生活魔法は万能です

１２０ 材料集めから

　ルキアスは昨夜、まんじりともできなかった。将来について考えている間に朝になってしまった。
　今のままなら下の階層には行けない。いっそ下の階層に行くのを諦めてしまうのも選択肢にはある。しかしそうしてしまうとエリリースやザネクには幻滅され、友達でも居られなくなってしまうかも知れない。
　もしそうなってもメイナーダのヒモになるのも選択肢に無くはない。しかしこの場合はメイナーダやユアに見限られた時点で人生の終わりだろう。それが誰であれ自分の人生を全て預けるのは怖ろしい。

（ぼくはまだ覚悟できてなかったんだな……）

　故郷を旅立った時に覚悟を決めたつもりでいた。いや、覚悟を決めたから旅立ったつもりだった。だが実際にはそうはならなかった。先に行くのを諦め、ただ命を永らえるだけに生きる覚悟すらもできていない。だから迷うのだ。

（避けたい未来か……）

　ロマの言葉が脳裏に蘇る。消極的な選び方だ。しかし選んだ結果まで消極的とは限らない。選択は切っ掛けに過ぎない。

（エリリースやザネクと疎遠になるのは嫌だな）

　だとするなら先に進むしかない。そのためには少なくとも自分を守れるようにならなくてはいけない。

（やっぱりカピバラを倒すしかないな）

　だからと言って、いきなり倒すのは無謀だ。そこからホーンラビットに狙われることになるのだから。準備をしなければ命に関わってしまう。具体的には防具。ホーンラビットが襲って来ないのをいいことに、今まで準備を怠っていた。
　材質はできれば革にしたいところだが、さすがに自分では鞣せない。必然的に鉄製になるが、これにしても手持ちの材料が心許ない。弾丸の材料でもあるので、日々目減りしているのだ。
　つまり材料集めからしなければならない。

（今日明日中に防具を用意するなら今日中に屑鉄を探さなきゃ）

　そうと決まれば早速今から、と行きたいルキアスだったが、これは思い止まった。ザネクに何も話ささないのはさすがに不義理と言うものだろう。
　そして待ち合わせの場所でザネクに「防具を作りたいから鉄屑探しをする」と話せば、ザネクは「俺も一緒に行くぜ」と言った。