入り、幼少の時からの友人であるアルベルトとその妹カルラのいる部屋へと向かった。

 今日も城内めっちゃ綺麗だな、俺もゆくゆくはフューラー家の顧問とかになったりして、それはそれで悪くないな。

 広い廊下を歩くうち、いつの間にかアルベルトとカルラのいる部屋の前まで辿り着いていた。

 「よし!今日も頑張りますか!」

 俺はノックを3回すると、ドアの向こうから「どうぞ」という女の子の声が聞こえた。

 この声はカルラかな。

 俺はドアを開け、部屋の中へと入る。

 「いらっしゃい!カイザーお兄さま!」

 部屋に入った瞬間にカルラが俺に抱き着く。

 「なんだよ、俺に対してはツーンとしてるのにカイザーにはこんなに懐くんだ?」

 アルベルトが不満気に言うと、カルラは頬を膨らませてアルベルトに文句を言い始める。

 「だって、カイザーお兄さまは優しいし、私がわからないことも丁寧に教えてくれるもん!それに比べてお兄さまは意地悪なこと言うし、優しくもないし頭もそこまでよくないし、良い所何一つ思いつかないもん!」

 アルベルト……すごい言われようだな。

 「なあカイザー、俺可哀想だろ?俺に対していっつもこうだぜ」

 兄にはキツく当たるカルラはいわゆるツンデレというものだろう。
 
 ツンデレなんてアニメか漫画の中だけかと思ったが、本当にいるもんだな。

 とは言っても、ここは現代ではなく異世界だけど。

 「はいはい、兄妹喧嘩は一旦終わりにして、早く勉強始めるぞ」
 
 二人は「はーい」と答えると、高価そうな棚から今日やる教材を取り出し、本を開いた。

 「じゃあ昨日の続きからやるぞ」

 俺はいつものように、アルベルトとカルラへの授業を始めた。

 
 「それで、この公式を使って解けば…」

 俺はペンで問題用紙に書き込んでカルラに計算の解き方を教える、カルラは教えた通りに計算し、最初苦戦してた問題を解いた。

 「できた!できたよカイザーお兄さま!」

 計算が解けたことに余程嬉しかったのか、満面の笑顔で俺を見る。

 「これでもう同じような計算問題出てきても大丈夫だな、カルラ」

 カルラは「うん」と頷き、次の問題に取り掛かる。
 一方、古代史を読んでいるアルベルトは苦い顔をしながらも内容を頭に叩き込もうと目を力一杯見開いて熟読している。

 「アルベルト…読むのも大事だが、読むだけじゃあまり覚えられないからな」

 「おいおいカイザー、カルラには勉強教えてんのになんで俺の扱いちょっと雑なんだ?」

 「暗記本に関してはアドバイスのしようがないよ、史記とか政とかはひたすら覚えるしかないんだから」

 それでもアルベルトは納得せず、俺に詰め寄って来る。

 「そんな冷たいこと言うなよ、ほら例えばさ、カイザーならどうやって暗記したんだ?それくらいなら教えてくれるだろ?」

 アルベルトは「頼む!」と言いながら俺に懇願する、アルベルトの必死の懇願に根負けして、とりあえず俺の暗記法をアルベルトに伝授する。

 「まあこれは俺のやり方だけど、まず歴史を覚える時は例えば自身をその時の時代の当事者だとイメージしながら読むんだ、そうすりゃあ自然と頭に入ってくるから、政治学とか聖学とかも同じだ、それらと自分とを結び付けて学べば覚えやすいはずだ」

 「んー…長すぎて途中入って来なかったけど、よくわかった!」

 あーこれ絶対理解仕切れてないやつだこれ。

 「一応もう一回説明するわ」

 「カイザーお兄さま、兄がアホですいません」

 カルラの言葉にアルベルトはシュンッ…となってしまったが、俺はそれに構わずアルベルトにもう一度暗記法を説明した。


 そろそろ太陽が沈みかけようしていたので、俺は二人に「今日はこれで終わりしようか」と言い、今日で勉強を切り上げた。

 「えーもう日が暮れちゃったの、もうちょっとカイザーお兄さまから勉強教わりたかったのに……」

 「じゃあ続きは俺が教えてやるよ、お前が今やってるところはもうすでに習い終えたからな」

 「ええーお兄さまの教え方解かりにくいからやだ」

 「そこまで言わなくてもいいじゃないかカルラ」

 ドンマイ、アルベルト。

 「まあ明日もまた来るから、続きは明日やろ」

 俺がそう言うと、二人は「うん」と頷いて、俺は「じゃあね、また明日」と言ってお城の門で二人と別れ、そのまま自宅へと向かった。
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