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XX 閉鎖区域探索
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PM13:30。
昼食を終えた空たちは、閉鎖区域の探索のための準備を進めていた。大量のフェンスに囲まれた範囲に車を走らせる。灯依は魔法が戦闘特化ではないため、管理局で待機という形になった。
「コレから皆様には、閉鎖区域のA区に降りてもらいます。閉鎖区域No.03は大きく分けて4つの区画に分けられているので、A区から順番に探索を開始してもらいます。間違っても勝手な単体行動は行わぬ様に。」
空は支給されたガスマスクを着け、火山灰の降るその地に降り立った。
「すごい…本当に火山灰がずっと降ってる…雪みたい…。」
「でも吸うと体に悪影響あるからマスクは室内じゃない限り外さないようにね?」
志真の指示に空が頷く。
「では6人なので2か3グループに分かれて探索を行いましょう。どうしますか?」
「3人で分かれたほうがいいだろう。2人ではいざという時連絡を取る隙が得られない可能性もある。ジュラ、お前は上空からの探索を頼む。」
「キュイィーッ!!」
管理局で用意されてた鳥用のガスマスクを装着したジュラが高い鳴き声をあげて上空に飛び立つ。
「ジュラくん、大丈夫かなぁ…あのマスク窮屈じゃないかな?」
「心配するところそこなのか空…?」
そして彼女たちは、「凛泉・碧射・志真」と「空・紫音・杏奈」に分かれて探索を始めることにした。
「あう、私だけお二人と一緒?緊張するよ…。」
「まあまあ、私たちは顔見知りだけどアンタは初めましてでしょ?なら一緒に行動してお話できるくらいにはなりなよ~。」
凛泉は適当に笑いながら手を振る。
「大丈夫、何があったら私たちが守りますから。」
(私もいるぞ娘よ!)
「ご、ご迷惑おかけします…。」
「……行くよ。」
───────────────────
3人は火山灰の降り注ぐ街を歩く。ビルや住宅はボロボロに壊れ、道路には降ってきた火山灰が雪のように積もっていた。道を歩きながら、紫音がマスクの中で無線を起動する。
「A区のさらに細かい区分、A-2に到着。碧射さん達はA-1方面から探索を始めました。」
『了解、そのままA区内で一周し合流を図ってください。』
「はい。…失礼、無線を切ります。」
3人が通ろうとしている道路の中央に、数体の魔人が闊歩していた。その魔人は緑や黒、赤などの様々な鱗を持っているトカゲ型の魔人だった。手足の指は5本あり、文字通り人型のトカゲであった。
「数は…6体。空さん、大丈夫ですか?」
「は、はい!大丈夫です…っ!」
「では…ん?杏奈さん?」
空が隣を振り向くと、杏奈が姿を消していた。ソレと同時に、魔人の一匹が上空に吹き飛んだ。
「ぶぎゃるばっ!!」
「えっ!?」
「杏奈さん…っ!」
紫音が魔人達に向かって走り出す。その音に気づき、魔人達が紫音の方に振り向く。
「はぁ…っ!」
紫音は左手を腰に添える。そこに右手を差し込み、左手でできた影に触れる。
「抜刀!『冥月』!」
右手で触れた影から一瞬にして刀が現れ、眼前に迫った魔人を首を切り落とした。
「ぐぎゃ…っ!?」
紫音は刀を振るい魔人に攻撃を始める。先ほど吹き飛んだ魔人は地面に落ちた瞬間、背中を殴りつけられたように地面にめり込みながら海老反りになった。
「な、何が起きて…っ!」
すると、空に向かって雄叫びを上げながら魔人が迫ってきた。
(娘!前から来ているぞ!)
「う、うんっ!」
空は千変万化を取り出し剣を作り出した。そのまま飛びかかってきた魔人の噛みつきを受け止める。
「ガガガガガ…ッ!」
「く…くぅ…っ!やぁっ!」
空は力を振り絞り横にずらす。その瞬間千変万化の刃が解除され、魔人は空気を噛む。
「てやぁっ!」
空は再び千変万化を振るい、鉄の鞭のように振るい魔人を横に弾き飛ばした。
「ぐげっ!」
(娘よ、トドメを刺せ!)
