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VI 財閥日本支部

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〔イザード財閥日本支部に到着しました、皆さまお疲れ様でした。〕
ヘリコプターが着陸し、三人が地面へ降りる。
「わぁ……。」
少女の目の前に広がっていたのは、青い空と、コンクリートで構成された建物の数々だった。遠くにもいくつか戦闘機のような乗り物が存在し、一番大きい建物は強い存在感を放っていた。
「ここがイザード財閥の日本支部であり、太平洋に浮かぶ人口の離島。そこがココだ。」
少女が周りを見渡す。島の外は青い海に囲まれており、日本は遠くにうっすらと見えていた。
「あれ千葉県の端っこだっけ?今日は天気いいからよく見えるねぇ。」
凛泉の発言を聞いて少女は孤児院にあった日本地図の形を思い出す。
〔皆様、こちらへどうぞ。〕
イプシロンに誘導されるまま三人は施設の中に入っていく。(柊馬はもうどっか行った)
「ねぇイプちゃん。今どこ向かってんのさ?」
〔司令室です。アイ・ウィル・ヴィーバックが是非その少女に会いたいそうです。〕
「あい…?」
少女が首を傾げる。
「アイちゃんは司令室で魔人とかの討伐の時に指示とかくれる魔法少女なのよ。前線でも戦えるけど魔法的にもそっちが向いてるしね。」
「魔法少女?」
少女の疑問に対し、凛泉が「あ~…」と声を漏らす。
「A.I.Sで魔法を得た私たちみたいなのを、財閥や世間は一応『魔法少女』って呼び名で通してんのよ。魔法使いやら魔女だと怪しさ満点だしね。」
「え……て、ことは。碧射さんも魔法少女なん」
「男の場合は『魔法戦士』と呼ぶのが一般的だ。」
少女の発言に碧射は食い気味に答える。少女はしょんぼりした顔で「はい…」と声を漏らす。凛泉はへなへなになった少女のアホ毛を笑いながらいじっていた。

三人と一体は2mほどある大きな扉の前にたどり着いた。イプシロンが右手の平を開いて突き出すと、手のひらの中央が開きカードのようなものが現れる。それを壁につけられた認証装置に通すと、扉が開く音が響き横にスライドする。
「いまだにこの露骨にギミック付きで開きそうなのに引き戸な司令室の扉よくわかんねぇわ。」
凛泉がスライドした扉を眺めながらそう呟いた。
〔失礼しますアイ・ウィル・ヴィーバック。カクタ・リノとノツミチ・アオイ、そして例の少女を連れて参りました。〕
「お!来たー!」
司令室の中でも目立つ、大きな座席から声が聞こえてくる。それがくるりと回り、1人の少女が降り立った。
「こんにちは!」
その少女はいかにもと魔女といった雰囲気のとんがり帽子をかぶっていた。
「やほーアイちゃぁん。相変わらずちっちゃいねぇ。」
凛泉が声をかけるなり後ろに回って頭を撫で回している少女…アイと呼ばれた女の子は遠目から見ても小さく、抱きかかえるのにちょうど良さそうな大きさをしていた。
「ちっちゃい言うな!そんなことより…。」
アイが少女に歩み寄り顔をじっと見上げる。
「え、あの…。」
「アンタが話に聞いてた、記憶喪失の先天性魔法所持者ね?」
「え、えっと…多分、そうです。」
アイは少女をじっと観察する。
「それらしき傷跡とかはないわね。外傷による記憶の消滅じゃないとすると魔法による記憶消去?」
すると、アイがポッケから長方形の機械を取り出す。それのスイッチを押すと二本に分かれて空中に浮き、二本の間にホログラムで構成されたキーボードが現れた。アイは慣れた手つきでキーボードを操作する。
「わぁっ!何ですかそれ?」
「うーん、魔法による後遺症も見当たらないし魔法による攻撃なら少しは残留した魔法の痕跡でもあれば調べられるんだけどそんなのはないし……。」
少女の言葉を無視してキーボードを操作しながら独り言を繰り返すアイを見て、ため息をつきながら碧射がキーボードの横のスイッチを押す。するとキーボードは消滅し、元の掌サイズの機械に戻った。
「あっ!!ちょっと何すんのよ碧射!」
「本当なんでお前も凛泉も年上に対して敬語とか使わねえんだよ!」
「アンタだって敬語上手くねえだろ!」
「お前よりかマシだよ!」
「あ、あの皆さん落ち着いてぇっ!」
少女がオロオロとしていると、後ろの扉が再び横にスライドした。全員が一斉にそちらを見ると、高身長の女性が少女を見下ろしていた。
