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しおりを挟む「あ、イサトくんだー♡ 俺に会いに来てくれたの?」
『SMルーム』の雑談室への扉を開けた瞬間、中に居たヤジと目が合った。
他のプレイヤーと話していた最中みたいだったのに、その相手に軽く手を振るとすぐに立ち上がって俺の方へ駆けてきた。
「えっと……、まあ、正直、そうかも」
一昨日は、ログアウトしてから結局ヤジが一度もイかなかったのに気が付いた。おそらくはヘロヘロの俺に気を遣ってくれたのだろうと申し訳ない気持ちで、本当は翌日にはもう来ようか迷っていたくらいだ。
「そっかそっか。嬉しいなー」
ヤジはニコニコと先日と同じように笑顔を浮かべ、俺の腕に腕を絡めてプレイルームへ連れて行く。
前回と違って、今回の部屋はやたら豪奢な天蓋付きの大きなベッドが置かれた場所だった。床には濃紺のカーペットが敷かれていて、同色のカーテンも厚く重そうだ。
「前回はベッド出したのに最後まで出来なかったからね。今日は最後までしたいなー」
「あー、すみません」
「イサトくんが謝ることじゃないよ。俺が遊び過ぎちゃった所為。あれ以上は身体キツくて持たなかったでしょ?」
「たぶん」
今日のベッドはふっかふかで、肌触りも良い。真っ白のシーツを撫でてその上に上がろうとした俺の視界に、『プレゼント』の通知が入った。
「プレゼント……?」
「衣装。着てくれる?」
「はあ」
この前もそうだったけれど、この人、課金に躊躇が無いな。
ルームの中に無いアイテムを呼び出すのも、他プレイヤーにプレゼントを送るのも当然課金で解放される機能だ。玩具は呼び出し制限無限なので買っている人は結構いるけれど、ベッドみたいな大型家具を買う人は珍しいし、会って二度目で衣装をプレゼントされたのも初めてだ。
受け取って『今すぐ着替える』を選ぶと、パ、とそれまで着ていた半袖パーカーとショートパンツ姿から、黒いスケスケのネグリジェ姿に変わった。
「……うわ」
「あれ、気に入らなかった? 脱いでもいいよ?」
「いえ……、着ておきます」
わざわざプレゼントしてきたってことは、こういうのが趣味なんだろう。
柔らかいレースとスケスケ素材で作られた腰辺りまであるヒラヒラのキャミソールに、同じ生地の紐パンツ。女の子に着せるならまだしも、と考えてから、今の自分のアバターなら似合わなくもないのか、と首を捻った。
「それで、こっちの首輪もしてね」
「くびわ」
ベッドに登ったヤジが、じゃらりと重い音をさせながら手に持って戻ってきたのは、鎖の先に革製の首輪がついたものだった。
「テーマは『金持ちと美少年奴隷』って感じかなー。イサトくん、ロールプレイはしたことある?」
「ロール……?」
「あ、未経験か。こないだの観覧車の時、ノッてくれたからいけると思うんだよね」
俺の首にずしりと重い輪が掛けられて、頭の後ろでガチャ、と錠の掛かる音にぞくりとした。下を向くと、首から重い鎖が垂れて少しフラつく。
──これだけで結構、逃げる気失せるな。実際の奴隷はこんな綺麗な服を着て綺麗な部屋に監禁されたりしないのだろうけれど、手足が自由なのに逃げる気を失くす鎖の重さに空恐ろしくなった。
「ロールプレイっていうのはね、役になりきって遊ぶってこと」
「なりきって……。あぁ、観覧車の時、確かに」
「うん、ラブラブの恋人っぽいプレイがしたい気分だったから、すっごい良かったよー。でね、今日は俺がご主人様で、君が俺の奴隷」
どう? と聞かれ、いいですよ、と頷いた。
「よし、じゃあ俺は今から君を呼び捨てにするね。イサトは俺をご主人様、って呼ぶんだよ」
「はーい」
「はい、じゃあ、スタート」
ぱん、と一度ヤジが笑顔で手を叩いて、そして、俺の頬を平手で打った。
「……っ?」
