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V 流河の真実
しおりを挟む「ピィーッ!!」
(むぅ!今度は締めでなくスタートを奪うとはずるいぞ鷹め!)
「た、多分言葉わかってないよ…。」
ヘリが村のそばに着陸し、扉が開いて人が顔を出す。
〔ノツミチ・アオイ、カクタ・リノ。お二人とも、ご無事で何よりです。〕
ヘリから聞こえた声は、低音の女性的な声だった。しかし現れた人らしきモノの顔はどちらとも言えないものだった。
「……え?」
少女が驚愕の声を漏らす。その顔はバイザーで覆われており、バイザーには液晶のようなものが搭載されていた。その画面は青く、目のような形の黄色い光が二つ灯っていた。
〔おや、その方は私たちのデータに無い方のようですが…。〕
その人物の腕は肘部分が存在せず、そこから先の腕はなんと空中に浮いていた。ズボンなどは普通の服に見えたが、胴体は青い光沢のある金属で構成されていた。
「え…あ、ええっ!?」
「ん?………あー、そりゃそんな反応もするか。」
碧射がうっかりしていたと微笑し、その機械的な存在の肩に手を置く。
「こいつは見ての通り人じゃない、俺たちが所属してる組織が開発したサポートAIロボット、つまりアンドロイドだ。」
「ええええ!?」
驚きの声を上げる少女に、そのアンドロイドはニコリと笑う(ように映像が切り替わったとも言える)。
〔私は戦闘サポート特化AI [MCSIUM] ・識別コードE.P.S.L.Nです。以後お見知りおきを。〕
「えっと…まく、まくしうむ?イプシロンさんですか?」
〔イプシロンで構いません。〕
「分かりました、イプシロンさんっ!」
そのやりとりを見て、凛泉が露骨にでかいため息を漏らす。
「んなこと良いからさっさと帰りたいんだけど、イプちゃん?」
〔分かりましたカクタ・リノ。財閥からも撤退命令が出ていますので、直ちに戻りましょう。〕
「けっ、人使いが荒いよなぁ財閥はよ。」
ヘリの運転席の扉が開くと、そこから男性が現れた。その男性はだらしなく白衣を着ており、ポッケにはタバコの箱がいくつも入っていた。現に今も口にタバコを一本咥えている。
「うげっ!煙い!タバコ臭えって言ってんだろオッサン!」
凛泉がキレながら男性にナイフを投げる。男性は落ち着いた様子でそのナイフを避け、拾って投げ返す。
「お前の方こそうるせーな、こんな無駄に仕事増やされると俺だってタバコ吸ってないとストレスで死ぬっての。」
「うるせぇさっさと死にやがれクソが!!」
「り、凛泉さん落ち着いて…っ!」
(うむ、ああいうのは騒いでも聞く耳持たないタイプだぞリノっち。ニコチンを吸うものは割とそういうとこあるのだ。)
ナチュラルに千変万化はあだ名呼びをしているが少女はそんなこと気にしている暇はなかった。
「えっと、それでこの方は…?」
碧射に尋ねると碧射はため息をついた。
「この人は柊馬さん、俺たちと同じ魔法を持っている人で、『騎乗』っていう能力を持ってる。まあ簡単に言うとどんな乗り物でも乗りこなせる能力ってことだ。」
「す、すごい方なんですね…!」
「でも上司にも態度は悪いしタバコは一日2箱以上吸うし理由もなくサボることもしょっちゅうであまり良い人とは言えない人だがな。」
「一言どころか後半全部余計だぞ碧射ぃ。お前も吸うか?」
「いや自分まだ19ですし、これで充分ッスよ。」
碧射はポッケからココアシガレットを取り出し口に咥える。
「ちっ、そうかい。…てか、今更だけどよぉ。その子はなんだ?」
「えっ、あ、私ですか!私はその…っ。」
少女がどう自己紹介をしようかと考えていると、凛泉が後ろから抱きつき、少女の肩に顎を乗せる。
「この子は保護対象。記憶喪失で名前も何もわからないんだってさ。ほんで、ふう…ふ…」
「[封魔武具]。」
「そう、ここで回収しようとしてた封魔武具を使えたから先天性の子なんじゃないかって話。」
「ほう?」
柊馬がじっと見つめたあと、ため息をついてヘリの運転席に戻る。
「めんどくせぇから詮索もしねぇし話もしねぇ。で、こいつは帰ったら警備員とかに突き出すのか?」
(つ、突き出す…!?)
