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8の扉 デヴァイ

白の家へ

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何故だか。

自分が金色の腕の中に居るのが、分かる。


しかも、きっとここはぬくぬくとした私の、ベッドで。

最早懐かしい感覚、いつまでも目覚めたくないこの時間。

丁度いい体温、包まれてはいるが重くはない腕、いつもの匂い。
多分、これは「匂い」では、ないのだろうけど。

空気なのか、色なのか、兎に角自分に溶け込みよく馴染む感覚に更に深く身を沈めようとしてふと、気が付いた。

今は、朝だろうか。


目を開けるのは、面倒だ。

だって、明るければ起きなければならない。

確か、今日は?

「白の家へ、行く」

そう、ウイントフークが言っていたのでは、なかったか。


えー、面倒くさいなぁ。

まーた、硬っ苦しい場所へ行って大人しく座ってなきゃいけないの………?

白………?
白って、何を扱ってるんだろうか。

何か、楽しいもの、あるかなぁ………。


無意識にぐりぐりと懐に潜り込もうとしていたらしい。

「コラ」という言葉と共に、胸元から取り出されてしまった。


うっ。
眩しい。

なに?
朝から何でそんなにキラキラしてる訳?

止めてくれないかなぁ………。


久しぶりだからか、なんなのか。

やたらと眩しく見える金色は、そんな私の反応を心配しているのだろう。
少しだけ陰りのある色で、こちらを見ているけれど。

覚えの無い寂しさと、謎の安心感、複雑な自分の内部に思いを巡らせながら金色を観察する。

そんな私の中を、見透かす様に。

じっと、見つめてくるのは何故なのだろうか。

今日、急にここに、こうしている事と。
何か、関係があるのだろうか………?



うっ。

キラキラに負けて、再び懐へ逃げた。

きっとその様子で具合が悪い訳ではないと思ったのか、黙って私を受け入れいつもの様に髪を梳き始める。

これはこれで、また。

眠く、なるんですけど………??


それに、何故今日に限って彼がここに居るのかが、分からない。

昨日?
昨日は確かパミールとガリアが遊びに来て、婚約の事アレコレ聞いたのと………それか?!

いや、無いな。

今日白の家へ行くから?
でもそれ、あんまりこの人に影響無い気がするんだけど。

うーーーん??

全然、分かんない。

それなら。

ま、いっか。


兎に角この包まれた空間で、更に髪まで弄られている私に思考能力はほぼ、ない。

すぐに都合良く思考を放棄した私は、そうした事によりふと、気が付いてしまった。


考えるのを辞めるのが、楽なこと。

諦めて始めから任せてしまえば、それが楽になって。

最後には、自分で判断ができなくなるであろう、こと。


あの、禁書室でウェストファリアと話した時。

「私は特殊」で。
「枠の中」が、普通ではみ出す事など考えもしない人がいるという事を話した。

その時は、全く分からなかったその考え、生活、環境のこと。
アラルが言っていた「何一つ、不自由は無いの。自分で決められないだけで。」と、言っていた意味。

その、自分の中で疑問だった部分がカチリと嵌ったのだ。


えーーーー。
これ?

これなの?

なんで、どうして?って、思ってたけど。


入り口は、存外近くに、あった。

当たり前の様に、私の目の前にも。

それは、ゴロリと横たわって、いたのだ。


いや、別に金色が「それ」な訳では、ないのだけれど。

チラリと目をやり、眩しさにまた胸の中へ戻る。


でも、成る程。
これがよ、まあ子供の頃から「母親」や「父親」であったり、周りの人間であって。

優しくされること、気持ちよく整えてくれること、包まれている温かさと心地よさ、それを失くして一人で歩く事のメリット、とは。

嫌なこと、痛いこと、辛いことなんて。

そりゃ、無いに越したことはない。

「それ」を、するのか、しないのか。

どちらが良いのか、どちらが「自分」のために、なるのか。

子供には、分からないだろう。
そんな事を考えもしないに違いない。

「それ」を考え、実行するのかしないのかは親の責任なのだ。



「………ふぅん?」

全てが。

な訳では、ないのだろうけど。


なんとなく一つ、解った気はしてその解答を自分の中に仕舞っておいた。

必要な、時が来れば。
きっと判断材料の一つとして、加えればいいだろう。

何でも、バランス良く。
良い、悪いなく、全てを混ぜて、ふるいにかけて。
こねて、整形して、この焔で焼いて浄化して。

最後に光の下で、みんなで、美味しく、食べれば。
きっと、いい、よね………?