傾いだ身体が鎖の重みで床に倒れて、どうして叩かれたのか分からず呆気にとられたまま目の前に立つヤジを見上げた。視線の先の彼はその顔から一切の笑顔を消していて、吊り上げた眦を細めたかと思うと、乱暴に俺の首に繋がる鎖を掴んで引いた。
「ぃっ……」
「イサト。お前の居場所はベッドの上だけだって言ったよな? なんで床に降りてる?」
わあ、理不尽。しかし、奴隷がどうしてお叱りを受けているのかは分かった。
打たれた頬は今さらジンジンと熱くなってきて、それを自分の掌で撫でながら、よろよろと立ち上がる。ベッドの上へ戻ろうとしたのに、ヤジは掴んでいた俺の鎖を逆へ引いて俺をまた床に引き倒した。
「餌をやるのを忘れてた。ベッドを汚されちゃ困るから、床で食え。おすわり」
イラッとして俺の口元が引き攣ったのを見て、一瞬ヤジが心配そうな表情になったので、我慢して床に正座した。ロールプレイ、ロールプレイ。
ヤジが指を振って、犬猫の餌箱のような深さのある器に、茶色い小粒の乾燥餌のようなものが入った物を出した。こんなアイテムまであるのか、と思いながら目の前に置かれたそれを見つめてから視線を上げてヤジを窺う。
「……いい子だな。俺の合図を待ってるのか?」
なでなで、と優しく俺の頭を撫でたヤジの手が、しかしその次の瞬間、また頬を叩く。パン、と高い音を立てて張られた頬を押さえると、心の底から見下しているような目とぶつかった。
「お前、それでも人間か? 奴隷ってのは、本当に性根が卑しいんだな」
これは、ストレス耐久チェックか何かなのか。ちっとも気持ち良くも無く、興奮もしない。当てが外れた、と内心残念がりながらも、餌箱に顔を近付けて四つん這いで餌を食おうとした俺の前から、す、と餌箱が遠退いていく。
「食い易くしてやるのを忘れた」
今度は何だ。定番なら精液かおしっこかと、げんなりしそうなのを無表情の下に隠して待つと、ヤジはおもむろに餌箱の中の餌を手で摘んで、口に入れた。そして、数回咀嚼してから、吐き出す。細かくなった茶色い破片と、どろりとした透明の唾液が皿に戻る。それを何度か繰り返して、八割くらいはヤジによって噛み砕かれたそれを、再び俺の前に出してきた。
顔を寄せると、甘いバニラの匂いがした。茶色い餌のようなものは、どうやらクッキーのような類の菓子だったらしい。ところどころ唾液の泡が立った噛み砕かれたそれを見つめて、尻込みする俺の頭にヤジの手が乗る。
「無理やり食わせてやろうか?」
そうは言いつつ、その手は軽い。むしろ背中を押された気分で、餌に口を付けた。
とろっとして生温く、他人の咀嚼したものだと思うと吐き出したい衝動に駆られる。唾液ってどんな味だっけ、と想像しないようにしながらも、彼とのキスを思い返してしまって勝手に味がついて吐き気がした。
「……っ、ぅ」
口元を押さえた俺の首輪の鎖を引いて、ヤジが俺を抱き寄せた。「えらいね」と小さく耳元で囁やかれて、少し嬉しくなる。
彼はそのまま俺を抱き上げると、ポイと力任せにベッドへ投げた。
ふかふかと柔らかいベッドの上で数回跳ねてから、最後は首輪の鎖が身体の上に乗って重みで止まった。
「食事が終わったなら仕事をしろ。主人を慰めるのがお前の唯一の仕事だろう」
ベッドに乗ってきたヤジが、服を脱いで俺の額の髪を掴んで膝立ちの股間に引き寄せた。強引に口の中に捻じ込まれ、頭を鷲掴まれて喉奥に突き立てられた。えご、と喉から潰されたような音が出る。
「教えたろう。喉で絞れ」
髪の根元を掴まれ、手綱みたいにヤジに揺す振られる。ごぽ、ごぽ、と喉の中で空気が潰れる音がして、急に乱暴にされてついていけない俺はただされるがままだ。呼吸しようにも喉奥まで隙間なく埋まっていて、死ぬわけないと分かっていても怖くてヤジの太腿を掴んで爪を立てた。
「……チッ」
舌打ちしたヤジが、俺の頭を掴んで一度引き抜いて呼吸させてくれる。が、荒い息をする俺の唇にすぐにまた陰茎が押し付けられた。