「う、うん…っ!」
空が魔人を追おうとすると、横から他の魔人が二体飛びかかってきた。
「っ!!」
「『死の棘』ッ!」
紫音が叫びながら地面の影に触れる。すると、その影から黒い棘が現れ魔人を貫いた。
「ぐげぎゃっ!!」
さらに、先ほどから地面にめり込んだままだった魔人が一人でに吹き飛び、飛びかかってきた魔人の1匹に激突した。
「わぁ!?」
空が驚いていると、一瞬視界の中に何か小さなモノが映り込んだ。
「え…っ?」
その小さなモノは吹き飛んだ魔人2体を蹴り上げ、上空に吹き飛ばした。
「な、何が…っ!」
「空さんっ!!」
紫音が空の名を叫ぶ。先ほど千変万化で弾き飛ばされた魔人が、空に向かって来ていた。
「しま…っ!」
「『死神の鎖』!」
紫音の足元の影から鎖が飛び出した。その鎖は魔人を拘束し、紫音の足元に縛りつけた。そのまま鎖で強く縛り付けられた魔人は
「あが…っ!」
鎖によって骨をへし折られ、絶命した。
「す、すいません…ありがとうございます…。」
「油断しないでください、コイツらは頑丈な鱗で肉体を守っています。強い力で押し潰すか、鱗の隙間を狙って皮膚を切り裂かなければなりません。」
「は、はい…っ!」
空が返事をして立ち上がると、隣から杏奈が現れた。
「わっ!杏奈さんいつの間に…?」
杏奈は手首を回しながら空をチラリと見る。
「私の魔法は『自己圧縮』。体を圧縮させることで力や体の速度を上げる…。」
「す、すごい…。」
空の顔を見つめた後に、杏奈は動かなくなった魔人を見る。
「3回。」
「え…?」
「アナタがコイツらを殺そうと思えば殺せた回数よ。今はまだいいわ。アナタはまだ新人さんみたいだし、殺れないならワタシが殺る」
「あ、えっと…。」
「ただ、今後アナタが戦場で戦うことになった時、アナタが躊躇うことで後ろの誰かが犠牲になる。それだけは覚えておいて。」
空が答えに困っていると、杏奈がため息をついた。
「そ、そうです…よね、分かってるんですけど…その…。」
空をじっと見つめた後、杏奈は背を向けて歩き出した。
「あ……。」
紫音は周りを見渡した後、空に歩み寄る。
「空さん…私も杏奈さんも、魔人に対して憎しみを持っている。あなたが優しいのは良いことですが、家族や友を殺された人たちにとっては…魔人は消すべき悪です。」
「……っ!」
空は廃村で流河の最期を思い出す。
「私も…大切な人を殺されました…。記憶も何も持たない空っぽの私を守ってくれた人…。魔人に殺されて、私は確かに辛かった。悲しかった。」
「……。」
紫音は空を見つめる。
「でもやっぱり…命を奪うことを、当たり前にしてはいけないと思うんです…ソレがたとえ、恨みのある相手でも…。相手を傷つけることを『正しい』なんて私は考えることはできません…。」
空は握りしめた手を震わせる。
「空さん…貴方は本当に心優しい人です。しかし…今よりさらに強くなるには、その優しさを捨てなければいけません。…決断するのは、あなたです。さぁ、進みましょう。」
「はい…。」
空は俯いたまま二人についていく。
───────────────────
PM13:45 区分A-1
「はぁぁっ!」
志真が魔法で生み出した剣が魔人の脳天に突き刺さった。そこに拳銃を構えた碧射が弾丸を放ち、軌道を操作して魔人の腕や足に命中させる。
「トドメだ!」
凛泉が手首から吹き出した血で槍を形成し、振りかぶって魔人に突き刺した。
「ごぼ…っ。」
「ガァァッ!」
他の魔人が襲い掛かろうとする。すると、槍を突き刺した際に飛んだ魔人の血を指先につけて凛泉が舐める。
「ガ…ッ!?」
絶命した魔人の皮膚を貫いて血の棘が現れ、周りの魔人を巻き込んで串刺しにした。
「潰れやがれ!」
