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しおりを挟む「……マジですか」
「はい、マジですよー」
春爛漫の桜咲く、新社会人、配属一日目。
直属の上司で、これから君の教育係になる人だよ、と紹介されたのは、リアルでは二度と会いたくないと思っていた男だった。
短い黒髪をラフに後ろに撫で付けた、小綺麗な印象に残りにくい薄い顔。そこに判で押したように崩れない笑顔を貼り付けて、緩くて穏やかな陽だまりじみた雰囲気を醸し出している。人好きそうなこの男が、しかし俺に酷い言葉を投げ付けてきたことを忘れてはいない。細身だけれどしっかり男の骨格をしていて、身体のシルエットが綺麗なのはアバターと一緒なんだな、と苦々しく思う。
ニコニコと人の良い笑みを浮かべ、語尾の伸びるだらしない話し方をしながら男の差し出した名刺には、『矢造 尋』と書いてあった。
やづくり……、ヤジ。単純。
俺の表情を読んだらしい矢造が、俺の真新しい名札を視線でなぞって、人のこと言えないよね、と目で言っている。
岩瀬 久斗。そして、ハンドルネームはイサト。
ゲームのハンドルネームなんてみんなそんなものだと思う。特に、俺や彼のやっているオンラインゲーム、『いちゃぱら☆どりーみんわーるど』では、ゲーム中に相手に名前を呼ばれることが多いから、他のオンゲーみたいに変な名前にする人は殆ど居ない。
「部下が出来るの、嬉しいなー。去年受かった人のリスト見てからずっと心待ちにしてたんですよ。明日からよろしくね、イサ……、岩瀬くん♡」
穏やかな笑みを崩さず、矢造は俺へ手を出してきた。軽く頭を下げながら手を出すと、すかさず握られた手の内側に彼の爪が喰い込んだ。ビク、と微かに肩を震わせた俺を、百八十ニセンチの俺より少しだけ背の低い矢造が悪戯っぽく目を細めて笑う。
「頑張りますので、よろしくお願いします。ヤジ……矢造さん」
ゲーム内では言いなりだけれど、リアルでは違うんだぞ、と示すつもりで視線に圧を乗せて言ったのに、矢造は少しも怯まず更に俺の手に爪を立てて、そして急に力を抜いて内側を軽く引っ掻くみたいに手を離していった。
「……っ」
「ふふ。本当、嬉しいなー」
手のひらをぞくりとしたものが走って、同席する部長に気付かれないように拳を握ったのに、矢造には気付かれて更に調子に乗らせてしまった。
クソ。なんでこんな事に。
これから俺のリアル生活がどうなってしまうのか、人前で無ければ不安過ぎる幕開けに頭を抱えたい気分だった。
俺が『いちゃぱら☆どりーみんないと』、略して『ぱらどり』をプレイし始めたのは、大学二年の夏だった。
本気で就活に専念したいから俺の愛機を預かっていてくれ! とサークルの先輩が当時ハマっていたVR機器の保管を頼まれ、使っても構わないというので大喜びで手を出した。
『ぱらどり』といえば男なら知らない者は居ないんじゃないかってくらい超人気ソフトで、『ぱらどり』発売翌日にはVR機器が店頭どころかネットショップからも在庫切れを起こしたレベルだ。女性プレイヤーも少なくないらしいけれど、あまりそういう話をしない風潮だからか、ネットに強い女性の間で静かに熱いんだとか。
どんなゲームかって言われたら、簡潔に説明すれば、エロゲーだ。
ゲーム内で出来るのは、他プレイヤーと話すことと、触れ合うこと。その二つだけ。だが、それ以上に何をする必要があるだろうか。