「口の方に集中してろ。すぐ分かる」
「んむっ」
逃げようとした頭を髪の毛先の方を掴んで引っ張られ、痛みに負けて肉を咥えた。肉の先で喉を押されると、苦しさとこそばゆさで息を吸いたくなるのに出来ない。口の方に集中するという意味が分からないが、やるしか無いならやらなければ。死なない、死なない、大丈夫、と念じながら、喉に力を入れて絞めたり緩めたりを繰り返す。
「……いい子だ」
髪を掴まれる時は、毛先より根本を掴まれる方が痛くないんだと知った。これ、現実でもそうなんだろうか。髪を掴むのをやめたヤジは俺が大人しく従うのが嬉しいみたいに優しく撫でてくる。
喉を絞めて、緩めて。段々硬くなる肉をほとんど動かせない舌で擦ると、ふぅ、とヤジが息を吐いて腰を震わせた。喉の中に肉があるのに違和感が無くなってきた頃、粘膜を肉の先で擦られると微かに覚えのある感覚が甦ってきた。
なんだっけ、いつだっけ。喉の奥を擦られるこそばゆい感覚が、次第に気持ちよくなってくる。ああそうだ、この前、あの長い舌でキスされた時に、覚えさせられたやつ。
「ん……、う、んん……」
喉の奥が性感帯だと、思い出した瞬間から、思考がぼやけてもっと奥まで擦って欲しくて自分から深く飲み込んだ。ごくん、と喉が鳴る。
「っ……、ああ、君、本当に覚えがいい」
出来ないと思っていたのに、出来た。一層絞られたヤジが感激したみたいに俺の頭を撫で回して、ぐ、ぐ、腰を押し付けてきた。喉を押されて、気持ち良さに一瞬視界が白く煙る。
「喜べ、ほら」
「んっ、ん、んん」
ぐ、ぐ、ぐ、と頭を固定されたまま、抜かれないのにより奥まで喉を犯される。細かく擦られ続ける快感に、呻く声が止められない。溢れた涎が唇の端を伝って鎖骨まで垂れてくる。
さしもの綺麗な顔のアバターでも相当だらしない表情になっている筈なのに、見上げた先で俺を見下ろすヤジは目を細めて蕩けそうな顔で笑っていた。
気持ちいい。なんでだかなんて知らない。これは、気持ちいい。ゲーム内ではそれだけが正解だ。
「ん……」
気持ち良さに浸っていたら、腰が跳ねた。びくびく、と震えた身体の波が一際喉を絞めて、それに呼応するみたいに喉の中の肉が震えて弾けた。
「んん……~~っ」
「……それも気持ちいいの? ほんと、育て甲斐の塊みたい」
喉奥に射精されて、粘膜に熱いものが掛けられたのにすらよがって震えると、ヤジが面白そうに俺の頬を撫でながら、萎えた陰茎を抜いていく。
そういえば、喉を犯される気持ち良さに夢中になっていたら、息が出来ないのを忘れていた。口に集中しろ、というのはそういう意味だったのか。
「ごめんね、ロールプレイって言い出したの俺なのに、ちょっと我慢出来ない」
「……?」
「こっからは素の喋りでヤッていい?」
やはり乱暴にしたり冷たくしたりは素ではなかったらしい。構わない、と頷くと、ヤジはベッドに腰を下ろして正面から俺をその胸に抱き込んだ。他人の体温はほどよく温かくて、彼も息が上がっているのが分かる。けれど、その胸の下から鼓動は聞こえない。
「ここ……、『SMルーム』だとね、やっぱりさっきみたいな高圧的な方がウケがいいんだけどねー。イサトくんはマゾじゃないし、さっきの感じだと無理やりとか拒否権無しにされるのは嫌いっぽいよね?」
「まあ、そうですね。やりたいって言われたら出来るだけ応えたいですけど、無理やりされんのは嫌いかもです」
ログイン初日の事を思い出して顔を顰めると、ちゅ、と頬にキスしたヤジが「了解」と囁いてくる。
背骨の窪みを指先で上から下へなぞられて、思わず反らすと耳朶を齧られた。
「んっ」
「これから少し意地悪なことするから、本当に無理って思ったら「やめろ」って怒ってね」
「……は、い」
ヤジに背を向けるように身体を反転させられて、彼の膝の間に座らされた。