凛泉が手を前に出し、握り潰すような動作をする。その瞬間突き刺さったままの魔人が棘に引っ張られ、1箇所に集められる。すると、血は魔人達の両側で半球型になった。その内側は無数の棘が並んでいた。一瞬で血の半球は閉じ、中で魔人達を串刺しにした。球の隙間から魔人達の血が滴り落ちていた。
「…ふう。この数分で何体現れるんだっつうの。」
「A-1は富士山から一番遠い場所だし、一番近くのA-5はもっと数が多いと思うわ。C区は昨日から魔人の反応がないと報告されているけれど…。」
志真の説明を聞きながら凛泉が血流操作で自身の手首の傷を止血する。
「とにかくこの後はA-4で合流だったか。ここから急げば30分もかからないが、あくまでするのは魔神の捜索だ。周辺の警戒は怠るなよ。」
「へっ、分かってるっての。」
3人は武器を構えたまま探索を再開する。
「…あのさ~。空ちゃん、あの二人と一緒で大丈夫なんかね。」
「大丈夫だと思うわよ。あの二人は強いから、魔人を即座に倒してくれるだろうし…。」
「そうじゃなくてさ。」
凛泉が近くにあった建物の扉を開いて中を覗き込みながら呟く。
「あの子達は魔人を心の底から憎んで、殺すために戦ってる。志真だってそう。」
「……ええ、そうね。」
凛泉入った建物の中は帽子の並んだお店だった。凛泉は帽子を手に取り、被ってみていた。
「あの子はF-109の時…アイツらに攻撃しなかった。相手を傷つけることを怖がってた。自分だって育ててくれた相手を殺されてる。自分も殺されそうになってる。それでもなお…あの子は目の前にいる生き物を傷つけることを恐れてる…ほいっと。」
凛泉は帽子を一つずつ、碧射と志真に投げる。碧射には灰色の中折れ帽を、志真にはネイビーのキャスケットを投げつけた。二人はそれを難なくキャッチする。
「空ちゃんは良くも悪くもまだまだ青い子だからさ、あの子達とは対極にいる。私たちがいない間にいざこざがないことを祈るね~。」
「そうね…ところで、これは?」
「似合いそうだから投げた。どうせ経営してるわけでもないからもらってっちゃおうぜ~。」
「やれやれ…お前が俺に帽子をチョイスしたのか?珍しいこともあるもんだ…。」
「いやオメーには適当なの投げた。」
「…………。」
凛泉が不服そうな碧射を指差して大笑いする。
「とにかく心配なら、すぐに合流しましょう。どちらにせよ奥に行けば危険度は増すのだからね。」
「あいよ~っ!」
凛泉は適当なスポーツキャップを被ってお店を出た。
───────────────────
PM14:20 A-4中央部・合流地点
「…………。」
碧射達は合流地点に到着し、数分ほど先に着いていた空達と合流したのだが…。
「…なんか、重くね?空気。」
一目見てすぐに分かるほど、空と杏奈の間の空気は張り詰めていた。
「ねえ…なんかあったん?」
凛泉が紫音に近づき耳打ちをする。
「えっと…空さんが魔人に対してトドメをさせないことで少し…。私は空さんの事情は聞きましたけど、杏奈さんは元からあまり会話などはしないのでそのままここまで…。」
「あ~…危惧してた事が見事に起きてやがる…。」
凛泉がキャップ越しに頭を抱えて項垂れる。
「ところでその帽子は一体…。」
「帽子屋からパクった。」
「えぇ…。」
空は何度か杏奈の方をチラリと見ているが、完全に話しかけるタイミングを見失っていた。
「…あのな、杏奈…。」
碧射が助け舟を出そうと声をかけた。その瞬間
「シャァァァァァァァァッ!!」
「っ!?」
甲高い獣の鳴き声…いや、叫び声が周辺に響き渡る。
「今のは!?」
「B区の方角からです!行きましょう!」
───────────────────