今までのパソコンでやる二次元エロゲとは次元が違う。何せ、最新のフルダイブタイプなのだ。まるで現実世界のように思える仮想世界で、現実では出来ない行為に及ぶ。現実では犯罪になる行為も専用のルームでなら許されるし、現実の性別と逆の性別アバターも使える。痛みは一定のレベルを超えるとシャットダウンされるプログラムになっていて、だからグロ系のアングラーも好んでプレイしているらしい。
どんな性癖も満たしてくれる、最高のゲーム。
アバターは自分で凝って作る事も出来ると聞いていたけれど、早くプレイしたくて自動生成を選んだ。
気が急いて色んな説明を流し見して質問のチェックボックスを適当に押したのが、俺の分岐点だったんだと思う。
先輩から「俺のデータは消してあるから自分で設定し直せよ」と言われていたので、本体設定を終えてからヘッドギアを装着して、いざゲームへダイブした。
目を閉じて、次に開いた時、俺はだだっ広い草原の中に立っていた。
ぬるい風が吹き、草の匂いがする。小高い丘の上にいるみたいで、遠くには綺麗な湖が見えた。これがフルダイブVR、と感激してその辺を走り回って、それから自分のアバターを確認してから首を傾げた。
真っ白ですべすべの肌に、細い手足。長い髪は濃い栗色。まさか女アバターにしてしまったのか、と慌てて初期装備の白いショートパンツを捲ったら、ちゃんと股間には陰茎がぶら下がっていてホッとした。
「初心者さんかな?」
「え? あ、はい」
急に話かけられたかと思ったら、いつの間にか俺の後ろには初期服ではない、現実の普段着のような服を着た男のアバターが立っていた。現実なら稀に見るようなイケメンで、おおこれがVR、とまた感激した。
「すみません、俺のアバター自動生成のやつなんですけど、どんな顔ですか?」
「顔? へえ、当たり引いたね。自動生成って結構化け物生まれやすいんだけど」
すごく可愛いよ、と言ったその男は、くるりと宙で指を動かすと、手鏡のようなものがパッと現れた。
「うわ、すごい」
「初々しいねぇ。フルダイブ自体も初めて?」
「そうなんです」
渡された手鏡には、美少年と美少女の中間みたいな綺麗な顔が映っていた。
現実の俺はやたら背ばっかり伸びたフツメンだから、三度目の感動を味わう。
「良ければ案内しようか?」
男は親切そうで、だから油断した。これが20禁のエロゲだと、分かってインした筈なのに。
「視界の右上らへんに、三みたいなマーク無い?」
「あります」
「そこ押して、俺の名前『ミキヒコ』にフレンド送って」
「はい」
「オッケー、ええと……『イサト』くんね。承認っと。そしたら、フレンド欄から俺の名前にチェック入れて? 少し君のオプション確認するね」
「オプション?」
ステータスにオプションでもあるんだろうか。普通のMMOならプレイしたことがあるから種族オプションがあるゲームもやったことがあるけれど、このゲームには戦闘や育成要素は無いゲームの筈だ。首を傾げていると、しげしげと俺のオプションとやらを確認していたミキヒコは、何かを操作してから「じゃあおいで」と俺の手を掴んで引いた。
「えっと、どこに……」
「とりあえず、最初だったら『自宅ルーム』が鉄板かな?」
それぞれプレイ用に専用ルームがあるのだという前情報は得ていたから、そこで他のプレイヤーとのマッチングをするのだと思って、彼について行った。
ミキヒコが手を振るとまるで青ダヌキの出すドアのように草原にポツンと扉だけが出現した。その先に繋がっていたのは本当に自宅のベッドルームのような部屋だった。
そしてそこで俺は、ミキヒコに犯された。
たぶん抵抗したと思うんだけれども、正直よく覚えていない。衝撃的すぎると脳みそが心を守る為に記憶を消すっていうけど、たぶんその類だと思う。
