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四
おまけ
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○おおかみさんと赤ずきん
「――何をしているんですか?」
修道院から町へ買い出しに行った帰り道。
目に鮮やかな緑が生い茂る、森にほど近いその場所で。
木々の陰に潜む怪しい人を見つけたヘンリエッタは臆する事なくそう声をかけた。
ヘンリエッタが話しかけると、その若い男の人はびくりと大きく肩を揺らし……それと同時に、頭からはぽんっと黒い三角耳が飛び出し、お尻からはふさふさの尻尾が垂れ下がる。
(まあ……! 獣人さんだったのですね。初めて会いました)
どうやら立派なけもみみとしっぽを持つその青年は、獣人という種族のようだ。
ヘンリエッタはつい先日も王子様を助けた人魚姫と話をしたばかりだ。やはりここは不思議な世界なのだと彼女は心の中で何度も頷く。
「おっ、俺は何もしてない! 見てただけだ!」
振り向いてヘンリエッタを見たその青年は、顔を真っ赤にして懸命にそう言い募る。
……そしてその後ろでは、尻尾がぶうんぶうんと振り回されている。後で触らせてくれるでしょうか、と考えながらヘンリエッタは青年が見ていた方向に視線を移した。
その人の向こう側――木陰の奥のお花畑では、赤い頭巾を被った女の子が、蝶のようにあちこち動き回りながら綺麗なお花を集めている所だった。
とても愛らしい、可憐な女の子だ。
(赤いずきん……?)
「な、なんだよ。何か文句あっか!」
その女の子を見て暫し考察したヘンリエッタは、今度はその青年に視線を戻す。急にじっくりと見られた青年は、狼狽したようにヘンリエッタを見下ろす。
「えーと……つかぬ事をお伺いしますが……貴方はもしかして、狼の獣人さん……とかではないですか?」
「! なんで分かるんだ」
「あら……」
その耳と尻尾ならば、犬か狼かはたまた狐か……まあ大体その辺だとはヘンリエッタも考えたが、肯定するような返事から察するに、その青年は狼らしい。黒の狼。
(赤いずきんの女の子に、その子を狙う狼。――これは、"赤ずきんちゃん"なのでしょうか)
「あの……狼さん。つかぬ事をお伺いしますが……あの子を食べようと思っている訳ではないですよね?」
「ぶっっっ!! たっ、食べっ、な、な、な、若い女が何を言ってるんだ!」
「え? でも……」
「大人しそうな顔して、お前は大胆な女だな!」
(ええ~⁉︎ その反応、なんなんですかっ)
顔を真っ赤にした狼の青年に、何故だか変なものを見る目で見られたヘンリエッタは心の中でそう叫んだ。勿論表情には出さない。
いまいちよく分からないが、この狼があの娘に好意を持っている事は何となく分かった。
「――いいですか、狼さん。交際を申し込む時は、間違ってもお使いに行く彼女を先回りして、おばあさんの家に上がり込むような事をしてはいけませんよ」
「!」
「うっかり、"お前を食べるためだ"なんて発言もしてはいけません」
「!!」
「あとは……お互いにゆっくり知り合ったらいいと思いますよ」
ヘンリエッタはそう忠告し、最後ににこりと微笑みかけた。
すると、いちいち目を丸くしていた青年は、思い当たる節があったのか胸の辺りを押さえている。
「わかった……気をつける」と言った狼の尻尾がぺたりと萎れるのを見て、何割かは図星だったのだろうとヘンリエッタは当たりをつける。
「……すげぇ……! なんで俺の考えていることが全部分かるんだ……? 魔女なのか? これからもご指導お願いします!師匠っ!」
なんとなく図星の事を言われながら、ヘンリエッタは目を輝かせる狼の青年の師匠という称号を得たのだった。
「――何をしているんですか?」
修道院から町へ買い出しに行った帰り道。
目に鮮やかな緑が生い茂る、森にほど近いその場所で。
木々の陰に潜む怪しい人を見つけたヘンリエッタは臆する事なくそう声をかけた。
ヘンリエッタが話しかけると、その若い男の人はびくりと大きく肩を揺らし……それと同時に、頭からはぽんっと黒い三角耳が飛び出し、お尻からはふさふさの尻尾が垂れ下がる。
(まあ……! 獣人さんだったのですね。初めて会いました)
どうやら立派なけもみみとしっぽを持つその青年は、獣人という種族のようだ。
ヘンリエッタはつい先日も王子様を助けた人魚姫と話をしたばかりだ。やはりここは不思議な世界なのだと彼女は心の中で何度も頷く。
「おっ、俺は何もしてない! 見てただけだ!」
振り向いてヘンリエッタを見たその青年は、顔を真っ赤にして懸命にそう言い募る。
……そしてその後ろでは、尻尾がぶうんぶうんと振り回されている。後で触らせてくれるでしょうか、と考えながらヘンリエッタは青年が見ていた方向に視線を移した。
その人の向こう側――木陰の奥のお花畑では、赤い頭巾を被った女の子が、蝶のようにあちこち動き回りながら綺麗なお花を集めている所だった。
とても愛らしい、可憐な女の子だ。
(赤いずきん……?)
「な、なんだよ。何か文句あっか!」
その女の子を見て暫し考察したヘンリエッタは、今度はその青年に視線を戻す。急にじっくりと見られた青年は、狼狽したようにヘンリエッタを見下ろす。
「えーと……つかぬ事をお伺いしますが……貴方はもしかして、狼の獣人さん……とかではないですか?」
「! なんで分かるんだ」
「あら……」
その耳と尻尾ならば、犬か狼かはたまた狐か……まあ大体その辺だとはヘンリエッタも考えたが、肯定するような返事から察するに、その青年は狼らしい。黒の狼。
(赤いずきんの女の子に、その子を狙う狼。――これは、"赤ずきんちゃん"なのでしょうか)
「あの……狼さん。つかぬ事をお伺いしますが……あの子を食べようと思っている訳ではないですよね?」
「ぶっっっ!! たっ、食べっ、な、な、な、若い女が何を言ってるんだ!」
「え? でも……」
「大人しそうな顔して、お前は大胆な女だな!」
(ええ~⁉︎ その反応、なんなんですかっ)
顔を真っ赤にした狼の青年に、何故だか変なものを見る目で見られたヘンリエッタは心の中でそう叫んだ。勿論表情には出さない。
いまいちよく分からないが、この狼があの娘に好意を持っている事は何となく分かった。
「――いいですか、狼さん。交際を申し込む時は、間違ってもお使いに行く彼女を先回りして、おばあさんの家に上がり込むような事をしてはいけませんよ」
「!」
「うっかり、"お前を食べるためだ"なんて発言もしてはいけません」
「!!」
「あとは……お互いにゆっくり知り合ったらいいと思いますよ」
ヘンリエッタはそう忠告し、最後ににこりと微笑みかけた。
すると、いちいち目を丸くしていた青年は、思い当たる節があったのか胸の辺りを押さえている。
「わかった……気をつける」と言った狼の尻尾がぺたりと萎れるのを見て、何割かは図星だったのだろうとヘンリエッタは当たりをつける。
「……すげぇ……! なんで俺の考えていることが全部分かるんだ……? 魔女なのか? これからもご指導お願いします!師匠っ!」
なんとなく図星の事を言われながら、ヘンリエッタは目を輝かせる狼の青年の師匠という称号を得たのだった。
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