少女が肩をびくりと振るわせると、碧射が少女を肩に手を置く。
「いや、本人が自覚していない魔法取得者という可能性もあります。なので財閥の研究員の人たちと直接話し合いをした方がいいかなと…。」
柊馬はその話を聞き、心底興味なさげにため息をつく。
「あ、そ。まあいいやさっさと乗れ、帰るぞ。」
その姿を見て碧射が呆れた顔をする。
「基本初めて会う人にもあの態度だからな…あんまり気を悪くしないでくれ。」
「あ、いえ気にしてませんからっ!」
(私は気にしているがな!娘になんて態度を取るんだ!私は怒っちゃうぞ!)
少女は「黙っててっ」と小さく呟き千変万化をぺちっと叩く。
(ぬぅ、礼儀のなってない大人より礼儀のある子供の方が賢いことを教えてやろうと思ったのだが…。)
「あの、ところで……。」
少女は千変万化の発言をスルーし、周りを見渡す。
「壊子さんの姿が見えないんですが……。」
「……。帰るぞ、ジュラはヘリから離れた場所から周りを警戒しながら飛んでくれ。」
碧射はジュラを軽く撫でてそう指示すると、ジュラは小さく鳴き飛び上がった。
「え、あの…っ!」
後ろから抱きついていた凛泉が頭をぽんぽんと撫でる。
「壊子ちゃんは色々事情があるのよ、後で色々話してあげるから今は乗りなさい。」
「………?」
少女は2人に促されるままヘリに乗り込む。ヘリのプロペラが激しく回転し、空に飛び上がった。
───────────────────
ヘリコプターの飛び去っていくのを見届けた壊子が木の裏から姿を表す。
(財閥の人と顔合わすとこやった…危なかったで。さて、私ももうこの村から出ないと…にしても、柄にもなくかなり喋ってしもた気がする…。)
壊子は事情があって会話が得意ではないのだが、空腹と激しい戦いの中での緊張も相まってなのか普段より多く言葉を発していた気がしていた。
「…。」
壊子は孤児院の方を見つめ、ゆっくり歩き出す。孤児院についた壊子は壊れた孤児院の瓦礫を避け、流河の死体を見つける。
(アンタがこんなところで死ぬとは思わんかったで、流河さん。)
壊子が死体の顔についた仮面を外し、顔を見る。
「……っ!?」
壊子は驚愕すると同時に周りを見渡し、再び死体の顔を見る。その顔は30代ほどに見えるほど老けていた。
「…流河さんや、無い…!誰や…この人…!」
壊子が死体を見つめていると、後ろから足音が聞こえる。壊子がすぐに振り向くと、目の前に倒れている流河と名乗っていた者と同じ格好をした人物が歩いてきていた。しかし白い仮面などはしておらず、体格は全体的に細身だった。その人物はこちらを不思議な雰囲気を放つ瞳でじっと見つめていた。
「こんにちは。あなたとは直接会うのは初めてなはずですが、貴方は私を知っているようですね。」
「…アンタ、が本物の…賽井流河…?」
男性は表情を一切変えずに壊子を見つめる。
「ええ。その人物は私が魔法の『命令』で「流河を名乗れ」と命じ、私独自の方法で『命令』を『譲渡』した…この村の村長です。」
「………。」
「…話に聞いた通り無口な方ですね。仕方ないとは思います、がね。」
壊子が武器を構えるが、流河を名乗る人物は真顔のまま手を前に差し出す。
「まさかこんなに早く殺されるとは思いませんでしたがね。それはそうと、貴女とは話し合う必要があります。皇壊子さん。私について来てくれますか?」
「……。」
壊子は武器を強く握りしめた。
───────────────────
「…で、アンタは流河がどんな人か知ってたの?」
ヘリの中で凛泉から質問を受け、少女が首を傾げる。
「え…流河さんが何か?…あっ!最後に流河さんに手を合わせるの忘れてました…!!どど、どうしよう!」
凛泉がその反応を見てため息をつく。
「どうやら知らないみたいね。ねぇ碧射、どっから説明すればいいんかな?」
「…おそらく、5年前のことから今までのこと全てだろう。この子は何も知らない、理解していないんだ。俺だって流河さんの名前をこの子が呼んでた時は驚いたが…。」
凛泉がヘリの椅子を2個占領し横たわる。
(イプシロンは助手席に移動した)
「えー、めんどくさくなーい?私たちだってわかんないこといーっぱいあるのに!」
「そうだなぁ。とりあえず基地に着くまで大まかに説明してやろうか?」
「お、お願いします!」
少女は碧射の提案に食い気味に答える。
「そんなに慌てるなって…。そうだな、俺も聞いた話だからどこまでが事実なのか半信半疑だけど。全ての始まりは5年前…あーでも、今年で6年目…一応、5年前になるのかな。」
「そこは別に良くね?」