ちゅ、ちゅ、と後ろから耳の下あたりを吸われてくすぐったい。ヤジの両手が薄いキャミソールの布地の上から胸の突起を掌全体で撫でて、刺激にぷくりと先端が硬くなる。
「イサトくんのアバターって、体のオプションは『ログアウト時に毎回デフォルトに戻る』?」
「ぁ……、っ、そ……、です、確か」
体の変化について、というオプションの中の一つで、その項目のチェックを外すと自分で設定を戻さない限りゲーム内で起きた体の変化についてログアウトしても継続するのだ。具体例でいえば、乳首を弄り続けられれば大きく育つし、アナルセックスを繰り返せば緩くなる。ピアス穴を保存したいとか、グロ系の身体欠損が好きだとかで無ければ、みんなチェックを入れている機能だ。
それがなんだろう、と後ろを振り向こうとした耳朶を、また甘噛みされて小さく震えた。
「そっかー、残念。俺、少しずつ育てていくの好きなんだけど。……イサトくん、他の人ともするもんね」
「はあ、まあ……」
「妬けちゃうなー。あ、いや、こういうのマナー違反だよね。忘れて」
今日は最初からくりくりと突起を撫で回され、身悶えする俺の耳を舐めたり噛んだりしながら、ヤジが可愛いことをぶつぶつ言っている。いちいち良い人っぽくて好感度高いんだよなぁ、この人。とはいえ、セックスの相手を一人に絞る気はさらさら無い。そういうのは現実で十分だ。……現実では彼女なんて高校以来居ないけど。
「これ……このまま、ですか?」
あえてそれについては返事せず、首輪の鎖を持ち上げて訊いた。割と重くて疲れる。
「ああ、重そうだもんね。鎖の方だけ外そうか」
ヤジは俺の首輪の辺りで指を振って、部屋の道具オプションを変えたのかすぐに首輪から鎖が外れた。革の首輪と首筋の境目を舐められてゾクゾクする。また何度もその辺りを舐められたり吸われたりしながら、胸を弄られる。
背筋が反って身悶えする俺の身体を、ヤジは延々と弄り続ける。ひたすらに気持ち良くて、頭がクラクラする。けれど、足りない。これだけだったら、ここに来た意味が無い。わざわざ彼に会いに来た意味が無い。
「あ、の……っ、ま……まだ……ですか……?」
「ん? まだって、何が?」
「なにって……、っ」
何が、と言いつつ、ヤジの爪が突起を強めに擦っていって腰が跳ねた。ピリッと小さく痛んで、けれどすぐまた優しい指に撫でられる。痛みの後だとその気持ち良さが更に甘くなって、もぞもぞと太腿を擦り合わせた。
「痛いの待ってた? そっか、イサトくん、痛いの好きになってくれてたんだねー」
明らかに分かっていたくせに、知らないフリでヤジが嘯く。もっと、と小さな声で強請ると、耳を噛んだまま彼は「意地悪するって言ったでしょ」と囁いてきた。
ひたすら優しく乳首を弄られ、身体の力が抜けていく。頭がぼんやりして、けれど中心に集まった熱が放出を求めて肉を突き上げる。
自然と下を向くと大仰な首輪の革の端が顎に当たって、硬いその感触に止められた。目だけで股間を確認すれば、肉に持ち上げられた小さな薄い下着は既に白濁に塗れていた。薄い布地から滲み出した精液が、腰の紐を伝って脚の方まで垂れている。
やっぱりさっきイッてたのか、と気恥ずかしく、喉なんかでイかせてくれるのはこの男しかいないだろうな、と妙な安心感が湧いた。
気持ち良くされ続けるのは最高から少し足りなくて、だけれど、それは彼の思惑のうちなのだ。だったら、耐えるしかない。
「こっちも弄ってあげようか」
「んっ……!」
乳首から、すす、と下りた指が腹を撫でて陰茎へ伸びて、先端を撫でられた刺激でイきそうになった。それを察知していたかのように素早く根本を握られて、イきかけて止められた身体が大きく跳ねた。
「あっ……う、て、手、離し」
「だーめ」
片手で根本を握ったまま、もう片手も陰茎に下りてきた。下着越しのまま先端ばかりを掌の中で撫でられて、暴れ出したい衝動に身を捩る。
