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一
冤罪で追放された聖女ですが、楽しく暮らしています
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──この村に来ないで!
時は、春。
村に襲いかかってきた魔物の群れと対峙した少女は、恐怖に震えながら神に強く祈った。
するとどうだろう。少女の身体からは眩い光が発せられた。
そうすると、先程まで火を噴き毛を逆立てていた炎狼が途端に大人しくなり、きゅるると愛らしい声まで出しながら踵を返して村から引き返してゆく。
「奇跡だ」
誰かがぽつりと言った。
炎狼に襲われたら最後、彼らは村の全てを焼き尽くすまではその場を去らないと言われている。
当然ながら人も襲う。今回負傷した者だっている。
だがこうして、炎狼がしっぽを下げてとことこと帰路につく様を見たことがある者は誰もいない。
︎
「聖女様じゃ……!!!」
そのあまりにも現実離れした光景に、誰かが呟いた。聖女だ、と。
「エレイン! お前、聖女だったのか」
「すごいじゃないか!」
「ありがとう、エレイン」
炎狼と対峙した少女――エレイン・ハウイットの元には、涙を流しながら村人が集まった。
この小さな村は、かつて魔王を討ち滅ぼした勇者が建国したとされる大国フォルティスの東の端の半島にある。
たった百人程度の小さな村。みんなで助け合って暮らしているような、のどかな場所だ。
炎狼に襲われたら、ひとたまりもない。村は地獄の業火に焼かれ、生き残ることも難しかっただろう。
エレインも村人の一人として、ずっと慎ましく暮らしてきた。凡庸な茶色の髪に少しだけ珍しい桃色の瞳をもつだけの少女である。
ただこの日、何の変哲もない十歳の少女は聖女となり、話を聞きつけた役人により王都へ移管されることになったのだった。
時は、春。
村に襲いかかってきた魔物の群れと対峙した少女は、恐怖に震えながら神に強く祈った。
するとどうだろう。少女の身体からは眩い光が発せられた。
そうすると、先程まで火を噴き毛を逆立てていた炎狼が途端に大人しくなり、きゅるると愛らしい声まで出しながら踵を返して村から引き返してゆく。
「奇跡だ」
誰かがぽつりと言った。
炎狼に襲われたら最後、彼らは村の全てを焼き尽くすまではその場を去らないと言われている。
当然ながら人も襲う。今回負傷した者だっている。
だがこうして、炎狼がしっぽを下げてとことこと帰路につく様を見たことがある者は誰もいない。
︎
「聖女様じゃ……!!!」
そのあまりにも現実離れした光景に、誰かが呟いた。聖女だ、と。
「エレイン! お前、聖女だったのか」
「すごいじゃないか!」
「ありがとう、エレイン」
炎狼と対峙した少女――エレイン・ハウイットの元には、涙を流しながら村人が集まった。
この小さな村は、かつて魔王を討ち滅ぼした勇者が建国したとされる大国フォルティスの東の端の半島にある。
たった百人程度の小さな村。みんなで助け合って暮らしているような、のどかな場所だ。
炎狼に襲われたら、ひとたまりもない。村は地獄の業火に焼かれ、生き残ることも難しかっただろう。
エレインも村人の一人として、ずっと慎ましく暮らしてきた。凡庸な茶色の髪に少しだけ珍しい桃色の瞳をもつだけの少女である。
ただこの日、何の変哲もない十歳の少女は聖女となり、話を聞きつけた役人により王都へ移管されることになったのだった。
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