生活魔法は万能です

４６３ チェーンソーを使えば

　中長期的な課題の壁の構築はともかく、喫緊の課題をこなさなければならない。このダンジョンまでの徒歩ルート確保だ。
　町へ向かう途中に上空から見れば、木々の連なりと水面がモザイクのように広がっている。木々の連なりだけを追えば、昨日木を切り倒した所まで繋がっている。
　だがフヨヨンは言った。

「丈夫な橋を架けなきゃ恒常的に歩いて渡るのは無理だね」

　木々の連なりと連なりの間に水面が在るのはどこかで途切れている証拠だと言う。

「でも一度だけ来られればいいならどうにでもなるよ。地面ギリギリで木を切って、水の在る場所は半分に割った木を渡せばいいからね。切る方はチェーンソーを使えば簡単だよ」

　明日にでも歩いて通れるようにしたいのは宿の主ツアゾを連れて来なければならないためだ。しかしこれは一度だけで良い。ツアゾが満足してしまえば後はもう当面の間ルキアスやザネクの『傘』で飛べば良いのである。
　ともあれ、今日のところは経路に当たりを付けつつ宿へと向かった。




「増えた？」

　宿の主ツアゾはぼやくように言った。

「人のことをを虫が涌いたみたいに言うんじゃねぇよ」
「虫の方がもっと可愛げがある」
「っと、ムカつくオヤジだぜ」
「君達がお互いにどう思ってるかなんてどうでもいいよ。明日はそっちの人もダンジョンまで行くんだから、無駄に体力を使うような真似は止しといてくれたまえよ」
「私もだと？」
「そうだよ。行きたかったんじゃないのかい？」
「勿論だ。行けるなら行かせて貰おうじゃないか」
「なら決まりだね」
「あら？　道は出来そうなの？」

　タイラクとツアゾの言い合いには無視を決め込んでいたメイナーダもフヨヨンの言葉には反応した。

「出来るかどうかはルキアス君次第だけどね」
「え？　ぼくですか!?」
「チェーンソーは一台しか持ってないからね。ルキアス君に任せるよ」
「ああ……、はい」

　ダンジョンに行かなければならない理由があるのは自分なのだから、自分ができる事はやろうとルキアスは考えた。




　翌朝早くからルキアスは作業に入った。チェーンソーの使い方をフヨヨンから習い、おっかなびっくりしながらもタイラクが残した切り株の根元へとその刃を向ける。軽快な音を立てて木に食い込んで行くチェーンソー。
　ところがフヨヨンはその様子を見て言った。

「切り株でこのペースだと、立木を丸々チェーンソーで切っていては今日中に終わりそうにないね。タイラク、先に剣で斬り倒してくれたまえよ」
「……やっぱりそうなるのかよ」

　タイラクはぶつくさ言いつつも剣を抜いて先に進んだ。