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学園七不思議
学園七不思議
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三人の婚約解消宣言。
卒業式のパーティーどころではない。
「ミッシェル様」
「……はぃ」
ミッシェルはバージヴァルの隣で不安であることを過剰とも思える仕草で返事をする。
「大丈夫、僕が隣にいるから」
「うん」
婚約解消を宣言したとはいえ、解消されたわけではない。
現婚約者が目の前にいるのに、二人きりの世界に。
「……よろしいかしら?」
「あぁ」
「はい」
ミッシェルに話しかけているのだが、バージヴァルが先に返事をする。
「ミッシェル様は、バージヴァル様とはどのような関係ですか?」
「友人です」
「友人ですか……人目を避け密会していると多くの証言がありますが?」
「密会って、私達は友人でゆっくり話が出来る場所を選んでいただけよ」
「触れ合った事はありますか?」
「触れ合う? 友人だもの、握手したり触れたりするわ」
「唇が触れたりなどは?」
「なっ、それは……」
「婚約者のいる者と口付けを交わすことは不貞となりますが、どうなのでしょうか?」
「やめろ、アナスタージア。女性にその様なことを聞くのは失礼じゃないか?」
「では、私の婚約者であるバージヴァル様にお聞きします。ミッシェル様と音楽室で口付けを交わしたことはございますか?」
「それは……」
場所まで指定すると、バージヴァルは明らかに動揺を見せる。
「していないのであれば、隠す事はありませんよ。そもそも友人が口付けを交わすことがおかしいのですが」
「僕達は……」
「女性の気持ちが分かる王子なら、二人の思い出を嘘で汚された女性が『傷つく』なんてこと私が言わなくてもご存じですよね。恋人関係にある相手を周囲に紹介しないのは、相手の存在を『恥じている』ということにもなりますし。王子が私達国民を欺き婚約者以外の女性と親密となり嘘の報告するとは思っていません。さぁ、どうぞ。『僕達は口付けなどしていない』と宣言してください」
「……くっ……」
何も言えないバージヴァルは隣にいるミッシェルに切なげな視線を送る。
ミッシェルは悲しみの中に怒りを滲ませたような瞳。
「二人は口付けを交わしていないんですよね?」
「……あぁ」
「ミッシェル様は?」
「……して……ません」
「そうですよね。ミッシェル様、騎士のデイヴィーズ様とはどのような関係なのですか?」
「ベネディクト? 友人よ」
「放課後の鍛錬場で抱き合うような友人ですか?」
二人の関係を確認すると、驚いたようにミッシェルに視線を向けるバージヴァルとオスニエル。
「ぁっ……それは……その……」
「抱き合う友人なんて、聞いたことありませんが平民の間ではよくある事なんですか?」
「み、見間違いじゃないの? 私達は抱き合っていないわ」
「見間違い……ですか……多くの方達が見間違えたと仰るのですね」
「そうよ。制服を着た後ろ姿なんて見分けつかないもの」
「後姿は見分けつきませんよね。では、クロウリー様とはどのような関係ですか?」
「オスニエルとは……」
「クロウリー様とも図書室で口付けを交わしていたという証言が……」
小さく『オスニエルとも?』と呟くベネディクト。
三人は親しい関係だが、互いの恋愛観については話していない様子。
全員がミッシェルと秘密の関係だった事を知る。
「違うわ。誰かが私を陥れようとしているのよ」
「ミッシェル様が否定しようと、お相手の方達は真実を知っていることでしょう」
アナスタージアはミッシェルの相手達に視線を送る。
愛していた女性が自分以外の親友とも親密だったことを知り、三人は互いを確認。
「これらは全てミッシェル様ではないのですね」
「もちろんです」
彼女を愛していた者達の気持ちが冷めていくとは知らず、嘘を平気で付き続ける。
「そうですよね。バージヴァル様にデイヴィーズ様、クロウリー様と親密な関係を築き口付けを交わす関係だなんて……まるで娼婦ですものね」
「私を娼婦だなんて、侮辱よ」
