生活魔法は万能です

浜柔

文字の大きさ
上 下
391 / 627

391 仕込みか

しおりを挟む
 声の主は如何にも探索者の風情だ。だが見るからに鍛え方が甘く、第一〇階層を突破しているかも怪しい。
 デナンは念を押すように問い返す。

「仕込みってハンマーでぶっ叩くのがか?」
「そうだ! 『傘』がそんなに丈夫なわけがねぇ! 大方お前が寸止めでもしてるんだろ!」
「そう思うならお前がぶっ叩いてみるか? 仕込みか仕込みじゃないか、お前が証明してくれ」

 疑り深い者に言葉を尽くしても無意味だろう。デナンは彼自身に確かめて貰う選択をした。
 デナンはルキアスと目配せする。デナン達だって最初は『傘』をバシバシ叩きまくった納得したのだから、この講習の参加者だって似たようなものだろう。それに会場の誰かに叩かせる予定も組んでいた。その役目をここで声を上げた男に任せるのも吝かではない。目配せは「ここはこの男に任せよう」と言う合図である。

「いいのか? 仕込みがバレちまうぞ?」
「仕込みなんて無いから早くやってくれ」
「なら、やってやらぁ」

 男は進み出てハンマーを受け取ると、ハンマーの重さを確認してから一旦ハンマーの頭を演台に下ろして柄を自分に立て掛け、両手にペッペッと滑り止めの唾を付ける。そして再度手に取って構えた。

「ふぬっ!」

 男は遠心力を利用した渾身の一撃を放った。ゴッと音が響いたかと思うと、直ぐにドンと音が響く。男がハンマーを取り落としてしまったのだ。手が痺れたようで、男が自らの両手を見詰める。
 そしてデナンとルキアスを睨み付けた。

「おい! これ、絶対何かの天職だろ!? 『傘』がこんなに固い訳があるか!」
「おいおいさっきと言ってるのが真逆だぞ?」

 先はハンマーの使い方にインチキをしたように言い、今は『傘』がインチキなように言う。『傘』を『傘』と認めたくない一心にも感じられる。

「まあ別に信じないなら信じないでいいさ。俺らは信じて欲しくて今回の講習開いたんじゃないからな。どうしても嘘だと思うなら直ぐに帰ってくれ。お互いに時間の無駄だ」
「ぐ……、くそっ!」

 男は悩む素振りを見せたが、周りの白けた視線を気にしてか、訓練場を後にした。

「他にも信じられないってヤツはさっさと帰ってくれ!」

 デナンが呼び掛けるが、動く者は居なかった。

「それじゃ他に誰かこの『傘』をハンマーで叩いてみたいヤツ居るか!?」
「おう! 俺がやるぜ!」

 真っ先に手を上げたのはタイラクだった。

「構わないだろ?」
「あ、ああ。やってくれ」

 念を押されてデナンは思わず頷いた。
 タイラクは演台の上に落ちているハンマーを拾い上げて構える。

「ふん!」

 鼻息と共に叩き付けたハンマーが『傘』に衝突し、ゴキャッと派手な音を立てた。会場内の誰もがビクンとしてしまうほどにだ。
 そしてこの直後、『傘』の止まったハンマーと接触している場所から罅が一瞬で広がり、バリンと音を立てて砕けた。
 誰もが呆けたようにその余韻に浸った。

「すげぇ……」

 最初にそう声を発したのはハンマーを振ったタイラクだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

処理中です...