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416 先生
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「早速なんだが、これを『捏ね』てくれ」
タイラクはルキアスの傍に寄り、持っていた肉の塊を差し出した。
「おいおい、後から来て割り込むんじゃないよ。このボクにはアダマントを『捏ね』て貰わなけりゃいけないんだからね」
「そんなの後にしろ。この肉はお前にだって悪くないものだぞ」
「どう言う理屈だい?」
「見てりゃ判るって」
「ふん! つまんないものだったら承知しないからね!」
「そうはならんさ」
タイラクはルキアスに向き直って女性を親指で指す。
「悪いが後でこのフヨヨンに少し付き合ってやってくれると助かる」
「フヨヨンさん?」
「ああ、フヨヨンだ。こんなふざけた名前なんて本名かも怪しいがな」
「何を言うんだい。ボクがフヨヨンと名乗って皆がボクをフヨヨンと認識するならボクはフヨヨンなんだよ」
フヨヨンはぷんすか怒る仕草をするが、どこまで本気かルキアスには判断つかなかった。
「まあ、こいつはこんなヤツだ。とにかく先に肉を頼むぜ」
ルキアスには「どんなヤツ」なのかも判断つかなかった。
「この肉は?」
「上で喰った旦那の上位種でリザード先生の肉だ。旦那の肉より固くて非常食くらいにしかなってないが、旦那の肉の味を思えばひょっとするからな」
ダイナリザードは通称で「旦那」と呼ばれているらしい。この「先生」も通称で、正しくはギガントリザードだと言う。
「どうして『先生』なんですか?」
「さあ? 昔からそう呼ばれてるからみんな呼んでるだけで、どうしてそうなのかは判らん」
「そんなこともあるんですね……」
「そんなことより早いとこ肉を頼むぜ。ここの連中に顔通すのに土産があった方がいいからな。美味いもん喰わせれば悪いようにはされねぇ」
肉を『捏ね』る依頼はタイラクなりに気を使ってくれてのもののようだ。だったらルキアスにも否やはない。
「判りました」
ルキアスは肉の塊を『捏ね』る。
(ほんとに固い……)
鉄もかくやの固さだ。しかしそれは最初だけのこと。『捏ね』るに連れて柔らかくなるので徐々に楽になる。
それでも一〇分以上を費やすこととなった。
「これでいいでしょうか?」
「おう。……ついでに焼いてくれるか? 先に味見しようじゃないか」
タイラクは味を想像したのか涎を啜った。
「でもぼくはこれを薄切りにはできませんよ?」
「柔らかくなってるならぶつ切りでいいだろ」
「それもそうですね……」
ルキアスは肉を一口大に切り分けて竹串に刺し、『傘』を焼き台にして焼く。
瞬く間に香ばしい匂いが立ち籠めた。
「何だい、これは! 先生の肉ってこんなに香ばしかったかい!?」
「マジか……。涎が止まらねぇ」
「この匂いは旦那以上だ」
肉が焼き上がり、四人で目配せし合うように顔を見合わせた後、囓る。
無言になった。
タイラクはルキアスの傍に寄り、持っていた肉の塊を差し出した。
「おいおい、後から来て割り込むんじゃないよ。このボクにはアダマントを『捏ね』て貰わなけりゃいけないんだからね」
「そんなの後にしろ。この肉はお前にだって悪くないものだぞ」
「どう言う理屈だい?」
「見てりゃ判るって」
「ふん! つまんないものだったら承知しないからね!」
「そうはならんさ」
タイラクはルキアスに向き直って女性を親指で指す。
「悪いが後でこのフヨヨンに少し付き合ってやってくれると助かる」
「フヨヨンさん?」
「ああ、フヨヨンだ。こんなふざけた名前なんて本名かも怪しいがな」
「何を言うんだい。ボクがフヨヨンと名乗って皆がボクをフヨヨンと認識するならボクはフヨヨンなんだよ」
フヨヨンはぷんすか怒る仕草をするが、どこまで本気かルキアスには判断つかなかった。
「まあ、こいつはこんなヤツだ。とにかく先に肉を頼むぜ」
ルキアスには「どんなヤツ」なのかも判断つかなかった。
「この肉は?」
「上で喰った旦那の上位種でリザード先生の肉だ。旦那の肉より固くて非常食くらいにしかなってないが、旦那の肉の味を思えばひょっとするからな」
ダイナリザードは通称で「旦那」と呼ばれているらしい。この「先生」も通称で、正しくはギガントリザードだと言う。
「どうして『先生』なんですか?」
「さあ? 昔からそう呼ばれてるからみんな呼んでるだけで、どうしてそうなのかは判らん」
「そんなこともあるんですね……」
「そんなことより早いとこ肉を頼むぜ。ここの連中に顔通すのに土産があった方がいいからな。美味いもん喰わせれば悪いようにはされねぇ」
肉を『捏ね』る依頼はタイラクなりに気を使ってくれてのもののようだ。だったらルキアスにも否やはない。
「判りました」
ルキアスは肉の塊を『捏ね』る。
(ほんとに固い……)
鉄もかくやの固さだ。しかしそれは最初だけのこと。『捏ね』るに連れて柔らかくなるので徐々に楽になる。
それでも一〇分以上を費やすこととなった。
「これでいいでしょうか?」
「おう。……ついでに焼いてくれるか? 先に味見しようじゃないか」
タイラクは味を想像したのか涎を啜った。
「でもぼくはこれを薄切りにはできませんよ?」
「柔らかくなってるならぶつ切りでいいだろ」
「それもそうですね……」
ルキアスは肉を一口大に切り分けて竹串に刺し、『傘』を焼き台にして焼く。
瞬く間に香ばしい匂いが立ち籠めた。
「何だい、これは! 先生の肉ってこんなに香ばしかったかい!?」
「マジか……。涎が止まらねぇ」
「この匂いは旦那以上だ」
肉が焼き上がり、四人で目配せし合うように顔を見合わせた後、囓る。
無言になった。
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