声を荒げるミッシェル様の姿は、天真爛漫と言われていた彼女と同一人物とは思えない。
「落ち着いてください。三人と恋人関係のように振舞っていれば娼婦でしょうが、ミッシェル様は三人とはただの友人関係なのでしょ?」
「……えっえぇ。私は、皆と仲がいいだけよ」
仲がいいだけ……
その言葉が彼らにはどう届くのか。
「三人と関係を持ち婚約解消に導いたとなれば、ミッシェル様は高位貴族の婚約だけでなく王族の婚約解消を先導した……国を混乱させた疑いで裁判となるでしょうね。その時、バージヴァル様達三人の素行調査も行わる事でしょう。結果によっては廃嫡……追放?」
「「「「え?」」」」
「四人は互いに疚しいことのない、ただの友人なのでしょう? 」
顔色を悪くさせる者、震える者、生唾を飲み込む者、自身を抱き締める者。
各々反応を見せる。
「心配する事はありませんよ。全ては裁判で明らかになる事でしょう」
「……待ってくれ、俺は騙されていたんだ」
突然バージヴァルが宣言する。
「騙されていた? 誰にです?」
「もちろん、このミッシェルにだ」
バージヴァルの突然の訴えに驚愕する。
「バージヴァル、何を言い出すの?」
バージヴァルの告白が信じられない様子のミッシェル。
「どうしてアナスタージアに婚約解消を宣言したのか、分からない……僕はそんな気はなかったのに……」
「俺もだっ」
「私もだ」
バージヴァルに同調するようにベネディクトとオスニエルも続く。
「なっ、二人までどうしたのよ急に」
「僕はアナスタージアと婚約を解消するつもりは無かった。ミッシェルがアナスタージアの悪評を囁かれ続け、いつの間にかおかしくなっていたんだ」
自身を被害者のように語るバージヴァル。
「嘘よ。『政略的な婚約でアナスタージアにはうんざりしている』って言っていたじゃない。私といると癒されるって」
「僕が婚約者をそのように言うはずないだろうっ」
醜くも裏切りあいが始まった。
「ベネディクトだって、『婚約者の話は興味のない事ばかりで一緒に過ごすくらいなら鍛錬していた方が良い』って私に言ったわよね? 私が見学しているとやる気が出るって」
「誰かと勘違いしているんじゃないのか? 俺は誰が見ていようと鍛錬は常に本気だ」
「何よっ。オスニエルだって、婚約者との時間は苦痛でしかないって。私と会話している方が頭が冴えるって言ったわよね?」
「君との会話が苦痛だ」
先程までとは打って変わり、三人はミッシェルを遠ざけ始める。
「なっ、急に態度を変えたって無意味よ。貴方達は先程婚約解消を宣言していたじゃない。ここにいる全員が証人よ。それに、私はこの三人と恋人関係だったわ。抱き合ったり口付けだって何度もしたわ」
ミッシェルは三人との関係を大声で暴露した。
絵本の魔女のように振舞うミッシェルの姿に三人は血の気が引く。
震えるしか出来ない三人に婚約者達が近付き囁く。
「「「助けて差し上げましょうか」」」
不貞を暴かれたにも拘らず救いの手を差し伸べる婚約者の三人。
そんな婚約者を信じていいのか分からないでいる不貞男三人。
それでも、その手に縋るしかなかった。
「「「助けてくれ」」」
婚約者の反応に、三人の令嬢達は笑みを見せる。
「やはり、あの噂は本当でしたのね」
「そうみたいですわね」
「聞いた時は信じられませんでしたが」
アナスタージアの言葉にジョージアーナとキャロライナが続く。
「う……わさ?」
ミッシェルが聞き返す。
「我が学園には七不思議があるそうです」
アナスタージアに同意するよう至る所で『その話、私も聞いたことがあるわ』との声が上がる。
「七……不思議?」
「その一、開かずの部屋。昔、恋をした男子生徒が想い人を手に入れる為にある部屋へ呼び出し二人きりになった。相手の女性には婚約者がいた為、叶わぬ恋に彼は彼女を誰のものにもさせないために命を奪い自らも命を絶った」
「……そんな話、信じるわけないじゃない」
「それからその部屋は使用を控えるも、男子生徒が思いを寄せた女性に似た生徒が入ると閉じ込められると語り継がれているわ。ミッシェル様は彼が思いを寄せていた女子生徒に似ていたのね」
