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2章:運送テイマー(仮)

63話:シルフの村の内情

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 さて。村の中を見学するとは言ったが、まずどこから行くか……。

 村長の家を出たところで周囲を見渡すが……やはり広い。
 
 目の前には大きな広場がある。周りの建物の向きから、円形の広場に見える。

 その広場に沿って家がまばらに建てられているが、その家の後ろにも多い。

「賑わっておるな。まるで憑き物騒動が嘘みたいじゃ」
 アスラが中央で騒いでる獣人たちを見て口にした。

 中央で獣人同士が戦っているようだが、雰囲気からして喧嘩ではないようだ。
 周囲のギャラリーも煽って盛り上げている。

「あれはガス抜きだろうな」

「ガス抜きかー」

「特に娯楽も無さそうだし、戦うことが娯楽の一つになってるんだろう」
 霞の言う通り、娯楽という娯楽はここにはないだろうし、道具も何もいらない素手同士の喧嘩なら、ちょっとした娯楽になりうるようだ。
 ジェニスは一瞬興味を惹かれていたようだったが、すぐに興味を失っていた。料理以外にはあまり興味が無いのかもしれないな。

「あれが娯楽か。わらわには理解できぬな」
 アスラが呆れるようにぼやく。俺も半分霞と同意見だが、半分はそういうもんだと理解している。
 
 古代でも現代でも、戦闘行為というのは人を熱狂させるものだ。
 目の前で起きていることは審判付きの試合であり、殺し合いじゃない。
 だからやつらも安心して見られるんだろうな。不慮の事故が起きないといいが。

「私も行ってきていいかしらぁ!?」
「駄目だ」

「えぇ~……」

「お前じゃ相手が相手にならないだろ」

「キョータローがそう言うならやめておくわぁ……」
 しょんぼりとガッカリしているが、流石にアトラを行かせるわけにはいかない。不慮の事故が多発しそうだからな……。

「仲間同士で戦って競い合い、高め合う、か……」
 霞が何か考えるように試合を見ているが、何か思う所でもあるのか?
 大精霊は基本的に一人だから、誰かと何かをするということはなかったろうしな。
 霞が誰かと何かするにしても、もう一人大精霊クラスがいないと手に余るだろう。

 変わり者のシルフか……面倒事無く仲間になってくれればいいけどな。

 ふと中央以外の外側に目を向ける。
 
 中央広場前に並んでいる建物は、店らしきものが多いように見える。その裏に民家という区分けになっているのか?
 
 難民ばかりでまだ生産性のあることは出来ていなさそうだが、この中央で食料や武具を売っているのか?

 よく見てみると売ってるようだ。ソーセージのような物が吊るされているのが見えた。

 ……売ってるってことは、経済が成り立っている?
 気になるな、寄ってみるか。

 肉の絵の看板がある小屋まできたが、両隣、更にその両隣も同じ看板がついている。
 かなり大規模な店……いや、一つ一つが独立した店の様に見える。

 建物自体は木造で作られた簡単な小屋だが、外観の装飾やパターンが異なっているようだな。

「主様、なんぞ睨まれてるようだぞ?」
 アスラの指摘で、目の前の店番している獣人を見ると、物凄い剣幕で俺たちを睨んでいるように見えた。

「なんで睨まれてるんだ? 何かやったか?」
 アトラ、霞、アスラ、ジェニスを見るが、全員首を横に振っている。

「大将、もしかして人族に反応してるんじゃないか?」

「……そういうことか」
 ジェニスの指摘で察した。ダークエルフの村でも、俺を敵視してるように睨んでいたダークエルフがいた。
 つまりここでもそういうことなんだろう。
 経緯はなんであれ、人族の姿をしている俺やアスラの姿を見てああなったのか。