事後にミキヒコに聞いたら、俺のオプション設定が『性対象:男』になっていたらしい。男のアバターで性対象が男だと専用サーバーに繋がるから間違いは無いだろうけど、ちゃんとオプションを確認してから手を出したんだよ? と謝られもしなかった。そこで『このゲーム内に犯罪という概念は無い』と思い知らされたのだ。
ただ正直、行為自体は、めちゃくちゃ気持ち良かった。
気持ち良すぎて、結局ゲイサーバーに居着いてしまう程度に、ハマった。毎晩のようにログインして、色々なルームを探検気分で移動しながら色々な男アバターに抱かれた。『ラブホテル』『学校』『車の中』といった定番どころのルームから、『夜の公園』『ロッカーの中』、果ては『会社の給湯室』まで。あらゆる性癖に対応しようという執念すら感じるルーム数で、飽きることはなかった。バカ売れする訳だ。
特殊プレイ用のルームもちゃんとあるから、そういうルームに入らなければいきなり強姦されるようなことは滅多に無くて、大抵は挨拶して雑談して、そのままどうしても嫌じゃなければセックスに雪崩れ込む、というのが定番だった。
病気も怪我も身バレも気にせず本能のままセックスしまくれるゲーム世界は、先輩が「手放さないと現実に戻ってこられない」と言ったのが納得の夢の世界だ。
そして、あれは確か、大学二年の冬。
『遊園地ルーム』の観覧車の中で一戦交えた後、その男に「SMルームに行ってみない?」と誘われた。
男の名前は『ヤジ』。中性的な顔の細身のアバターで、セックスは終始優しく丁寧で、まるで本当にデート中に盛り上がって観覧車で盛ってしまったカップルの擬似体験をしているみたいだった。
だから彼がそんなルームへ誘ってきた事が意外で、そして興味が湧いた。
いいよ、と答えた俺に、ヤジは穏やかな笑顔で「ラッキー」と言った。その台詞に感じた違和感を、その時もっとよく考えれば良かったんだと思う。
ヤジが『SMルーム』への扉を出し、入ったその部屋はなんというか──ザ・拷問部屋、という雰囲気だった。
三面はコンクリート剥き出しのままで、残り一面が鏡になった壁。壁と同じく白いコンクリの床。壁側の天井からは長い鎖が垂れていて、その先に繋げられた革製の手錠が床に落ちている。
肘掛けと椅子の脚に拘束具が付いた艶やかな塗りの椅子をしげしげと眺めていると、ヤジさんが「初めてだしベッド欲しいよね?」と聞いてきた。
「ルームに備品追加するのって課金必要でしたよね?」
「うん。俺が誘ったんだし、これくらい出すよー」
すい、と宙で指を振ったヤジが、オプションを開いて部屋の空いたスペースにベッドを出した。といっても、シーツすら掛けられていない簡素な脚付きマットレスだ。
「あんまりふかふかの豪華なやつだと雰囲気壊すから、これくらいにさせてね」
「いえ。床より全然良いです」
痛すぎると痛覚が自動でシャットダウンされるとはいえ、硬い床についた膝が擦れるだとか、畳で背中が擦り剥けるだとか、その程度の痛みは現実と変わらないレベルで感じてしまう。
コンクリよりマシ、と答えると、ヤジさんは俺が眺めていた椅子の背凭れに手を置いて、にっこりと笑った。
「それじゃあ、少しこのルームについて説明しながらプレイに入りたいから、ここに座ってくれる?」
「はあ」
せっかくベッドを出したのにこっちに座るのか、と不思議に思いつつ、素直に従う。硬い座面の木椅子に腰を下ろすと、ヤジは拘束具のベルトを調整しながら俺の手足を拘束した。
「痛くない?」
「はい」
手首と足首を椅子にぎっちり括り付けられ、動かせないけれど痛くもない。手足を動かそうとしても金具ではなく椅子自体が動いて床の上でガタガタ鳴った。絶妙な締め具合に、もしかしてこの人予想以上に慣れてるのかも、と不安になる。
