生活魔法は万能です

浜柔

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396 腰が引けていた

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 ルキアスは腰が引けていた。連れられて行ったレストランがルキアスにとってはあまりに華麗で敷居が高い。服の件はこの前振りだったのか、とはレストランを前にして思ったことだ。あれが無ければ尻込みして逃げ出したかも知れない。
 席に着いても暫く動転したままだった。しかし暫くすれば周りも気になって来る。そろそろと皆の様子を覗うと、リュミアは勿論、ザネクにも何の気後れも無さそうだ。エリリースはキルシルセッカと親しげに話をしている。二人は知り合いだったらしい。

「あらあらルキアスちゃん。漸く目の焦点が合ったようね」
「はいっ!?」

 メイナーダにひょんな事を言われてルキアスの声が裏返った。思い返してみればレストランに入ってからの記憶が曖昧だ。

「もしかしてぼく変な事言ったりしました?」
「そんなことはないよ。消防隊での『傘』の講習を快く引き受けてくれただけだよ」

 答えたのはメイナーダではなくハーベイだった。
 これにはルキアスも挙動不審になる。

「え? えっ? ええっ!?」

 そんな話をした記憶が全く無かった。

「あはは、冗談だよ。君が心ここに在らずの様子だったから返事は聞けてないんだ」
「す、すいません……」
「気にしなくていいよ。何事も初めてだと緊張するものだからね。フォローしてくれる大人が居る時は積極的になった方がいい」
「はい……」

 ルキアスはただ頷いた。

「思い出しますわね。わたくしも家族で初めて来た時にとても緊張したものですわ」
「その時の話は君のお父さんから随分のろけられたものだよ」
「まあ! 嫌ですわ。お忘れになってください」

 エリリースはキルシルセッカの言葉に真っ赤になった。

「努力はしてみよう」

 そんなエリリースを微笑ましげに見るキルシルセッカの答えには何の信用も持てそうにはなかった。
 話をする間に料理もサーブされ、食事に入る。料理はルキアスの記憶が定かでない間にキルシルセッカが頼んでくれていたようだ。もしも曖昧でなくてもキルシルセッカに頼っていたことだろう。ルキアスには見慣れない料理が多い。食べ方の判らない料理を前にあたふたしたりもするが、これは致し方のないことだろう。
 食事の合間、食事の後にも会話は続く。

「実は先の消防隊での講習については冗談ではなく、正式に頼みたいことなんだ」
「それはまたどうして……?」
「消防隊にとって『傘』を使った飛行がとても有用だと君が証明したんだよ? 要救助者の救助と搬送が容易となれば検討しない訳には行かない」
「消防隊だけではないよ。警察や私の店の警備員にも講習を頼みたいんだ」
「『傘』の可能性をみんなに見せてくれないかな?」

 ルキアスは戸惑いを禁じ得なかったが、ここで断ることはできないと感じた。

「判りました。引き受けます」

 ルキアスはそう答えた。
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