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第一章 最狂ダディは絆される

第六話 シャーロット様は半竜

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「パパもきっとそう思ったのね。だからあなたのご両親を叱ったんだわ。うふふ、パパが怒ると誰も太刀打ち出来ないの。陛下でさえ、お父様にはやり込められるのよ? 信じられる?」

 シャーロットが楽しそうに笑う。セレスティナは両親が、パーティー会場でおろおろしていた様子を思い出し、納得してしまった。シリウス様ならやりかねない、そう思ったのだ。

「ね、お姉さんが嫌なら、ここだけでもいいわ、わたくしの妹になってみない?」

 シャーロットの提案に、セレスティナはきょとんとなった。

「言ったでしょう? あなたみたいな妹が欲しかったって。思いっきり甘えて欲しいわ。お勉強の好きな妹っていいわよね。で、そういう頭の良い妹に、お姉様お姉様って慕われるのって、もう、最高! ああ、いいわあ!」

 シャーロットの頬が興奮でバラ色だ。
 本当に綺麗……ちょっと変わっている気もするけれど。

「あ、そうだわ! 姉なら妹を可愛がらなくちゃね! これ、上げるわ。おそろいよ」

 シャーロットは髪に着けていたレースリボンを片方解き、セレスティナの栗色の髪をそれで飾った。リボンがふわりと揺れるたびに、キラキラと輝いて美しい。セレスティナは見入ってしまう。
 素材は何かしら? とっても綺麗だわ。

「ね、お願いがあるの。お姉様って呼んで? シャルでもいいわ」

 きゅうっとシャーロットに手を握られ、セレスティナは困ってしまった。
 公爵令嬢を愛称呼び……かなり抵抗があるわ。だったら、お姉様の方がまだまし? ええっと……。ぐるぐる思考が回ってしまう。

「はい、シャルよ! 呼んでみて!」
「は、はい! シャルお姉様!」

 びしいっと指を差され、反射的にそう答えてしまい、セレスティナは固まった。やらかした感が半端ない。どう反応したら良いのか分からず、セレスティナが動きを止めていると、シャーロットの顔がぱあっと明るくなった。まさしく破顔である。

「シャルお姉様! あああ! 素敵! 最高! 嬉しいわぁ!」

 ぎゅうっと抱きしめられてしまう。すりすりまで……。シャーロット様はまったく人見知りしない子なんだわ。気恥ずかしいけど、気持ちがほんわかしてしまう。ここまでされたこと……お母様にも、ない……。そうだ、いつだって距離がある。
 セレスティナはふっと、ジーナとの差に気が付いてしまう。
 ジーナはいつだって頭を撫でられて、両親に抱きしめられていた。でも、私は? お姉さんだから……そんな一言で片付けられてきた気がする。お姉さんだから、抱きしめてももらえない? 何か変……。悲しみは深まるばかりだ。

「甘い物は好き?」

 セレスティナがこくんと頷くと、再びシャーロットはセレスティナの手を引いて歩き出す。

「こ、これは、シャーロット様!」

 シャーロットに連れられて行ったのは、王立図書館に設置された高級カフェで、店の制服を着た老齢の男性が、シャーロットに平身低頭かしこまった。顔見知りらしい。王立図書館は平民でも出入りできる場所なので、平民の出入りを禁止しているわけではないのだろうけれど、カフェにいる者達は皆、上流階級の者達ばかりだ。

「席はある?」
「もちろんございますとも。ご案内致します」

 案内された先は、美しい庭園が見渡せる個室である。侍女のベスが壁際に立った。

「ティナは凄いわ」

 注文した甘味が運ばれてくると、シャーロットが身を乗り出した。色鮮やかな苺のパフェはまるで可愛らしい装飾品のよう。セレスティナがきょとんとすると、シャーロットは焦れた。

「ああ、もう。ほら! あの本よ! あの本! とっても難しそうなあれ! ティナはあれをちゃんと理解していたんでしょう? パパの質問にきちんと答えていたじゃない。もの凄く格好良かったわよ。うふふ、パパに気に入られたわね」

 え?

「パパは優秀な人材と見ると、がっちり捕まえて離さないの。たとえそれが平民でもね。きっと、がんがんアプローチをかけてくるわよ? 王立魔道学園の魔工学科へ進むための案内書が送られてくるんじゃないかしら。どうする、ティナ?」

 魔工学科!

「行きたいわ!」

 セレスティナは目を輝かせる。両親が賛成してくれるとは思えないけれど……

「魔工学科に進むための試験、とっても難しいらしいけど、がんばって?」

 王立魔道学園へは、魔力があれば誰でも通える。けれど、誰でも望みの専攻を受講出来るわけではない。専門科目に見合った能力を要求されるからだ。

「シャーロット様は?」
「シャルお姉様よ」

 拗ねたようにシャーロットが口をとがらせる。

「わたくしはああいった物はてんで駄目。ドラゴンライダー希望よ」
「え? で、でも、ドラゴンは凶暴よ? 手なずけるのがとっても大変だって……」

 女性のドラゴンライダーは滅多にいない。暴れたドラゴンを押さえ込むのが大変だからだ。

「あら、わたくしに逆らう亜竜なんかいないわよ」

 シャーロットがくすくすと笑う。
 亜竜……そう、人が使役するのはあくまで亜竜だ。ドラゴンとは似て非なるもので、地を駆ける地竜、空を飛ぶ翼竜がそれにあたる。水竜は凶暴すぎて使役は無理。貿易船を襲って沈めたりするので、退治すれば報償が出るほどだ。

 そして、知性ある本物のドラゴンは誇り高くて、人の支配を受け付けない。亜竜とドラゴンは、人と猿ほどにも違う。まったく別物と言ってもいい。もし、ドラゴンを亜竜と同じように馬扱いしようものなら、おそらく彼らは怒り狂うだろう。

「ほら、見て?」

 シャーロットが目を閉じ、再び目を開けると、そこにあったのは爬虫類を思わせる竜眼だ。セレスティナは驚き、目を見張った。これは……

「そう、分かる? わたくしは半竜なの」

 シャーロットが事もなげに言う。セレスティナは二の句が継げない。
 そうだわ、ドラゴンは人型にもなれる。人間と子を成すことも理論上は可能だとか。ということは……セレスティナはこくりと唾を飲み込む。

「オルモード公爵様は……」

 ドラゴンなの? セレスティナの疑問を、シャーロットは笑って否定した。

「あら、違うわ? パパは普通の人間よ? いえ、普通かどうかは分からないわね。パパのやることなすこと突拍子もないんですもの」

 くすくすと悪戯っぽく笑う。

「この間なんて、気に食わない政敵の家を爆破したのよ? 見事にぺっしゃんこ」

 ええぇ!? シャーロットの言葉に、セレスティナは目を剥いた。

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