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二章 ハーレムルート

アレッサンドロ ギノフォード

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フィンコックが獣人になった事で本格的に獣人について調べ始めた。
学園の図書から王都にある国内最大の図書館にも通ったが、獣人と貴族の恋愛物語ばかりで獣人については不明だった。
父の伝で魔法省や獣人を研究している学者に会ったが、やはり詳しくは分からず終い。
最後に獣人研究家に会おうと決めた時、偶然にも残酷な事実も知ってしまった。
過去のペア決めを担当していた教師の日記を見付けてしまい、失礼にも中を確認したことで分かった真実。

日記はかなりの年代物で持ち主の名前などは記されていなかった。
十年・二十年ではなくもっと昔のもの…。
退職した教師のものは本人や家族に返されるのだが、何故か厳重な保護魔法を掛けられ残されていたので誰も気付かなかったのだろう。
つい魔法バカの血が騒いでしまった。

他人の日記を見る趣味はないが持ち主の血縁者に返すために最後のページを捲った時におかしな魔力を感じ、魔法に引かれ他のページを見たが何も書かれていなかったのを不思議に思い調べることにしたのが切っ掛けだった。
それがまさかの事に繋がった。

日記に書かれていたのは、異常な程の獣人への愛情と執着…それと…。

始めに書かれていたのは百年前の獣人に恋をした男の恋心だった。
見るのも恥ずかしいくらいの純粋な思いが語られていたので、あまり読んではいけないとページを捲っていくと文字の雰囲気がかわりはじめた。
読むと獣人は運命の相手を見つけ結婚したと書かれていた。
日記の持ち主が振られてしまったのを私は勝手ながら読んでしまうが、そこから日記はおぞましい程の言葉が綴られるようになった。
二人への祝いの言葉ではなく獣人が選んだ相手を呪う言葉。
執念・怨念が文字から伝わってくる。

不快に思うも私はページを捲り続け、そして彼は幸運な出来事が起きたと言いながら不幸な内容を書いていた。
それは、獣人の愛した人間が亡くなったと…。 

理由は………。

それから獣人は愛した者を追うように何度も自殺を繰り返したので、側で見守る事にした…。
相手に嫌われてもいつか振り向いてくれるはず…例えそうでなくても生きていてほしい…。

だが…男が取った行動は…。

あまりの内容に言葉を失った。

そして、男の日記は別人のような内容に変わった。

それは、この日記を拾ったか想いを引き継いだ者だろう。
最後の獣人を幼い頃に目撃した男の思いが綴られている所から始まった。
獣人に憧れ再び会いたいと…。

会いたい、会いたい、会いたい、会いたい、会いたい。

男はその強い思いから獣人研究家の一員となった。
そして、その男が行き着いた研究が…

獣人化の遺伝子を持っている人間をリスト化し、囲い込み獣人を作ることは可能なのか?

と言うもだった。
そして、人体実験場として選ばれたのが学園だった。
あの日学園で偶然獣人研究家達に会ったのは、ペアの授業で行う獣人検査用の媚薬を運んできていたのだ。
獣人の遺伝子の強い者に飲ませれば自白や催淫の効果が現れる。
ペアの授業の内容は全てが、獣人の色濃い遺伝子をを見付けるためのもの。
最低限行為を行うのも、本人が予期せぬ出来事に獣人となった事を隠し逃げるのを避ける為にペアがいち早く気付き報告させるシステムだった。
それに加え、獣人は人間より性欲が強いので性行為で獣人の遺伝子を刺激し本能を呼び覚ます目的も有ったようだ。

確かに今思い返すと、ペアを断り続けていたフィンコックがサンチェスターとペアの行為をするようになると別人のように変わりだし、そこに薬が加わった事で獣人になったように思える…。

日記には抱かれる側だけでなく、抱く側にも別の方法で調べられていたようだが詳しく記されていなかった。
抱かれる側のが獣人に成りやすいと根拠もなく書かれていたからだろう。

私の学生の頃からある学園規則に対して露ほども疑問を持つこと無く生徒に指導してきた事は、学園に在籍している者達の許可を得ていない人体実験だった。
教職に就いている全ての人間が知っている事実ではなく、獣人について研究している者や、魔力の高い限られた高位貴族が中心となり密かに研究が行われていたらしい。

この事を学園長が知っているのかは不明だ。

ペアの授業が出来たのは十年・二十年前ではなく、もっと昔からあるもので今の学園長は引き継いだに過ぎない。

その時どれ程詳しく引き継がれたのか…。

今の学園長は尊敬でき生徒を大事に思う姿を見てきたので疑いたくはないが疑念が生まれたのは事実。
今後相談できる相手は当事者のフィンコックの家族と私の家族となった…。
婚約者であるサンチェスター家も獣人研究家達と関わっていないことを祈るしかない。
サンチェスター家は代々辺境という事もあり王都の闇に関わって…いな…いでほしい。
当然だがギノフォード家もこの事実については寝耳に水だった。
我が家にはそのような文献も無ければ獣人について話したこともない。
父に獣人について尋ねた時も、興味が有るようには感じなかった。
父は私と似たと言うより、私も父に似て魔法にしか興味が無い人間だった。

