短編集

天冨 七緒

文字の大きさ
44 / 78
学園七不思議

学園七不思議

しおりを挟む
「皆さん。本日は私、アナスタージア・オールディントンのお茶会に参加して頂きありがとう」

 主催者であるアナスタージアが挨拶をする。
 学園の貴族専用サロン。
 使用するには、ある程度の信頼度と身分が必要となる。
 主催者は問題なく使用できる者。

「本日はお茶会に招待して頂きありがとうございます。私もアナスタージア様とお話したいと思っていたのです」

「私も、このような機会に感謝しております」

「キャロライナ様にジョージアーナ様。以前からお二人には、意見を聞いてみたいと思っていたの」

 優雅に始まったお茶会。
 招待された二人は主催者の二言目で内容を察する。

「……それでは、こういうのはどうでしょうか?」

「……まぁ、それは面白そうですね。考えるのは得意です」

「では、私が皆さんに伝えておきますね」

 
ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 卒業パーティー
 
「バージヴァル王子。本日は何故、そちらの方をエスコートしてらっしゃるのかしら?」

 笑顔で尋ねるアナスタージア。
 何故、王子にその様な事を尋ねるのかと言うと二人は幼い頃に決定した婚約者。
 婚約者であれば、卒業式のパーティーに一緒に参加するのもの。
 特別な事情がない限り……

「アナスタージア。僕は事実を確認したく、エスコートを断らせてもらった」

「事実……ですか?」

「あぁ。こちらのミッシェルは知っているだろう?」

 バージヴァルの隣に立つ女子生徒を紹介する。
 三年間学園に通ったアナスタージア。
 同じクラスにならずとも、その女子生徒の名前と顔は把握している。

「えぇ、もちろん。バージヴァル王子の不貞の相手ですよね?」

「失礼な事を言うなっ」

 バージヴァルは自身の事を追及され慌てる。

「あら、違いますの?」

「僕がミッシェルと会話するようになったのは、アナスタージアが関係している」

「私ですか?」

「僕は一年の頃からミッシェルに相談を受けていた」

「相談ですか?」

「君についての相談だ」

「私についてですか?」

「身に覚えないか?」

「……全く」

 まどろっこしい。
 早く言えばいいものを……と、アナスタージアは内心思っていた。

「平民であるミッシェルが学園に通うのを不快に思い、酷い言葉を受けたと聞く」

「……そのような事は、覚えていないのですが……本当に、それは私でしょうか?」

「ミッシェルが嘘を吐いているというのか?」

「いえ。勘違いなさっているのではないかと確認しているのです。どうなのでしょうか、ミッシェル様。本当に私だったのでしょうか?」

「……酷いです。私はアナスタージアさんに何度も『平民風情が学園にいると空気が悪くなる』『入学を認められたという事実で満足し、事態するべきなのよ』『共に学んでいるからと、貴族だと勘違いしない事』と言われ、学園を去ることを提案されました」

「まさか、貴族の模範となる公爵令嬢の君がそのような事をしているとは思わなかった」

「身に覚えがないのですが……」

「認めないと言うんだな。他にも聞いている。倉庫に閉じ込め、階段から突き飛ばしたこともあるそうだな。階段から落ちれば命の危険もあっただろうに、そこまでミッシェルを目の敵にしているとは思わなかった」

「まぁ、ミッシェル様は階段から落ちたのですか? お怪我はありませんでしたか?」

「白々しい。ミッシェルは犯人の名前を言うのを躊躇っていたが、教えてくれた」

「まぁ、どなたですの?」

「アナスタージア、君だろう」

「私ですか?」

 アナスタージアはミッシェルに視線を送る。

「……はい……アナスタージアさんの後姿を見ました」

「後姿であれば、私とは限らないのではありませんか?」

「いい加減にしろ。突き飛ばされたミッシェルがそう言っているんだ。認めろ」

「バージヴァル王子。オールディントン公爵家の名誉に誓い、そのような事はしていないと宣言致します」

「君がそこまで強情だとは……」

「ミッシェル様、それはいつの事です?」

「あれは……二週間前の午前で授業が終わった日です」

「そうですか。であれば、私ではありませんね。その日、私はある方達とお茶会を開催していましたから」

「お茶会だと? 誰とだ?」

 バージヴァルはアナスタージアの発言を嘘だと決めつけている。

「その方達は……」

「私達です」

 アナスタージアが告げる前に、二人の人物が現れる。

「私、ジョージアーナ・ワトキンソンと申します。二週間前でしたらアナスタージア様主催のお茶会に参加しましたので、アナスタージア様の無罪を証言できます」

「私、キャロライナ・ハトルスローンと申します。私も、アナスタージア様主催のお茶会に参加致しました。令嬢は一度も席を外すことはありませんでしたので無罪の証人となります」

 ミッシェルが突き落とされたという日のアナスタージアの証人二人が現れる。
 
「なっ……」

「くっ……」

 二人の証言に顔を歪める二人の人物。

「君達二人についても報告を受けている」

 バージヴァルは現れた証人の証言について話すことなく、証言者について話し出す。

「俺から話をさせてくれ」

 バージヴァルに確認を取るのは、騎士見習いで王子の側近の一人。
 ベネディクト・デイヴィーズ。

「あぁ。ベネディクトに任せる」

「ジョージアーナ、俺は婚約者として君を庇いたいが騎士として正義を歪めることは出来ない。この三年間、ミッシェルに対し過剰に行動を指摘していたらしいな」

 ベネディクトとジョージアーナも幼い頃に親同士によって決まった婚約者。

「……行動を指摘とは何のことでしょうか?」

「ミッシェルは確かに貴族の作法をしらない。だからと言って努力を怠ったわけではない。それにも拘らず、姿勢や仕草が疎かになると暴力に匹敵する行動を取っていたらしいな」

