生活魔法は万能です

浜柔

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572 計算

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 翌日は第三階層途中から第二六階層までルキアスの『傘』で移動し、そこで二手に分かれた。
 そこでメイナーダがルキアスに言う。

「わたし達は『傘』で移動してマッピングに専念しましょう」
「……あ、はい」

 ルキアスは一瞬戸惑うが、どうしても魔物を狩らなければならない動機も無いので同意した。
 早速『傘』を差し、メイナーダ、ユアと共に乗り込んで進む。メイナーダは移動中にほぼ休み無くマッピングしている。

「どうやったらそんなにマッピングをサクサクできるんです?」
「あら、ルキアスちゃんだってやろうと思えばできる筈よ」
「はい?」

 何を根拠に言うのが俄には思い浮かばないルキアスである。

「ほら、魔法を飛ばしたら割と正確に自分からの距離と向きが判るじゃない? 距離を測りたい二箇所に魔法を貼り付けた後はちょっとした計算で求まるのよ」
「……」
「……少しお勉強しましょうか」
「え……、はい……」

 ルキアスは反射的に断りそうになったが、メイナーダの笑みに凄みが増したのを察して頷いた。それに知らないままで済ませることはできないのだ。
 メイナーダは中空に『火魔法』で点を左上と右下とに二つ描く。

「例えばこの二つの点を回廊の曲がり角のA点と次の曲がり角のB点とするでしょ」

 メイナーダは真ん中下にもう一つ点を描く。

「ここが自分の位置のC点だとして、これを結んで三角形にした時、C点からA点、C点からB点の距離、それにC点の角度はルキアスちゃんにも判るわね?」

 メイナーダは点を結んで三角形を描いた。点の位置は左からACBの順で、BCを結ぶ線は水平になっているので出来上がった三角形は鈍角だ。
 この形はともかく、ルキアスにも自分が使っている魔法までの距離は判る。

「はい」
「そうしたらこんな公式が成り立つの」

 メイナーダは三角形の各辺に合わせて正方形を描く。A点から垂直に下ろした線とBCから延長した線で直角二等辺三角形を描いてそこにも正方形を描く。更に幾つか線を引き、「こことここの面積は同じだから……」と面積を求める四角とその後の計算の仕方をレクチャーする。

「ただこの計算を厳密にしていたら時間が足りないから、普段は近似値で計算するわね。後で計算し直せるように距離と角度をメモっておくといいわ」

 もっと手っ取り早いのは起点にマーキングして終点付近まで行って距離を求めることである。
 一通りの講義を受けたルキアスは実践する。回廊の途中に止まり、距離を測って計算する。求めた数字はメイナーダの計算と答え合わせする。微妙にずれがあった。

「もっと練習しましょう」

 繰り返す内に計算しなくても概ねの距離が判るようになると言う。
 今日のルキアスは第二七階層の階段を見付けられないまま引き上げる時間となった。
 合流地点に戻って間もなくタイラク達も戻って来た。

「疲れた……」

 シャルウィがまた奇妙に疲れた顔をしていた。

「あらあらどうしたのかしら?」
「マッピングが上手く行かなくて……」

 シャルウィが描いた地図は回廊の接続がずれてしまい、これが原因で迷ったらしい。

「あらあらそれならシャルウィちゃんもお勉強かしらね」
「はい?」

 流されるままにシャルウィが受けたメイナーダの講義は夜更けまで続いた。
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