「なんか、話がズレてきたな………。でも、きっと美味しく食べれば。それでいいのよ、うん。」

「何を、言っている。」

でも、私の言う事がおかしいのは、ある意味普通なのだ。

その声に、疑問に思う色はない。
ただ私に降り注ぐ気持ちのいい声を堪能して、起きる準備をする。

そう、チャージをして今日も一日、頑張るのだ。

なんたって、外出するからね………。

楽しみでも、あるけれど。
不安がない訳では、ないのだ。


「あ。」

きっと、バレたに違いない。

ポン、と取り出された私はそのまま近づく金色の美しさに負け、目を閉じた。


寝起きなのに、狡い。
いや、この人寝てないからか………。

そうして私の乙女心を知ってか知らずか。

いつもの様に、出かける前たっぷりの金色を注ぎ込まれたので、ある。

うむ。









「随分と。気前よく、撒き散らしてるじゃないか。」

揶揄う様にそう言って、足元に纏わりついてきたのは千里だ。

「ちょっと、いきなりは踏みそうになるから止めて?危ないよ?」


青の廊下を朝食に向かう途中、つらつらと考え事をしていた私。
シリーはきっと、もう朝食を済ませたに違いない。

私は今日、のんびり………。
あばばばば…。


「まあ、その方がいいからな。」

「そりゃお前にとっては、そうなんだろうが。まあ、俺にとっても。最終的には、都合が良いけどな。」

背後から追い付いてきた、ウイントフーク。
二人の会話はどうも失礼な方向に向かっている様だ。
なんだか気になる事を、言われている気もするけれど。

まあ、無視して食堂へ行くに、限る。
難しい事は、本部長に任せておけばいいのだ。

適材適所って、いつも言われてるしね………。

「ん?でもこれも思考放棄か………?」

しかし、ブツブツ言いながら扉を開けると良い匂いがして、一瞬で疑問は何処かへ行った。

そう、空腹の前には。
どんな疑問も、消え去るのである。


そうして美味しい朝食を食べ終わり、食後のお茶が出てくるとウイントフークが今日の予定を話し始めた。

そう、白の家の話だ。

「俺は本当は。お前を一番連れて行きたくない場所は、あそこなんだ。」

「えっ?」

ドキリとして、思わずカップを置いた。
そう、私は「危険がある」という意味での、その言葉だと思ったのだがどうやらそうではないらしい。

「いや、あそこは。何と言うか、美術品やら何やらと、まじない道具の小物系を扱っている。ここでは珍しく、工房を、持っている奴もいるしな。」

「ん?え?ウイントフークさんみたいな人が、沢山いるって、事ですか??」

「………全然違うが、まあ、そうだ。」

「えっ、えっ、えーー?!確かに!それはそうかも?!帰れなそうですよね?え?まさか?見れないんですか??大人しく、してろ、と………?」

「その目で見るのは止めろ。」

まさか、そんな美味しいものをぶら下げておいて私に見るな、食べるなと。

言うのだろうか、この人は。


あまりにジットリと見ていたからか、溜息を吐きながらウイントフークはこう言った。

「まあ。しかし、あそこにはユークレースがいる。。お前の案内を任せても、いいかもしれん。」

「?誰ですか?」

ウイントフークが、そう話すその人は誰なのだろうか。

「あ、もしかして?親戚ですか?」

イストリアは白の家だ。
もしかして、兄弟や従兄弟だって、まだいるに違いない。

しかし、どうやらそうではないらしい。
でも、話だけ聞くと「絶対近い親戚だよ」と、思ったけれど。

「ユークレースは、あれだ。お前、以前廊下で会っただろう?」

「うん?廊下??」

「そうだ。紺色の、癖毛に覚えがあるだろう。話を聞いてピンときた。ま、廊下に蹲み込んで何かしてる奴なんて、ここでは限られるからな。」

「あーー!あの人!」

「あいつは美術品に目がなくて、自分でまじないも使って製作もしている。シャットに留まりたかったらしいが、今はここも人数が少ない。反対されて戻ったらしいが、その代わりに工房は許可したと聞いている。」

「………へぇ。そう、なんですか。」

なんだか鋭い目つきのウイントフークは、心底嫌そうな顔をしているけれどそんなの私の知った事ではない。

つまらない訪問が、天国への訪問へ変わろうとしているのだ。
ここでボロを出さない様に、うまく切り抜けなくてはいけない。

そう、思って何気ない返事をしたつもりだったけど。
隠し切れない、ウキウキが漏れ出していた様だ。


千里みはりは、付けるからな?」

「はぁい。(やった!)」

ぐっとお茶を飲み干して立ち上がった私の周りには、薄く発光した蝶達がヒラヒラと舞い明らかに何かが漏れ出して、いた。

でも、大丈夫。
ちゃんと仕舞って、行けばいいんだし。

何よりも。

え?
まじない?美術品?
それって、あの廊下の調度品とか絵とか、って事だよね??

あの変な箱とか、鏡とかもかなぁ………えーウソ、めっちゃ楽しみなんですけど??


部屋の隅では、ウイントフークと千里が何やら打ち合わせを始めているけれど。

二人を見て「パチン」とウインクをした私を、嫌な顔で見るウイントフークと「面白そう」という顔の千里。

その二人を食堂に残し、私は怒られないうちに支度をする為部屋へ戻る事にした。
勿論、パタンと扉を閉めた、後は。

スキップをして部屋へ、戻ったのである。






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