「おーい、今さっき戦った魔人の進行の連絡書類持ってきたぞ…ん?」
「あ、まなぶちゃーんヤッホー。」
凛泉が学と呼んだ人物は凛泉に手を上げて挨拶を返す。
「よう凛泉、また問題行動でもしたのか?」
「失礼だなぁ、私だってちゃんと任務こなすことくらいあるっての。学ちゃんの方は?」
「いやぁ、はじめと任務終えた後なんだが報告書サボりやがってよ…オレが仕方なく、な。」
「まあ、報告書に関しちゃはじめちゃんに任せる方が無茶って話でショ。」
「ていうか、なんだオマエ?新しいメンバーか?」
学は少女をじっと見つめる。
「ほほーん…ぱっと見戦えるようには見えないけど、大丈夫なの?」
「あー、学さん。その子はいろいろ訳ありで、今はまだ保護対象っス。」
碧射の説明を聞いた学は再び少女を見る。
「そうかい。まあとりあえず自己紹介でもしとくかな?オレは標木しるしきまなぶ。ここで4年間魔法少女として活動してる。」
少女が学と目を合わせる。
「え、えっと…あの…。」
少女が狼狽える姿を見て、学があ~と声を漏らす。
「別に怒ってねえよ?警戒するのはわかるけど、元々こういう目つきだ。」
「あ!えっと、ごめんなさい…っ!」
「いいんだよ、よく言われるから。で、キミは…名前なんていうの?」
「えっと、はい。訳あって自分の名前も何も覚えてなくて…。」
「へぇ、大変なんだな。まあなんだ、頑張れよ。」
(なんともガラの悪い雰囲気の女だな!)
(センちゃん!急に喋らないでよ…!)
少女は小声で千変万化に怒る。
(むぅ、そういうでない娘よ。私だってお話ししていたかったが、ヘリコプターが上がった時点で怖くて声も出せずにいたのだぞ?)
(武器なのに高所恐怖症なの!?)
(別に良いではないか、武器が高所恐怖症でも。)
そんな話をよそに碧射は司令室に待機していたイプシロンに話しかける。すると、イプシロンの浮遊する右腕のモニターがタッチパネルに変換され、碧射はそれをパチパチと入力する。
「今回の偽神フェイカーはF-109[魔蛇まじゃ]。魔法名は[硬化]の異形型…と。こんなもんでいいか?」
「いいよー、あとは報告書とかでの情報でまとめておくからしっかり書いてね!」
アイが再び棒状の装置を起動しキーボードを入力し始める。
「あの…エフなんとかってなんですか?」
「Fは『フェイカー』のF。今までの5年間現れてきた偽神の数を表してんの。」
少女は少し間をおいて驚く。
「えっ!109ってすごい数じゃ無いですか…!?」
凛泉が少し考えた仕草を見せたあと、小さくため息をつく。
「あー…アンタにはヘリの中でした分だけじゃ説明が全然足りないから、後で話聞きな。」
「そうだな、とりあえずキミに現状の俺たちについて教えることを優先しよう。」
碧射が手招きすると、学がちょい待てと手で静止する。
「おい、一応保護対象にしたって部外者なんだろ、なんだそこまで過保護にする必要あるか?」
「この子は詳細はわかんないけどおそらく魔法持ち、さらに記憶喪失でこの世界のことについて何も知らないの。だから一から説明が必要なわけ。」
「ほほーん、そういうことね。」
「ほら、行くよー。」

───────────────────

「えっと、碧射くんからはどこまで聞きましたか?」
「えっと、『A.I.S』と[全記録アカシックレコード]、あと流河さんについて…です。」
「そうだな。じゃあ今から教えるのは『偽神と魔人とはなにか』だな。」
碧射と少女は座席に座り、1人の白衣の男性の説明を受けていた。(碧射は補足要員)
「あれ、凛泉ちゃんはどこですか?」
「流河について、アイたちに話してくるってさ。」
「では説明を開始しますね。…あ、一応自己紹介しておきますか。僕は須藤すとう陽太ようた。このイザード財閥の日本支部で研究員をやっているよ。」
「よ、よろしくお願いします!」
男性がモニターに映ったスライドを操作する。
「まず、『偽神フェイカー』とは文字通り『偽物の神様』として我々は扱っていまして、彼らは魔法少女や魔法戦士同様にその身に一つ、魔法を有しています。そして魔法の他に、『魔人を生み出す』能力を所有しているのも特徴です。」
少女は自らが対面した存在について思い返す。あんな恐ろしい見た目でも神なのだろうか…いやむしろ、人智を超えた存在だからこそ神と呼ばれるとも捉えられるのかと考えていた。
「ここで魔人についてなんですが…彼らは、私たち人間とと考えられています。」
