おちゆく先に

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77話

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 王城に入り、一般兵士と魔法師団団員はそれぞれ自分の部屋などに行き解散の流れとなっていた。
 オウルーゼル、ローレン、カリーナそしてジグレイドは謁見の間で跪いて国王ウルスマグアの到着を待っていた。謁見の間には4人だけでなく貴族の当主だろうか、ズラッと並んでいた。

 「面を上げよ」
 ウルスマグアが玉座に座りそう声を掛けてきた。

 「此度はご苦労であった。聞いたところによると圧勝だったらしいな。これで少しバルクド帝国も戦争を控えるといいのだがな。して、そこの者はなんだ?」
 「この者は私の弟子にございます。此度の戦争で多大な功績を納めましたので連れてきた所存です」
 「ほう、戦争は魔法師団の放った魔法で終結したと聞いておったのだがな。どこにそんな功績があるのやら」
 嫌味のように言ってきたのは貴族の誰かだった。

 「止めよ!・・・将軍その功績を聞いてもよいか?」
 すぐさま嫌味を言った貴族をウルスマグアが制した。
 「はい、この者は襲ってきた亜人族の隊長を一対一にて打ち倒した者でございます」
 ローレンがそう言うと貴族たちがざわざわしだした。
 「静まれ!・・・将軍それは真か?」
 「私はそう考えております」
 「む?どういう事だ?その亜人族の隊長の死亡は確認したのであろう?」
 「いえ、私はこの者が埋葬したという場所と戦闘した場所に赴いただけでございます」
 ローレンがそう言った瞬間、再びざわざわしだし先程の貴族がまた声を荒げた。

 「それではそやつが虚言を吐いている可能性もあるではないか!戦いすぎて遂に耄碌したか!?」
 「静まれと言ったはずだが?よもや聞こえなかったとは言うまい・・・それで将軍ちゃんと説明してくれるのだろうな」
 すぐに一喝してその貴族を黙らせた。そしてローレンに説明を求めた。
 「はい、まず皆さんご存知の通り今回も亜人族に襲われました・・・

 ・・・確かに確固たる証拠はありませんが、私はこの目で現場を見てこの者が亜人族と激しい戦闘になったということを確信しております。そもそも皆殺しにしてくる亜人族と戦い生きてここにいることが証明ではないでしょうか。それに敵とはいえ墓を暴く行為は誉められたものではありません」
 ローレンは事細かに説明し、なぜ遺体を確認しなかったのか理由を述べた。

 「なるほど・・・確かに一理ある。墓を暴くなど死者への冒涜だからな。だが組合でも討伐証明がなければ報酬が出ないように証明できなければ報酬を出すことはできぬかもしれぬぞ?」

 「陛下、発言宜しいでしょうか?」
 「ぶ、無礼者!平民の分際でなにを言うか!」
 次々と貴族から罵詈雑言が飛んでくる。

 「よい!発言を許そう。申してみよ」
 「ありがとうございます。私は報酬など何も求めてはいません。私は将軍に鍛えてもらえればそれでいいのです。しいて言うならば将軍の弟子入りが報酬でしょうか」
 ジグレイドがそう言うとウルスマグアが唐突に笑いだした。
 「ふはははははは!そうか、報酬はいらんか!将軍よ、なかなか豪快な者を弟子にしたな。ふむ、そうだな…では報酬は家でどうだ?何もなしというのは示しがつかんのでな」
 「家・・・ですか?」
 「家と言っても屋敷ではない。一般市民街にある家だ。そなたが将軍の弟子になるのならばこの王都に住むことになる。その間ずっと宿暮らしというのもなかなか金が掛かるだろう。亜人族を倒したにせよ、退けたにせよこれくらいの報酬は必要だろう。受け取ってくれるな?」
 「はい、ありがとうございます」
 「うむ、それではな」
 ウルスマグアはそう言って謁見の間から出ていった。



 それからジグレイドは城の中をメイドに案内してもらった。なぜカリーナやローレンではないのかというと、二人は会議があるようでメイドにジグレイドの案内を任せて会議室に行ってしまったからである。

 「こちらが家の手配が済むまで滞在していただく部屋になります。案内はここで最後となりますが、他に知りたい場所はございますか?」
 「いえ、大丈夫です。案内ありがとうございます」
 「これが仕事ですので、では私はこの辺で失礼します」
 メイドが立ち去った後ジグレイドは何しようかと椅子に座り悩んだ挙げ句そのまま椅子に座ったまま寝てしまっていた。

 ジグレイドは誰かが部屋に入ってくる気配を感じ取りすぐさま起き上がった。
 「寝ていたようだな、案内はしてもらったよな?もう夕食の時間だ。食堂にいくぞ」
 部屋に入ってきたのはローレンだった。
 ローレンに連れられて食堂に行くと、案内してもらった時は閑散としていた食堂が今は人で溢れていた。

「オススメを二つ頼むよ」
 ローレンが声を掛けたのは食堂のおばちゃんだった。
 「あいよ、今回は将軍の出番は無かったんだって?」
 「耳が早いな、確かに私の出番は無かったな」
 「出番が無いに越したことはないさね。ところでそこの坊やが噂の弟子かい?」
 「そうだ、こいつが私の初めての弟子だな。ほれ、ジグ挨拶せんか!」
 「お世話になります。ジクレイドです」
 「えらく礼儀正しい坊やだね。もしかして貴族様かい?」
 「いえ、俺は平民ですよ」
 「そうかいそうかい、どっちでもいいさね。お腹空いたら食堂にきな、何かしら作ってあげるさね」
 「ありがとうございます」
 会話している間もおばちゃんの手は止まることなく料理を作り続けていて、すぐに料理が出来上がった。
 「ほれ、オススメ二つ出来たよ。持っていきな!」


 食堂の料理はとても美味しかった。
 「ここの料理うまいだろう?さっきのおばちゃんなんだがな、元々有名な料理屋で働いていたのを陛下が直々に声を掛けて雇った料理人でな。あのおばちゃんのおかげでここの料理が格段と美味しくなったのだ。私がおばちゃんと言ったら怒られるから内緒にしといてくれよ。今日はもう仕事がないのでな、ジグも自由にしてくれて構わない。明日から兵士の訓練が始まる。二度目の鐘がなる頃に訓練場に来てくれ」
 「鐘・・・ですか?確か日の出に一度目の鐘が鳴るんでしたよね?二度目はどのくらい後ですか?」
 「そうだな・・・一度目の鐘が鳴ってから食堂で食事を済ませれば丁度良い時間になるはずだ。最初はバタバタするだろうがすぐに慣れるだろう。ではまた明日、寝過ごすなよ」
 そう言ってローレンは立ち去っていった。

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