「皆、騙されないで。貴方達は自分達がした嫌がらせを誤魔化そうとしているだけじゃない」
「その二、意識を奪われる音楽室。留学する恋人へ送る曲を練習中、指を怪我してしまった。恋人に指の怪我を告げることが出来ず、花束を手渡し見送る。雨の中隣国へ向かう道中、恋人は馬車の事故に巻き込まれ帰らぬ人に。自身が曲を聞かせていれば、時差が生れ恋人は助かっていたのではと後悔し彼は命を絶った。それから雨が降り頻る日は、怪我した指で曲を弾き続ける彼の姿が目撃される。その曲を聞くと、意識を奪われ女子生徒を恋人と勘違いしてしまうそうよ」
「そうだ。僕はあの時、曲を耳にした。『誰もいないのにどうして? 』と思ったら、意識が遠のいた」
アナスタージアの話に乗っかるバージヴァル。
「何言ってんのよ、バージヴァル。『この可愛い唇に触れてもいいか?』なんて聞いて、私に口付けしたんじゃない。何が『意識が遠のいた』よっ」
「意識が正常であれば、婚約者でない君と口付けをするはずないだろう」
「あんたねぇっ」
「その三、体を乗っ取られる鍛錬場。思いを寄せている男子生徒の婚約者を怖がらせようと鍛錬場に呼び寄せ驚かせるも、自身が練習用の剣の下敷きになり亡くなった。それから、居残って練習している男子生徒に近付く女子生徒がいるとその体を奪おうと隙を伺っている」
「そうだ、あの時得体のしれない女を見たんだ。あまりに恐ろしかったが、狙いが彼女だと分かり俺は咄嗟に引き寄せたんだ。それを抱き合っていたと勘違いされたに違いない」
ベネディクトも自身の経験は七不思議であると証言。
「はぁ? 『俺の鍛錬はお前を守る為だと、ようやく気が付いた』って言ったじゃない」
「俺は、騎士だ。弱い者を守るのは当然だ」
「あの言葉は嘘だったの?」
「嘘ではない。君が間違って解釈していただけだ」
「……その四を話しても宜しいかしら?」
「アナスタージア嬢。続きを」
「そんな出鱈目話いい加減にっ」
「その四、鏡に映った自分が出現する図書室。真面目に勉強していた生徒はある時、女子生徒に恋をした。どうにかして近付きたくも、うまく行かず。ある時、嫌がらせを受けていた彼女を助けようとしたが逆に自分が嫌がらせの犯人と疑われてしまう。動揺した彼は本棚にぶつかり本の下敷きになり亡くなった。その後、図書室で真面目に勉強している男子生徒が鏡に映るとその生徒の姿を借り女子生徒に近付くそうよ」
「そうだ。私はその女子生徒と口付けなどしていない。私の姿をした誰かだ」
いつも難しい本を読んでいるオスニエル。
そんな彼がこのような話に乗っかった事に周囲は驚き『事実なのか?』と信じ始める。
「オスニエルまで。『結婚前に私と出会えた事に感謝する』って言ったじゃない」
「だから、それは私ではない。結婚前に君と会えてどうなる? 何も変わらない」
「婚約者とは婚約を解消し、私を妻に迎えたいって言ったじゃない。だから私は口付けをしたのよ」
「何度も言うが、それは私ではない。私が不貞を犯すはずないだろう」
「その五……」
二人の言い争いを諫めることなく、その五を話し始める。
「背中を押される階段。婚約者の不貞の相手を追いかけ追及する女子生徒。婚約者が現れ、もみ合いになり階段から転落。それから、その階段で女子生徒が二人きりでいると一人だけ背中を押される」
「……それは、貴方が無罪を主張したいだけでしょ」
「私は無罪よ」
「そんな作り話、誰も信じ……って聞きなさいよ」
「その六、自我を奪い愚行を走らせる卒業パーティー。婚約者が不貞相手に唆され婚約破棄を宣言された令嬢。彼女は失意のあまり自害。婚約者のいる者にありもしない偽りの過去を植え付け、婚約解消を唆すそうよ」
「そうなんだ。僕は突然色んな情景を見せられ婚約解消しなければと思ってしまったんだ」
バージヴァルはアナスタージアの話しの通りだと告げる。
「これが我が学園の七不思議です」
「違うわ。彼らは彼らの意志で婚約解消を宣言したわ。婚約者じゃなく、私を選んだのっ」
周囲は無罪だと宣言する三人と、関係を持ったと主張するミッシェルのどちらが正しいのか決めかねていた。