「…へ?」
「つまり、あれは姿形が違うだって話だ。」
少女はあまりの衝撃に空いた口が塞がらなかった。あれが同じ人間?見た目も形も、何一つ自分達とは似ている部分の存在しないあのが、同じ人間だと言うのか。
「あれが…人、間…!?本当、なんですか?」
「…正直なことを言うと、我々も確信はありません。彼らは分かっていない部分が多く存在し、ソレを調べる術が我々にはありません。しかし、そう『仮定』することになっています…現状は。」
現状は。その発言に、少女は首をかしげる。
「えっと、ではこの魔人たちが何をしているかについてですが…。彼らの行っていることは、『現人類の捕食』です。」
「……っ!」
「人類を捕食することで、彼らは知性を得ることがこれまでの調査で判明しています。そして彼らの現在仮定されている目的は、『人類への成り代わり』と考えられています。つまり、人類を1人残らず食べ尽くすことで、『次の人類』になろうとしてるってことです。前例なんかもちろん存在しないので確定はできませんが、魔人とはほとんどコミュニケーションなんか取れませんし…。」
説明を聞き、少女はさらに頭を悩ませる。
「…えっと…てことは、偽神さんたちは人類を生み出す神様ってことですか?」
「ああ、そうだな。人類は神の手で生み出されたってのは、神話とかでもよく聞く話だ。だからあいつらを『神』として仮定することで魔人を「人」として俺たちは考えている。俺たちが戦っているのは人類で、俺たちも現人類として今後も生き残るために戦っているんだってな。」
少女は聞いた説明について頭の中で考えを必死にまとめていた。そこで、一つの疑問に気づく。
「…あの。」
「?はい、どうかしましたか?」
「あくまでここまでは『仮定』でしか無いのに…あまりにも具体的な気がするんです。仮定でしかないならもっと曖昧なはずなのに、やたらとその仮定を確定に近いような話し方をしている気がして…。」
碧射と陽太は驚いた様子で顔を見合わせる。
「あ、いやその、あくまで私がそう思っただけで!」
「ああいえ…それに関しては、とある偽神が関係していまして…。」
「とある、偽神?」
碧射が立ち上がり、画面に何かを打ち込んだ。するとそこになにかの資料の映像が現れる。
「全部目を通すのはしんどいだろうから口での説明になるが、2022年…つまり戦いが始まって2年が経過した頃、とある偽神が魔法少女と魔法戦士の奮闘により一時的な無力化。その場で捕縛されたんだ。まあその大規模作戦の頃、ココに俺はいないわけだが…それがF-08[理解者アンダースタンダー]ってヤツなんだが…そいつが俺たちに話した『偽神と魔人の目的』が、その『仮定』なんだよ。」
碧射は資料の一部を拡大する。そこには、先ほどの話された事が会話文となって記載されていた。
「ソイツの発言が、それ以降俺たちにとっての敵…魔人という名の[新人類]の目的として仮定されている。確信は誰も持てないが、逆に言えばという確信もまた、誰も持てない。」
「僕たちも調べ続けてはいるが、いまだこの偽神の発言を嘘だと確定できるような話は何もないんだ。だから真の目的が判明するまで、これが奴らの目的であると仮定するしかなかった。」
少女は偽神と魔人について記載されたスライドを見つめていた。
(新しい人類…それを生み出す神。現人類と新人類の戦争…。)
「問題は、偽神は[全記録アカシックレコード]から生まれていることです。」
少女が頭の中で考えをまとめようとしていると、陽太がそう言った。
「…へ?」
「[全記録]に記録された魔法を所有する彼らは異質な存在ですが、ソレは同時に彼らが[全記録]から生まれ、この世界に降り立っているという事実につながります。先天性の魔法使いでもない限り[全記録]から魔法を取得する方法はA.I.S以外にありませんから。自分で開発するなんて、ファンタジーの世界でもなければ不可能です。」
これまでの話を聞いていると、自分達の直面している現実はファンタジーそのものだと思われるが…少女はその言葉をぐっと胸の内にしまった。
「さて、次は[封魔武具フウマノホコ]について説明しよう、これは手短に行くぞ。」
(おお!ついに私について話すのだな!楽しみだぞ!!)
(べ、別にアナタについてではないよ…?)
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