生活魔法は万能です

浜柔

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221 食ってくれ

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「まあ、食ってくれ。新鮮なクラーケンは美味いからな」

 ルキアスとザネクはむくつけき男達に歓待され、その筆頭たる髭面の中年男、船長自らに料理を勧められる。
 戦いの最中に船から落ちて波間に消えてしまえば救出はほぼ絶望的だ。探知系天職の持ち主でも乗船していれば話は別だが、極めて稀となれば捜索するにあたってどこへ船を向けて良いかも判断が付かない。要救助者までの距離にもよるが、多くは少し方角が違っただけで見付けられない。一割助かれば御の字だろう。
 それを先に見付けてくれたとなれば感謝感激雨あられな訳だ。

「いただきます」

 振る舞われたのは豪快なクラーケン焼きにクラーケンの肝焼きだ。一見すると分厚いクラーケン焼きはその実薄い切り身を焼いた後でソースを挟みながら積み重ねて串に刺している。船員達の姿からは想像できない繊細さだ。
 しかし一口囓るとそんな些細な疑問も氷解した。コリコリとした触感でかなり固い。これで分厚かったらルキアスには噛み切れなかっただろう。一枚ずつ剥がしながらでちょうど良い。
 ところが船長と来たら、一〇枚以上重ねられているだろうクラーケン焼きを重なったまま噛み千切っている。これぞ男らしさの象徴だと言った風情だ。
 それがどうにも微妙なのは、無理して噛み切っているのが表情に窺えるところだ。周りを見ても枚数こそ違えど同じように無理して噛み切っている漁師がそこかしこに見える。
 これにはルキアスだけでなく、ザネクもクラーケン焼きと周りの漁師達を見比べながら目をパチクリ瞬かせている。

「奇妙な掟でも有りそうだな」

 ルキアスはこっそり耳打ちされて小さく頷いた。
 想像できるのは噛み切れる枚数で出世する。あるいは出世しやすいと言うものか。恐らく意気込みを買ってるのだろう。
 もう一つの肝焼きは見た目通りに分厚い切り身が串に刺してある。しかし噛めばスッと歯が食い込む柔らかさで、ニュルッと口に入って来る。だが……。

(うっわ、これ無理……)

 一種独特な風味も受け入れがたいが、何よりルキアスは食感を受け付けなかった。これが腐った物だったなら吐き出すところだ。しかし腐ってはいないので吐き出すのは憚られ、水で流し込む。
 そんな風にルキアスが苦心している間に、ザネクも肝焼きを食べ始めていた。

(ザネクの口には合ってるみたいだね……)

 少し綻んだ顔を見れば気に入っていると容易に判る。

(はあ……。何でこんなことで損した気分になるんだろ……)

 肝焼きを美味しく食べられないことに損したような気分になってしまうルキアスだ。テンションも下がって美味しい筈のクラーケン焼きもももそもそと食べるのであった。
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