「……アナスタージア、一ついいか? 七不思議と言ったが、六つしかないが」
「最後の一つは……すべてに関係していた者は、悪魔に魅入られる……」
「それは……」
全ての視線が一人へ向かう。
「はい。見目麗しいミッシェル様は悪魔に選ばれてしまったかと」
『悪魔』と発すると会場の全員がミッシェルを警戒する。
「そんなの嘘よ。あるわけないわ」
「ですが、七不思議通りです」
「それは人に移るのかっ」
バージヴァルは完全にアナスタージアの話す七不思議に怯える。
「その女性の周囲で起こるので、近付かなければ……」
聞いた途端、ミッシェルから距離を取る三人。
「そんな話信じるなんて、どうかしてるわっ」
ミッシェルが噂の否定を叫ぶも、誰も聞いていない。
「どうするべきなんだ?」
バージヴァルはアナスタージアに答えを求める。
「この悪魔は恋愛が絡むと呪いを発動します。彼女を男性のいない場所に隔離すれば、被害はないかと」
「そうか……では、ミッシェルは女子修道院に入るように。これは命令だ」
王族のバージヴァルが宣言。
「はぁぁぁぁぁ、ふざけんなっ。絶対にイヤだからなっ。出鱈目話してんじゃないわよ、このくそ女」
バージヴァルの決定に怒りを隠さないミッシェル。
「あの異変、まさか悪魔に取りつかれたんじゃ?」
一人の言葉に恐怖が伝染する。
駆け付けた騎士により、ミッシェルは捕らえられ牢へ。
「まさか、僕達が洗脳されていたとは……君達には感謝する」
バージヴァルとベネディクト、オスニエルはアナスタージアとジョージアーナ、キャロライナの元を訪れ感謝を述べる。
「いえ、婚約者ですもの」
笑顔で彼らの失態を許す婚約者達。
男達三人は今後、婚約者の令嬢達に逆らうことは出来なくなった。
もちろん、不貞も……
準備が整うとミッシェルは女子修道院へ護送された。
その間も喚き散らしていたので、『悪魔に取りつかれた』と隔離される。
悪魔に洗脳されかけた婚約者を救った令嬢達三人は学園で語り継がれることに。
学園七不思議。
話を考えたのはジョージアーナ。
噂を拡散させたのはキャロライナ。
発案者兼断罪者、アナスタージア。
実際、学園に七不思議があるのかどうかは……不明。
卒業式のパーティーどころではない。
「ミッシェル様」
「……はぃ」
ミッシェルはバージヴァルの隣で不安であることを過剰とも思える仕草で返事をする。
「大丈夫、僕が隣にいるから」
「うん」
婚約解消を宣言したとはいえ、解消されたわけではない。
現婚約者が目の前にいるのに、二人きりの世界に。
「……よろしいかしら?」
「あぁ」
「はい」
ミッシェルに話しかけているのだが、バージヴァルが先に返事をする。
「ミッシェル様は、バージヴァル様とはどのような関係ですか?」
「友人です」
「友人ですか……人目を避け密会していると多くの証言がありますが?」
「密会って、私達は友人でゆっくり話が出来る場所を選んでいただけよ」
「触れ合った事はありますか?」
「触れ合う? 友人だもの、握手したり触れたりするわ」
「唇が触れたりなどは?」
「なっ、それは……」
「婚約者のいる者と口付けを交わすことは不貞となりますが、どうなのでしょうか?」
「やめろ、アナスタージア。女性にその様なことを聞くのは失礼じゃないか?」
「では、私の婚約者であるバージヴァル様にお聞きします。ミッシェル様と音楽室で口付けを交わしたことはございますか?」
「それは……」
場所まで指定すると、バージヴァルは明らかに動揺を見せる。
「していないのであれば、隠す事はありませんよ。そもそも友人が口付けを交わすことがおかしいのですが」
「僕達は……」
「女性の気持ちが分かる王子なら、二人の思い出を嘘で汚された女性が『傷つく』なんてこと私が言わなくてもご存じですよね。恋人関係にある相手を周囲に紹介しないのは、相手の存在を『恥じている』ということにもなりますし。王子が私達国民を欺き婚約者以外の女性と親密となり嘘の報告するとは思っていません。さぁ、どうぞ。『僕達は口付けなどしていない』と宣言してください」
「……くっ……」
何も言えないバージヴァルは隣にいるミッシェルに切なげな視線を送る。