「何かしらぁ? 何で睨んでるのかしらねぇ……?」
 アトラはすーぐ臨戦態勢に入る。

「どおどお。落ち着けアトラ」
 薄々感じているんだが、もしかしてアトラは従魔の中で一番好戦的なんじゃないか?
 狂犬ならぬ凶蜘蛛か……こりゃ目を離せないな。

「ふぅむ。であれば、ここは私が出よう」
 霞が代表して前に出た。霞ならウンディーネであり、シルフと同じ大精霊だから、敵視されることはないだろうな。

「じゃオレも聞いてみるか」
 ダークエルフであるジェニスも前に出る。二人に任せてみるか。

 店のほうを見ると、俺たちを睨んでいた獣人たちが、霞にはペコペコと頭を下げていた。
 やっぱ霞がいると話が早くて助かるな。

「主様一人で出歩いていたら、あっという間に殺されてしまうかもしれないのぉ」
「……」
 アスラが楽しそうに話しているが、俺は全く楽しくないんだが?

「そうねぇ、だから出歩くときは必ず私を連れていくのよぉ?」
「……」
 アトラはアトラで、妖艶な眼差しで俺を見てくる。

 ……一癖も二癖もある女たちに囲まれて、物凄く居心地が悪い。

 男。男の仲間が欲しい。アルは……アトラたちには頭が上がらないだろうし、アトラたちに囲まれればストレスで羽が禿げてしまいそうな気がする。

 やはり早急にシルフの男を仲間にするべきか。

 ……いや待て。関西弁シルフ曰く、アトラは大精霊を殺せるとか言ってなかったか?

 もしアトラが仲間にしたシルフを邪魔に思ったら……。

「…………」
 考えるのをやめよう。

 霞たちは一通り会話が終わったのか、二人とも戻ってきた。

「大将、アイツら人族の軍隊に襲われて、この森に逃げてきた奴らみたいだぜ」

「そりゃ人の姿をしてる俺たちを睨むわけだ。でも何で人族に襲われたんだ?」

「どうやら奴隷狩りらしいな」

「奴隷狩りか……」
 ジェニスと霞が話を聞いてきてくれたが、あいつらは人族の軍隊の奴隷狩りから逃げてきた獣人だったわけだ。
 カテゴリー的には人族な俺や、見た目が人族のアスラが睨まれるのも仕方ない。
 襲ってこないだけマシだが、普通に考えれば、ここにいる人族が普通の人族じゃないと気づくと思うんだが、そう考える余裕もないのかもしれないな。

 にしても軍隊で奴隷狩りか……この危険と言われてる森にくるってことは、どこかの国が動いてるのか?

 流石に一企業とか、この異世界なら商会か? が、こんな危険な森に入ってまで奴隷を集めるか? ……金になるなら集めるか。それが商人だろうしな。

 もし国だった場合だが、俺を召喚してここに棄てた、あの国の可能性があるかもしれない。
 
 ……いや、それは考えにくいか。奴隷狩りするくらいだ、俺を棄てるよりも奴隷にしたほうが効率的なはずだ。つまり違う国が行っているとみるべきか。

「大将、このヤキトリってやつ美味いぞ」
 そう言ってジェニスが手に持っている串を見せてきたが……ヤキトリ?
 この異世界にもヤキトリなるモノがあるのか。あるいは俺みたいな異世界人が広めたか?
 見た目はまんまあのヤキトリだ。串に鶏肉が刺さって焼かれている。

「まさかこの世界にもヤキトリがあったとはな」
 ジェニスからヤキトリを受け取る。見事なヤキトリだ。味付けは塩か。
 タレか塩かで分かれるが、あまりヤキトリを食わなかった俺には特にこだわりはない。

「ん? 大将はヤキトリを知ってるのか?」

「一応な」

「へぇ、じゃあ今度教えてくれよ!」

「教えるったって、鶏肉切って串に刺して焼くくらいだろ……まぁ塩の他にタレを使った味付けや、あいだにネギを挟んだネギマとか、鳥の皮を使ったトリカワとか、部位ごとに違ったりするくらいしか俺は知らないぞ」

「じゃあ今日作ってみるか!」

「鳥が手に入ればいいな……」
 料理人のジェニスには良い刺激になったみたいだな。これだけでもついてきた価値はあっただろう。

 ヤキトリか……美味いな。これだけで地球世界を思い出してしまった。

 あぁ、早く帰らないといけないな。
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