「いい子、いい子。イサトくん、もっと気持ち良くなりたいもんね? だったら我慢出来るよね?」
さっきよりぴったりと背中に身体を合わせてきたヤジが、ゆったりした声音で囁いてくる。
もっと、気持ち良く。なりたい、とコクコク頷くと、ふ、と笑った息が耳に当たって縮こまるみたいに震えた。
乳首の次は、もっと快感に弱い陰茎を執拗に虐められた。先端ばかり責められて逃げ出したい身体がヤジに尻を擦り付けるみたいな動きになって、尻の狭間に彼の硬くなった肉を感じてソコが切なくなる。
色んなものがほしい。気持ちいいのだけをこれだけ十分に与えられているのに、俺の身体はもうそれだけでは足りないと覚えてしまった。痛いのと、穴を埋めてくれる肉と、その先のもっと気持ちいいことがほしい。
「う……ぁ、あ、は……頭……おかしく、なりそ……」
連日ゲーム内でセックスしているというだけで十分馬鹿になっていそうなのに、こんな現実に起こり得ない快楽まで教え込まれて、と自嘲して笑うのを、聞き咎めたらしいヤジが陰茎の先を指で弾いた。
「あッ、い、たぃ」
「頭おかしくさせてやろうとしてるんだから、集中してて」
冷静になろうとしないで、と低い声に注意されて、がくりと頭を垂れさせたまま頷いた。
力の抜けて座っていられない俺の身体を後ろから抱き締めて、ヤジはゆっくりベッドへ倒してくる。うつ伏せの姿勢から尻だけ高くなるように持ち上げられて、期待に胸が躍った。
ヤジは俺の尻たぶに口付けながら、腰の右側の紐を引いて俺の下着を外した。ほぼ紐みたいな下着だからズラせばそのまま致せるだろうに、左の膝に下着が落ちてきた感触がある。精液に塗れて冷たい。
「ぇ……」
てっきりやっと挿入れてくれるんだと思っていたのに、ヤジは尻の狭間に顔を寄せたまま、窄まりを舐めてきた。舌を捻じ込まれて、シーツを握り込む。
「ヤ……、ヤジ」
「ここ舐めるの大好きだから、もう暫く我慢ねー」
舌を這わせたまま喋られて、その振動が中まで響いてじりじりする。
陰茎の根を握りながら舌で解され、そのうち指が入ってくる。くく、と曲げられた指が中の一点を掠って、瞬間的にイきそうに上り詰めたのにやはり許されない。ビクビクと痙攣する俺の身体を押さえ込んで、ヤジはそれでも尚その行為を続けてくる。
「あ、……ぁ、……は、う、うぅ……、ぁ」
唇から言葉にならない声が漏れて、喘ぎというよりは啜り泣きに近い。根本を絞られたまま茎を擦られ、奥を掻き回してくれる指は一本から増えない。舌が窄まりを舐め回すぴちゃぴちゃという音が視界すら濡らすみたいで、逃げ場のない俺に許されるのはただひたすら快楽に任せて泣くだけ。
「っ……、あー……あ、あぅ、ヤジ、ヤジぃ……っ、も、むりぃ」
中の浅いところを指の腹にトントンと叩かれて、しかし前を堰き止められている所為で何度目かの絶頂を逃して堪らず泣き言を漏らす。もう許してほしい、どうにか次に移ってくれないかと啜り泣くのに、ヤジは唇を離してから「変だなぁ」なんて納得いかないみたいに呟いた。
「これだけ感じやすいのに、後ろだけでイけないの?」
喉でも乳首でもイけるのに、と後ろから腰を撫でられて、掌の温かさに身震いする。
「……? ごめ、ん」
「謝ることじゃないよ。……それに、うん、一つくらい攻略が難しい場所があった方が、燃えるし」
じゃあ今日はこれくらいで許してあげようか、と言って、ヤジは俺の脚を伸ばさせて、尻を少しだけ持ち上げたところに硬い陰茎を押し付けてきた。ぐぐ、と窄まりが開かれる感触にゆっくり息を吐いて、受け入れる。
熱い肉が埋まってくる充足感に、クラクラする。自分の足りない部分が埋めてもらえるみたいで、この瞬間が大好きだ。
「あ、は……、幸せ……」
「……幸せ?」
ヤジが不思議そうに呟いて、背中に覆い被さってくる。このゲームの一番良い所は、体温が感じられるところだと思う。どれだけ精巧に快楽をトレースされたとしても、相手の体の温かさが分からなかったら萎えてしまう。