ミッシェルは悲しみの中に怒りを滲ませたような瞳。
「二人は口付けを交わしていないんですよね?」
「……あぁ」
「ミッシェル様は?」
「……して……ません」
「そうですよね。ミッシェル様、騎士のデイヴィーズ様とはどのような関係なのですか?」
「ベネディクト? 友人よ」
「放課後の鍛錬場で抱き合うような友人ですか?」
二人の関係を確認すると、驚いたようにミッシェルに視線を向けるバージヴァルとオスニエル。
「ぁっ……それは……その……」
「抱き合う友人なんて、聞いたことありませんが平民の間ではよくある事なんですか?」
「み、見間違いじゃないの? 私達は抱き合っていないわ」
「見間違い……ですか……多くの方達が見間違えたと仰るのですね」
「そうよ。制服を着た後ろ姿なんて見分けつかないもの」
「後姿は見分けつきませんよね。では、クロウリー様とはどのような関係ですか?」
「オスニエルとは……」
「クロウリー様とも図書室で口付けを交わしていたという証言が……」
小さく『オスニエルとも?』と呟くベネディクト。
三人は親しい関係だが、互いの恋愛観については話していない様子。
全員がミッシェルと秘密の関係だった事を知る。
「違うわ。誰かが私を陥れようとしているのよ」
「ミッシェル様が否定しようと、お相手の方達は真実を知っていることでしょう」
アナスタージアはミッシェルの相手達に視線を送る。
愛していた女性が自分以外の親友とも親密だったことを知り、三人は互いを確認。
「これらは全てミッシェル様ではないのですね」
「もちろんです」
彼女を愛していた者達の気持ちが冷めていくとは知らず、嘘を平気で付き続ける。
「そうですよね。バージヴァル様にデイヴィーズ様、クロウリー様と親密な関係を築き口付けを交わす関係だなんて……まるで娼婦ですものね」
「私を娼婦だなんて、侮辱よ」
声を荒げるミッシェル様の姿は、天真爛漫と言われていた彼女と同一人物とは思えない。
「落ち着いてください。三人と恋人関係のように振舞っていれば娼婦でしょうが、ミッシェル様は三人とはただの友人関係なのでしょ?」
「……えっえぇ。私は、皆と仲がいいだけよ」
仲がいいだけ……
その言葉が彼らにはどう届くのか。
「三人と関係を持ち婚約解消に導いたとなれば、ミッシェル様は高位貴族の婚約だけでなく王族の婚約解消を先導した……国を混乱させた疑いで裁判となるでしょうね。その時、バージヴァル様達三人の素行調査も行わる事でしょう。結果によっては廃嫡……追放?」
「「「「え?」」」」
「四人は互いに疚しいことのない、ただの友人なのでしょう? 」
顔色を悪くさせる者、震える者、生唾を飲み込む者、自身を抱き締める者。
各々反応を見せる。
「心配する事はありませんよ。全ては裁判で明らかになる事でしょう」
「……待ってくれ、俺は騙されていたんだ」
突然バージヴァルが宣言する。
「騙されていた? 誰にです?」
「もちろん、このミッシェルにだ」
バージヴァルの突然の訴えに驚愕する。
「バージヴァル、何を言い出すの?」
バージヴァルの告白が信じられない様子のミッシェル。
「どうしてアナスタージアに婚約解消を宣言したのか、分からない……僕はそんな気はなかったのに……」
「俺もだっ」
「私もだ」
バージヴァルに同調するようにベネディクトとオスニエルも続く。
「なっ、二人までどうしたのよ急に」
「僕はアナスタージアと婚約を解消するつもりは無かった。ミッシェルがアナスタージアの悪評を囁かれ続け、いつの間にかおかしくなっていたんだ」
自身を被害者のように語るバージヴァル。
「嘘よ。『政略的な婚約でアナスタージアにはうんざりしている』って言っていたじゃない。私といると癒されるって」
「僕が婚約者をそのように言うはずないだろうっ」
醜くも裏切りあいが始まった。
「ベネディクトだって、『婚約者の話は興味のない事ばかりで一緒に過ごすくらいなら鍛錬していた方が良い』って私に言ったわよね? 私が見学しているとやる気が出るって」
「誰かと勘違いしているんじゃないのか? 俺は誰が見ていようと鍛錬は常に本気だ」
