生活魔法は万能です

浜柔

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121 宝箱

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 鉄屑はダンジョンのあちらこちら転がっている。折れた剣であったり、凹んだ防具であったり、歪んだ鍋であったり、いずれも探索者が放棄した、あるいは紛失した成れの果てだろう。
 不思議と素材として全く使えない物は無いが、錆が多くて利用するには前処理に時間が掛かる。このせいもあって、ここ最近のルキアスはあまり熱心には拾っていなかった。しかし今日は今まで気付いた場所を全て回る。

「あった」

 土を被っていてパッと目には見過ごしてしまいそうだが、ルキアスは慣れたもの。掴んで引っ張り上げ、少し叩けば付着した土が土がパラパラと落ちて全体像が露わになる。
 チェーンメイルの切れ端のようなものだった。この手のパーツが細かい物は錆落としに時間を取られるのであまり嬉しくないが回収する。

「それを拾うのか?」
「そだよ」
「俺はてっきりルキアスが『捏ね』てたヤツみたいなものかと思ったぜ」

 ザネクは腕を組んで天を仰ぎながら「うーん」と唸った。

「あれはこんなのを『捏ね』て丸めたものだから……」
「なるほどな。しかしそんなのを良く見付けたな」
「あー、それは、不思議なことにいつも同じ場所に転がってるんだ」

 神を名乗る少女ヨーコに教えられた場所にもルキアス自身で見付けた場所にも日を変えればまた鉄屑が転がっていたのだ。

「は?」

 ルキアスが何でもないように答えた言葉はザネクには甚だ奇妙に聞こえた。

「そんながらくたが同じ場所にか?」
「そだよ」
「そんなの宝箱みたいじゃんか」
「宝箱?」
「俺は見たことないけどな、深い階層には箱に入ったお宝があるらしいぜ? で、その箱は同じ場所に現れるらしい」
「それじゃ、そこに張り込んでたらお宝一杯だね!」
「それがそうでもない。誰かが張り込んでたら箱は出ないんだと」
「そうなんだ。だけどほんとにこれって箱に入ってないだけでお宝かも知れないね」

 ザネクの話は人伝の「らしい」ばかりだからどこまで本当かは判らない。しかしルキアスの拾う鉄屑とそっくりな傾向だから、第一階層では鉄屑がお宝扱いになっているのかも知れない。少なくともルキアスにとってはそれに近い物ではある。
 それでもザネクは嫌そうに顔を顰める。

「だったらいいがな……」
「どうかしたの?」
「そんなの拾ってるとスカベンジャーみたいでな」
「スカベンジャー?」
「知らないのか? 例えばあんな奴」

 ザネクが指差す先には誰かが倒すだけ倒してどこかへ行ったのだろう、放置されたホーンラビットを拾う探索者の姿があった。

「他人が捨てた物や落とした物を拾い集めて金を稼ぐ連中だ」
「う……」

 ルキアスが注意して見ればそれっぽい人が幾人も見える。

(他人から見たらぼくもあんなだったのか……)

 鉄屑集めにゴミ漁りをしていたいつかの自分の姿が重なる。できれば思い出したくない過去。だからか、今まで無意識に目を逸らしていたらしい。
 しかし今、こうして鉄屑を拾っているのも似たように見えるらしい。思わず身震いせずにいられないルキアスだった。
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