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第一章 最狂ダディは絆される
第二十話 君の希望が最優先
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「ま、待って下さい! 奥様の父親なら、シャーロット様とイザーク様のお祖父様なわけで、えーっと、ふ、二人が悲しみます! 喧嘩しちゃ駄目です!」
セレスティナは必死で止めた。別の人が言ったなら、単なる冗談だと思ったろうけれど、シリウス様ならやりかねない。絶対現実になる! 竜王国が水に浸かちゃうぅ!
「……嫌なのか?」
「そうです! それに! 竜王国! 私も見て見たいです! 水浸しにしないで下さい! お願いします!」
「あれを見たい……外から見ても単なる岩山なんだがな」
シリウスがぽつりとそう言った。
「あいつらは人間のような建物を造らない。山をくりぬいて住処にする。つまり洞窟だ。その内部を竜晶石で覆い、居心地良くするわけだが……まぁ、そうだな。あれは美しい。一見の価値があるか……」
とりあえず魔道具の操作は止めてくれた。セレスティナはほっと胸をなで下ろす。
「君を養女にしたい」
不意にシリウスのそんな言葉を耳にする。セレスティナが顔を上げれば、そこにあったのはシリウスの熱い眼差しだ。彼の青い瞳にじっと見つめられて、頬が熱くなる。シリウスの視線がまるで熱線だ。どうみても本気っぽい。
「君にパパと呼んでもらえるには、一体どうすればいいんだろうな?」
「そ、それは、その……」
「嫌か?」
シリウスにそろりと問われて、セレスティナは慌てて答えた。
「嫌じゃありません!」
嫌なわけがない! シリウス様とずっと一緒にいられるなんて夢のよう!
でも……ふっとセレスティナの脳裏をよぎるのは、両親の顔だ。
二人の反応を考えると怖い。もし、もしも喜ばれたら? ああ、厄介払いが出来た、清々する。こんな風に言われたら? 私はいらない子なの? 自分は愛されていない、その事実がここで決定的になってしまう。
セレスティナからすうっと血の気が引いた。
そうだ、考えないようにしていたんだ……。実の両親に愛されていないなんて、思いたくなくて……。良い子にしていれば、ジーナのようにいつか愛されると期待して、期待して……。だからいろんな事から目をそらしていた。かすかな違和感は、いつだってあったのに……
どうして、どうして、どうして? 血の繋がった親子なのに……。どうして私はジーナのように愛されないの?
ドレスを掴んだ手にぎゅっと力がこもる。
「……無理強いをする気はないから、安心しなさい」
セレスティナの様子から何かを感じ取ったのか、労るようなシリウスの声が耳に届く。
違う、とセレスティナは言いたくても言えなかった。
シリウス様に目を掛けていただいた事は死ぬほど嬉しい。出来るならこのまま一緒にいたい。でも、自分はいらない子だったなんて思いたくないの、ごめんなさい……あまりにも惨めで、口を開けば泣いてしまいそう。
「私なら権力と財力で十分ごり押し出来るが……分かっている。子はどうしたって親を慕うものだからな。無理矢理引き離せば、君の心に傷を残すだろう。それだけは避けたい」
シリウスが立ち上がり、小さな箱を手にして戻って来る。
「これをあげよう」
彼が箱の中から取りだしたのは銀色の指輪だ。幾何学模様が美しい。
「それは通信機だ」
シリウスがそう説明する。
「使い方は簡単だ、指にはめて中心部分を右方向に捻る。そうすると、こちらと直ぐに繋がり、会話が成立する。で、もし、私の養女になりたいと、そう思った時は、それを使って自分の意志を伝えてくれればいい。私が直ぐに迎えに行く」
シリウス様が迎えに……。胸がじんっと熱くなる。
「じっくり考えてくれていい。勿論今直ぐに返事をくれるというのなら大歓迎だが」
「は、はい、あの、何て言ったらいいか……」
「それと、万が一の防犯も兼ねている。何かあったらそれを使って、助けを呼ぶように。私が必ずかけつける。その場合は数秒で」
数秒……比喩、よね? セレスティナはつい、片眼鏡を掛けたシリウスの端正な顔をまじまじと見返してしまう。
「瞬間移動は空間をひん曲げれば可能なんだ。ただ、これもまた問題ありありで、ひん曲げた空間が元に戻る反動が凄いから、使い所を間違うと被害甚大だ。ただ、君が私に助けを求めるほどの緊急事態なら、スワンド伯爵邸が崩壊しても何ら問題は……」
「問題あります、普通の移動方法をお願いします」
すかさずセレスティナはそう言った。冷や汗が出そう。
「駄目か?」
「はい、穏便にお願いします」
シリウスの青い目をじっと見据えて、セレスティナは訴えた。もう、情に訴えるしかない。シリウス様は放っておくと暴走の止まらない危ない方だった、らしい。そのことをセレスティナは今ようやく、ようやく身をもって実感し始めていた。
シリウス様は真面目な常識人、という認識がどんどん崩れていく。扱い方を間違えたら爆発する、とんでも魔道具のよう……
セレスティナは、じっとシリウスの姿を見返した。目にしたのは、やっぱり見目麗しい天使様だ。白銀に輝く髪に、顔立ちは神の御手による造形美を感じさせる。青い眼差しは、ああそうだ、頂いたブルーダイヤのようだわ。シリウス様の場合、天使は天使でも、手にしているのはもしかして、罪の重さを計る天秤ではなくて、爆弾なのかしら?