「この辺からは火山灰の有毒物質が一番薄いから、短時間ならマスクを外せる。走って息も切れてるだろうから少し外しとくといい。」
碧射が支給されたスマホの画面を見ながらマスクを外す。その言葉に頷き空はマスクを外す。他のメンバーもマスクを外し、それぞれの荷物にしまった。
「もうすぐ先ほどの声の場所と思われます。皆さん、警戒を!」
「……これは…!?」
5分ほど走ってB区にたどり着いた全員がその異質な状況に目を見開いた。
「ガ…ゲボガボ…。」
「イィィ…。」
電柱や塀の鉄の柱、道に生えた木の枝などに魔人の死体が大量に突き刺さっていた。一部は心臓を、一部は肛門から口まで一直線に貫通して突き刺さっていた。何匹かは体を震わせているが、すでに助かる状態ではなかった。
「なんなんだよこれ…何をどうしたらこんなことになるんだよ…っ!」
凛泉が体を震わせながらゆっくりと先に進む。すると、道路の中央から不自然に生えてあった木を見て、言葉を失う。
「おい凛泉、何が……。」
全員がその木を見上げ、戦慄する。
「な…に、これ…。」
下半身から上半身まで、他の魔人と同じように口から木の枝を貫通して木に刺さっていたのは、朝香だった。木の枝を伝って今もなお地面に血が流れていた。
「……これは…。」
紫音がその木のウロを見つめる。よく見てみるとそこには黒く変色した何かと、指のようなものが詰め込まれていた。紫音は地面に落ちていた木の枝を拾い、黒く変色したものに軽く刺す。
「……っ!」
そこから噴き出したのは、人間の血液だった。
「このウロに…人間が挽肉のように潰して詰め込まれている…っ!?」
紫音は後ずさりしながらその指を再び見る。その指についたマニキュアの色は、美春がいつも紫音に「可愛いでしょ!」と見せつけていた色によく似ていた。
「まさか…ここに、美春さん…が!?」
その場の全員が重苦しい空気で固まっていると、後ろから小さな足音が聞こえてくる。
「私の木に何かようかね?」
全員が振り向いた先にいたのは、他のトカゲ型魔人と同じ姿の生き物だった。緑色の鱗を持ち、右手には何かの本を持っていた。
「私の木に何か用かと、聞いているんだ。」
昼食を終えた空たちは、閉鎖区域の探索のための準備を進めていた。大量のフェンスに囲まれた範囲に車を走らせる。灯依は魔法が戦闘特化ではないため、管理局で待機という形になった。
「コレから皆様には、閉鎖区域のA区に降りてもらいます。閉鎖区域No.03は大きく分けて4つの区画に分けられているので、A区から順番に探索を開始してもらいます。間違っても勝手な単体行動は行わぬ様に。」
空は支給されたガスマスクを着け、火山灰の降るその地に降り立った。
「すごい…本当に火山灰がずっと降ってる…雪みたい…。」
「でも吸うと体に悪影響あるからマスクは室内じゃない限り外さないようにね?」
志真の指示に空が頷く。
「では6人なので2か3グループに分かれて探索を行いましょう。どうしますか?」
「3人で分かれたほうがいいだろう。2人ではいざという時連絡を取る隙が得られない可能性もある。ジュラ、お前は上空からの探索を頼む。」
「キュイィーッ!!」
管理局で用意されてた鳥用のガスマスクを装着したジュラが高い鳴き声をあげて上空に飛び立つ。
「ジュラくん、大丈夫かなぁ…あのマスク窮屈じゃないかな?」
「心配するところそこなのか空…?」
そして彼女たちは、「凛泉・碧射・志真」と「空・紫音・杏奈」に分かれて探索を始めることにした。
「あう、私だけお二人と一緒?緊張するよ…。」
「まあまあ、私たちは顔見知りだけどアンタは初めましてでしょ?なら一緒に行動してお話できるくらいにはなりなよ~。」
凛泉は適当に笑いながら手を振る。
「大丈夫、何があったら私たちが守りますから。」
(私もいるぞ娘よ!)
