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第三章 蠢くもの達
大魔 現る
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億姫は瘴気の渦をひらりと飛んで躱すと、人差指と中指を揃えて指剣をつくり、青い雷撃を放ち瘴気を打ち消した。直後、夜叉が張った封印の結界が、みしみし音を立てて空間ごと崩れ始めた。
空間が崩れ落ちたかのような結界の裂け目から、噴き出す赤黒い霧のような瘴気の間に、岩すら切り裂きそうな巨大な鉤爪に、馬を一飲みにできそうな巨大な赤い口に大きな牙を突き出している大魔の姿が垣間見えている。
黄色く濁ったその両眼に凶悪な光を湛え、巨大な赤い口からは得も言われぬ甘ったるい、腐臭ともつかぬ匂いが漂う。
辺りの鬼気がかなり濃く鬼気から小鬼が生じ、生じたばかりの子鬼がその大魔から溢れる瘴気にあたり、ぎえと叫ぶとそのまま空気に溶けていった。
大きさも禍々しさも並大抵のものではない。
しかし億姫は迷わない。
如何なる相手で在ろうと乱を興すものはこれを討つ。魔物相手に怯むなど七神流にはあり得ないのだ。
「させません。真武七神流の名に懸けて」
億姫は言霊を高らかに宣言する。
「魔障を以て世の乱れを招くもの、神威を以てこれを絶つ。天に真の武有り。地に七神在り。七神億姫いざっ」
億姫の長い艶やかな黒髪がたなびいている。真っ直ぐに眦をきっと据え、すいとその左の掌を妖魔に向けた。
天空から青い雷の球が、次々と大魔めがけて降り注ぐ。雷の球は瘴気と闇を祓いつつ、妖魔を焼き尽くそうとその輝きを強くしている。
億姫の頭上には、巨大な刀身を輝かせている武神具「東雷龍王」が鎮座していた。金剛界に身を置く暁の王と言われる龍王の力が込められた神剣が雷を迸らせている。
閃光が辺りの妖魔を光の中に溶かして一掃し、妖魔共の姿は見えなくなった。空気も夏の気怠い夜気に戻り始めている。
しかし、斃した手応えは無い。
億姫は額に汗を浮かべながら神経を八方に散らして探っていた。剣も億姫の手にするりと収まり、次なる戦いの準備を怠らず青い電光を奔らせて警戒している。
剣先を地に垂らし地擦八双の構えで、そろりと億姫が歩を進める。
すると、陽炎のように億姫の右の後ろの空間が揺れ、あわせて瓦を打ち砕いたような音がして赤黒い瘴気が大量に現れ、獲物を狙う蛇の様に、億姫のほっそりとした背中目がけて、殺到した。
億姫は、振り向かずに剣を右側の背後へと強く刺し込んだ。
青い雷光が赤黒い瘴気を打ち払う。
また手応えがない。
「ぬかりました」
億姫が唇を噛む。
その瞬間左前方の空間が破れ、赤黒い魔風が億姫を薙いだ。
剣で受け止め咄嗟に躰を庇ったが、打ち出された飛礫よろしく弾き飛ばされた。
余りの速さに受け身すら取れない。
躰に青い雷撃と赤黒い瘴気をまとわせながら、そのまま億姫は背中から近くの大岩に叩きつけられ、強い衝撃に意識が飛んだ。
大きな音と共に大岩が半ば程砕けてぱらぱらと欠片を撒き散らし、暗闇にもはっきりとした白い砂塵がもうもうと立ち込める。
それを合図にべりべりと紙を破るような音と共に、空間を裂いて大魔がその姿を現した。
血走った黄色い大きな眼をギラギラさせ、紅い口から勝機を吐き出している。口の中にびっしり生えた牙を剥きだし、甲高い不快な叫び声をあげるとエサを求める獣のように、涎を垂れ流しながら億姫へかぶりつこうと突き進んでいく。
悍ましいことに、大魔が動くとその動きに合わせて赤黒い瘴気が渦巻き、触れるもの全てを次々に腐らせ爛れさせてゆく。
小さな木の祠が瘴気に触れた途端にガラガラと崩れていった。
