生活魔法は万能です

浜柔

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552 ゆるゆると

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「こりゃひよっこの中層クラスじゃ辛そうだ」

 ロマは短剣で目前の魔物を屠った後、軽く肩を回しながら言った。口では「逃げ隠れが上手いだけで戦闘はからっきし」と言っていたが、中層レベルの魔物は構えずとも倒せるだけの戦闘力はあったのだ。

「この魔物の数じゃ、さくさく倒せなきゃ休む暇が無くなって詰んじまう」

 レベルがギリギリの場合、他のパーティーと競合しないのを前提としてパーティーを組んで競合してしまったりや、逆に競合するのを前提としていて競合しなかったりと言った時に困る。
 魔物一体に時間を掛ければ次の魔物が来られて撤退を余儀なくされる。何とか撤退せずに済む範囲であっても魔石を抜く時間が見出せなければ収入が得られなくて生活できない。かと言って、パーティーの人数を増やして戦闘力を上げたとしても、目論んだ通りの数の魔物を倒せなければ、これまた収入が足りなくて生活できない。
 パーティーの人数は三人から五人の間と相場が決まっているが、これは単位時間一人当たりの収益分岐点がこの辺りにあるためだ。人数が多ければ安全に素速く魔物を倒せるが、移動が遅くなるので接触可能な魔物が少なくなる。殲滅速度と移動速度とのバランスで最大効率が期待できるのがこの辺りの人数となる。
 また、収入に準じる理由として、人数が増えればパーティー内の不和が増えることもある。この点は複数パーティーによる合同探索を阻害する要因でもある。パーティー間ではパーティー内よりいざこざが起きやすいのだ。
 これらを勘案すると、少なくとも四〇レベルの実力のメンバーで構成されたパーティー単体での探索が望ましい。そしてこれだけの実力が無い探索者にはこのダンジョンを紹介するのを避けたいとロマは考えた。
 小手試しが終わったロマはザネクとスイッチして一旦後に下がる。

「なあ、兄弟。兄弟もあの兄ちゃんも浅層レベルだったと記憶してるんだが? 今のあの兄ちゃんはどうみても中層、五〇レベルくらいだよな?」
「剣を換えてからかな? だけどザネクはきっと前からこのくらいの実力があったんだよ。剣が合わなくなってただけで」
「ほう」
「ぼくに合わせてくれてたのもあるかも知れないけどね。ザネクは優しいから」
「! 変なこと言うな!」

 唐突に褒められたからか、ザネクが動揺した。

「ザネクったら何恥ずかしがってんのよ」

 シャルウィがにまにまと笑い、ザネクは真っ赤になって絶句した。
 そしてこの後もゆるゆると探索を続ける。

「兄弟の心配は要らなそうで安心したぜ」

 ロマは一日の終わりにそう言った。
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