「ご、ご迷惑おかけします…。」
「……行くよ。」
───────────────────
3人は火山灰の降り注ぐ街を歩く。ビルや住宅はボロボロに壊れ、道路には降ってきた火山灰が雪のように積もっていた。道を歩きながら、紫音がマスクの中で無線を起動する。
「A区のさらに細かい区分、A-2に到着。碧射さん達はA-1方面から探索を始めました。」
『了解、そのままA区内で一周し合流を図ってください。』
「はい。…失礼、無線を切ります。」
3人が通ろうとしている道路の中央に、数体の魔人が闊歩していた。その魔人は緑や黒、赤などの様々な鱗を持っているトカゲ型の魔人だった。手足の指は5本あり、文字通り人型のトカゲであった。
「数は…6体。空さん、大丈夫ですか?」
「は、はい!大丈夫です…っ!」
「では…ん?杏奈さん?」
空が隣を振り向くと、杏奈が姿を消していた。ソレと同時に、魔人の一匹が上空に吹き飛んだ。
「ぶぎゃるばっ!!」
「えっ!?」
「杏奈さん…っ!」
紫音が魔人達に向かって走り出す。その音に気づき、魔人達が紫音の方に振り向く。
「はぁ…っ!」
紫音は左手を腰に添える。そこに右手を差し込み、左手でできた影に触れる。
「抜刀!『冥月』!」
右手で触れた影から一瞬にして刀が現れ、眼前に迫った魔人を首を切り落とした。
「ぐぎゃ…っ!?」
紫音は刀を振るい魔人に攻撃を始める。先ほど吹き飛んだ魔人は地面に落ちた瞬間、背中を殴りつけられたように地面にめり込みながら海老反りになった。
「な、何が起きて…っ!」
すると、空に向かって雄叫びを上げながら魔人が迫ってきた。
(娘!前から来ているぞ!)
「う、うんっ!」
空は千変万化を取り出し剣を作り出した。そのまま飛びかかってきた魔人の噛みつきを受け止める。
「ガガガガガ…ッ!」
「く…くぅ…っ!やぁっ!」
空は力を振り絞り横にずらす。その瞬間千変万化の刃が解除され、魔人は空気を噛む。
「てやぁっ!」
空は再び千変万化を振るい、鉄の鞭のように振るい魔人を横に弾き飛ばした。
「ぐげっ!」
(娘よ、トドメを刺せ!)
「う、うん…っ!」
空が魔人を追おうとすると、横から他の魔人が二体飛びかかってきた。
「っ!!」
「『死の棘』ッ!」
紫音が叫びながら地面の影に触れる。すると、その影から黒い棘が現れ魔人を貫いた。
「ぐげぎゃっ!!」
さらに、先ほどから地面にめり込んだままだった魔人が一人でに吹き飛び、飛びかかってきた魔人の1匹に激突した。
「わぁ!?」
空が驚いていると、一瞬視界の中に何か小さなモノが映り込んだ。
「え…っ?」
その小さなモノは吹き飛んだ魔人2体を蹴り上げ、上空に吹き飛ばした。
「な、何が…っ!」
「空さんっ!!」
紫音が空の名を叫ぶ。先ほど千変万化で弾き飛ばされた魔人が、空に向かって来ていた。
「しま…っ!」
「『死神の鎖』!」
紫音の足元の影から鎖が飛び出した。その鎖は魔人を拘束し、紫音の足元に縛りつけた。そのまま鎖で強く縛り付けられた魔人は
「あが…っ!」
鎖によって骨をへし折られ、絶命した。
「す、すいません…ありがとうございます…。」
「油断しないでください、コイツらは頑丈な鱗で肉体を守っています。強い力で押し潰すか、鱗の隙間を狙って皮膚を切り裂かなければなりません。」
「は、はい…っ!」
空が返事をして立ち上がると、隣から杏奈が現れた。
「わっ!杏奈さんいつの間に…?」
杏奈は手首を回しながら空をチラリと見る。
「私の魔法は『自己圧縮』。体を圧縮させることで力や体の速度を上げる…。」
「す、すごい…。」
空の顔を見つめた後に、杏奈は動かなくなった魔人を見る。
「3回。」
「え…?」
「アナタがコイツらを殺そうと思えば殺せた回数よ。今はまだいいわ。アナタはまだ新人さんみたいだし、殺れないならワタシが殺る」
「あ、えっと…。」
「ただ、今後アナタが戦場で戦うことになった時、アナタが躊躇うことで後ろの誰かが犠牲になる。それだけは覚えておいて。」
