生活魔法は万能です

浜柔

文字の大きさ
396 / 627

396 腰が引けていた

しおりを挟む
 ルキアスは腰が引けていた。連れられて行ったレストランがルキアスにとってはあまりに華麗で敷居が高い。服の件はこの前振りだったのか、とはレストランを前にして思ったことだ。あれが無ければ尻込みして逃げ出したかも知れない。
 席に着いても暫く動転したままだった。しかし暫くすれば周りも気になって来る。そろそろと皆の様子を覗うと、リュミアは勿論、ザネクにも何の気後れも無さそうだ。エリリースはキルシルセッカと親しげに話をしている。二人は知り合いだったらしい。

「あらあらルキアスちゃん。漸く目の焦点が合ったようね」
「はいっ!?」

 メイナーダにひょんな事を言われてルキアスの声が裏返った。思い返してみればレストランに入ってからの記憶が曖昧だ。

「もしかしてぼく変な事言ったりしました?」
「そんなことはないよ。消防隊での『傘』の講習を快く引き受けてくれただけだよ」

 答えたのはメイナーダではなくハーベイだった。
 これにはルキアスも挙動不審になる。

「え? えっ? ええっ!?」

 そんな話をした記憶が全く無かった。

「あはは、冗談だよ。君が心ここに在らずの様子だったから返事は聞けてないんだ」
「す、すいません……」
「気にしなくていいよ。何事も初めてだと緊張するものだからね。フォローしてくれる大人が居る時は積極的になった方がいい」
「はい……」

 ルキアスはただ頷いた。

「思い出しますわね。わたくしも家族で初めて来た時にとても緊張したものですわ」
「その時の話は君のお父さんから随分のろけられたものだよ」
「まあ! 嫌ですわ。お忘れになってください」

 エリリースはキルシルセッカの言葉に真っ赤になった。

「努力はしてみよう」

 そんなエリリースを微笑ましげに見るキルシルセッカの答えには何の信用も持てそうにはなかった。
 話をする間に料理もサーブされ、食事に入る。料理はルキアスの記憶が定かでない間にキルシルセッカが頼んでくれていたようだ。もしも曖昧でなくてもキルシルセッカに頼っていたことだろう。ルキアスには見慣れない料理が多い。食べ方の判らない料理を前にあたふたしたりもするが、これは致し方のないことだろう。
 食事の合間、食事の後にも会話は続く。

「実は先の消防隊での講習については冗談ではなく、正式に頼みたいことなんだ」
「それはまたどうして……?」
「消防隊にとって『傘』を使った飛行がとても有用だと君が証明したんだよ? 要救助者の救助と搬送が容易となれば検討しない訳には行かない」
「消防隊だけではないよ。警察や私の店の警備員にも講習を頼みたいんだ」
「『傘』の可能性をみんなに見せてくれないかな?」

 ルキアスは戸惑いを禁じ得なかったが、ここで断ることはできないと感じた。

「判りました。引き受けます」

 ルキアスはそう答えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活

アイアイ式パイルドライバー
ファンタジー
 名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。  妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。  貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。  しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。  小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

処理中です...