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二章 ハーレムルート

アレッサンドロ ギノフォード

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フィンコックの家族がやって来た。
依然来た時は、まだフィンコックは目覚めておらず漸く再会出来るようになった。
やはり思った通りフィンコックが獣人化したことは貴族に伝わり、愛人候補にと多数の身上書が届いていた模様。
その処理に時間が掛かり目覚めたと聞いてすぐに駆けつけることが出来なかったようだ。

夫人は昨日一人で訪れるつもりだったが、領地にいた公爵と令息に「フィンコックが目覚めたら必ず家族揃って」面会に行く事と強く強く告げられていたらしい。
家族に会えたフィンコックは安心したように泣き出した。
私の時とは別の涙に思える。
家族にまで嫉妬してしまう醜い己が嫌になり、この場にいるのが辛く私は席をはずした。

家族水入らずの余韻を残したまま、私も授業に向かった。
食事を運ぶのは私でなくても良いのだが、私は誰かにその役割を譲るきはなかった。
昼食を終え学園に戻る際、フィンコックは何処となく沈んでいるように見えたが私は部屋を後にした。

「にゃーんにゃーんにゃーん」

微かに聞こえる悲しげな鳴き声。
鳴き声を振り切り私は授業に向かった。
もし、私の名前を呼ばれていたら私はあの部屋に戻っていただろう。
私は私の思いを断ち切るために、ある人物に声を…。

「ギノフォード先生」

先に声をかけられた。
向かいからブルーアッシュの髪色に赤いピアスの生徒が近付いてくる。
ピアスの色は最も得意とする属性を表し、いざという時のために魔力をためることが出来るものだ。
魔力の高いクラスの者は全員付けている。
魔力の低い者は、ピアスに魔力を奪われる危険がある為付けていない。

「どうしましたサンチェスター」

「シャル…フィンコックは…」

サンチェスターの言葉に周囲にいた生徒が一気にこちらを意識しだしたのを感じた。

「談話室で話しましょう。」

この場で、他の者達にフィンコックの様態を聞かれるのはよろしくないと判断した。
愛人候補が絶えず、当分の間は身上書が届けられる毎日だろう。
家族に正当な手順を踏みつつ、本人との関係を結んでしまえば断ることが出来ないだろうと多くの生徒がフィンコックが今現在何処に監禁・保護されているのか探っていた。
そして、知っているとすれば婚約者のライアン サンチェスターと教師数名だろうと常に張り付き聞き耳をたてていた。

「サンチェスター…冷静でいられないのは分かりますが、今のは良くありませんでしたね。」

「………すみません。」

「フィンコックを思えば尚更気を付けてください。」

「………はぃ。」

フィンコックを心配するのは分かるが、今回のように周囲を警戒できていないようでは会わせるのは危険だ。

談話室には盗聴防止が掛けられていたが、念のため風魔法で私達の声を遮断した。

「フィンコックは先日、目を覚ましまた。」

「ならっ」

身を乗りだし食いぎみで口を開く姿は、大人びた見た目であってもまだ子供なのだと実感する。

「サンチェスター、焦らず聞きなさい。」

「………すみません。」

「獣人化したことで、情緒不安定な状態です。ですが食欲も有り、体力も回復しつつあるので今は様子見です。このまま問題なければ寮に戻り授業に参加できるでしょう。」

「……そうですか…。」

「フィンコックの面会が許されるようになればこちらから合図を送ります。決して周囲の者に気付かれないようにしてください。」

「はい。」

「フィンコックですが獣人化したことで話す事が出来なくなり、今は猫のように鳴くことしか出来ません。それに獣耳と尻尾があり、本人は突然の獣人化でそれらを視界にいれないようにしています。面会した時には、それらの事には気を付けてください。」

「……はぃ。」

「…貴方は平気ですか?」

「俺は…平気です。」

「貴方は伯爵家であり、魔法に関しても優秀ですので問題はないでしょうが油断してはいけませんよ。」

「はい。」

「分かりきっているとは思いますが、貴方が婚約した相手は公爵令息であり王族の婚約者筆頭候補でした。そこに百年ぶりの獣人というのも加わりました。誰がどう行動するか分かりませんよ。」

これは脅しているわけではなく事実。

「はい、分かってます。」

分かっていない。
学生が想像できない手段を取るのが醜い大人だ。

「酷なことを言いますが、今まで仲の良い友人であっても今後もそうだとは限りませんからね。」

人間不振になるような言葉を吐いた。

「………はぃ。」

「……フィンフィンコックも…貴方に会いたがっています。」

飴と鞭のように彼を翻弄してしまった。
伝えたくはなかったが、私が教師であると言うことを思いだした。
教師である私が感情に振り回され、生徒を追い詰めるわけにはいかない。
相手に思いを告げる気もないのに、嫉妬するのは間違っている。

フィンコックを幸せにしてくれ…。

「はい」

…彼のタイミングのいい返事に驚くも、何処か安心した。
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