64 / 74
2章:運送テイマー(仮)
64話:チャラいシルフの男
しおりを挟む中央付近にあるベンチで一休。
色々周ってわかったのは、この村には貨幣制度や金を扱った経済的なものが無いことだ。
狩りをする者、料理をする者、加工する者、耕す者……といった感じで、村人全員にそれぞれの役割が与えられ、全員が全員のために働いているようだ。
子供たちも大人に仕事のやり方を教わり、小さいながらもしっかりと働いている。
育児も家庭に縛られず、子持ちが集まって助け合っていた。
ここは村一つが大きな家族みたいなもんだな。
トップの村長が私腹を肥やしてるという感じもないし、あのシルフがそれを許すはずもないだろう。
他種族が入り乱れている中でこのシステムが機能してるのは面白い。
まぁ今は平時ではないし、シルフという、獣人たちからすれば絶対的な力を持つ者が上にいるんだ、争ったり悪事を働く余裕なんてないだろうし、今はまだ問題なさそうだが……。
いつまでコレが平和に続くか気になるところだが、俺はいつまでもここにいるわけにはいかない。
それから飯の時間になって呼ばれて、俺たちは端でひっそりと飯を頂いた。
黒いパンに野菜と肉の入ったスープがメニューだ。
スープは鶏ガラや野菜を煮込んで使ったものなのか、なかなか美味く、ジェニスも興味を持っていた。
黒いパンは……硬いし美味いとは言い難いが、食えるだけでありがたい。
そうして昼飯を終え、半分ほどの獣人たちとここで別れて、シルフの村から出発した。
残り十三人の獣人たちを連れ、シルフの話していた南へと向かっている最中だ。
空は曇ってきているな……雨が降らなければいいが。
「この先が話していたシルフの領域になります」
ラーダのナビでやってきたが……暫く進んだところで景色が変化した。
「この辺りも酷い有様だな」
霞の言う通り、木々は乱雑に倒れ、黒ずみになった物が目立つ。
この先にシルフがいるらしいが、本当にいるのか……?
「本当にいるのかしらぁ?」
アトラが怪訝そうにしているが、いるなこれ。少し進んだ先は何事もないように綺麗だ。
見えない壁に守られているように被害を受けていない。ということは……。
「どうやらこの先は結界があるようだ。ベヒーモスたちはまたここで待機だな」
「ブモ」
見えない壁の向こうには奇麗な草原が広がっている。
人の気配は無さそうだが、村はないのか?
「エリザベスはまたベヒーモスたちを頼む。アスラ、進んでくれ」
とりあえず進んで何があるかを確かめよう。
見渡す限り広い草原だ。遠くでは動物が草を食べたり寛いでいる。
平和なエリアだが、それはつまり……この平和を作り出している強者がいるってことだ。
それがここにいるシルフなんだろう。
「なんだかおかしな場所だな」
「おかしな場所?」
「魔力が濃いというのか、辺り一面濃い魔力が飛び回っている」
「そうなのか。俺には全くわからん」
霞はああ言っているが、俺には何が変わったのか全然分からない。
濃い魔力が飛び回っているっていうのは気になるところだな……。
「主」
「あぁ……」
霞の視線の先に、寝ている何かがいた。
俺たちに気づいたのか、起き上がってこっちを見ている。
それは空を飛んで近づいてきた。体つきからして男のシルフのようだ。
肌が関西弁シルフと同じ黄緑色で、蒼い髪のロンゲ野郎だな。
一目見て分かった。こいつはチャラ男だ。
「ふぅん、お前さんたちイイね。俺と遊ばないかい?」
「はぁ?」
アトラの言葉には苛立ちが含まれている。
剣呑な雰囲気だが、こういう場合の遊ぶは間違いなく戦闘――きたっ!!
シルフの指先から丸い何かが発射された――が、霞が水の壁で防いだか。
すかさずアルが風の魔法を放ったが、シルフの男はひらりとかわした。
続けざまにアルが魔法を放つが、あたる気配はない。
「あのシルフ、動きが早いな」
霞の言う通り、アルの攻撃を余裕でかわしてやがる。まるで遊ばれてるみたいだな。
「へぇ、お前さんたちやるねぇ! それじゃあこれはどうかな!?」
シルフが両手を前に出して大きな縦向きの風の刃を発射したが、あの程度ならアルも容易にかわせるはずだ。
一直線に飛んでくる風の刃をアルは横に飛んで避けた――が、
「……くっ!?」
風の刃を確かに避けたはずだ、なんでアルが吹き飛ばされた!?
「厄介だな。風魔法は見えない空気を操ることもある。つまり刃は囮で、本命は見えない攻撃のほうだったということだ」
「マジかよ……」
霞の解説で何が起きたのかを理解した。
見えない攻撃なんて避けようがないだろ。どう攻略すればいいんだ……待てよ?
「見えない攻撃でも、それが魔法なら魔力を帯びてたりしないのか?」
「主は冴えているな。そうだ、魔力を感知していれば避けることも容易だ。アルもそれはわかっているだろう」
「……わかっていて避けられてないってのか?」
「そのようだ。あの一帯にシルフは魔力を漂わせている。その魔力は常に高速で動き続け、攻撃との区別ができていない」
さっき霞が言っていた、濃い魔力が飛び回ってるというのはこういうことか……!
アルが右に左に、上に下にと縦横無尽に飛ばされ続けている……。
「なんだお前さん、大したことないな!!」
「ぐうッッ……」
クソッ、どうすればいい……?
何の策もなく霞を向かわせても同じ目に遭うかもしれない。
遠距離攻撃で援護させた場合、アルを盾にされる可能性がある。
……決戦スキルを使うべきか? いや、ここは使うべきタイミングではない。だが――
「そろそろか」
「いつまで遊んでるのかしらねぇ」
「は?」
霞とアトラは何を言ってるんだ? そろそろ? 遊んでる?
「――遊びは終わらせてもらう!!」
アルの言葉と共に、シルフの周囲に無数の剣が現れた……?
「へぇっ!」
その無数の剣にシルフが襲われ、身動きが取れなくなっている。
あれは……魔力で作った風の剣か?
数えきれないほどの無数の風の剣に襲われているシルフは、身動きができないまま体を切り刻まれていく。
「散々好き放題してくれたな……今度はこちらの番だ!」
「ま、待った、降参、降参だ! そこのお前さん! 助けてくれ!!」
シルフが降参を口にしながらこっちに助けを求めている?
「勝負ありだな。アル、そこまでにしてやれ」
「はっ!」
霞が全てを理解しているような口ぶりだが……こうなることを見越していたのか?
シルフの様子からも、まだまだ余力を残してるように見えるが、意外とアッサリと引いたな。
やはり油断はできない相手だ。
1
あなたにおすすめの小説
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる