生活魔法は万能です

浜柔

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191 頂上

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 ルキアスの『傘』は川までは渡れなくても、ちょっとした亀裂を乗り越えるのを可能とした。今まで見過ごしていた経路を辿れるようになったと言うことだ。勿論頼り切りは怖いので命綱を使う。命綱の片端を岩に結び付けるかアンカーで固定し、もう片端を一人が付けて渡り、渡った先で付けていた命綱を外して岩などに固定する。そして残った一人が命綱を岩から外し、自分に付けて渡れば安心して亀裂を渡れると言うものだ。
 ルキアスが転落した岩山でも崖の方に行かずに登れるルートが在った。亀裂を越えた先にはこれと言った難所は無く、あっさり頂上に辿り着いた。頂上で待ち構えていた二頭のガーゴイルを倒したらもうこの山を征服だ。頂上は庶民の家一つ分くらいの広さの平坦な土地となっていて、真ん中にぽつんと尖った大岩が突き出している。

「やけにあっさり着いたな」
「道は長かったけど楽だったよね」

 崖っぷちを通る道はかなり狭くて急だったが、亀裂を越えた先は広くて緩いつづら折りだった。岩だらけのつづら折りでは道なのかどうか判りづらかったのが唯一の難点だろう。

「それはそうと、岩山って鉱山だって話だったけど、ここには何か有った?」
「さあ? でも入口から近いこんな場所なら石炭や銅がいいところだぞ」
「そうなんだ……」
「あー、他にも石材もあるらしい。この山なんてそうかもな」

 ザネクは上目遣いに記憶を辿るように言った。

「なるほど、石かぁ……」
「何に使えるのか判らないがな」
「そうだね」

 二人がピンと来ないのも仕方ない。ただの石が建築材料になるとは思いもしていないからだ。この山に在るのはコンクリートの骨材や道路の敷石に使われるような石材。見た目はどこにでも在るありふれた石でしかない。
 ザネクは改めて頂上を見回した。大小の岩以外何も見当たらない。

「しかし折角登ったのに宝箱は無さそうだな」
「そうだね……。でも、もしかしたら……」

 ルキアスは真ん中に突き出ている岩に注目した。第一階層や第二階層も宝箱は埋もれたように在ったのだ。

(この階層でも埋もれているのかも知れないし……)

 しかし触ってみただけでは何も判らない。適当な転がっている岩を手に取って、突き出た大岩に叩き付ける。

「ルキアス?」

 ザネクには突拍子もない行為に見えたようだ。しかし……。

「ザネク、見て」

 ザネクがルキアスの指す場所を見ると、岩の表面が剥がれて金属らしき物が顔を覗かせていた。
 ザネクはルキアスを見た。ルキアスも視線を返し、二人は頷き合った。
 不自然に精製された姿のこの金属こそが宝箱の中身に相違ない。
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