追放されたオレを拾ったやつが超カンジ悪い!

甘糖めぐる

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おまけ あの時のジュード視点(※本編微ネタバレ有)

20〜22話のこと

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 おそらく呪い竜の元へ行ったのであろうヨハンを追って、ダンジョンへ向かう際、俺はリヒトの手を引いて行かなかった。あいつが逃げ出すのなら、それでも構わなかった。

 なのに、リヒトは、迷わず俺についてきた。今さら、二人で共にいることが惜しくなった。

 ダンジョン内部。リヒトが、かつて自分を捨てた男の識別票を拾って動揺しているのが、とてつもなく気に入らなかった。

 ――さすがに、そいつは、どうでもいいだろうが。

 また、心を乱される。
 リヒトと分断され、ヨハンがけしかけて来た魔物に一人で相対している時も、半分くらいは八つ当たりで剣を振るった。

 封印を解かれた呪い竜が、ヨハンを飲み込んだことにすら、なんの感情もわかない。仮にも、俺を殺そうとした人間だ。仮にも、後継者問題が出るまでは俺を弟として適切に扱った人間だ。

 それでも、リヒトのことに比べれば、本当にどうでもよかった。

 リヒトと二人で、呪い竜と対峙する。
 古代の魔物と渡り合うために酷使した魔力回路が焼けて、体中を傷付ける。羽ばたきで岩壁へ叩き付けられる。全身が酷く痛むが、そんなことよりも――

 地上にいる大勢の平和を守って、リヒトを、その中へ帰すことの方が重要だった。

「ジュード! 何してるんだ、引け!」
「うるせえ! まだ動ける!」
「馬鹿! 死にたいのか!」

 大袈裟だな、お前には大した問題じゃないだろうに。

 剣を振るいながら、頭の隅でそんなことを考えていると――突然、リヒトがめいっぱいに声を張り上げた。

「ジュードっ!! おい、痛いだろ!? 痛いよなぁ!? 引けってことだよ!! ここで意地張ってどうすんだ!!」

 痛い? それがなんだ? お前のせいで胸の辺りが一番痛いけどな。散々振り回しやがって――

「オレの! ために! やめろって言ってんだよ――ッ!!」

 ――は?

 理解もできないまま、反射的にリヒトの元へ飛び退いてしまった。

 呪い竜が、遠い空へ飛び立つために翼を広げる。

「おい……どうするんだよ」
「知るか! とにかく――つかまれ!」

 舞い上がる竜の尾に、二人でしがみつく。深い穴から抜け出して、太陽が眩しい。

 リヒトの髪と目――その金色が、陽の光を反射してきらきらと輝いているようにすら見えた。

 先ほどの、リヒトが喚き散らしていた光景が脳裏をよぎる。

 ――俺の、なにが、お前のためになるっていうんだ。この期に及んで、踏み込んできやがって。

 それから、地上で待機していたセージの回復魔法で、魔力回路が修復される。呪い竜の脳天目がけて、特大の魔力砲を放ちながら、俺はひとつの結論に至っていた。

 ――勝手なやつ。気ぃ遣って損した。これで呪いが断ち切れるなら……お前のことは、別のもので繋いでやるさ。

 おかしな悲鳴をあげて落下していくリヒトを空中で抱きとめ、風魔法で衝撃を和らげて着地すると、ぽかんとした顔で見つめられる。なんだ、その顔は。

 本当に、見ていて飽きないよな、お前は。
 
 ◇◇◇

 次期国王はセージ。俺はリヒトを側近にして補佐に回る。
 たったそれだけのことを国王にうなずかせるのに、一ヶ月もかかってしまった。途中、縦に振らないその首をいっそのこと胴体から離してしまおうかと何度思ったことかわからない。
 王室復帰するなら、人と交流を持てという言い分はわかる。国王が出ろとうるさいから、一度街へ戻る直前に仕方なく社交パーティーに出席した。

 そうしたら、どこぞのご令嬢がわらわらと集まってきて……ダンスの時間に何人かと踊ったが、特になんの感情もわかなかった。どれだけ言い寄られても、誰にも、触れたいと思わなかった。

 ――こんなもん、なのか。

 きっと、国王は、結婚と跡継ぎのことも考えてこの場に俺を出したんだろう。

 ――形だけなら、出来なくもない、か……?

 リヒトの顔が、頭に浮かぶ。

 ――あいつが相手なら、頼まれなくたってするのにな。

 これから、側近になれと言いに行くつもりではあるが。そばに置くだけでは、物足りないのは明白だった。

 着替えるのも面倒で、そのまま馬車を薬屋の前につけさせて、中に入ってみるとみんな出かけているようだった。それだけなら、日時を改めるが……
 ふと、自分の部屋へ上がると、リヒトの荷物がなにもないことに気づいた。

 ――あいつ……まさか、俺に黙って出て行ったのか?

 いつここを出たのか、どの道を通ったのか、なにもわからないのに馬車も御者も置いて駆け出していた。

 ――なんなんだよ、結局なにがしたいんだよ……! 一言うかがいを立てるくらい出来るだろうが……!

 走り回って、ようやく見つけたリヒトにワケを問い詰めようとしたら――

「なあ! オレ、お前のこと好きなんだけど!」
「――は?」

 言葉と行動が合ってないだろうが、頭おかしいのか?

 なんか色々愚痴られたり突っかかられたりしたが、知らん。

 俺を好きだと言うのなら、これからどうするべきなのか、抱いてわからせる。

 ◇◇◇

「どうするんだ? 逃げるなら今のうちだぞ」

 自室のベッドで選択を迫ると、リヒトは、頬を赤らめて追い詰められたように何かを葛藤していた。

 そして、普段の騒々しさとはまるで別人なほど小さく答える。

「その……とりあえず、キスくらいは、しても……いいけど」

 今さら、なにを純情ぶってるんだ。

 それだけで終わるわけないだろ。一体、どれだけ待たされたと思ってるんだ。
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