思わず目を細めてしまう。
「……分かった。君の希望が優先だ」
渋々、嫌々といった感じで、シリウスがそう口にした。
セレスティナは必死で止めた。別の人が言ったなら、単なる冗談だと思ったろうけれど、シリウス様ならやりかねない。絶対現実になる! 竜王国が水に浸かちゃうぅ!
「……嫌なのか?」
「そうです! それに! 竜王国! 私も見て見たいです! 水浸しにしないで下さい! お願いします!」
「あれを見たい……外から見ても単なる岩山なんだがな」
シリウスがぽつりとそう言った。
「あいつらは人間のような建物を造らない。山をくりぬいて住処にする。つまり洞窟だ。その内部を竜晶石で覆い、居心地良くするわけだが……まぁ、そうだな。あれは美しい。一見の価値があるか……」
とりあえず魔道具の操作は止めてくれた。セレスティナはほっと胸をなで下ろす。
「君を養女にしたい」
不意にシリウスのそんな言葉を耳にする。セレスティナが顔を上げれば、そこにあったのはシリウスの熱い眼差しだ。彼の青い瞳にじっと見つめられて、頬が熱くなる。シリウスの視線がまるで熱線だ。どうみても本気っぽい。
「君にパパと呼んでもらえるには、一体どうすればいいんだろうな?」
「そ、それは、その……」
「嫌か?」
シリウスにそろりと問われて、セレスティナは慌てて答えた。
「嫌じゃありません!」
嫌なわけがない! シリウス様とずっと一緒にいられるなんて夢のよう!
でも……ふっとセレスティナの脳裏をよぎるのは、両親の顔だ。
二人の反応を考えると怖い。もし、もしも喜ばれたら? ああ、厄介払いが出来た、清々する。こんな風に言われたら? 私はいらない子なの? 自分は愛されていない、その事実がここで決定的になってしまう。
セレスティナからすうっと血の気が引いた。
そうだ、考えないようにしていたんだ……。実の両親に愛されていないなんて、思いたくなくて……。良い子にしていれば、ジーナのようにいつか愛されると期待して、期待して……。だからいろんな事から目をそらしていた。かすかな違和感は、いつだってあったのに……
どうして、どうして、どうして? 血の繋がった親子なのに……。どうして私はジーナのように愛されないの?
ドレスを掴んだ手にぎゅっと力がこもる。
「……無理強いをする気はないから、安心しなさい」
セレスティナの様子から何かを感じ取ったのか、労るようなシリウスの声が耳に届く。
違う、とセレスティナは言いたくても言えなかった。
シリウス様に目を掛けていただいた事は死ぬほど嬉しい。出来るならこのまま一緒にいたい。でも、自分はいらない子だったなんて思いたくないの、ごめんなさい……あまりにも惨めで、口を開けば泣いてしまいそう。
「私なら権力と財力で十分ごり押し出来るが……分かっている。子はどうしたって親を慕うものだからな。無理矢理引き離せば、君の心に傷を残すだろう。それだけは避けたい」
シリウスが立ち上がり、小さな箱を手にして戻って来る。
「これをあげよう」
彼が箱の中から取りだしたのは銀色の指輪だ。幾何学模様が美しい。
「それは通信機だ」
シリウスがそう説明する。
「使い方は簡単だ、指にはめて中心部分を右方向に捻る。そうすると、こちらと直ぐに繋がり、会話が成立する。で、もし、私の養女になりたいと、そう思った時は、それを使って自分の意志を伝えてくれればいい。私が直ぐに迎えに行く」
シリウス様が迎えに……。胸がじんっと熱くなる。
「じっくり考えてくれていい。勿論今直ぐに返事をくれるというのなら大歓迎だが」
「は、はい、あの、何て言ったらいいか……」
「それと、万が一の防犯も兼ねている。何かあったらそれを使って、助けを呼ぶように。私が必ずかけつける。その場合は数秒で」
数秒……比喩、よね? セレスティナはつい、片眼鏡を掛けたシリウスの端正な顔をまじまじと見返してしまう。
「瞬間移動は空間をひん曲げれば可能なんだ。ただ、これもまた問題ありありで、ひん曲げた空間が元に戻る反動が凄いから、使い所を間違うと被害甚大だ。ただ、君が私に助けを求めるほどの緊急事態なら、スワンド伯爵邸が崩壊しても何ら問題は……」
「問題あります、普通の移動方法をお願いします」
すかさずセレスティナはそう言った。冷や汗が出そう。
「駄目か?」
「はい、穏便にお願いします」
シリウスの青い目をじっと見据えて、セレスティナは訴えた。もう、情に訴えるしかない。シリウス様は放っておくと暴走の止まらない危ない方だった、らしい。そのことをセレスティナは今ようやく、ようやく身をもって実感し始めていた。
シリウス様は真面目な常識人、という認識がどんどん崩れていく。扱い方を間違えたら爆発する、とんでも魔道具のよう……
セレスティナは、じっとシリウスの姿を見返した。目にしたのは、やっぱり見目麗しい天使様だ。白銀に輝く髪に、顔立ちは神の御手による造形美を感じさせる。青い眼差しは、ああそうだ、頂いたブルーダイヤのようだわ。シリウス様の場合、天使は天使でも、手にしているのはもしかして、罪の重さを計る天秤ではなくて、爆弾なのかしら?
思わず目を細めてしまう。
「……分かった。君の希望が優先だ」
渋々、嫌々といった感じで、シリウスがそう口にした。
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