追放されたオレを拾ったやつが超カンジ悪い!

甘糖めぐる

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本編

1話 親切な人に助けてもらいたかった

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 まだ、大丈夫だ。

 この謎の遺跡――ダンジョン地下五十階で、再び魔物と遭遇する。
 見上げるほど大きな肉食トカゲが五体。でも、こちらにも共に探索をしている仲間たちがいる。王族からも一目置かれている強者揃いだ。

 魔物のうち一体を引き受ける。剣で前足の攻撃を弾きながら、反撃の隙をうかがう。
 ここまでに負った怪我で、右腕が痛む。長時間の激しい戦闘で、息が切れる。それでも、まだ――体は動く。

 一瞬、魔物に大きな隙が生まれる。

 ――今だ。

 地面を蹴り上げて、魔物の脳天から剣を叩き込んだ。
 確かな手応え。だけど。

「えっ」

 次の瞬間、他の魔物の尻尾が巨大なムチのようにオレの体を打った。

「うっわ!?」

 空中に放り出され、着地に失敗して、足首が曲がっちゃいけない方向に曲がる。

った!」

 オレが叫んでいる間に、残りの魔物は全て倒されていた。

 探索パーティーのリーダーであり、公爵令息のアンテルがこちらへ駆け寄ってくる。

「リヒト、大丈夫かい!?」
「ああ、大丈夫――なんだけど、ちょっと、足捻っちゃったから肩貸してくれない?」
「えっ、歩けないのかい?」

 アンテルは、目を丸くしたあと、周りにいる仲間たちを見回してからこちらに視線を戻す。
 そして、いつものように綺麗に笑った。

「ごめんね、荷物になるから置いて行くよ」
「……え?」

 たしかに、皆のようには戦えないけど。

「でも、オレ、まだ解呪は使えるよ。後ろの方で、必要になるまで待ってるからさ」
「たしかに、それを期待して君を雇った。戦闘中に呪いをかけられて、状態異常になった仲間を治す――それができる、貴重な能力者だと思ったから」
「じゃあ、なんで」
「だって……君、直接触れている間しか、呪いを無効化できないじゃないか。正直、使い勝手が悪いんだよね」

 ――それ、事前に申告したけど……!? お前がオッケーって言ったんじゃん!

 オレが唖然としていると、遠くの方から魔物の鳴き声が響いてきた。

 アンテルがそちらを見やる。

「もう新しく湧いてきたのか。じゃあ、私たちは行くから」
「えっ、ちょっ、待っ!」
「ああ――きみの死亡報告は、しておいてあげるからね」

 少しも汚れていない手が、オレの首に下がっている認識票を外して持って行く。名前や出身地等が書かれた、身元識別用のただの金属プレート。だけど、死んで口がきけなくなる前に他人に渡すものじゃない。

 手を振って遠ざかるアンテル。他の仲間たちは、もう前しか見ていない。

 まだ大丈夫、と思っていたけど、急に大丈夫じゃなくなってしまった。

 ――捨てられた。

 気が抜けて、仰向けに倒れる。

 ――どうするんだ、これ。出口に繋がる魔法陣って、何階前に設置したっけ。

 魔物の声が近付いてくる。

 ――あ、ダメだこれ。戦闘には参加しないって言っとけばよかった。求められるままに応えようとしたのがいけなかった。

 今さら、どうしようもないことを後悔しながら、目を閉じる。

 ――ああ。オレは、一体、どこで間違えたんだろう……。

 でも、どれだけ経っても、人間大好き(美味しいから)な魔物が来ない。

 ――え、なんで? さっき、そこにいたよな?

