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第一章 最狂ダディは絆される

第二十四話 ドラゴンキラー vs 緑竜

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「……ね、ママは元気なの?」
「ああ、元気だとも」

 シャーロットの問いにアルゴンが答える。

「ふーん、なのに会いに来ないんだ?」

 シャーロットは不満げだ。

「……あれはまだまだ子供なんじゃよ」

 アルゴンが決まり悪げにそう言った。

「他者の死を受け入れられない。心が幼いんじゃ」

 シャーロットが顔をしかめた。

「何よ、それ。ばっかみたい。ママはパパと同い年じゃない。そうよ、同じ三十四才よ」
「ドラゴンの中では、あれはまだまだ子供と同じじゃ。残念ながらな」
「……いつ大人になるの?」
「あと百年も経てば」
「そんなの……その時には、もうパパはいないじゃない」
「だから、わしは最初っから結婚に反対したぞ? 絶対に上手くいかないと」

 アルゴンがそう告げ、シャーロットがむっつりと口を閉じる。
 そう、かしら? セレスティナは疑問に思う。
 心が幼いから? だったら私は? 私だって、まだ成人前の子供だ。けど、私は別れたくなんかない。たとえ、シリウス様が不治の病にかかって、余命一年になったとしても……

 ううん、逆だわ。一年しかいられないのなら絶対に離れたりしない。その僅かな時を、精一杯共に生きようとするだろう。出会って良かったと、そう言えるように……
 失う痛みよりも共に生きた喜びが、それを超えるはずだから。それが人間だと思う。根本的な何かが違うような気がしてしまう。

 その後、散々空を飛び回った竜王アルゴンは、満足して帰るかと思いきや、別荘の庭に着地し一行を背から降ろすと、また人型に変わった。このまま居座ろうという腹づもりらしいが、当然マッパである。それを目にしたシリウスの手が動き、人型アルゴンはぱっかんと地面に開いた穴に吸い込まれ、そのままジャババーと流される。

「シリウスぅ! 毎度毎度このわしを汚物扱いか!」

 またもや居間で待ち構えていたアルゴンが、バンバン机を叩く。もちろん衣服は着用済みだ。シリウスが顔をしかめた。

「毎度毎度学ばない貴方もどうかと思いますが?」
「どーしろと?」
「事前に一言言って下さい。そうすれば衣服を貸してあげますとも」

 そう言われて、アルゴンはしぶしぶ引き下がった。

「ね、そう言えば……お母様の時はどうしていたの?」

 セレスティナはひっそり、シャーロットに聞いてみる。

「ママは人型になると同時に、衣服を身にまとう装身具を身につけていたわよ? ドラゴンに変わる時は自動解除する優れもの。パパが作った魔道具よ」
「竜王様にそれを貸すことは出来ないかしら?」
「女物よ? ドレスを来たお祖父様になっちゃうけどいい?」

 苦笑いしか浮かばない。もっと変態になっちゃう。
 ドラゴンの食事は、人間と同じで大丈夫らしい。自分達と同じように食事をするアルゴンを見て、セレスティナはそう思った。ただ、フォークもスプーンも使わず、全て手掴みなのが豪快である。スープは皿を持ってずぞぞ……
 テーブルマナーは学ばなかったのね。というより、人間社会になじむ気なし? シリウス様は既にこういった事を知っていたのか、何も言わないわ。メニューも手づかみで大丈夫な物ばかりだから、最初っから料理人にそう指示していたのかも。

「……牛アメフラシはいなくなるであろうな?」

 食事を終えたアルゴンが、帰り際、シリウスにそう問うた。

「ええ、そうですね。あなたの寝所に出張するのも飽きる頃かも知れません」
「相変わらずの減らず口じゃな。まあ、いい。また来る」
「来なくて良いです」
「何でだぁ! ああ、もう!」

 アルゴンは、くるりとシャーロットとイザークに向き直った。

「じいじに来て欲しいじゃろ?」
「えー?」
「うーん……」
「竜晶石のお土産付き!」

 アルゴンがすかさずそう叫んだ。竜晶石……ドラゴンが生み出す魔石よね。中々手に入らず、希少だから、とっても高い。

「来ても良いわ!」
「大歓迎!」

 イザークとシャーロットは大喜びだ。

「……現金だな。まあ、いい。持ってきてやる」

 アルゴンが苦虫を噛みつぶしたような顔で言う。アルゴンが黄金竜になると、彼が身につけていた衣服があっという間にはじけ飛んだ。毎度これなのかしら?
 黄金竜が翼をばさりと広げ、飛び立とうとしたまさにその瞬間である。

「竜王さまぁああああああああ! 助けにまいりましたああああああああ!」

 という声が、頭上から降ってきた。
 助け? ふっとセレスティナが見上げると、今度は立派な緑竜が翼を広げ、こちらへ向かって滑空して来るところだった。エメラルド色に輝く巨体は綺麗だけれど、がはがはという笑い方が何だか下品だ。ドラゴンの高貴なイメージが崩れそう。

「ぬおお! ローレンツ! お前、何でこんなところへ!」

 アルゴンが吠え、ごおおっと口から炎が……何やら焦っているように見える。すると再び緑竜のがなり声が響き渡った。

「何故って、あの頭でっかちのくそザルをへこませるんでしょおおおおおお! 俺も! 俺も手伝います! 竜王様、いえ、お義父様! お義父様と呼ばせて下さい! ここは是非、この俺にお任せを! あのくっそ生意気な人間を、けっちょんけっちょんにしてやりますともおおおおおお!」

 アルゴンが目を剥いた。

「シ、シリウスを標的に? いや、待て待て待て! ちょーと落ち着け! これを敵に回したらいかん! こ、こやつは、ほんっとやることがエグくて、これの攻撃は精神にくるんじゃよぉおおおおおお! 強力に凹まされる!」
「ほお、くそザル……ですか……」

 シリウスがそう呟く。ふ、不穏な空気が! 雷鳴? 嵐? セレスティナと同じように、アルゴンもまた心底慌てたようである。

「いや、だから、ご、誤解じゃ! 誤解! どこへ行くのかと聞かれたので、ちょいと牛アメフラシの文句を言いに行くと、そう答えただけで……ま、まさかあやつがここまで追ってくるとは思わな……」
「防御システム作動っと……」

 シリウスが手元の魔道具をピピピと操る。

「おい、今! 今、何をやった?」

 アルゴンが焦って突っ込んだ。

「何、温情を取り払っただけですよ。はははははは、集中砲火を浴びろ、このくそサノバビッチ!」
「口悪! つくづく思うが、お前、人格ころころ変わりすぎじゃ!」

 と言っている間に、緑竜が射程距離に入ったようで、一斉に設置された銃口が火を噴いた。ドガガガガガガガガガガガガガガ! 魔弾丸の連打連打連打である。もきゅうううううううという情けない声が、上空に響き渡った。

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