王太子に婚約破棄された幼馴染をイケメン暗黒騎士と超美麗エルフが奪いに来てた〜キケンな寵愛も秘密のレッスンもいらないから俺の初恋邪魔しないで〜

甘糖めぐる

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一章

オープニング

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 レオンルークス・ライランドの頭の中は、不安と期待でぐちゃぐちゃだった。
 無我夢中で、父の栗毛馬を走らせる。彼の元に、リセナ・シーリグが婚約破棄されたという知らせが届いたのはつい先刻のことだ。
 リセナは、小さなライランド領の財政を支える豪商の一人娘だった。そして、領主の息子である彼の大切な友人であり、初恋の人であり――
 その美貌と聡明さゆえ王太子に気に入られ、婚約者として召し上げられた、まだ十八歳の少女だ。

「――!?」
 急に馬が止まって、バランスを崩したレオンが地面へ放り出される。
「なんだよ、エーレ……!」
 強打した顔面をあげ振り返ると、馬はもしゃもしゃと道端の草を食べていた。

「道草食ってる場合か! リセナが婚約破棄されたんだぞ! はやく迎えに――」
 もしゃもしゃ、もしゃもしゃ、馬は聞く耳を持たない。
「くそっ、もういいよ! オレひとりで行くからぁ!」

 走る。走る。長い道のりを、自分の足で駆け抜ける。元々はねているオレンジ色の髪をもっとぐしゃぐしゃにして、あどけなさの残る顔をめいっぱいにしかめる。

 ――こんなに突然、一体なにがあったんだ……!?

 リセナの身を案じる気持ち。
 王太子への怒りと嫉妬。
 みすみす彼女を送り出してしまった自分への恨み。
 そして、リセナが戻ってくるという喜び。

 身も心も色んな悲鳴をあげながら、ようやくたどり着いた、角を曲がれば城門へと至る道。
 とうに息があがって、焼けるように乾いた喉で叫ぶ。

「リセナ――ッ!!!」

 しかし、城門の前で振り向いたのは、追い出されて途方に暮れる彼女だけではなかった。

 今しがたリセナを突き飛ばしでもしたのであろう王太子が茫然としているのは、数発殴ってやりたい気分だが、今はまあいい。
 彼の前で座り込んでいるリセナ――彼女の両隣に、全く知らない人物が立っている。

 一人は、闇を固めたような黒い鎧に身を包んだ、長身の青年。無造作に後ろへなでつけた髪も黒く、その中で、瞳だけが赤く冷ややかにこちらを視界の端に捉えている。美丈夫ではあるものの、あまり人間味のない、どことなく狼を思わせるような男だ。

 もう一人は、長い金の髪をひとつにくくったエルフ。その白い衣装が男性のものであることから、おそらく“彼”なのだと推測はできるけれど――その中性的で整った顔立ちは、神か美術品を思わせる美しさだった。高貴な印象の翡翠色の瞳は、穏やかではあったが、あまりこちらに興味がないようでもある。

「えーっと…………知り合い?」

 困惑するレオンに、リセナがふるふると首を横に振る。乱れた白銀の髪が揺れ、紺碧の瞳はわずかに潤んでいた。

「レオ……」

 すがるようにつぶやかれた名前を、彼女の前にいる王太子は聞き逃さなかった。我に返った彼は、そのまま眉をつり上げる。

「一体なんなんだ、三人も私の城に押しかけてくるなんて! そんなに、この顔だけの田舎娘がほしいのか!」

 レオンが思わず王太子につかみかかりそうになる。しかし一歩を踏み出した段階で、青年が隣にいたリセナをひょいと脇に抱え上げた。
「いらないのなら、もらって行くぞ」
 次いで、反対側にいたエルフが魔導具の杖を青年に向ける。
「その邪悪な魔力……きみ、魔王軍の暗黒騎士だね。彼女は大聖女になり得る存在だ、渡してもらうよ」
「ほう……のエルフが、俺に戦いを挑むか」

 光と闇。二人の対照的な魔力が辺りに満ちる。
 一触即発、静かに戦意をみなぎらせる二人の間に――

「ちょっと待ったぁ!!!!!」

 そろそろ空気なんて読んでいられないレオンが突っ込んで行った。

「なんなんだはオレの台詞だよ! いきなり出てきてリセナを取り合うのやめてくれる!? 彼女はなあ、オレの! オレの――」

 ああ、でも、まさか恋人だなんてものではない。友達だと思っているのも自分だけだったらどうしよう――こんな時に、一瞬で、彼の思考はマイナス方向へ振り切れる。
 それで、震える声で、ちょっと泣きそうになりながら、他の者たちに叩きつけるように叫ぶのだった。

「オレの、幼馴染なんだからなぁッ!!!!」

 彼の声がこだまし、消え、
「だから……?」という空気が満ちる。

 地獄のような時間は、青年に抱えられたままのリセナが小さく小さく挙手をして言った「あの、とりあえず、実家に帰していただけませんか……?」という言葉で、ようやく終わりを迎えた。
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