「……ベネディクト様が何を仰っているのか、私にはそのような記憶が無いのですか?」

「……普段から周囲にその様な行動を取っているから気付かないのだな。ミッシェルは君から指導を受けただけと赤くなった手を隠し、涙を流していた」

「その出来事は事実だったとしても、相手は私ではありませんね」

「君がそこまで醜い人間だったとは……ミッシェルは最後まで君を庇っていたというのに……」

 暴力を受けたと主張する、ミッシェル。
 暴力を振るったのは自身ではないと主張する、ジョージアーナ。
 二人の意見を聞き、ジョージアーナを責め立てるベネディクト。

「アナスタージア、君の友人なだけあるな」

 二人の会話を聞き、ある結論に至ったバージヴァルは二人を見下す。

「キャロライナ。私からもいいか?」

「はい」

 ベネディクトに代わり宰相の息子でバージヴァルの側近の一人。
 オスニエル・クロウリーが引き継ぐ。
 オスニエルが指名したアナスタージアの証言者の一人キャロライナは、彼の婚約者。

「君も平民出身であるミッシェルに対し、貴族にあるまじき行為をしていたそうだな」

「何のことでしょうか?」

「私はミッシェルが教科書を抱えて涙を流しているところに遭遇した事がある」

「そうなのですか?」

「平民にとって教科書を購入する事が容易ではないと知り、彼女の教科書を盗んだり破損させたりしていたのだろう?」

「……私がですか?」

「立ち去る君の横顔を見たとミッシェルが証言している」

「私の横顔を見たからと言って、私が関わっている証拠にはなりませんよ」

「……頭の回転が速いな。それだけじゃないだろう? 倉庫に閉じ込められた現場付近でもキャロライナの姿を目撃されている」

「倉庫に閉じ込められたのですか? それはいつでしょう」

「一カ月程前だ」

 一カ月前ではなく、一カ月程前。
 オスニエルは断定していない。

「正確な日時は分からないのですね。では、私も自身の無実を証明する事は難しいですので発言は控えさせていただきます」

「……そうだな。だが、ミッシェルを助けたという人物はいる。後に正確な日付で君の行動を確認させてもらう」

「えぇ。構いませんわ」

 オスニエルからキャロライナへの追及はこの場で継続は出来ないと判断し終わった。

「アナスタージア。君の無実の証人だが、令嬢二人に怪しい点があるため証言を採用することは難しい」

「そうですか……私からすると、バージヴァル様は私達の証言など関係なく結論を既にお決めになっているように思えるのですが」

「そんな事あるわけがない」

「では、私達の証言も念頭に置き結論付けるのですよね?」

「勿論だ」

「では、それはこの場には相応しくありませんので……」

「いや、答えは出た。アナスタージア・オールディントン、君との婚約は解消させていただく」

 アナスタージアの言葉を遮りバージヴァルは宣言する。

「ジョージアーナ、俺も君との婚約は解消させたもらう」

「キャロライナ、私も婚約解消をせざるを得ない」

 初めから決まっていたように次々に婚約解消を宣言する。

「……やはり、結論は既に決まっていたのではありませんか?」

「そんな事はない。君達三人が『平民』というだけで、ミッシェルを苦しめ続けていたことは確かだ」

「全て私達には身に覚えがないと告げたはずですが」

「君たちの発言を考慮した上での判断だ」

「……どうして、そんなに私との婚約解消を急ぐのですか? まるで、他の方との婚約を考えているように見えますね」

「なっ……確かに僕はミッシェルとの婚約を視野に入れているが、疚しいところなど無い」

「……そうですか、それはデイヴィーズ様とハトルスローン様もでしょうか?」

「あぁ、騎士に誓って」

「私も王家に仕える者として自身の言葉に責任を持とう」

「そうですか……では、私達から確認をしてもかまいませんか?」

「「あぁ」」
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない

あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。 王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。 だがある日、 誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。 奇跡は、止まった。 城は動揺し、事実を隠し、 責任を聖女ひとりに押しつけようとする。 民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。 一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、 奇跡が失われる“その日”に備え、 治癒に頼らない世界を着々と整えていた。 聖女は象徴となり、城は主導権を失う。 奇跡に縋った者たちは、 何も奪われず、ただ立場を失った。 選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。 ――これは、 聖女でも、英雄でもない 「悪役令嬢」が勝ち残る物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

さようなら、私の初恋

しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」 物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。 だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。 「あんな女、落とすまでのゲームだよ」

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】ご期待に、お応えいたします

楽歩
恋愛
王太子妃教育を予定より早く修了した公爵令嬢フェリシアは、残りの学園生活を友人のオリヴィア、ライラと穏やかに過ごせると喜んでいた。ところが、その友人から思いもよらぬ噂を耳にする。 ーー私たちは、学院内で“悪役令嬢”と呼ばれているらしいーー ヒロインをいじめる高慢で意地悪な令嬢。オリヴィアは婚約者に近づく男爵令嬢を、ライラは突然侯爵家に迎えられた庶子の妹を、そしてフェリシアは平民出身の“精霊姫”をそれぞれ思い浮かべる。 小説の筋書きのような、婚約破棄や破滅の結末を思い浮かべながらも、三人は皮肉を交えて笑い合う。 そんな役どころに仕立て上げられていたなんて。しかも、当の“ヒロイン”たちはそれを承知のうえで、あくまで“純真”に振る舞っているというのだから、たちが悪い。 けれど、そう望むのなら――さあ、ご期待にお応えして、見事に演じきって見せますわ。

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

処理中です...