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ルキアスがテントの周囲を警戒しつつホーンラビットから逃げ回っていると、草のざわめきが二つ増えた。
(まさか!?)
ここで音の正体を疑ったり無視したりするほどルキアスは暢気でもなければ現実逃避もしていない。「まさか、まだ目の前のも倒してないのに」と、手に余る状況の悪化に危機感を募らせたのだ。
追い掛けて来るホーンラビットから逃げながらも、増えた二つの音に神経を研ぎ澄ます。
「『傘』!」
テントに近付く音を感じるや否や、ルキアスは『傘』を張る。『傘』は直後に砕かれる。それでもホーンラビットがテントを貫くのは阻止できた。
だが息を吐いている暇は無い。
「『傘』!」
テントの反対側から突っ込んで来たホーンラビットに『傘』を合わせようとしたが、外された。ホーンラビットがテント布に突き刺さる。
だがルキアスにとっては幸運にも、ホーンラビットは一撃でテント布を貫いてテントに入り込んだりはできないらしい。首吊り状態になった後、藻掻いて首を抜いて脱出する。
(危なかった! テント張ってて良かった!)
テントを張ったのはザネクの身体を温めるためであってホーンラビット対策ではなかったが、ホーンラビットからザネクを守るのにも有効に働いている。しかし楽観はできない。
(でも同じ所を狙われたら危ない)
ホーンラビットに体当たりを続けられれば、いつか空いた穴を広げられる形で貫かれてしまう。テントに侵入を赦してしまってはザネクが危ない。
(当たれ!)
だからルキアスはホーンラビットを自分に引き付けるべく、増えた二羽の一方へと銃撃を加える。弾丸は外れた。直ぐに次弾の準備。蒸気タンクに注水し、『加熱』し始める。
(そう都合良くは行かないな!)
しかしホーンラビットのターゲットは移った。もう一羽の注意も引き付ければザネクは安全になる。
ルキアスは不規則に突っ込んで来る二羽のホーンラビットから『傘』も駆使して逃げ回り、その間に蒸気の準備を急ぐ。
(もっと速く充填しないと!)
そのためにはどうするか。蒸気圧を妥協して温度を下げれば速くなるのはルキアスも判っている。
考える間にも飛び掛かって来るホーンラビットを躱す。今は近接戦闘に近いから、悠長に考えている余裕も無い。
(あ! こんなに近いんだから少し弱くたって!)
これだけ近いなら銃の威力を多少落としてもホーンラビットを仕留められる筈だ。いつもの圧力はそこそこ遠距離で仕留めるために必要なだけなのだから。
ルキアスは注水量を三割減らす。単純計算で蒸気が三割減れば圧力も三割減るが、蒸発させ切るまでの時間も三割削減される。加えて『加熱』温度を限界まで上げる。これで一分近く掛かっていた発射可能になるまでの時間を半減させる。
ルキアスはテントが射線に入らぬように立ち位置を変えながら、テントに迫るホーンラビットに向けて引き金を引いた。
(まさか!?)
ここで音の正体を疑ったり無視したりするほどルキアスは暢気でもなければ現実逃避もしていない。「まさか、まだ目の前のも倒してないのに」と、手に余る状況の悪化に危機感を募らせたのだ。
追い掛けて来るホーンラビットから逃げながらも、増えた二つの音に神経を研ぎ澄ます。
「『傘』!」
テントに近付く音を感じるや否や、ルキアスは『傘』を張る。『傘』は直後に砕かれる。それでもホーンラビットがテントを貫くのは阻止できた。
だが息を吐いている暇は無い。
「『傘』!」
テントの反対側から突っ込んで来たホーンラビットに『傘』を合わせようとしたが、外された。ホーンラビットがテント布に突き刺さる。
だがルキアスにとっては幸運にも、ホーンラビットは一撃でテント布を貫いてテントに入り込んだりはできないらしい。首吊り状態になった後、藻掻いて首を抜いて脱出する。
(危なかった! テント張ってて良かった!)
テントを張ったのはザネクの身体を温めるためであってホーンラビット対策ではなかったが、ホーンラビットからザネクを守るのにも有効に働いている。しかし楽観はできない。
(でも同じ所を狙われたら危ない)
ホーンラビットに体当たりを続けられれば、いつか空いた穴を広げられる形で貫かれてしまう。テントに侵入を赦してしまってはザネクが危ない。
(当たれ!)
だからルキアスはホーンラビットを自分に引き付けるべく、増えた二羽の一方へと銃撃を加える。弾丸は外れた。直ぐに次弾の準備。蒸気タンクに注水し、『加熱』し始める。
(そう都合良くは行かないな!)
しかしホーンラビットのターゲットは移った。もう一羽の注意も引き付ければザネクは安全になる。
ルキアスは不規則に突っ込んで来る二羽のホーンラビットから『傘』も駆使して逃げ回り、その間に蒸気の準備を急ぐ。
(もっと速く充填しないと!)
そのためにはどうするか。蒸気圧を妥協して温度を下げれば速くなるのはルキアスも判っている。
考える間にも飛び掛かって来るホーンラビットを躱す。今は近接戦闘に近いから、悠長に考えている余裕も無い。
(あ! こんなに近いんだから少し弱くたって!)
これだけ近いなら銃の威力を多少落としてもホーンラビットを仕留められる筈だ。いつもの圧力はそこそこ遠距離で仕留めるために必要なだけなのだから。
ルキアスは注水量を三割減らす。単純計算で蒸気が三割減れば圧力も三割減るが、蒸発させ切るまでの時間も三割削減される。加えて『加熱』温度を限界まで上げる。これで一分近く掛かっていた発射可能になるまでの時間を半減させる。
ルキアスはテントが射線に入らぬように立ち位置を変えながら、テントに迫るホーンラビットに向けて引き金を引いた。
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