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415 変な女
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挨拶こそ軽い感じだったロマが真剣な面持ちになった。
「ところで兄弟、体調に問題は無いか?」
「少し息苦しいけど、それ以外は何も無いかな」
「そっか。その程度と聞いて安心した」
ロマは表情を緩めた。
「いや、何ね。兄弟と同じ一〇レベルの探索者がこんな階層まで来たら魔力に当てられて死んじまったりするんでな」
「ええQ? 何となく息苦しいのはそのせい!?」
「多分な。まあでも今がそれくらいならそれ以上悪化しない筈だから、安心してくれていいぞ」
「う、うん……」
「そんで直ぐにでも上に帰してやりたいところなんだが、道中が危険でな。こう言っちゃ何だが兄弟のレベルじゃ命の保証ができない階が幾つか在る。俺じゃ兄弟を連れてそこを通り抜けられるか五分五分だ。死体なら幾らでも持ち帰ってやれるんだが、死体になるのは願い下げだろ?」
「……そりゃ嫌だよ」
「だよな。だからメイを呼んで来るから、それまで待ってくれ」
「え? メイナーダさんじゃなくても、ぼくをここまで連れて来た女の人とか……」
「あいつはちょっとな……」
「じゃあ、タイラクさんに頼むとかは?」
「タイラクは近接だからそれもちょっとな。中には近寄っただけで危ない魔物も居るし、それでなくても兄弟は無茶苦茶でかい魔物の爪が目の前を通り過ぎるのに堪えられるか?」
「……勘弁して欲しいかな」
「だろ? だからメイなんだ。メイはこう言っちゃ何だが出鱈目だからな」
「そうなんだ……。でもそもそもぼくはどうしてこんな所に……」
ルキアスはそう考えたところで気を失う前の経緯を思い出した。
「そうだ。変な女の人に拉致されたんだった!」
「変な女とは失敬だな、ボクは」
ルキアスが声を上げるのに合わせたようにドアが開いてルキアスを掠った女性が入って来た。
「ボクは探求者なんだよ? 探求のためなら何でもするだけさ」
「やっぱり変な人だ!」
「その通り!」
頭を抱えるルキアスの叫びに、ロマは深く頷きながら同意した。
「失敬だな、二人とも」
本気かどうか不明なぷんぷんした様子で怒る女性は奇妙に可愛らしく、ルキアスとロマは毒気を抜かれてしまった。
「そんなことより、起きたのならボクには早速仕事をして貰いたい」
ルキアスを指差しながら言うので、恐らくこの「ボク」はルキアスのことだ。
しかしこれにはロマもおこだった。
「拉致しておいて仕事を押し付けるたぁ、てめぇは奴隷商人か!?」
「キミの了見は狭いね。いいかい? ボクはこのボクのためを思って言ってやってるんだよ? ここで寝泊まりするのに働きもしないんじゃ肩身の狭い思いをしてしまうだろう? そうならないようにしてあげようとしているのが判らないのかい?」
「そもそもてめぇが掠って来たからだろが! お前がまた上まで送り届ければ万事解決だろが!」
「嫌だよ。そんなことをしたら何のために連れて来たのか判らないじゃないか」
ルキアスはロマがメイナーダに頼ろうとする理由に合点がいった。
「うがーっ! ああ言えばこう言う!」
「何を怒り散らしてるのか知らないけどね、これはとても合理的な話なんだよ」
そんな言い合いがなされる中、部屋のドアが開いた。
「よう、ルキアス。目が醒めたんだな。何か妙なことになって悪かった」
入って来たのは肉の塊を持ったタイラクだった。
「ところで兄弟、体調に問題は無いか?」
「少し息苦しいけど、それ以外は何も無いかな」
「そっか。その程度と聞いて安心した」
ロマは表情を緩めた。
「いや、何ね。兄弟と同じ一〇レベルの探索者がこんな階層まで来たら魔力に当てられて死んじまったりするんでな」
「ええQ? 何となく息苦しいのはそのせい!?」
「多分な。まあでも今がそれくらいならそれ以上悪化しない筈だから、安心してくれていいぞ」
「う、うん……」
「そんで直ぐにでも上に帰してやりたいところなんだが、道中が危険でな。こう言っちゃ何だが兄弟のレベルじゃ命の保証ができない階が幾つか在る。俺じゃ兄弟を連れてそこを通り抜けられるか五分五分だ。死体なら幾らでも持ち帰ってやれるんだが、死体になるのは願い下げだろ?」
「……そりゃ嫌だよ」
「だよな。だからメイを呼んで来るから、それまで待ってくれ」
「え? メイナーダさんじゃなくても、ぼくをここまで連れて来た女の人とか……」
「あいつはちょっとな……」
「じゃあ、タイラクさんに頼むとかは?」
「タイラクは近接だからそれもちょっとな。中には近寄っただけで危ない魔物も居るし、それでなくても兄弟は無茶苦茶でかい魔物の爪が目の前を通り過ぎるのに堪えられるか?」
「……勘弁して欲しいかな」
「だろ? だからメイなんだ。メイはこう言っちゃ何だが出鱈目だからな」
「そうなんだ……。でもそもそもぼくはどうしてこんな所に……」
ルキアスはそう考えたところで気を失う前の経緯を思い出した。
「そうだ。変な女の人に拉致されたんだった!」
「変な女とは失敬だな、ボクは」
ルキアスが声を上げるのに合わせたようにドアが開いてルキアスを掠った女性が入って来た。
「ボクは探求者なんだよ? 探求のためなら何でもするだけさ」
「やっぱり変な人だ!」
「その通り!」
頭を抱えるルキアスの叫びに、ロマは深く頷きながら同意した。
「失敬だな、二人とも」
本気かどうか不明なぷんぷんした様子で怒る女性は奇妙に可愛らしく、ルキアスとロマは毒気を抜かれてしまった。
「そんなことより、起きたのならボクには早速仕事をして貰いたい」
ルキアスを指差しながら言うので、恐らくこの「ボク」はルキアスのことだ。
しかしこれにはロマもおこだった。
「拉致しておいて仕事を押し付けるたぁ、てめぇは奴隷商人か!?」
「キミの了見は狭いね。いいかい? ボクはこのボクのためを思って言ってやってるんだよ? ここで寝泊まりするのに働きもしないんじゃ肩身の狭い思いをしてしまうだろう? そうならないようにしてあげようとしているのが判らないのかい?」
「そもそもてめぇが掠って来たからだろが! お前がまた上まで送り届ければ万事解決だろが!」
「嫌だよ。そんなことをしたら何のために連れて来たのか判らないじゃないか」
ルキアスはロマがメイナーダに頼ろうとする理由に合点がいった。
「うがーっ! ああ言えばこう言う!」
「何を怒り散らしてるのか知らないけどね、これはとても合理的な話なんだよ」
そんな言い合いがなされる中、部屋のドアが開いた。
「よう、ルキアス。目が醒めたんだな。何か妙なことになって悪かった」
入って来たのは肉の塊を持ったタイラクだった。
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