思い出すのは、プレイ初日のあの強姦。あの彼も、親切そうに振る舞いながらも何も知らない俺をいいように扱ってくれた。色々なルームを渡り歩くうち、ああして初心者のスポーン位置で待機して初物喰いしているプレイヤーは珍しくないんだと知った。
「あの……、俺、全然SMとか知らないんで、お手柔らかにお願いしますね」
まさか急に鞭で打たれたり蝋燭を垂らされたりはしないよな、と内心で怯えながら言うと、ヤジは指を振って俺の前に丸い座面のパイプ椅子を出してそこに座った。
「大丈夫だよ。極力怖いことはしないようにするから。胸、出していい?」
一度セックスした後だけれど観覧車の中という設定だったから俺もヤジも着崩れてはいるけれど服を着ている。宙から洗濯バサミを出したヤジは俺のTシャツを下から捲って肩の辺りで止めた。さっきのプレイで優しく撫でられていただけの胸の突起はまだ平たく小さかった。
「あんまり羞恥心とかは無い方?」
「あ、いえ……現実じゃないんで、どっちかっていうと恥ずかしいくらいの方が気持ちいいから、気にならないっていうか」
前のめりになって俺の胸に顔を寄せてきたヤジが、ふ、と乳首に息をかけてくる。ぞく、と腰に響いて顔を逸らして細く息を吐いた。
「せっかくなら現実で出来ないプレイをしたい?」
「まぁ、そうですかね」
「このSMルームではね、痛覚遮断の上限値が他のルームより高く設定されてるんだ」
急に話が変わって、ヤジの方へ視線を戻した俺の目を見て、彼が指を振ってその手の中に金槌を出す。木製の柄に黒々した重そうな金属の金槌を振り上げて、ヤジはその笑顔を少しも崩さず俺の腕に向けて振り下ろした。
「──ッ!!」
ひゅ、と息を呑むことしか出来なかった俺は、しかし肘より前を金槌でべっこりと凹まされた自分の細腕を見つめて、数秒してからゆるゆると息を吐いた。
「全然痛くなかったでしょ?」
「そう……ですけど。すげー怖かったですよ……」
極力怖いことはしない、だなんて言ったばかりの癖に。じろりと睨むと、ヤジは面白そうに唇を歪ませながら、金槌を消して俺の腕を優しく撫でた。
「そう、その『怖い』っていうのがポイントなんだ。このゲームでは痛覚の波形自体にもチェックが入ってるけど、その前に一定値以上の恐怖を感じると感覚を遮断するシステムも入ってるんだよ。だって、痛い! って思ってから遮断されても遅いでしょ?」
「確かに。今のも、痛みっていうか金槌が当たった感触も無かったですし」
「うん、だからね、俺は出来るだけ怖いことをしないことにしてるんだ。痛みが消えちゃうなんて、勿体ないでしょ?」
ヤジが撫でているうちに、凹んでいた腕がいつの間にか治っていた。その肌にはもう感覚が戻ってきている。
「そうは言っても、痛いのって大抵は怖くないですか?」
「そこはほら、俺の努力次第っていうかー」
ヤジの言っている意味はなんとなく分かるけれど、『痛みが消えると勿体ない』というのはよく分からない。真性のマゾならそうなのだろうけど、俺は生憎そうじゃない。
「すこーしずつ、怖くないようにするからねー」
穏やかな笑みを浮かべたヤジが次に宙から取り出したのは、ピンク色の小さなローターだった。バーチャルだからか電源用のコードもスイッチもなく、ぶるぶると小さく振動する音が聞こえてくる。それを両手に一つずつ持って、俺の胸にそっと触れさせてきた。
「……ん」
「おっぱいで遊んであげたいから、少し育てようね」
