ラブホオーナーは愛しの彼女を溺愛したくて仕方がない

九条 いち

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篠宮

インドカレー

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3話 篠宮




「凪ちゃん!」


素敵な男性が大きく手を振っているのはなんだか似合わない気がして、思わず頬が緩む。

篠宮さんは少し茶色がかった明るい黒髪を自然に後ろに流していて、ラフに髪のセットをしていた。

たまに少し落ちてくる前髪の色気がすごい。

四十路なのに鍛えられた身体と、少しだるそげなふるまいのギャップに、思わず目を奪われてしまう。


「ごめんね、待たせちゃって」

「本当ですよー。10分の遅刻です」

「ほんとごめん!」

「もういいですよ。食事おごってくれたら許します」


いつも食事の代金は彼が全額支払ってくれているが、彼にあまり罪悪感を抱かせないために、交換条件として出してみる。


「お安い御用! でもやっぱり、今度から俺のオフィスにおいで。そこで待っていてくれたらいいから」

「そんなオフィスに毎回部外者が行くのは社員さんに悪いですよ」

「でも、凪ちゃんのオフィスの近くに俺が迎えに行くのはダメなんでしょ?」

「そりゃダメですよ。もし会社の人に見つかったら大変です」


知り合いに見つかったら、『あの人誰⁉』って質問責めされて、恋人じゃないと知るやいなや『紹介して!』って迫られるのは明白だ。

この前、あまり仲のよくない友人と遭遇した時にえらい目にあった。

二度とあの時のような面倒な目にあうのは勘弁してほしい。


「なんでーおじさん泣いちゃうよ?」

「泣かないでしょー」

「……泣きはしないけど、落ち込むよ」


突然低くなった声に心配になって彼の方を見る。

彼は一瞬、悲しそうな顔をしたが、すぐにいつものけろっとした顔に戻った。


「じゃあさ、俺のオフィスに誰にもバレない部屋を用意してあげる。そこで待つならいいでしょ? 社員には見られないし」

「なんですかそのエッチな場所は」

「エッチって(笑) 凪ちゃんが言う?」

「だってオフィスラブし放題な場所じゃないですか」

「まあ、そうだけど(笑) そういうことしないし、いいでしょ? 凪ちゃんの懸念材料はなくなったよ」


篠宮さんにそこまでしてもらうのは申し訳ない。

でも、また変な人に絡まれるのはごめんだ。

篠宮さんのオフィスはうちの会社からもそう遠くないし、私にとっても好都合な提案だった。


「……そうですね。わかりました、今度からはそうさせてもらいます。ありがとうございます」

「やったね。これで凪ちゃんとオフィスラブ~」

「しませんよ」

「残念だなあ」


駄々をこねる子供のような顔をする彼を、横目であしらう。

篠宮さんならいくらでも女性を連れ込めるでしょうに……。

きっと完璧なエスコートをするんだろうな。

彼が女性の手を取り、部屋に導いていく様子を想像してしまい、少し靄がかかったような気持ちになる。


「今日は何食べたい?」


こちらを見る篠宮さんに悟られないように、先ほど感じたモヤモヤを振り払う。

二週間前はお寿司だったし、その前は焼肉に連れて行ってもらった。

きっと、前回、前々回とは違うものがいいよね。


「うーん。じゃあ、インドカリィ」

「カレーじゃなくてカリィなんだね(笑)」

「本格的なナンで食べるカレーはカリィです」

「そんな規定があるとは」

「まあ、気分によって呼び方は変わります」

「えっ、そうなの(笑)」

「はい、てきとうです」

「そっか(笑) じゃあ今日はカリィに行こうか」

「はい!」




「それで、これぐらいの利益が出たんですけど、次に売るタイミング逃しちゃって……」

「んー減ってるときに売るタイミングは難しいからねえ。そこはやっぱり――」


インドカリィ屋さんに着いて、二人でナンをほおばりながら、株の話をする。

篠宮さんはキャバクラのオーナーだけど、投資家でもあるので、たまに投資についての相談に乗ってもらったりしている。


「……そうなんですね。次はそれやってみます!」

「うん、頑張って」

「はい! ありがとうございます」


篠宮さんが微笑みかけてくれる。

私も微笑み返す……というかにやけてしまう。

あまりに甘い笑みを向けてくれるので、顔全体の筋肉が緩んでしまう。



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