───────────────────
─まず、俺たちがいる時代が2026年なのは分かるか?─
─はい。孤児院のカレンダーで知りました─
─そうか、なら話は早い。俺たちのような存在が生まれたのは、今から約5年前の話になる─
この世界には『イザード財閥』と呼ばれる、自然保護や戦争・紛争地域の孤児などの生活保護…一般的には、慈善事業と呼べる活動を中心とした組織があるんだ。そんな組織の中で、とある研究員の息子がとんでもないものを作り出した。
─…とんでもないもの?─
それが、俺たちに異能力…通称「魔法」を与えた装置。
[Akashic・Interference・System]。略称で『A.I.S』と呼ばれる物を作り出したんだ。当時は「装置」としか呼んでなかったと聞いてるが。
A.I.Sは作り出した本人すらも理解できない構造と機能を有していて、財閥はその装置についての研究を開始した。
その中でたどり着いたのが[全記録]と呼ばれる、この世界の始まりから今までの全てを記録している存在だ。
─それはどこかにある日記のような物ですか?─
─なわけないでしょ、簡単に言ったら「概念」みたいなものなんだから。宇宙の始まりにある、なんて仮定する研究者もいるけどそんなのどこにあるかもわからないって話だしね。─
…話を戻すぞ。財閥は作り出した本人と複数人の研究者で協力してA.I.Sについて調べていた。その過程で判明したのが、「この装置を通して[全記録]に接続することで、人間では本来使えないような異能力を得ることができる」というものだった。
─それが、魔法ですか…。─
その通りだ。そして同時に、ソレは俺たちが戦わなければならない脅威が現れることを意味していたって話だな。
───────────────────
「まあ、こっから先は後々説明するが…ようするに、お前と一緒にいた…賽井流河。あの人が財閥の研究員である賽井源太郎の息子であり、他ならぬ『A.I.S』の開発者本人だ。」
「流河さんが…開発者!?」
少女はあまりの衝撃に空いた口が塞がらなかった。何故そんな人があんなところにいたのか、まず何故記憶を無くした怪しい自分を保護したのか。何もかもがわからないことばかりだった。
「流河さんは財閥の施設で1年間、A.I.Sの研究のために財閥の日本支部にいたんだが、ある日突然姿を消してしまった。それから今年で5年の月日が流れたんだが…今は21歳だったか。」
「え…21?」
少女は何か、違和感を感じた。流河の顔をハッキリと見たことはないが、声や仮面以外から微かに見える肌などはお世辞にも20代に見えるほど若々しくはなかった。もっとも露出の極端に少ない服を着ていたので断言はできないが…。
「まだA.I.Sのことについてわかってないことは数多くある…そんな中で製作者である流河さんが亡くなったとなれば、財閥は大騒ぎになるかもしれないな。」
碧射が淡々と語るその言葉を聞き、少女は胸がきゅっと締め付けられる気持ちになった。それを感じ取ったのか、凛泉が少女に抱きつき頭を撫で始める。
「えっ、わっ。凛泉さん?」
「年齢近そうだしさん付けはいらないよ。アンタ可愛いし呼び捨て許したげる。」
「そ、そう…ですか?じゃあ…。えっと、それでどうしたの?凛泉ちゃん。」
「そこは呼び捨てになるところだろ…まあいいや。いやアンタ、流河が死んだのは自分のせいだーとか思ってそうだからさ。」
凛泉が少女の頭を撫でながら横目で碧射を睨みつける。
「え?ああっいや!スマン、そういうつもりじゃなかったんだ…。気を悪くしたなら申し訳ない。」
「…いえ、私がもっとしっかりしていれば流河さんが襲われることはなかったんだと思うと、少し悲しくなってしまっただけです…こちらこそすいません。」
「……。」
凛泉が碧射を睨みつけながら小声で声をかける。
「ちょっと…どーすんのよこの不穏な空気。アンタマジでふざけてんじゃないわよ。」
「いやホントにそんなつもりじゃなかったんだ…。反省してる。」
「反省したところでこの子が傷ついた事実は変わんねえだろ土下座しろ土下座。」
「それはお前が見たいだけだろ…!」
「うん。」
「おン前…っ!」
2人がコソコソと話していると、ヘリについた小さなスピーカーのようなものからガガーっと音が鳴り始める。そこからイプシロンの声が聞こえてくる。
〔皆さん、もうすぐ日本支部につきます。着陸するのでしっかり着席をお願いします。特にカクタ・リノ。ベルトを装着してください。〕
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