鎖骨の下から、震えるローターが俺の上半身をゆっくり撫でていく。くすぐったくて身を捩るけれど、ヤジはそれを咎めることもなく、薄い笑みを崩さないままローターで胸や腹を撫でた。ブブブ、と細かい振動で肌が揺れて、しかし胸の突起には触れてこない。突起をぐるりと廻るように乳輪を撫でられて、思わず小さく声が漏れた。
「イサトくん、すごく可愛いね。アバターもだけど、その、反応が控えめな感じがすごくイイ」
「……どう、も」
「俺ね、普段は他のルームの子ここにナンパしたりしないんだよ? イサトくんにもっと気持ちいいこと知って欲しくて、我慢出来なくてさー」
「……っ、ん……、気持ちいい、こと……」
「そー。俺も頑張るから、イサトくんも頑張ろうね」
頑張るって何を、と思った俺の胸の、焦らされてすっかり尖らされた先端にローターが掠って、息を殺して首を反らした。
ほとんど身動き出来ない状態で生殺しのようにローターで撫でられて、ズボンの中の俺の肉が血を集めて硬くなっている。上でも下でもいいから、早く触れてほしい。
「そろそろいいかな」
呟いたヤジが、ローターを消してその手に小さな洗濯バサミのようなものを取り出した。
ほとんど触れられないまま尖った乳首を、今度はいきなり指で摘まれて強く引っ張られた。
「イッ……!」
「痛い? そっか、イサトくん、結構痛みへの耐性強いのかな。でもこっちは大丈夫だと思……」
「痛い痛い痛いっ!」
「…………へぇ」
切れてしまうんじゃないかと思うくらい伸ばされた乳首を、横から洗濯バサミのようなもので挟まれ、更なる強い痛みが追加されて目尻に涙が溢れてきた。刺されたのかと思うくらいに強烈な痛みで、思わず叫んだ俺の乳首から一旦洗濯バサミを外して、ヤジは申し訳なさそうにそこを舐めてきた。
「んっぅ」
「ごめんね。泣くほど痛いのは嫌だよね。もう少し弱めからにするね」
ぺろぺろと舌で舐められ、痛みで熱く火照ったそこが気持ち良さで癒されていく。ちゅ、ちゅ、と軽く吸われ、甘い感覚に強請るみたいに胸を反らした。
「おっぱい気持ち良くされるの、好き?」
「……う、ん……好き……」
平らな男の胸を『おっぱい』なんて呼ばれると恥ずかしいけれど、これはゲームだ。この男はそういう性癖なんだろう、と気にしないことにして素直に返事をする。ゲーム内でいくら弄り回されても、現実の身体が変化するわけじゃないから欲望に忠実になれるのが良い。
吸ったり舐めたりされながら、反対の乳首を指先で優しく捏ね回されて、触れて貰えない中心が切なくて椅子をがたがたと揺らしてしまう。
「こっちはもう少し我慢しようね」
「んんん……っ」
乳首を撫でていた指が下に降りてきて、膨らんだ股間をズボン越しに撫でてまた上に戻ってくる。意地悪された、と初めて明確に分かって、胸を舐めるヤジを軽く睨み下ろした。目を合わせた彼は楽しそうに目を細めて、そして見せつけるように俺の尖った先端を舌の上に乗せてから、カリ、と軽く噛んできた。
「っ……」
「可愛い。ほんと可愛いね、イサトくん」
舐めたり吸ったりするだけだったそこに、甘噛みが加わって目眩がした。気持ち良くて、時々少しだけ痛くて。でも、さっきみたいに泣きそうな痛みはこない。ほんの少し、一瞬だけ痛くて、けれど次の瞬間にはまた気持ちいい。気持ちいいのか痛いのか、頭が混乱してどっちなんだか分からなくなってくる。噛まれるのが気持ちよくて、舐められるのが痛い? それとも、どっちも気持ち良くて、どっちも痛いんだろうか。反対側の乳首も絶えずくりくりと撫でくり回されていて、逃げ場もなく与えられ続ける快感に頭が真っ白になっていく。
「……ぁ、あ」
びく、と俺の身体が跳ねて、その衝撃で意識が戻ってきた。息が荒い。身体が怠い。風邪の時みたいだ、と揺れる視界に眉間に皺を寄せてヤジを見ると、ずっと俺の顔を見上げていたらしい彼は満足そうに笑っていた。