空が答えに困っていると、杏奈がため息をついた。
「そ、そうです…よね、分かってるんですけど…その…。」
空をじっと見つめた後、杏奈は背を向けて歩き出した。
「あ……。」
紫音は周りを見渡した後、空に歩み寄る。
「空さん…私も杏奈さんも、魔人に対して憎しみを持っている。あなたが優しいのは良いことですが、家族や友を殺された人たちにとっては…魔人は消すべき悪です。」
「……っ!」
空は廃村で流河の最期を思い出す。
「私も…大切な人を殺されました…。記憶も何も持たない空っぽの私を守ってくれた人…。魔人に殺されて、私は確かに辛かった。悲しかった。」
「……。」
紫音は空を見つめる。
「でもやっぱり…命を奪うことを、当たり前にしてはいけないと思うんです…ソレがたとえ、恨みのある相手でも…。相手を傷つけることを『正しい』なんて私は考えることはできません…。」
空は握りしめた手を震わせる。
「空さん…貴方は本当に心優しい人です。しかし…今よりさらに強くなるには、その優しさを捨てなければいけません。…決断するのは、あなたです。さぁ、進みましょう。」
「はい…。」
空は俯いたまま二人についていく。
───────────────────
PM13:45 区分A-1
「はぁぁっ!」
志真が魔法で生み出した剣が魔人の脳天に突き刺さった。そこに拳銃を構えた碧射が弾丸を放ち、軌道を操作して魔人の腕や足に命中させる。
「トドメだ!」
凛泉が手首から吹き出した血で槍を形成し、振りかぶって魔人に突き刺した。
「ごぼ…っ。」
「ガァァッ!」
他の魔人が襲い掛かろうとする。すると、槍を突き刺した際に飛んだ魔人の血を指先につけて凛泉が舐める。
「ガ…ッ!?」
絶命した魔人の皮膚を貫いて血の棘が現れ、周りの魔人を巻き込んで串刺しにした。
「潰れやがれ!」
凛泉が手を前に出し、握り潰すような動作をする。その瞬間突き刺さったままの魔人が棘に引っ張られ、1箇所に集められる。すると、血は魔人達の両側で半球型になった。その内側は無数の棘が並んでいた。一瞬で血の半球は閉じ、中で魔人達を串刺しにした。球の隙間から魔人達の血が滴り落ちていた。
「…ふう。この数分で何体現れるんだっつうの。」
「A-1は富士山から一番遠い場所だし、一番近くのA-5はもっと数が多いと思うわ。C区は昨日から魔人の反応がないと報告されているけれど…。」
志真の説明を聞きながら凛泉が血流操作で自身の手首の傷を止血する。
「とにかくこの後はA-4で合流だったか。ここから急げば30分もかからないが、あくまでするのは魔神の捜索だ。周辺の警戒は怠るなよ。」
「へっ、分かってるっての。」
3人は武器を構えたまま探索を再開する。
「…あのさ~。空ちゃん、あの二人と一緒で大丈夫なんかね。」
「大丈夫だと思うわよ。あの二人は強いから、魔人を即座に倒してくれるだろうし…。」
「そうじゃなくてさ。」
凛泉が近くにあった建物の扉を開いて中を覗き込みながら呟く。
「あの子達は魔人を心の底から憎んで、殺すために戦ってる。志真だってそう。」
「……ええ、そうね。」
凛泉入った建物の中は帽子の並んだお店だった。凛泉は帽子を手に取り、被ってみていた。
「あの子はF-109の時…アイツらに攻撃しなかった。相手を傷つけることを怖がってた。自分だって育ててくれた相手を殺されてる。自分も殺されそうになってる。それでもなお…あの子は目の前にいる生き物を傷つけることを恐れてる…ほいっと。」
凛泉は帽子を一つずつ、碧射と志真に投げる。碧射には灰色の中折れ帽を、志真にはネイビーのキャスケットを投げつけた。二人はそれを難なくキャッチする。
「空ちゃんは良くも悪くもまだまだ青い子だからさ、あの子達とは対極にいる。私たちがいない間にいざこざがないことを祈るね~。」
「そうね…ところで、これは?」
「似合いそうだから投げた。どうせ経営してるわけでもないからもらってっちゃおうぜ~。」
