上 下
902 / 1,408

1245.常識的

しおりを挟む
 女将の感じやすい肉体は情欲を高ぶらせ、発する声も艶やかに男性従業員の性欲を刺激する。
 そして昼を回る頃には頻繁な入浴を余儀なくされ、日が暮れる頃には数人の男性従業員全員とねんごろになっていた。

「今日はとても有意義な1日でした。わたしは今後もこの姿で接客に務めたいと思います。できればそのまま本宿のサービスに生かせないかとも考えています」
「ちょ、ちょーっと待ってください! そのままって女将さんが裸でってことですか!?」

 仲居が素っ頓狂に声を上げた。

「その通りです」
「アウトです! 色々アウトです! 言ったじゃありませんか!」

 仲居は常識的だった。

「しかし予約のお客さんもいらっしゃらないし、飛び込みも無しではなんらかの梃子入れが必要ですよ」
「判断が速すぎます! 2、3日お客さんが居なかったくらいで!」

 ここで番頭が唸り声を上げた。

「……今思うとお客さんの数の前に外がちょっと変ですよ。人っ子一人居ませんでしたから」

 番頭が取引先に走った時、町には誰も居なかった。だからそのまま引き返したのだ。

「何であの時不思議に思わなかったんでしょうね……」

 番頭が腕組み考え、一同はそんな番頭を不思議そうに見やった。
しおりを挟む

処理中です...