「さっきの、もう一回挑戦してみようか」
「さっきの……?」
なんでこんなに息が荒いんだろう。バグか何かだろうか、と一旦落ち着かせてほしい俺の前に、ヤジが再び洗濯バサミを取り出した。
「それ、痛いから嫌です」
「挟む力、さっきより弱めたから。我慢出来なそうだったらまたすぐ外すから。ね?」
「……ん」
そんなに洗濯バサミで乳首を挟むのが好きなんだろうか。不思議な性癖、と思いつつ、やりたいというなら協力したい。性癖に素直になれるのがこのゲームの良さなんだから。
軽く頷くと、ヤジは俺の顔色を窺いながらゆっくりと乳首を伸ばして、開いた洗濯バサミで挟んでくる。
横向きの洗濯バサミから、伸ばされて潰された乳首の先端だけがはみ出した。やっぱり、痛い。けれど、さっきよりはマシになっている。我慢出来ないほどじゃない。
「大丈夫? 痛い? 痛くない?」
「痛いけど、大丈夫です」
「……そっか」
クスクスと笑ったヤジが、洗濯バサミから出て真っ赤になっている乳首に吸い付いてきて、彼の口の中で舐め回された。潰されているのは痛いけれど、舐められるとやっぱり気持ちいい。また視界が乳白色に濁っていく。
「ん、んん……っ、それ、気持ちいぃ……」
「嬉しいなー。こんな適性ある子拾えたの、ほんとラッキー」
「てき、せい……?」
「あのね、イサトくん。この洗濯バサミね、さっきと強さ変わってないよ」
「は……?」
首を傾げる俺に、ヤジはもう一つ洗濯バサミを出して、そして指で撫で続けていただけの反対の乳首をそれで摘んだ。
「イッ……痛い、って」
「ほら。さっきより痛くなく感じる? それね、君が痛みに慣れただけだよ」
痛みに慣れた?
困惑する俺の乳首を舐め回しながら、ヤジは俺のズボンのファスナーを下ろして下着をかき分けて陰茎を握ってきた。
「んぅっ」
「さっき乳首だけでイッたのに、もう元気だね」
指で弄られ続けた方の乳首は、腫れたみたいに膨らんでいて舐められるとピリッと痛んだ。けれど、陰茎を扱かれながら舐められると、また痛みと気持ち良さの渦の中に突き落とされる。
「は……ぁ、あっ、い……痛、い……」
「うん、痛いんだね。痛いってことは、イサトくんはこれ、我慢出来るって思ってるんだね。いいこだね。我慢強い子、俺大好き」
「ち、が……ぁ、気持ち、良くてっ……、痛いの、分かんなく、なる、ぅ」
「いいよー、それで。気持ちいいのと一緒に、痛いのも好きになっちゃおうね」
両の乳首と陰茎と、敏感な三箇所を同時に虐められて、頭がぐちゃぐちゃになる。やめてほしいのに、逃げさせてほしいのに、逃さないでほしい。気持ち良くて、痛くて、もっと気持ち良くなる。ぐちゃぐちゃ激しく扱かれる陰茎が先端から白濁を吐いて、一瞬目の前が真っ白になって脱力しかけたのに、ヤジはそれでも手を止めてくれない。
「あ、ぅ……やぁ、ヤジ、……、も、イッた……ぁ」
「うん。もっといっぱいイこう」
「いあ゛ぁッ、いだいっ、噛むの、やぁっ」
達したばかりの陰茎を擦り続けられて、それだけで暴れ出したいのに、更に乳首の先端をがじがじと噛まれて悲鳴をあげた。俺が涙を溢すのを間近から見上げて、ヤジは口角を上げてまた真っ赤に膨らんだ乳首を舐めあげた。
「すごいなー、このゲームで泣くほど痛がってくれた子、初めてだよ」
痛くしてごめんね、と洗濯バサミを外してくれたヤジは、そこからは謝罪代わりみたいに気持ち良いことだけをしてくれた。舐めて擦って、最後は彼の口の中で三度目の射精を迎えた。
呼吸どころか意識も覚束ない俺の前で精液を飲み込んで、ヤジが唇を拭って立ち上がる。
