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381 会食
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会食はルキアスと、ルキアスが助けた女の子の父親キルシルセッカ、消防隊中隊長のハーベイが自己紹介のような話をしながら恙無く進んだ。
キルシルセッカは大手商家の出身で、その妻と娘は娘のピアノの個人レッスンに通った先で火事に遭遇したと言う。ピアノ教師によるレッスンの後にその場を借りて母娘二人だけで練習を続けたのが災いしたらしい。
火事は一階の飲食店の火の不始末が原因だと言うことだ。
そしてルキアスがキルシルセッカの家族を助けたのに因んでの訪問だから、当然のようにルキアスが飛んでいた事も話に上る。すると「飛行系の天職を持った人が近くに居て良かった」「いえあれは天職じゃありませんよ」「天職じゃない?」「あれは『傘』です」のような流れになるのも必然だろう。
「あれが『傘』とは驚いたな」
「ぼくはみんなに驚かれるのが不思議です。ぼくが飛べたくらいだから、今までにも『傘』で飛んだ人が居たんじゃないかなって……」
ルキアスがそう言うと、消防隊中隊長のハーベイは応えた。
「それはどうかな? 『傘』は傘と言いながら雨に降られただけで砕けるだろ? 自分もそうだったが、誰もが早々に見切りを付けてしまうのではないかな」
『傘』だけに、使ってみるのは雨の日だけになりがちだ。多少しつこく使ってみる人でも雨が防げるまでに至らずに諦めるらしい。
「飛べるようになると判ってれば話は別だがね」
「必ず……ではないな。飛べるとは限らない」
ロマがハーベイの言葉に注釈を入れたのをルキアスは不思議に思った。
「ロマさん、それはどうして?」
「生活魔法が苦手なヤツも居るからな。ムキムキマッチョになりたくて筋トレ頑張ってもなれないヤツが居るようなものだな」
「そっか……」
「何より、筋トレが続かないのと同じでそこまで鍛える根性が続かないヤツが殆どだと思うぜ」
「え?」
「俺もな、やってはみたんだ」
ロマは小さく手を広げて肩を竦めた。
「続きゃしなかったな」
「自慢にならないな」
「全くだ。ハーベイならやれるんじゃないか?」
「どうだろうな。だが、やってみる価値はありそうだ」
「なかなか面白い話だね。私も試してみたいものだ」
「あ! 申し訳ありません。こちらでばかり話を進めてしまい……」
ハーベイはキルシルセッカが話に入ったことで、その存在を思い出したかのように謝罪した。
「ああ、気にしないでくれたまえ。実に興味深い話だったからね。して、飛べるようになるにはどのくらい掛かるのかな?」
「朝から晩まで『傘』を使い倒して三ヶ月くらい経ったらもしかしたら……でしょうか。はっきりとは判りません」
「三ヶ月……、それは長いな。もっと早くできるかできないか判断できないものだろうか?」
「それなら一ヶ月も経てば『傘』が固くなると思いますから、もし固くならないようならできないのではないかと思います」
「なるほど段階を踏むのだね。そのくらいなら試してみるとしよう。妻と娘にもやらせてみるとしよう」
何か身の危険が迫った時の助けになりそうだからと言う。
「は、はあ……」
ルキアスは何やら自分が唆したようになってしまっていると感じられ、不安が顔を上げてしまう。
「そんなに心配そうにしなくていいよ。上手くできなくても君を責めたりはしないと約束しよう」
「ありがとうございます」
「いやいやお礼を言うのは私だよ。妻と娘の命の恩人だ。もし困った事があったら相談に乗らせて貰うよ。遠慮無く言って欲しい」
キルシルセッカがそんな風にまとめて、会食もお開きとなった。
キルシルセッカは大手商家の出身で、その妻と娘は娘のピアノの個人レッスンに通った先で火事に遭遇したと言う。ピアノ教師によるレッスンの後にその場を借りて母娘二人だけで練習を続けたのが災いしたらしい。
火事は一階の飲食店の火の不始末が原因だと言うことだ。
そしてルキアスがキルシルセッカの家族を助けたのに因んでの訪問だから、当然のようにルキアスが飛んでいた事も話に上る。すると「飛行系の天職を持った人が近くに居て良かった」「いえあれは天職じゃありませんよ」「天職じゃない?」「あれは『傘』です」のような流れになるのも必然だろう。
「あれが『傘』とは驚いたな」
「ぼくはみんなに驚かれるのが不思議です。ぼくが飛べたくらいだから、今までにも『傘』で飛んだ人が居たんじゃないかなって……」
ルキアスがそう言うと、消防隊中隊長のハーベイは応えた。
「それはどうかな? 『傘』は傘と言いながら雨に降られただけで砕けるだろ? 自分もそうだったが、誰もが早々に見切りを付けてしまうのではないかな」
『傘』だけに、使ってみるのは雨の日だけになりがちだ。多少しつこく使ってみる人でも雨が防げるまでに至らずに諦めるらしい。
「飛べるようになると判ってれば話は別だがね」
「必ず……ではないな。飛べるとは限らない」
ロマがハーベイの言葉に注釈を入れたのをルキアスは不思議に思った。
「ロマさん、それはどうして?」
「生活魔法が苦手なヤツも居るからな。ムキムキマッチョになりたくて筋トレ頑張ってもなれないヤツが居るようなものだな」
「そっか……」
「何より、筋トレが続かないのと同じでそこまで鍛える根性が続かないヤツが殆どだと思うぜ」
「え?」
「俺もな、やってはみたんだ」
ロマは小さく手を広げて肩を竦めた。
「続きゃしなかったな」
「自慢にならないな」
「全くだ。ハーベイならやれるんじゃないか?」
「どうだろうな。だが、やってみる価値はありそうだ」
「なかなか面白い話だね。私も試してみたいものだ」
「あ! 申し訳ありません。こちらでばかり話を進めてしまい……」
ハーベイはキルシルセッカが話に入ったことで、その存在を思い出したかのように謝罪した。
「ああ、気にしないでくれたまえ。実に興味深い話だったからね。して、飛べるようになるにはどのくらい掛かるのかな?」
「朝から晩まで『傘』を使い倒して三ヶ月くらい経ったらもしかしたら……でしょうか。はっきりとは判りません」
「三ヶ月……、それは長いな。もっと早くできるかできないか判断できないものだろうか?」
「それなら一ヶ月も経てば『傘』が固くなると思いますから、もし固くならないようならできないのではないかと思います」
「なるほど段階を踏むのだね。そのくらいなら試してみるとしよう。妻と娘にもやらせてみるとしよう」
何か身の危険が迫った時の助けになりそうだからと言う。
「は、はあ……」
ルキアスは何やら自分が唆したようになってしまっていると感じられ、不安が顔を上げてしまう。
「そんなに心配そうにしなくていいよ。上手くできなくても君を責めたりはしないと約束しよう」
「ありがとうございます」
「いやいやお礼を言うのは私だよ。妻と娘の命の恩人だ。もし困った事があったら相談に乗らせて貰うよ。遠慮無く言って欲しい」
キルシルセッカがそんな風にまとめて、会食もお開きとなった。
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