221 / 627
221 食ってくれ
しおりを挟む
「まあ、食ってくれ。新鮮なクラーケンは美味いからな」
ルキアスとザネクはむくつけき男達に歓待され、その筆頭たる髭面の中年男、船長自らに料理を勧められる。
戦いの最中に船から落ちて波間に消えてしまえば救出はほぼ絶望的だ。探知系天職の持ち主でも乗船していれば話は別だが、極めて稀となれば捜索するにあたってどこへ船を向けて良いかも判断が付かない。要救助者までの距離にもよるが、多くは少し方角が違っただけで見付けられない。一割助かれば御の字だろう。
それを先に見付けてくれたとなれば感謝感激雨あられな訳だ。
「いただきます」
振る舞われたのは豪快なクラーケン焼きにクラーケンの肝焼きだ。一見すると分厚いクラーケン焼きはその実薄い切り身を焼いた後でソースを挟みながら積み重ねて串に刺している。船員達の姿からは想像できない繊細さだ。
しかし一口囓るとそんな些細な疑問も氷解した。コリコリとした触感でかなり固い。これで分厚かったらルキアスには噛み切れなかっただろう。一枚ずつ剥がしながらでちょうど良い。
ところが船長と来たら、一〇枚以上重ねられているだろうクラーケン焼きを重なったまま噛み千切っている。これぞ男らしさの象徴だと言った風情だ。
それがどうにも微妙なのは、無理して噛み切っているのが表情に窺えるところだ。周りを見ても枚数こそ違えど同じように無理して噛み切っている漁師がそこかしこに見える。
これにはルキアスだけでなく、ザネクもクラーケン焼きと周りの漁師達を見比べながら目をパチクリ瞬かせている。
「奇妙な掟でも有りそうだな」
ルキアスはこっそり耳打ちされて小さく頷いた。
想像できるのは噛み切れる枚数で出世する。あるいは出世しやすいと言うものか。恐らく意気込みを買ってるのだろう。
もう一つの肝焼きは見た目通りに分厚い切り身が串に刺してある。しかし噛めばスッと歯が食い込む柔らかさで、ニュルッと口に入って来る。だが……。
(うっわ、これ無理……)
一種独特な風味も受け入れがたいが、何よりルキアスは食感を受け付けなかった。これが腐った物だったなら吐き出すところだ。しかし腐ってはいないので吐き出すのは憚られ、水で流し込む。
そんな風にルキアスが苦心している間に、ザネクも肝焼きを食べ始めていた。
(ザネクの口には合ってるみたいだね……)
少し綻んだ顔を見れば気に入っていると容易に判る。
(はあ……。何でこんなことで損した気分になるんだろ……)
肝焼きを美味しく食べられないことに損したような気分になってしまうルキアスだ。テンションも下がって美味しい筈のクラーケン焼きもももそもそと食べるのであった。
ルキアスとザネクはむくつけき男達に歓待され、その筆頭たる髭面の中年男、船長自らに料理を勧められる。
戦いの最中に船から落ちて波間に消えてしまえば救出はほぼ絶望的だ。探知系天職の持ち主でも乗船していれば話は別だが、極めて稀となれば捜索するにあたってどこへ船を向けて良いかも判断が付かない。要救助者までの距離にもよるが、多くは少し方角が違っただけで見付けられない。一割助かれば御の字だろう。
それを先に見付けてくれたとなれば感謝感激雨あられな訳だ。
「いただきます」
振る舞われたのは豪快なクラーケン焼きにクラーケンの肝焼きだ。一見すると分厚いクラーケン焼きはその実薄い切り身を焼いた後でソースを挟みながら積み重ねて串に刺している。船員達の姿からは想像できない繊細さだ。
しかし一口囓るとそんな些細な疑問も氷解した。コリコリとした触感でかなり固い。これで分厚かったらルキアスには噛み切れなかっただろう。一枚ずつ剥がしながらでちょうど良い。
ところが船長と来たら、一〇枚以上重ねられているだろうクラーケン焼きを重なったまま噛み千切っている。これぞ男らしさの象徴だと言った風情だ。
それがどうにも微妙なのは、無理して噛み切っているのが表情に窺えるところだ。周りを見ても枚数こそ違えど同じように無理して噛み切っている漁師がそこかしこに見える。
これにはルキアスだけでなく、ザネクもクラーケン焼きと周りの漁師達を見比べながら目をパチクリ瞬かせている。
「奇妙な掟でも有りそうだな」
ルキアスはこっそり耳打ちされて小さく頷いた。
想像できるのは噛み切れる枚数で出世する。あるいは出世しやすいと言うものか。恐らく意気込みを買ってるのだろう。
もう一つの肝焼きは見た目通りに分厚い切り身が串に刺してある。しかし噛めばスッと歯が食い込む柔らかさで、ニュルッと口に入って来る。だが……。
(うっわ、これ無理……)
一種独特な風味も受け入れがたいが、何よりルキアスは食感を受け付けなかった。これが腐った物だったなら吐き出すところだ。しかし腐ってはいないので吐き出すのは憚られ、水で流し込む。
そんな風にルキアスが苦心している間に、ザネクも肝焼きを食べ始めていた。
(ザネクの口には合ってるみたいだね……)
少し綻んだ顔を見れば気に入っていると容易に判る。
(はあ……。何でこんなことで損した気分になるんだろ……)
肝焼きを美味しく食べられないことに損したような気分になってしまうルキアスだ。テンションも下がって美味しい筈のクラーケン焼きもももそもそと食べるのであった。
13
お気に入りに追加
980
あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。
本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。
名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる