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220 無視するのも何だ
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「どうする?」
「どうするも何も、無視するのも何だよね? ……でも近付いたらいきなり攻撃されるなんて無いよね?」
「無いとは思う。あれはどう見たって漁船だしな」
断言できないのはここがダンジョンだからだ。地上の法に沿う形での暗黙の秩序はあるものの、最終的には腕力がものを言う。特にこんな人目に付かない場所なら何をしても判りはしない。
それでも最悪の事態にはならないと考えられるのは偏にザネクやルキアスを襲っても何の得にもならないと確信できるからだ。
「じゃあ、行ってみようか」
「そうだな」
同意したことで、ルキアスは『傘』を船へと向けて動かし始める。その間にザネクが相手に手を振って応えた。
『傘』は距離も然程離れていなかったのでゆるりとした速さだ。到着するまでには少し時間が掛かるので、ザネクは何気なく下を見た。すると、海面に人が仰向けで浮いていた。
「げ! 土左衛門!」
「生きてんぞー」
「げ! 死体が喋った!」
「だから生きてるって……」
奇妙なやり取りを聞いてしまったルキアスは『傘』を止め、通り過ぎた場所へと少し戻す。
そして改めて下を見てみれば、確かに男が仰向けに浮いている。
「生きてる死体?」
「だから死んでねーって。何でこの状態で弄られてんだ、俺?」
「危機感が無さそうだったから、つい……」
「いや、危機感バリバリだぜ? こうやって体力温存にプカプカ浮いたまま誰かの助けを待つしかできねぇんだから。だからできれば助けて欲しいぞ」
「あ、はい」
ルキアスは『傘』を海面まで下ろし、ザネクと二人で男を引き上げる。
「はー、助かったぜ。ありがとうよ」
男はそれだけ言うと、座っているのがやっととばかりのぐったりした様子を見せる。
「いえ。船まで行けば大丈夫?」
「おう。そうしてくれりゃ、助かる」
ルキアスは改めて船へと針路を取る。
「しかしまあ、空を飛ぶ天職持ちがたまたま通り掛かってくれるなんて、俺は付いてるぜ」
「これは天職じゃないよ」
「え? 天職じゃなくて何なんだ?」
「『傘』」
「は? 冗談は止してくれ」
「冗談じゃないんだけど……」
誰しもが『傘』で飛んでると言われれば冗談と思うらしい。だからルキアスもこれ以上の訂正を試みない。天職と思われても仕方のない強度になっているのは事実なのだ。
それに船にももう到着する。
ルキアスは甲板に『傘』を下ろし、男に降りて貰う。
歓声が上がった。やはり男はこの船の乗組員だったようだ。
「内のヤツが世話になった。ありがとうよ」
髭面ながら威風堂々とした中年男が話し掛けて来た。
「いえ。それより誰かに手招きされたから来たんですけど……」
「あー、それな。それはもういいんだ」
中年男は顎を撫でながらバツが悪そうに言う。
「ヤツを上から捜して貰おうとしたんだが、頼む前に助けられちまったからな……」
「どうするも何も、無視するのも何だよね? ……でも近付いたらいきなり攻撃されるなんて無いよね?」
「無いとは思う。あれはどう見たって漁船だしな」
断言できないのはここがダンジョンだからだ。地上の法に沿う形での暗黙の秩序はあるものの、最終的には腕力がものを言う。特にこんな人目に付かない場所なら何をしても判りはしない。
それでも最悪の事態にはならないと考えられるのは偏にザネクやルキアスを襲っても何の得にもならないと確信できるからだ。
「じゃあ、行ってみようか」
「そうだな」
同意したことで、ルキアスは『傘』を船へと向けて動かし始める。その間にザネクが相手に手を振って応えた。
『傘』は距離も然程離れていなかったのでゆるりとした速さだ。到着するまでには少し時間が掛かるので、ザネクは何気なく下を見た。すると、海面に人が仰向けで浮いていた。
「げ! 土左衛門!」
「生きてんぞー」
「げ! 死体が喋った!」
「だから生きてるって……」
奇妙なやり取りを聞いてしまったルキアスは『傘』を止め、通り過ぎた場所へと少し戻す。
そして改めて下を見てみれば、確かに男が仰向けに浮いている。
「生きてる死体?」
「だから死んでねーって。何でこの状態で弄られてんだ、俺?」
「危機感が無さそうだったから、つい……」
「いや、危機感バリバリだぜ? こうやって体力温存にプカプカ浮いたまま誰かの助けを待つしかできねぇんだから。だからできれば助けて欲しいぞ」
「あ、はい」
ルキアスは『傘』を海面まで下ろし、ザネクと二人で男を引き上げる。
「はー、助かったぜ。ありがとうよ」
男はそれだけ言うと、座っているのがやっととばかりのぐったりした様子を見せる。
「いえ。船まで行けば大丈夫?」
「おう。そうしてくれりゃ、助かる」
ルキアスは改めて船へと針路を取る。
「しかしまあ、空を飛ぶ天職持ちがたまたま通り掛かってくれるなんて、俺は付いてるぜ」
「これは天職じゃないよ」
「え? 天職じゃなくて何なんだ?」
「『傘』」
「は? 冗談は止してくれ」
「冗談じゃないんだけど……」
誰しもが『傘』で飛んでると言われれば冗談と思うらしい。だからルキアスもこれ以上の訂正を試みない。天職と思われても仕方のない強度になっているのは事実なのだ。
それに船にももう到着する。
ルキアスは甲板に『傘』を下ろし、男に降りて貰う。
歓声が上がった。やはり男はこの船の乗組員だったようだ。
「内のヤツが世話になった。ありがとうよ」
髭面ながら威風堂々とした中年男が話し掛けて来た。
「いえ。それより誰かに手招きされたから来たんですけど……」
「あー、それな。それはもういいんだ」
中年男は顎を撫でながらバツが悪そうに言う。
「ヤツを上から捜して貰おうとしたんだが、頼む前に助けられちまったからな……」
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