日記によるとペアの授業などで獣人化しやすい人間と確認し証明されると、研究家達に何処からか報告が行き実験とは言わずに、優雅な暮らしや爵位を保証すると言いくるめ彼らを研究棟に隔離していたようだ。

下位貴族や平民は、優雅な暮らしが出来ると囁かれ喜んで被験者として協力していた。

…その後は研究棟の彼らの領域となり日記の所有者まで実験結果が報告されることは無かったらしい。報告できることが無かったのかもしれない。被験者となった者達の名前は記されておらず番号で書かれていたので、彼らが今も生きているのか子孫が無事なのかは不明。月日が経ちすぎていることや名前等は書かれていない、更にこの日記も誰の物なのかも分からない以上調べることは不可能だった。下手に調べてしまえばフィンコックの情報がより早く伝わるようで動けずにいた。

私は、貴族達の魔力の高い子孫を残す事が第一優先という考えに賛同もなければ否定もしない。その事に対し疑問を抱いたことは無く、そういうものだと受け入れていた。

その為に魔力の高い者は魔力の低い者と結婚し子をなす。
子供が出来る出来ないで愛人を作ることもあれば、子供の魔力が低いと分かり、愛人を作ることもある。
子供が産まれるだけでも奇跡だというのに、人は更に高望みをしてしまう。

そんな貴族達が獣人に目を付けた。

獣人の力が有れば二人の「優秀な部分を持って産まれる」と語られているからだ。
純粋に相手を望むのではなく、己の利益のために獣人を望む彼らの考えは理解できない…理解したくないモノだった。

彼らは獣人を人と見なしていない。

魔道具が進化すれば子供は産まれやすくなると言われ、獣人の力を頼れば互いの優秀な遺伝子の子供が産まれる。
今のところ魔道具の進化は完璧なものではなく、獣人についても…伝説の生き物になりつつある。
どちらも不完成であれば、どちらも研究を進める…。

そして獣人研究者達と魔力の高いものを欲する一部の貴族達が一つの結論に辿り着いた。

獣人をどうにかして誕生させることは出来ないか?

獣人化の可能性が有るものに色濃く反応する薬、それがあの媚薬検査だった。
過去の記録によると獣人は人間よりも敏感で、媚薬に対して過敏に反応する。

私の学生の頃から媚薬の検査は存在していたし私もペアに与えたこともある。
当時の教師には「子を宿しやすい者ほど、効果が出やすい」と説明を受けた。
どの生徒もそうだが、学園入学前に家庭教師や両親からペア授業が有ることを教えられる。
親や家庭教師の言うことは正しいと刷り込まれて育ってきたため、彼らの言葉を疑うことはなくペア授業に対してもそういうものなんだと受け入れた。

大半の人間は睡眠効果が現れ、自白は学年に一人現れるかどうかで、媚薬…今は生徒に催淫の効果と伝えているがその反応が出るものはかなりの希少と言う教師の言葉を疑問もなく受け入れていた。

媚薬や自白の効果が現れた者はどこからか聞き付けた獣人研究家に引き抜かれれていたらしい。
平民や下位貴族だった場合、獣人研究家は媚薬効果が現れた者をより多くの相手と掛け合わせ子供を生ませ、更に生まれた子供を研究材料にしていると日記に記されていた。

なんとも胸糞悪い実験に苛立ちを覚えたが、獣人研究家達に協力している貴族などは不明の為、私一人で太刀打ちできるものではないことを知る。

これがペア授業の秘密。

こんな重大な事が隠されているにも関わらず、過去には中途半端な噂を聞いた者が、薬の検査の情報を入手し媚薬の演技をする者が現れたらしい。

その日記には媚薬や自白の効果が出た者は、子供が出来やすいので結婚に有利に働くと親から聞いた者による愚かな犯行と書いてあった。
その後も親の指示か本人の意思かは分からないが、平民や下位貴族が演技したり薬の検査前に媚薬を飲んで授業に挑む者が現れた。と、綴られていた。

愚かな行動を起こした者のその後は、相手の意向により嘘がバレること無く運良く結婚し獣人研究家達に囲われることを免れた。
それでも諦めきれない研究家達は彼を監視対象として目を離すことはなかった。
一年経っても彼に子供が出来ない事に疑問を持ち、研究家達が偶然を装い当主に近付き学園で服用したのと同じ薬を渡した。
渡された男も結婚相手に不信感を持ち始めていたので薬を服用させることにすんなり同意する。

試した結果、睡眠の効果が現れ愚か者の嘘がバレてしまった。
その後研究家達は彼らから距離を置き、当の本人達は離縁することはなかったが、騙されたと気付いた当主は愛人を作り相手に子供が産まれた。
騙した男は、惨めな暮らしを強いられ結果自殺したと書かれていた。
それから演技をする愚か者が現れないよう、宿す側には決して耳に入らないよう徹底し投薬予定も薬自体も厳重に管理された。
薬の検査は一年になるのか二年になるのか三年になるのかは学園長次第ということにもなった。

この当時の学園長は完全に研究家達と繋がっていた。

今の学園長は…薬の受け渡しなどで研究家達とも少なからず接点はあるが、学者達を頻繁に学園に招いているように見える…ただの情報収集の為かもしれないが。

この事実はフィンコックに伝えるべきなんだろうが…残酷すぎる内容に躊躇ってしまう。

タイミングを見て…と言う名の先送りにした。
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