「何よっ。オスニエルだって、婚約者との時間は苦痛でしかないって。私と会話している方が頭が冴えるって言ったわよね?」
「君との会話が苦痛だ」
先程までとは打って変わり、三人はミッシェルを遠ざけ始める。
「なっ、急に態度を変えたって無意味よ。貴方達は先程婚約解消を宣言していたじゃない。ここにいる全員が証人よ。それに、私はこの三人と恋人関係だったわ。抱き合ったり口付けだって何度もしたわ」
ミッシェルは三人との関係を大声で暴露した。
絵本の魔女のように振舞うミッシェルの姿に三人は血の気が引く。
震えるしか出来ない三人に婚約者達が近付き囁く。
「「「助けて差し上げましょうか」」」
不貞を暴かれたにも拘らず救いの手を差し伸べる婚約者の三人。
そんな婚約者を信じていいのか分からないでいる不貞男三人。
それでも、その手に縋るしかなかった。
「「「助けてくれ」」」
婚約者の反応に、三人の令嬢達は笑みを見せる。
「やはり、あの噂は本当でしたのね」
「そうみたいですわね」
「聞いた時は信じられませんでしたが」
アナスタージアの言葉にジョージアーナとキャロライナが続く。
「う……わさ?」
ミッシェルが聞き返す。
「我が学園には七不思議があるそうです」
アナスタージアに同意するよう至る所で『その話、私も聞いたことがあるわ』との声が上がる。
「七……不思議?」
「その一、開かずの部屋。昔、恋をした男子生徒が想い人を手に入れる為にある部屋へ呼び出し二人きりになった。相手の女性には婚約者がいた為、叶わぬ恋に彼は彼女を誰のものにもさせないために命を奪い自らも命を絶った」
「……そんな話、信じるわけないじゃない」
「それからその部屋は使用を控えるも、男子生徒が思いを寄せた女性に似た生徒が入ると閉じ込められると語り継がれているわ。ミッシェル様は彼が思いを寄せていた女子生徒に似ていたのね」
「皆、騙されないで。貴方達は自分達がした嫌がらせを誤魔化そうとしているだけじゃない」
「その二、意識を奪われる音楽室。留学する恋人へ送る曲を練習中、指を怪我してしまった。恋人に指の怪我を告げることが出来ず、花束を手渡し見送る。雨の中隣国へ向かう道中、恋人は馬車の事故に巻き込まれ帰らぬ人に。自身が曲を聞かせていれば、時差が生れ恋人は助かっていたのではと後悔し彼は命を絶った。それから雨が降り頻る日は、怪我した指で曲を弾き続ける彼の姿が目撃される。その曲を聞くと、意識を奪われ女子生徒を恋人と勘違いしてしまうそうよ」
「そうだ。僕はあの時、曲を耳にした。『誰もいないのにどうして? 』と思ったら、意識が遠のいた」
アナスタージアの話に乗っかるバージヴァル。
「何言ってんのよ、バージヴァル。『この可愛い唇に触れてもいいか?』なんて聞いて、私に口付けしたんじゃない。何が『意識が遠のいた』よっ」
「意識が正常であれば、婚約者でない君と口付けをするはずないだろう」
「あんたねぇっ」
「その三、体を乗っ取られる鍛錬場。思いを寄せている男子生徒の婚約者を怖がらせようと鍛錬場に呼び寄せ驚かせるも、自身が練習用の剣の下敷きになり亡くなった。それから、居残って練習している男子生徒に近付く女子生徒がいるとその体を奪おうと隙を伺っている」
「そうだ、あの時得体のしれない女を見たんだ。あまりに恐ろしかったが、狙いが彼女だと分かり俺は咄嗟に引き寄せたんだ。それを抱き合っていたと勘違いされたに違いない」
ベネディクトも自身の経験は七不思議であると証言。
「はぁ? 『俺の鍛錬はお前を守る為だと、ようやく気が付いた』って言ったじゃない」
「俺は、騎士だ。弱い者を守るのは当然だ」
「あの言葉は嘘だったの?」
「嘘ではない。君が間違って解釈していただけだ」
「……その四を話しても宜しいかしら?」
「アナスタージア嬢。続きを」
「そんな出鱈目話いい加減にっ」
「その四、鏡に映った自分が出現する図書室。真面目に勉強していた生徒はある時、女子生徒に恋をした。どうにかして近付きたくも、うまく行かず。ある時、嫌がらせを受けていた彼女を助けようとしたが逆に自分が嫌がらせの犯人と疑われてしまう。動揺した彼は本棚にぶつかり本の下敷きになり亡くなった。その後、図書室で真面目に勉強している男子生徒が鏡に映るとその生徒の姿を借り女子生徒に近付くそうよ」
