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第一部
ずれていく
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Side.秋
最初に違和感を覚えた出来事が起きたのは、6月のことだった。僕が兄さんと一緒に過ごす姿はもう学校になじんでいて、健斗もその間にいて当然、になりつつあった。幸いなことにこの学園で冷やかしにもあっていないし、兄さんも大きく体調を崩していなくて、僕は安心をしていた。
折角屋内にもプールがあるからと高校に入ってからも続けることにした水泳部も、兄さんの送迎があると入部前から了承をされているから、周りよりも早く帰ることにも何も言われない。その分準備や部屋でできる事務作業をできる限り引き受けていた。
一緒に水泳もできるだろうかと少し期待していたのだけれど、結局高校では水泳はやらないと決めた健斗は、それでもわざわざ僕が部活が終わるのを兄さんと待ってくれていた。図書室にいたり、教室にいたり、たまに見学をしてくれていたり。その日は二人とも図書室で向かい合っていた。
「遅れてごめんね」
「あ、アキ」
「いや、大丈夫だよお兄さんと勉強してたんだ」
笑みを浮かべてこちらをみた健斗は、定期テストの勉強を兄さんとやっていたらしい。兄さんは努力を怠らない人で、家で何かをする時間が多かった分、頭のいい人だ。
「へぇ、僕にも教えてくれる?」
そうきくと、二人はそろってうなずいた。
「もちろん、お兄さんの教え方うまいから俺も役に立てるかもな」
「健斗も理解力はあるし、定期テストもそこそこいいところいけるんじゃないかな」
「本当ですか?また明日も勉強教えてください」
たのしそうに笑う二人の一歩後ろをついて歩く。出会ってからすぐに仲の良くなった二人にうれしい思いがある一方でもやもやとするのは二人ともに失礼な気がして後ろめたい。自分をわざわざ待ってくれているというのに、嫉妬なんてみっともない感情を知られたくなかった。
「今日から俺、お兄さんと先に帰ってるよ」
「へ?なんで」
その数日後に健斗からいきなりそんなことを言い出されたときも、特にうまい言い訳も見つからなかった。兄さんと健斗が仲良くなることは、恋人として、弟として喜ばしいことでなければならないから。でも、いままでに覚えたことのない不安があって、すぐにはうなずけなかった。それをどう思ったのか、健斗が笑いかけた。
「だって、アキ7月から大会だろ?最初の大会、やっぱり頑張ってほしいし…でもお兄さんのことも気になるだろう?」
たしかに、一年生の個人水泳の選手として選ばれていた。練習量も増えるし、帰宅時間のことなどは考えなければならないと思っていた。そうだ、きっと、これは健斗が甘やかしてくれる一貫なんだ。寄りかかりすぎては申し訳ないけれども、そう伝えたら「馬鹿だなあ」と笑われてしまう気がして、結局ありがたくその好意を受け取ることにした。
「ありがとう、健斗」
「いや、気にすんなよ。もう日も長いし秋はちょっと帰りが遅くても大丈夫だから」
その「大丈夫」がなぜか妙に心に突き刺さった。べつに、何かひどいことを言われているわけではないのに妙に耳に残る「大丈夫」に、僕は曖昧にこたえることしかできなかった。
そうだ。
いつでも僕は自分から目をそらす。ちゃんと現実をみようとしない、僕が悪いのに。
このとき、もっとちゃんと健斗の表情を、兄さんの表情を見ておくべきだったのかもしれない。だけど、僕は一人でも大丈夫だからとか、兄さんは一人で戻ろうとするとガラの悪いのに絡まれたり、途中で貧血を起こしやすくなる時期だから。そんな言い訳をつらつらと並べて、違和感や不満を心の奥底に隠した。
最初に違和感を覚えた出来事が起きたのは、6月のことだった。僕が兄さんと一緒に過ごす姿はもう学校になじんでいて、健斗もその間にいて当然、になりつつあった。幸いなことにこの学園で冷やかしにもあっていないし、兄さんも大きく体調を崩していなくて、僕は安心をしていた。
折角屋内にもプールがあるからと高校に入ってからも続けることにした水泳部も、兄さんの送迎があると入部前から了承をされているから、周りよりも早く帰ることにも何も言われない。その分準備や部屋でできる事務作業をできる限り引き受けていた。
一緒に水泳もできるだろうかと少し期待していたのだけれど、結局高校では水泳はやらないと決めた健斗は、それでもわざわざ僕が部活が終わるのを兄さんと待ってくれていた。図書室にいたり、教室にいたり、たまに見学をしてくれていたり。その日は二人とも図書室で向かい合っていた。
「遅れてごめんね」
「あ、アキ」
「いや、大丈夫だよお兄さんと勉強してたんだ」
笑みを浮かべてこちらをみた健斗は、定期テストの勉強を兄さんとやっていたらしい。兄さんは努力を怠らない人で、家で何かをする時間が多かった分、頭のいい人だ。
「へぇ、僕にも教えてくれる?」
そうきくと、二人はそろってうなずいた。
「もちろん、お兄さんの教え方うまいから俺も役に立てるかもな」
「健斗も理解力はあるし、定期テストもそこそこいいところいけるんじゃないかな」
「本当ですか?また明日も勉強教えてください」
たのしそうに笑う二人の一歩後ろをついて歩く。出会ってからすぐに仲の良くなった二人にうれしい思いがある一方でもやもやとするのは二人ともに失礼な気がして後ろめたい。自分をわざわざ待ってくれているというのに、嫉妬なんてみっともない感情を知られたくなかった。
「今日から俺、お兄さんと先に帰ってるよ」
「へ?なんで」
その数日後に健斗からいきなりそんなことを言い出されたときも、特にうまい言い訳も見つからなかった。兄さんと健斗が仲良くなることは、恋人として、弟として喜ばしいことでなければならないから。でも、いままでに覚えたことのない不安があって、すぐにはうなずけなかった。それをどう思ったのか、健斗が笑いかけた。
「だって、アキ7月から大会だろ?最初の大会、やっぱり頑張ってほしいし…でもお兄さんのことも気になるだろう?」
たしかに、一年生の個人水泳の選手として選ばれていた。練習量も増えるし、帰宅時間のことなどは考えなければならないと思っていた。そうだ、きっと、これは健斗が甘やかしてくれる一貫なんだ。寄りかかりすぎては申し訳ないけれども、そう伝えたら「馬鹿だなあ」と笑われてしまう気がして、結局ありがたくその好意を受け取ることにした。
「ありがとう、健斗」
「いや、気にすんなよ。もう日も長いし秋はちょっと帰りが遅くても大丈夫だから」
その「大丈夫」がなぜか妙に心に突き刺さった。べつに、何かひどいことを言われているわけではないのに妙に耳に残る「大丈夫」に、僕は曖昧にこたえることしかできなかった。
そうだ。
いつでも僕は自分から目をそらす。ちゃんと現実をみようとしない、僕が悪いのに。
このとき、もっとちゃんと健斗の表情を、兄さんの表情を見ておくべきだったのかもしれない。だけど、僕は一人でも大丈夫だからとか、兄さんは一人で戻ろうとするとガラの悪いのに絡まれたり、途中で貧血を起こしやすくなる時期だから。そんな言い訳をつらつらと並べて、違和感や不満を心の奥底に隠した。
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