上 下
41 / 157
第二章

041「提案」

しおりを挟む


「もしかして、ソラ君⋯⋯⋯⋯君、『恩寵ギフト』って能力を持っているんじゃないかい?」
「⋯⋯え?」

 いきなり⋯⋯それはあまりにも突然に、炎呪の口から『恩寵ギフト』という言葉が飛び出した。

「ど、どうして、それを⋯⋯?」
「そうか! やっぱりそうだったんだね、ソラ君!」

 そう言って、炎呪のテンションが上がる。ていうか、な、なんで、炎呪の口からこの世界に無いはずの『恩寵ギフト』という言葉が出てきたんだ?

 すると、その疑問に炎呪がすぐに解答を出してくれた。

「実はね、僕の仲間に君と同じ『恩寵ギフトを持つ人物』がいるんだ」
「えっ?! 仲間⋯⋯?」
「うん。あとついでに言うと恩寵ギフトを持つ者がこの世界とは違う別の世界から来た『五人の転移者』だってことも知ってるよ」
「そ、そこまで⋯⋯」
「いや~⋯⋯でも、やっぱりソラ君は『転移者』だったんだね! まさか⋯⋯とは思っていたけど驚いたよ!」
「いや、こっちのセリフですよ! ま、まさか、この世界の人に『転移者』なんて指摘されると思ってもいませんでしたから!」
「あはは、そっか⋯⋯そうだよね! あ、一応確認のためにソラ君のステータス見せてもらっていいかな?」
「あ、はい」

——————————————————

名前:新屋敷ソラ

レベル:62

魔法:<初級>ファイヤバレット/ファイヤランス/ウィンドバレット/サンダーバレット/サンダーランス/ソードウィンド/コールドブレス/サンドアタック
スキル:<初級>身体強化/縮地/怪力/忍足
恩寵ギフト自動最適化オートコンプリート

——————————————————

「ええええええええっ!? 何、この『恩寵ギフト:『自動最適化オートコンプリート』って能力、凄すぎるんだけどっ?! 探索者シーカーデビューして2ヶ月程度でこれだけの成長⋯⋯そして魔法やスキルを獲得しているって⋯⋯やっぱ『恩寵ギフト』は凄いぶっ壊れ能力なんだと改めて実感したよ!」

 部屋にテンション増し増しの炎呪の声が響き渡る。

「で、でも、凄さでいったら、炎呪さんのほうがよっぽど凄いですよ。だって、その若さで『恩寵ギフト』とか無いのにS級ランカーでギルドマスターなんですから⋯⋯」

 そう、俺みたいに『恩寵ギフト』というチートが無いにも関わらず、その若さでS級ランカーでギルマスとかそっちのほうがよっぽどやばいでしょ?⋯⋯と素直に思ったことを口にしたら、

「え? 若い? 僕、若くないよ?」
「え? 20代前半とかじゃないんですか? 公式だと『年齢不詳』とありましたけど、見た目20代前半くらいに見えるんですが⋯⋯」
「え? 違うよ? 僕⋯⋯64だよ」
「64ですかぁ~⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯て、ええっ!? ろ、ろろろ、ろくじゅううううう、よんんんんんんんんんん~~~っ!!!!」
「うん、そうだよ」
「っ!!!!!!!!!!」


 今日イチ、驚いたよ。


「あ、でも精神的にはまだ10代だと思って頑張っているけどね! まだ若いもんには負けないぞぉー、ハッハッハ」
「⋯⋯⋯⋯」

 ハッハッハ⋯⋯じゃねーわっ!!

 そんな、俺よりも童顔で年が64歳っておかしいだろ! エルフかっ!!

 あんた、内面よりも外面がすでに10代だからっ!!

 老化仕事しなさ過ぎぃぃっ!!

 S級ランカーで、ギルマスで、心も体も10代って盛り過ぎだろ!!

 と、心の中でそんな誰ともしれない何かに魂の叫びをする。



「さて、そんな転移者のソラ君⋯⋯」
「! は、はいっ?!」

 突然、素に戻った炎呪が真面目な顔で話を始めた。

「実はね、もし君が転移者だったらしようと思っていた話があるんだ」
「? 何でしょう?」
「ちょっと提案なんだけど⋯⋯」
「提案?」
「うん。あ、あの⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯僕の仲間になってくれないかな?(上目遣いでチラ)」
「え?」

 仲間?

 いや、ていうか、なんで上目遣いなんだよ?!

 頬を染めるなー!!

 高校生の俺より少年っぽい童顔なあんたが頬染めて上目遣いそんなことしたらおかしな感じになるでしょうがっ!! いや、おかしな感じ・・・・・・ってなんだよっ!!