「そうだ。私はその女子生徒と口付けなどしていない。私の姿をした誰かだ」
いつも難しい本を読んでいるオスニエル。
そんな彼がこのような話に乗っかった事に周囲は驚き『事実なのか?』と信じ始める。
「オスニエルまで。『結婚前に私と出会えた事に感謝する』って言ったじゃない」
「だから、それは私ではない。結婚前に君と会えてどうなる? 何も変わらない」
「婚約者とは婚約を解消し、私を妻に迎えたいって言ったじゃない。だから私は口付けをしたのよ」
「何度も言うが、それは私ではない。私が不貞を犯すはずないだろう」
「その五……」
二人の言い争いを諫めることなく、その五を話し始める。
「背中を押される階段。婚約者の不貞の相手を追いかけ追及する女子生徒。婚約者が現れ、もみ合いになり階段から転落。それから、その階段で女子生徒が二人きりでいると一人だけ背中を押される」
「……それは、貴方が無罪を主張したいだけでしょ」
「私は無罪よ」
「そんな作り話、誰も信じ……って聞きなさいよ」
「その六、自我を奪い愚行を走らせる卒業パーティー。婚約者が不貞相手に唆され婚約破棄を宣言された令嬢。彼女は失意のあまり自害。婚約者のいる者にありもしない偽りの過去を植え付け、婚約解消を唆すそうよ」
「そうなんだ。僕は突然色んな情景を見せられ婚約解消しなければと思ってしまったんだ」
バージヴァルはアナスタージアの話しの通りだと告げる。
「これが我が学園の七不思議です」
「違うわ。彼らは彼らの意志で婚約解消を宣言したわ。婚約者じゃなく、私を選んだのっ」
周囲は無罪だと宣言する三人と、関係を持ったと主張するミッシェルのどちらが正しいのか決めかねていた。
「……アナスタージア、一ついいか? 七不思議と言ったが、六つしかないが」
「最後の一つは……すべてに関係していた者は、悪魔に魅入られる……」
「それは……」
全ての視線が一人へ向かう。
「はい。見目麗しいミッシェル様は悪魔に選ばれてしまったかと」
『悪魔』と発すると会場の全員がミッシェルを警戒する。
「そんなの嘘よ。あるわけないわ」
「ですが、七不思議通りです」
「それは人に移るのかっ」
バージヴァルは完全にアナスタージアの話す七不思議に怯える。
「その女性の周囲で起こるので、近付かなければ……」
聞いた途端、ミッシェルから距離を取る三人。
「そんな話信じるなんて、どうかしてるわっ」
ミッシェルが噂の否定を叫ぶも、誰も聞いていない。
「どうするべきなんだ?」
バージヴァルはアナスタージアに答えを求める。
「この悪魔は恋愛が絡むと呪いを発動します。彼女を男性のいない場所に隔離すれば、被害はないかと」
「そうか……では、ミッシェルは女子修道院に入るように。これは命令だ」
王族のバージヴァルが宣言。
「はぁぁぁぁぁ、ふざけんなっ。絶対にイヤだからなっ。出鱈目話してんじゃないわよ、このくそ女」
バージヴァルの決定に怒りを隠さないミッシェル。
「あの異変、まさか悪魔に取りつかれたんじゃ?」
一人の言葉に恐怖が伝染する。
駆け付けた騎士により、ミッシェルは捕らえられ牢へ。
「まさか、僕達が洗脳されていたとは……君達には感謝する」
バージヴァルとベネディクト、オスニエルはアナスタージアとジョージアーナ、キャロライナの元を訪れ感謝を述べる。
「いえ、婚約者ですもの」
笑顔で彼らの失態を許す婚約者達。
男達三人は今後、婚約者の令嬢達に逆らうことは出来なくなった。
もちろん、不貞も……
準備が整うとミッシェルは女子修道院へ護送された。
その間も喚き散らしていたので、『悪魔に取りつかれた』と隔離される。
悪魔に洗脳されかけた婚約者を救った令嬢達三人は学園で語り継がれることに。
学園七不思議。
話を考えたのはジョージアーナ。
噂を拡散させたのはキャロライナ。
発案者兼断罪者、アナスタージア。
実際、学園に七不思議があるのかどうかは……不明。
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