根本までしっかり俺の中に挿入したヤジは、俺を抱き込んで肩を軽く噛んだ。男の体は重く、息苦しい。けれどそこには、包まれる多幸感もある。
あとは俺の身体で擦って終わりかと、思った俺の乳首が急に引っ張られて短く声を上げた。
「いッ……」
「終わりじゃないよ。ここからが本番」
「ほん……?」
ここからって? と疑問符の浮かぶ俺の腰が、突き上げられて跳ねる。
「あ……っ!」
「普通のえっちに戻れなくしてあげる」
勢いよく奥まで突かれて、痛み混じりの鮮やかな快楽に声を上げた。俺のその声が合図だったみたいに、ヤジが腰を動かしだす。抜く時も挿入れる時も焦ったいほどゆっくりなのに、あと少しを埋める時だけ乱暴に突かれる。
背後から手を回してきたヤジの手が乳首を指で摘んで指の腹の間で潰すみたいに擦り合わせたり、引っ張ったりしてきてひたすら痛い。なのに、ずっと望んでいたものを与えられた身体が悦びに震えて中の肉を絞ってしまう。
「……っ、……は、……ぁ」
「可愛いね。痛いの、もう完全に大好きになっちゃってるね」
お尻がとろとろなのに絞ってくるよ、と耳元で囁やかれて、それに応えてまた絞る。
ヤジの肉に内側を擦られて気持ちいい。外側は痛くされて気持ちいい。あれ、気持ちいいことばかりだ。痛いってどれだっけ、と思った俺の奥を、肉が勢いよく抉ってくる。
「あっぅ」
ああ、これだ。これが、痛い。痛いけど、どうしてだろう、もっと欲しい。
もっと痛くされたくて、尻を上げる。もっと奥まで欲しい。ふ、と音もなく笑ったヤジの息が肩にかかる。
乳首を摘んだまま、背中からヤジが上半身を上げていく。彼が体勢を変えたせいで抉られる角度が変わって、拡げられた内側が悦ぶ。
「無理って思ったら言ってね、止まるから」
優しい声が掛けられた後、それまでより深い抽挿が始まった。激しくない筈なのに、今まで開かれなかった奥まで押し込まれてきて、初めて叩かれた中が痛みに呻く。摘まれたままの乳首が身体の揺れに合わせて引っ張られて千切れそうに痛む。
なのに、俺の頭にあったのは、気持ちいい、という満足感だけ。もっと、もっと、と中の肉を絞って強請る。もっと気持ち良く、もっと痛く。垂れるままになった涎がシーツに染みて冷たいのも気にならない。
視界は真っ白で、ただ夢見心地でされるがまま。
「イサト……、ごめん、俺、もう限界だから、イサトもイかせるね」
もっと浸っていたかったのに、ヤジが苦しそうな声で呟いた。
腰を掴まれて、一番奥まで挿入れたところでゴリゴリと擦られながら、陰茎を扱かれた。
「ん……」
呆気なく精を吐かされて、けれどこれで終わってしまうのかと思うと寂しい気持ちになった。
ぎゅ、と絞ると、中の肉が返事するみたいに脈打つ。
「いつでもしてあげるから」
ね、と首の後ろにキスされて、黙って頷いた。
最後だけやや乱暴に腰を揺らしたヤジが、俺の中で果てた。柔らかくなった肉を名残惜しく絞ると、乳首を引っ張っていた指が外されて優しくそこを撫でてきた。
「終わるの勿体ないよね。俺も分かる。イかないでずっとヤッてたい」
「……俺は……終わりたくないと思ったの、初めてですけど」
「それ、俺とのえっち気に入ってくれたってことだと思っていい?」
いつものセックスは気持ち良くて、そしてさっさと上り詰めたいとばかり思っていたけれど。ヤジとの行為は、いつまでも続けていたかった。
気に入ったかと言われれば、そうだろう。
「まあ……そう、ですかね」
「そっか。嬉しいな」
陰茎を俺の中から抜いたヤジが、後ろからこめかみの辺りに口付けてくる。「またね」と囁やかれて、目を伏せて頷いた。
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