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浜柔

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447 俺も

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「ルキアス、俺もそのダンジョンに行くぜ」

 ルキアスのフリーズが解けるのを見計らったように、ザネクは申し出た。未だ頬を摩っているは、余程リュミアの抓りが応えたのだろう。
 ルキアスはその意外な申し出に驚いて、また固まったかのようにザネクに瞠目する。

「そんなに驚くもんか?」
「だってザネクは剣を極めたいんだと思ってたから。それなら絶対ここのダンジョンの方がいいよ?」

 何せダンジョンの主が探索者を育てようとしているのだ。深層を目指しつつ修練を行えば一角の剣使いになれるだろう。他のダンジョンに行ったならここ程の効率的な修練はできなくなる。

「俺が行くのは駄目か?」
「いやっ! そんなことはないよ! ザネクの修練になりそうにないから申し訳ないだけで!」

 ルキアスはむくれ気味のザネクを慌てて宥めた。

「だったら俺がいいんだからいいじゃないか」

 ザネクは腕を組み、口をへの字に曲げて梃子でも動かない風情を醸し出した。
 その後押しをしたのはタイラクだった。

「ルキアス、いいじゃねぇか。人が多い方が都合のいい事もあるだろうし、探索者ってのは未知を求めるもんだからな」
「……確かにそうですね。じゃあ、この先もよろしく頼むよ、ザネク」
「おう。そうこなくっちゃな」
「……あたしも行こっかな……」
「シャルウィ?」
「だってほら、ルキアスの気が済んだらまたみんなで一緒に探索ができるのかと思ってたのに、どこかに行っちゃうんでしょう? おまけにザネクまで付いて行くんじゃ、あたしだけ取り残されるみたいじゃない?」
「でもエリリースは行かないから……」
「エリリースは気楽に会える相手じゃないでしょ!」
「そ、そうだね……」

 ルキアスも直接にはエリリースに連絡できない。リュミアを経由することになるが、そのリュミアにさえ直接連絡を取ろうとするよりザネク経由になりがちだ。

(そう言えばザネクの家も知らないな……)

 ルキアスはふと考えたが、ザネクと一緒に住んでいるらしきガノスと顔を合わせるのも気まずい。以前唐突に謝られたのが原因ではあるが、もしも何も知らないまま暢気に訪問することがあったとしたら何を思われていただろうかと考えると恐怖を覚える。謝られた今でもガノスにどう思われているか自信が持てないので、避けて通れるなら避けて通りたい相手だ。

(ガノスさんから逃げててもしょうがないけど、やっぱりなぁ……)

 チキンハートであった。いつの間にか芽生えていた苦手意識が払拭できる日は遠そうだ。

「ルキアス? 何をぼーっとしてるの?」
「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事しちゃってた。で、思ったんだけど、『傘』に六人は乗り切れないかも……」
「『傘』で行くつもりなの?」
「そうだよ。何日掛かるか判らないけど、ずっと乗ることになるんだ」
「もしかして、ザネクがそっちのおっさんとずっと密着するくらいに狭いってこと?」
「おっさんとはご挨拶だな」

 タイラクが口をへの字に曲げた。するとメイナーダが茶化す。

「あら、十分おっさんじゃない?」
「ほっとけ」
「じゃあ、ほっとかせて貰うわ」

 シャルウィが自分の良いよう解釈する様に、タイラクは瞠目した。

「で、ルキアス、どうなの?」
「密着まではしないけど、似たようなものになりそうかな……」
「それじゃシャルウィは俺の『傘』に乗るか? ルキアスのようには飛べないからルキアスにゆっくり飛んで貰わなきゃいけないが、別れればスペースは広くなるぜ?」

 ザネクは仄かに頬を赤らめた。
 するとその場がによによした空気に包まれ、何となくの感じでそのまま話が纏まった。
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