生活魔法は万能です

浜柔

文字の大きさ
上 下
447 / 627

447 俺も

しおりを挟む
「ルキアス、俺もそのダンジョンに行くぜ」

 ルキアスのフリーズが解けるのを見計らったように、ザネクは申し出た。未だ頬を摩っているは、余程リュミアの抓りが応えたのだろう。
 ルキアスはその意外な申し出に驚いて、また固まったかのようにザネクに瞠目する。

「そんなに驚くもんか?」
「だってザネクは剣を極めたいんだと思ってたから。それなら絶対ここのダンジョンの方がいいよ?」

 何せダンジョンの主が探索者を育てようとしているのだ。深層を目指しつつ修練を行えば一角の剣使いになれるだろう。他のダンジョンに行ったならここ程の効率的な修練はできなくなる。

「俺が行くのは駄目か?」
「いやっ! そんなことはないよ! ザネクの修練になりそうにないから申し訳ないだけで!」

 ルキアスはむくれ気味のザネクを慌てて宥めた。

「だったら俺がいいんだからいいじゃないか」

 ザネクは腕を組み、口をへの字に曲げて梃子でも動かない風情を醸し出した。
 その後押しをしたのはタイラクだった。

「ルキアス、いいじゃねぇか。人が多い方が都合のいい事もあるだろうし、探索者ってのは未知を求めるもんだからな」
「……確かにそうですね。じゃあ、この先もよろしく頼むよ、ザネク」
「おう。そうこなくっちゃな」
「……あたしも行こっかな……」
「シャルウィ?」
「だってほら、ルキアスの気が済んだらまたみんなで一緒に探索ができるのかと思ってたのに、どこかに行っちゃうんでしょう? おまけにザネクまで付いて行くんじゃ、あたしだけ取り残されるみたいじゃない?」
「でもエリリースは行かないから……」
「エリリースは気楽に会える相手じゃないでしょ!」
「そ、そうだね……」

 ルキアスも直接にはエリリースに連絡できない。リュミアを経由することになるが、そのリュミアにさえ直接連絡を取ろうとするよりザネク経由になりがちだ。

(そう言えばザネクの家も知らないな……)

 ルキアスはふと考えたが、ザネクと一緒に住んでいるらしきガノスと顔を合わせるのも気まずい。以前唐突に謝られたのが原因ではあるが、もしも何も知らないまま暢気に訪問することがあったとしたら何を思われていただろうかと考えると恐怖を覚える。謝られた今でもガノスにどう思われているか自信が持てないので、避けて通れるなら避けて通りたい相手だ。

(ガノスさんから逃げててもしょうがないけど、やっぱりなぁ……)

 チキンハートであった。いつの間にか芽生えていた苦手意識が払拭できる日は遠そうだ。

「ルキアス? 何をぼーっとしてるの?」
「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事しちゃってた。で、思ったんだけど、『傘』に六人は乗り切れないかも……」
「『傘』で行くつもりなの?」
「そうだよ。何日掛かるか判らないけど、ずっと乗ることになるんだ」
「もしかして、ザネクがそっちのおっさんとずっと密着するくらいに狭いってこと?」
「おっさんとはご挨拶だな」

 タイラクが口をへの字に曲げた。するとメイナーダが茶化す。

「あら、十分おっさんじゃない?」
「ほっとけ」
「じゃあ、ほっとかせて貰うわ」

 シャルウィが自分の良いよう解釈する様に、タイラクは瞠目した。

「で、ルキアス、どうなの?」
「密着まではしないけど、似たようなものになりそうかな……」
「それじゃシャルウィは俺の『傘』に乗るか? ルキアスのようには飛べないからルキアスにゆっくり飛んで貰わなきゃいけないが、別れればスペースは広くなるぜ?」

 ザネクは仄かに頬を赤らめた。
 するとその場がによによした空気に包まれ、何となくの感じでそのまま話が纏まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

学園の聖女様はわたしを悪役令嬢にしたいようです

はくら(仮名)
ファンタジー
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にて掲載しています。 とある国のお話。 ※ 不定期更新。 本文は三人称文体です。 同作者の他作品との関連性はありません。 推敲せずに投稿しているので、おかしな箇所が多々あるかもしれません。 比較的短めに完結させる予定です。 ※

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫
ファンタジー
 この世界に存在する〝錬金術〟を使いこなすことの出来る〝錬金術師〟の少女ステファニー。 その技を極めた者に与えられる[大賢者]の名を持つ者の弟子であり、それに最も近しい存在である[賢者]である。……彼女は気が付いていないが。  そんな彼女が、今まであまり接してこなかった[人]と関わり、成長していく、そんな話である。  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

処理中です...