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【16】朝帰り

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 どんな状況であろうとも明けない夜はない。
 だが亮の心は暗い悲しみに閉ざされて朝を迎えていたのだった。

「んっ……ぅん……もう、朝」

 すぐ帰ってくるだろうと思っていた亮はあれからずっと樹の部屋にいた。
 だが待てど暮らせど帰ってはこず、遂には泣き疲れてしまってベッドに突っ伏してそのまま寝てしまっていたのだった。

「樹……」

 起き上がって部屋を見渡し、ドアをチラリとみるも亮が寝ている間に帰ってきた様子も無い。
 まだ早朝――寝ている人間が殆どの時間帯とはいえ、再び目を閉じても亮は寝直せる感じはしなかった。
 暗く沈んだ気持ちから溜め息が洩れ、自分で自分を支えるように頭を抱えた。
 自分では凡そどうにもならず、どうすることもできないもどかしさに苛立ちを覚え……。
 そこへ、カチャリと静かにドアを開ける音がする。

「えっ!? あっ? ……なんで――」

「――おかえり」

「…………ただいま」

 たった一言、その言葉を交わすだけが互いに精一杯といった空気感で。
 いつもなら顔を見られるだけで嬉しいはずのこんな場面も素直に喜べない亮なのだった。

「……部屋に、帰らなかったんだな」

「――うん。すぐに帰ってくると思って……。あのままじゃ……さ」

「そ……っか…………」

 樹はあっさりとした反応を返し、何かを避けている様な雰囲気を醸しだしていた。
 それがどうにも嫌で、亮は尋ねてみる。

「――ねぇ」

「……なに?」

「なんで……そんなに遠くにいるの? 壁際に立ったままでいないでさ……」

 その質問に樹の体の中にはヒュッと冷たい風が通っていく感覚がした。
 わずか三畳ほどもないその部屋。
 亮には今だけ、ひどくだだっ広く感じた。
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