「次は苦しいのが平気かどうか試してみていい?」
まだ何かするのか、と思いそうになるが、俺が一方的に遊ばれていただけで、彼はさっき前のルームで一回したきりだ。
俺が返事する前に彼は宙を指で操作し出して、少ししてからべろりと舌を出した。
「……な、なんですか、それ」
「ヘビさんだよー」
ヤジが口から伸ばした舌は、細く長く彼の鎖骨まで伸びていた。先端が二股に分かれた不気味な様相に思わず引くのに、俺の反応に構わず顔を寄せてくる。
何をするのかと思えば、口の中に入ってきたその舌が、俺の舌を押さえ付けて喉奥を目指してくる。喉仏をその先で舐められた感覚に、逃げようとしてもすかさず頭を両手で鷲掴みにされた。
「……っ、う、けへっ」
喉の中で、細い舌が這いずり回っている。身体の反応としてえずいている俺に唇を合わせて、それでもまだヤジはもっと奥まで舌を入れてくる。喉の奥の、飲み込んだ感触がある最後の部分まで舌が入ってきて、そこをぺろぺろと舐められる感触に、段々と意識が遠くなっていく。苦しいのに、喉の奥を舐められるこそばゆさは慣れてくるとやたら気持ち良く感じた。現実じゃ絶対に起こり得ない行為で、バーチャルだからこそ、安心して気持ち良さに委ねることができてしまう。
「ぁ……」
にゅるる、と長い舌が抜かれていって、そして少し辛そうな表情でヤジが笑う。
「イサトくん。嫌じゃなければ、今の、俺のチンポでやってくれない?」
「今の……?」
「喉の奥まで咥えるやつ。このアバターの、あんまり太くも長くもないから、そこまで苦しくないと思うんだけど」
どうやらイラマのことを指しているらしい。ゲーム内ではそれほど珍しいプレイでもなく、通常の和姦系のルームでも行われている。苦しくても死なないし、痛みは遮断されるから、受け入れる方もそんなに負担が無い。俺も既に何度か経験があるから、軽い気持ちで「いいよ」と応じた。
ごそごそとズボンと下着を下ろしたヤジは、中性的な外見に合った綺麗な色の陰茎を勃起させて、申し訳なさそうに俺の頭の方を股間に引っ張った。
「ごめんね。少し体勢苦しいかもしれない」
少しSっ気があるだけで、根は優しい人なんだろう。気遣われるのは悪い気はせず、口元に押し付けられた真っ赤に張り詰めた肉の先にちゅっとキスしてから、それを口の中に迎え入れた。
ほんのり温かい陰茎の先端が喉の奥を押して、軽く咽せる。前屈みの俺の後頭部をヤジの手が撫でた。目線を上げると、彼は頬を紅潮させて恍惚とした表情で俺を見下ろしていた。
──言う事聞いてくれるのが嬉しい系の人なのかな。
半年以上もプレイしていれば、相手をしたのは何百人という数にのぼる。それだけの数をこなせば、相手が何をされると嬉しいのか経験から察しはついてくるものだ。
さっきも、『控えめな感じがいい』と言っていた。性欲以外でも、現実で満たされない部分をこのゲームで埋めようとするのもまた、珍しいことじゃない。
「イサトくん、もっと奥まで飲み込んで、ごっくんってしてくれる?」
「……?」
「何か飲み込む時みたいに。出来なかったらいいんだけど」
優しく頭を撫で続けながら、ヤジはそんな指示を出してきた。
お情け程度に生えた下腹の茂みに鼻を埋めながら、もっと奥まで飲み込んで、喉を動かしてみる。飲み込むみたいに、と言われても喉が詰まっていて上手く出来ないから、喉に力を入れて絞るみたいにしたのだけれど、彼は低く呻いてから「そう。上手だね」と言ってくれた。