「やれやれ…お前が俺に帽子をチョイスしたのか?珍しいこともあるもんだ…。」
「いやオメーには適当なの投げた。」
「…………。」
凛泉が不服そうな碧射を指差して大笑いする。
「とにかく心配なら、すぐに合流しましょう。どちらにせよ奥に行けば危険度は増すのだからね。」
「あいよ~っ!」
凛泉は適当なスポーツキャップを被ってお店を出た。
───────────────────
PM14:20 A-4中央部・合流地点
「…………。」
碧射達は合流地点に到着し、数分ほど先に着いていた空達と合流したのだが…。
「…なんか、重くね?空気。」
一目見てすぐに分かるほど、空と杏奈の間の空気は張り詰めていた。
「ねえ…なんかあったん?」
凛泉が紫音に近づき耳打ちをする。
「えっと…空さんが魔人に対してトドメをさせないことで少し…。私は空さんの事情は聞きましたけど、杏奈さんは元からあまり会話などはしないのでそのままここまで…。」
「あ~…危惧してた事が見事に起きてやがる…。」
凛泉がキャップ越しに頭を抱えて項垂れる。
「ところでその帽子は一体…。」
「帽子屋からパクった。」
「えぇ…。」
空は何度か杏奈の方をチラリと見ているが、完全に話しかけるタイミングを見失っていた。
「…あのな、杏奈…。」
碧射が助け舟を出そうと声をかけた。その瞬間
「シャァァァァァァァァッ!!」
「っ!?」
甲高い獣の鳴き声…いや、叫び声が周辺に響き渡る。
「今のは!?」
「B区の方角からです!行きましょう!」
───────────────────
「この辺からは火山灰の有毒物質が一番薄いから、短時間ならマスクを外せる。走って息も切れてるだろうから少し外しとくといい。」
碧射が支給されたスマホの画面を見ながらマスクを外す。その言葉に頷き空はマスクを外す。他のメンバーもマスクを外し、それぞれの荷物にしまった。
「もうすぐ先ほどの声の場所と思われます。皆さん、警戒を!」
「……これは…!?」
5分ほど走ってB区にたどり着いた全員がその異質な状況に目を見開いた。
「ガ…ゲボガボ…。」
「イィィ…。」
電柱や塀の鉄の柱、道に生えた木の枝などに魔人の死体が大量に突き刺さっていた。一部は心臓を、一部は肛門から口まで一直線に貫通して突き刺さっていた。何匹かは体を震わせているが、すでに助かる状態ではなかった。
「なんなんだよこれ…何をどうしたらこんなことになるんだよ…っ!」
凛泉が体を震わせながらゆっくりと先に進む。すると、道路の中央から不自然に生えてあった木を見て、言葉を失う。
「おい凛泉、何が……。」
全員がその木を見上げ、戦慄する。
「な…に、これ…。」
下半身から上半身まで、他の魔人と同じように口から木の枝を貫通して木に刺さっていたのは、朝香だった。木の枝を伝って今もなお地面に血が流れていた。
「……これは…。」
紫音がその木のウロを見つめる。よく見てみるとそこには黒く変色した何かと、指のようなものが詰め込まれていた。紫音は地面に落ちていた木の枝を拾い、黒く変色したものに軽く刺す。
「……っ!」
そこから噴き出したのは、人間の血液だった。
「このウロに…人間が挽肉のように潰して詰め込まれている…っ!?」
紫音は後ずさりしながらその指を再び見る。その指についたマニキュアの色は、美春がいつも紫音に「可愛いでしょ!」と見せつけていた色によく似ていた。
「まさか…ここに、美春さん…が!?」
その場の全員が重苦しい空気で固まっていると、後ろから小さな足音が聞こえてくる。
「私の木に何かようかね?」
全員が振り向いた先にいたのは、他のトカゲ型魔人と同じ姿の生き物だった。緑色の鱗を持ち、右手には何かの本を持っていた。
「私の木に何か用かと、聞いているんだ。」
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⚠︎注意⚠︎
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