 と、心の中で混乱している俺をよそに炎呪は今回の『本題』となる話を始めた。


********************


「ま、具体的には、僕の『共闘関係』にならないかって話なんだけどね」
「共闘⋯⋯関係?」
「うん。実は、君と同じようにこの世界にやってきた五人の転移者のうちの一人が、この世界を支配しようと動いていてね⋯⋯」
「え? 支配?」
「うん。理由はわからないけど、その目的で動いているんだ」
「どうして、そんなこと知っているんですか?」
「その本人から聞いたんだよ」
「は?」
「詳しくはまた今度話すけど、とにかく彼がそう宣言して僕たちの前から姿を消したあと、彼はその宣言どおり、裏で勢力を拡大し始めたんだ。だから、僕らはその組織の壊滅に向けて動いている」
「そ、そんなことが⋯⋯」
「で、現在、ソラ君たち五人の転移者のうち、この世界を支配しようと動いている転移者の計画を阻止しようと一人、僕たちの仲間になったってわけ。ただ、残りの2人は捜索中って感じかな」
「で、でも、なんで、そいつはこの世界を支配しようだなんて⋯⋯」
「⋯⋯その辺の事情はまだわかっていない。でも、少なくともそういう状況が起きているのは事実だ。もちろんこの話はテレビはおろか、ネットにも当然出てこないからね」
「そ、そんな⋯⋯」
「『恩寵ギフト』を持つ転移者はこの世界の魔法やスキルとは違う能力でしかも大きなアドバンテージを持つ。それはソラ君も気づいているよね?」
「は、はい」
「そんな転移者が敵対する理由はわからないが、もしかしたら、何か運命的な⋯⋯宿命的なものなんじゃないかって僕は思っている」
「え? 宿命⋯⋯?」
「ま、あくまで僕の『勘』だけどね。ただ、実際に敵対している勢力があることは事実で、現在、そいつらは『一大勢力』としてどんどん拡大していっている」
「⋯⋯一大勢力」
「そうだ。そいつらを野放しにすることはこの世界の秩序を乱すことにつながる。そして、それを阻止するために動いているのが僕らってわけ。そして、彼らの陰謀を止めるにはソラ君のような『恩寵ギフトを持つ転移者』を一人でも多く味方につけることがとても重要なんだ!」
「!」

 炎呪がカッと目を大きく見開いて力強く説明する。

「こんな話⋯⋯にわかには信じられないだろうし、僕やその仲間のことを何も知らないソラ君が僕らの仲間になるのも不安だろう。だから、返事は今すぐじゃなくて構わない」
「⋯⋯炎呪さん」
「ただ、僕らの仲間になれば、その対価としてこの『並行世界線イフラインの世界』の構造とか仕組みといった情報を享受することができる。それはソラ君にとっても悪い話じゃないと思うんだがどうだい?」
「そ、それは⋯⋯」

 確かに、この『並行世界線イフラインの世界』はわからないことだらけだ。そう考えたら、確かに共闘⋯⋯仲間になるメリットは大きいだろう。だが、どんな組織かわからない不安のほうが、現時点では得られるメリットより大きいのも事実だ。

「ま、そういうことだからゆっくり考えてみてよ。⋯⋯てわけで、今日はここまでかな」

 そう言うと、炎呪が退出を促した。

「時間が合えばまたこちらから連絡する。良い返事、期待してるよ?⋯⋯⋯⋯新屋敷ソラくん」
「は、はい」

 こうして、ギルドマスター倶利伽羅炎呪との初対面は衝撃的な事実を知ることで幕を閉じた。


********************


「転移者が敵⋯⋯か」

 炎呪との話し合いの後、家路につくかたわら俺はいろいろと考えていた。

「どうして転移者が敵対なんてするんだろう? むしろ、個人的には転移者の五人は仲間みたいなものだと思っていたのに⋯⋯」

 それにしても、炎呪が言っていたことは本当なのだろうか? いまだに信じられない話だが、でも言っていることの信憑性はかなり高いように感じられる。

「少なくとも、炎呪とその仲間が持つ情報は俺にとって有益なのは間違いないだろう。そう考えれば、仲間になることはかなり大きなメリットとなるのは間違いない。でも⋯⋯」

 そう、炎呪たち組織がどういう組織なのかまだわからない以上、メリットよりも不安のほうが大きいのも事実。

「考える時間はもらっているんだ。とりあえず、今は様子見かな⋯⋯」

 とりあえず俺は『炎呪の提案』を自分の中で一旦保留とした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

処理中です...