イラマをしたがるなら当然頭を掴んで揺さ振ってくるものだと思っていたのに、ヤジは俺の頭を撫でるばかりで、一向に動かそうとはしない。喉奥に軽く絞られているだけでは、そんなに気持ち良くは無いと思うのだけど。実際、口の中の肉は柔らかくなってきてしまっている。
「……ダメだよー。抜かないでね」
じっとしていても苦しいだけだし、と喉で扱いてやろうと抜こうとした頭を、撫でていた手に止められた。
どうして? と目で聞く俺の前髪を指で撫で、ヤジが形の良い薄い唇を歪ませて「もう少し待ってねー」と微笑んだ。
「あのね、おしっこ飲んでほしいんだ。できる?」
「……ん」
やはり、嫌ならいいよ、という拒否権を残したまま、ヤジが言う。別に現実じゃないし、それもまた経験済みだ。味はこちらの思い込みで変えられるらしいから、いつもコーラ味だと思い込むことにしている。
俺の了承の返事を聞いて、ヤジが身を震わせた。喉奥に直接注がれて、熱さは感じるけれど味は分からない。そういえば、イラマのまま飲まされるのは初めてだった。
ごく、ごく、と飲み下して、大した抵抗感もなく解放された頭をヤジの下肢から離した。
「恥ずかしいのも痛いのも苦しいのもスカトロまでオッケーかぁ。イサトくん、フレンド多いでしょ?」
「あ~……まあ、そうですね」
グロ系のルームには近付かないけれど、それ以外でNGに設定しているプレイは無い。スカトロも黄金専用ルームがあるから、大抵はおしっこの方しか求められないし。
そんなもんじゃないですか、と答えると、ぎゅっと抱き締められた。
「あの……?」
「そっかー。じゃあ結構順番待ちするよね?」
「順番? あ、俺、予約申請全部蹴ってるんで、特にそういうのは」
アバターのおかげかフレンド申請もバンバン飛んでくるし、プレイを予約する申請も絶えないが、俺は気ままにプレイしたいタイプだから全部断っている。その日ログインして適当なルームに入って、最初に声を掛けてきた人とヤるくらいがちょうどいい。
今日もそんな感じでヤジと出会ったから、やっぱり色んな人とヤッた方が真新しくて楽しい。
「じゃあ、ベスフレになってくれない?」
「あ~……うーん……」
ベストフレンド機能は、フレンド機能の上位版だ。メッセージが送れるだけのフレンドから、ログイン状態と、インしているならどこのルームに居るかまで分かるようになる。
あまり気乗りしない、というのが表情に出てしまって、それを見たヤジは少し悲しそうに眉をハの字にしてから、パッと表情を笑顔に戻した。
「フレンドだけ申請するね」
「うん」
「俺、大体毎日十九時にはインしてるから、気が乗ったらSMルーム覗いてほしいな」
「分かりました」
フレンドは増えていくけれど、俺からメッセージを送ったことは一通も無い。ルームに入れば誰かしら相手してくれるのに、わざわざ誘いのメッセージを考えるのも面倒だし、誰とヤッてもそれほど大差ない。……大差なかったのだけれど。
「……たまに覗きに来ます」
今日のは、強烈だった。
たまにヤりながら尻を叩いてくる人は居たけれど、正直気が散って鬱陶しいとしか思わなかったのに。
気持ち良くて楽しいだけの今までのセックスも悪くはないのだけど、たぶんきっと、三日後には俺は彼とのセックスが恋しくなっている気がする。
俺とフレンドになったのを確認したヤジは、にっこりと笑ってから頬にキスしてきた。
「待ってるよー」
その日はそれで解散で、そしてやはり俺は三日後には『SMルーム』の扉を開いていたのだった。
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さいとう みさき
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