 目を開けてみようかと思った矢先、知らない男に声をかけられた。脇腹を、足でげしげし蹴られながら。

「おい、生きてるか? おい」

 目を開けると、そこには、背の高い青年が立っていた。

 艷やかな黒髪を左側だけかき上げた、二十代後半ほどの男。妖しげな紅紫色の瞳に、凛々しい眉、鼻筋が通った彫刻みたいな顔立ち。人間離れしている美しさだ。

 ――悪魔……? いや、剣を差してるし、違うか。じゃあ、

「救助……?」
「いや、死んでたら身ぐるみ剥がそうと思ってな」
 ――ヤベーやつだったわ!

 慌てて起き上がる。
 しかし、男は「生きてるならいい」と言ってオレから視線を外した。

「ちょっと待って! 助けて! 足をくじいたんだ!」
「はあ? 歩けないのか」
「いや、歩こうと思えば歩けるけど……また魔物が出たら対応できないし」

 少し離れたところでは、男が倒したと思しき魔物が転がっている。

「ほら、あれ、お前がやったんだろ? 強い人が来てくれてよかったよ。お願い、オレを外まで連れてって!」
「なんでだよ。お前を助けて、俺になんの得があるんだ」

 冷たい目で言って、男は背を向け歩いて行く。

「ちょっ、おーい待てよぅ! なんでもするからぁ!」

 そこで、オレは気付いた。
 男の背中が、さっき魔物の爪にやられたのか、ざっくり切れて血まみれになっている。

「うわっ、背中! めっちゃ切れてるじゃん!」
「あ?」

 男は、立ち止まると、自分の背中を触わった手(血がべっとり付いてる)を見てつぶやいた。

「本当だ」
「いやなんで気付かないの!? 嘘でしょ!?」
「ああ、まあ――痛覚とか色々ないんだよ。呪いで」

 こともなげに、男は言った。

「呪い……? 色々って、じゃあ、他にはなにがないんだ?」
「ああ? ほとんど全ての感覚だ。見て、聞いて、体を動かすのがやっと」

 ――なにそれ。温度も、味も、匂いも、触れてることすらわからないの?

 男は、元来た道を引き返そうとする。オレを置いて。

「ちょっと待ったぁ! オレ! 解呪できます! 連れて帰って!」

 こちらを見る紅紫色の目が、丸くなる。

「本当か?」
「うん! 直接触れてる間のみだけど!」
「あー……使い勝手が悪いな」
「無いよりマシだろ! 試してみて!」

 オレが伸ばした手に、大きな手が触れる。
 これで呪いが解除されたはずだ。

「どう? 感覚戻った?」

 男は、ちょっとびっくりした様子で答えた。

「……いてえ」
「そりゃそうだよ! 背中バックリいってんだぞ!?」

 それでもまだ、訝しげな顔で尋ねられる。

「お前、名前は?」
「リヒト・リンデル。怪しくないって! お前は?」

 しばらくの沈黙のあと、男は屈んでオレの首に手を添え、こちらをのぞき込むようにして言った。

「ジュエルウィード・ナハトだ」
「な……長いな。噛みそうだ」

 謎の近距離に、変な感想が出た。
 すると、鼻で笑って付け加えられる。

「ジュードでいい」

 ――なんでいちいち小馬鹿にするんだ。

 嫌なやつ。
 でも、一応、手を引いてちゃんと立ち上がらせてくれる。

 ――肩を借りようと思ったけど……。

 身長差のせいで難しそうだ。オレの目線の上に、ジュードの肩がある。脚が長いな。

 やたらと顔がいいのが、また憎たらしい。こっちなんて、褒められる時は「金髪金眼って明るくていいね!」とか「ネコちゃんみたいな目でかわいいね!」とかだ。他に何もなかったのだろうか。

 ――並んだだけで惨めになるとか、ある?

 ため息をついたオレに、ジュードが腕を差し出す。

「ほら、つかまれ。直接触るなよ」
「わかってるよ」

 それで、エスコートされてるみたいになりながら、ジュードと一緒に上を目指す。

 ――そういえば、さっき、オレ……なんでもするって言ったな……!? これから、どうなるんだ!?
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