大魔は億姫の白く眩しい柔肌に、巨大な鉤爪を突き立て体を切り刻み引きちぎろうと、涎を流しながら右手を砂塵の中へ振るった。
動きはおろか声すらも億姫からない。
空間が崩れ落ちたかのような結界の裂け目から、噴き出す赤黒い霧のような瘴気の間に、岩すら切り裂きそうな巨大な鉤爪に、馬を一飲みにできそうな巨大な赤い口に大きな牙を突き出している大魔の姿が垣間見えている。
黄色く濁ったその両眼に凶悪な光を湛え、巨大な赤い口からは得も言われぬ甘ったるい、腐臭ともつかぬ匂いが漂う。
辺りの鬼気がかなり濃く鬼気から小鬼が生じ、生じたばかりの子鬼がその大魔から溢れる瘴気にあたり、ぎえと叫ぶとそのまま空気に溶けていった。
大きさも禍々しさも並大抵のものではない。
しかし億姫は迷わない。
如何なる相手で在ろうと乱を興すものはこれを討つ。魔物相手に怯むなど七神流にはあり得ないのだ。
「させません。真武七神流の名に懸けて」
億姫は言霊を高らかに宣言する。
「魔障を以て世の乱れを招くもの、神威を以てこれを絶つ。天に真の武有り。地に七神在り。七神億姫いざっ」
億姫の長い艶やかな黒髪がたなびいている。真っ直ぐに眦をきっと据え、すいとその左の掌を妖魔に向けた。
天空から青い雷の球が、次々と大魔めがけて降り注ぐ。雷の球は瘴気と闇を祓いつつ、妖魔を焼き尽くそうとその輝きを強くしている。
億姫の頭上には、巨大な刀身を輝かせている武神具「東雷龍王」が鎮座していた。金剛界に身を置く暁の王と言われる龍王の力が込められた神剣が雷を迸らせている。
閃光が辺りの妖魔を光の中に溶かして一掃し、妖魔共の姿は見えなくなった。空気も夏の気怠い夜気に戻り始めている。
しかし、斃した手応えは無い。
億姫は額に汗を浮かべながら神経を八方に散らして探っていた。剣も億姫の手にするりと収まり、次なる戦いの準備を怠らず青い電光を奔らせて警戒している。
剣先を地に垂らし地擦八双の構えで、そろりと億姫が歩を進める。
すると、陽炎のように億姫の右の後ろの空間が揺れ、あわせて瓦を打ち砕いたような音がして赤黒い瘴気が大量に現れ、獲物を狙う蛇の様に、億姫のほっそりとした背中目がけて、殺到した。
億姫は、振り向かずに剣を右側の背後へと強く刺し込んだ。
青い雷光が赤黒い瘴気を打ち払う。
また手応えがない。
「ぬかりました」
億姫が唇を噛む。
その瞬間左前方の空間が破れ、赤黒い魔風が億姫を薙いだ。
剣で受け止め咄嗟に躰を庇ったが、打ち出された飛礫よろしく弾き飛ばされた。
余りの速さに受け身すら取れない。
躰に青い雷撃と赤黒い瘴気をまとわせながら、そのまま億姫は背中から近くの大岩に叩きつけられ、強い衝撃に意識が飛んだ。
大きな音と共に大岩が半ば程砕けてぱらぱらと欠片を撒き散らし、暗闇にもはっきりとした白い砂塵がもうもうと立ち込める。
それを合図にべりべりと紙を破るような音と共に、空間を裂いて大魔がその姿を現した。
血走った黄色い大きな眼をギラギラさせ、紅い口から勝機を吐き出している。口の中にびっしり生えた牙を剥きだし、甲高い不快な叫び声をあげるとエサを求める獣のように、涎を垂れ流しながら億姫へかぶりつこうと突き進んでいく。
悍ましいことに、大魔が動くとその動きに合わせて赤黒い瘴気が渦巻き、触れるもの全てを次々に腐らせ爛れさせてゆく。
小さな木の祠が瘴気に触れた途端にガラガラと崩れていった。
大魔は億姫の白く眩しい柔肌に、巨大な鉤爪を突き立て体を切り刻み引きちぎろうと、涎を流しながら右手を砂塵の中へ振るった。
動きはおろか声すらも億姫からない。
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