大人の恋愛の始め方

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【第1部】9.金平糖

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 しばらくトモの来店も呼び出しもない日が続いた。
 そうすると、レイナがまた聡子を冷やかすのだ。特に彼女は聡子を妹のように可愛がってくれる先輩だ。
「来店ないと寂しいね」
「……べ、別に。わたしはあくまでも補助要員なので」
「ミヅキを指名するのは、川村専務とあの人だけだもんね」
「…………」
 レイナは聡子の恋路に敏感だ。恋バナが本当に好きらしい。レイナこそ、美人なのだから恋愛をしていそうなものなのに。本人には言えないが。
「もう、可愛いなあ、ミヅキは」
 レイナはぎゅっと聡子を抱きしめる。
「ちょっ」
「ほんと、わたしが男だったら絶対ミヅキを好きになるわ」
「いやいやいや……」
 聡子は理解できずにいた。
「あっ、そうだレイナさん」
「ん? なあに?」
 トモに訊きたくても訊けないことがあったが、レイナなら知っているかもしれないなと思った。
「質問、いいですか?」
「いいよ?」
「ここのお店、神崎会長がオーナーだって、おっしゃってましたよね」
「うん、そうだね。会社の会長で、社長は甥っ子さんだってきいたわよ。その会社の飲食事業部なんだって。ほかにも飲食店の経営はされてるそうよ」
 結構手広く事業をされているのだと初めて知る。やはりレイナは知っていたようだ。自分が知らないだけなのかもしれないが。
「神崎会長は、組長、ってことですか?」
「ん?」
「神崎組、の」
「え?」
「え」
 レイナは真顔で固まっている。
「誰がそんなこと言ったの? あの人?」
「えっ、違います」
 あの人、というのはトモのことを指しているようだ。
「いえ、あの人には何も訊けないので……」
「そうなの?」
 はい、と聡子は頷いた。
「神崎会長は、堅気の方だよ。昔からずっと。詳しいことはわたしもわからないけど、一代で事業を興されてここまで来られたそうよ。神崎組とは、うーん、同じ名前だし、つながりは何かしらあったんだとは思うけど、会長にやましいことは何一つないわ。ママは事情をご存じだとは思うけど、話す必要がないことは話さないし、必要があればわたしたちに話して下さるから」
「そうなんですね」
「ママが組長の愛人か何かだと思った?」
「そんなことは全く思ってません!」
「勘違いした子もいたから、ミヅキもそうなのかなって」
「そこまで及んでませんでした……」
「あの人がヤクザなのか気になったの?」
 ミヅキは小さく笑い、聡子の顔を覗き込んだ。
「いえ、そういうわけでは……。でも、あの人はヤクザだなって思ったので」
「そっか。ヤクザなの?」
「高校生の頃、あの人と連れの人がバイト先のファミレスに来たことがあって」
 そんな頃からの知り合いなの、とレイナは驚いていた。
 立ち回った時のエピソードを話すと、レイナは笑いもしたが、驚きのほうが大きかったようで、聡子の勇ましさに口をあんぐり開けた。
「つよ」
「恥ずかしいエピソードです……」
「うーん、となると、あの人は元ヤクザなのかな。今は会長の部下みたいだし、会長は堅気だから、今は堅気だと思うよ」
「そうですか……」
「気になる?」
「いえ、そういうわけではないんですけど。情報がとっ散らかってて」
 そっか、と彼女は頷いた。
(バイト先に来た時は『神崎組の』って金髪が言ってた。刺青もしてたし。でもトモさんの身体のどこにも刺青はなかったし。あの日『会長にも若にも迷惑がかかる』って言ってたような気がする。トモさんが怪我をした時は抗争だと思ってた。んー……もう三年近く前の話だから忘れちゃったし……)
 レイナの言葉を信用することにした。
「ちょっとすっきりしました」
「何か情報が更新されたら、ミヅキに流してあげる」
「ありがとうございます」
「だ、か、ら。ミヅキの恋も更新されたら教えてね」
「更新なんてないです! 別にあの人とは!」
「あの人? わたしは『あの人』との恋とは言ってないよ? 川村さんのつもりだったんだけどなあ」
 もうっ、と聡子は頬を膨らませた。
「ほんっと、可愛いんだから」
 レイナは聡子を再び抱きしめた。

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